転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

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七話

 

 

 

 

 旅人のオーロットは愛馬と共に草原を駆けていた。

 本当は冒険者――と名乗りたいところだが、職業の冒険者もあるためややこしくならないように旅人と名乗っている。

 オーロットの旅の目的は明確だった。

 しかしそれは夢物語に近かった。

 それは――かつて存在したであろう都市、アトラスをその眼で見ることだった。

 都市アトラス、それは遥か昔に()()()()存在していたであろう伝説、または空想の都市。

 いくつかの昔の文献にもその名が書かれているが、実際にどこにあったのか、どんな都市だったのかの情報が少なく、最近では実在すら疑う声も上がっていた。

 それを発見し、その瞳に焼き付けること。

 それがオーロットの旅の終着点だった。

 ――正直、半信半疑なところもある。

 しかし、仮に見つからない、空想の都市ということが証明された。

 そんな結末になってもオーロットは後悔しない。

 ここまでの旅の経験が、オーロットにとっては掛け替えのないものになると信じているから。

 

 ――やがて、遊牧民のテント群が視界に入ってきた。

 そろそろ走らせっぱなしの愛馬も休ませてやりたいし、太陽もそろそろ沈み始める頃だろう。

 一晩だけでも泊めてもらえないか交渉するために、オーロットはテント群に向けて愛馬を走らせた。

 

 意外なことに、遊牧民たちは寛大で、むしろ旅人の自分を歓迎してくれた。

 村長――というより代表のような存在――のジャンという男性が遊牧地の案内を買って出てくれた。

 さらに美人の双子らしき姉妹が、自分と愛馬に花冠を首に掛けてくれた。

 とても精巧で、花冠といえど侮れない出来だ。

 いくつもの花が使われているが、色合いも香りも互いが邪魔をしないように作られている。

 ちなみに愛馬はエサと思ったのか花冠をかじり始めていた。

 

「――それにしても、山羊……ですかね? 意匠が多いようですが何か理由が?」

 

 家畜、飾り、化粧、シンボルなどに動物の山羊を意識したものが多い印象を受けた。

 

「えぇ、まぁ――我々の信仰の証……のようなものです。忘れぬように、いつか来たる日のために――そんな想いがいつの間にか形として出たといいますか」

 

 なるほど、信仰か。

 こうして旅をしていると様々な人々の、多種多様な信仰を目にする。

 これも旅の醍醐味ともいえるだろう。

 しかし個人的には、山羊の瞳というか瞳孔が少し怖く感じるのは何故だろうか。

 ――そうして遊牧地の案内という観光が終わり、今夜はジャンさんのテントに泊めてもらうことになった。

 遊牧民達の代表という立場だけあって、彼のテントは他のものよりも大きめに作られているため、大人の男が1人増えたくらいでは窮屈にはならなかった。

 就寝前、ジャンさんが祭壇のような場所に置かれた木彫りに祈りのようなものを捧げるのを見てから、目を閉じた。

 ……祈りか、自分も祈れば都市アトラスをこの目にする日が来るのだろうか?

 しかし、あまりそういった信心を伴った行動を意識した事がない自分が、今更祈ったところで何か変わるのだろうか?

 ――まぁ、試しに祈るだけならバチも当たらないだろう。

 そう、とりあえずここの遊牧民の人々が信仰しているであろう、山羊の姿を思い浮かべて祈りを――

 そして気が付かぬまま、オーロットは深い眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おろろろろろ……」

 

 そして気が付いたら、知らない場所で見知らぬピンク髪の少女が勢いよく嘔吐していた。

 

「…………夢か」

 

 夢だろう、だって地面も空も真っ赤だ。

 全くもって目に優しくない色合い。

 そして目の前で地面に向けて嘔吐する少女も、頭に山羊のような角が生えていた。

 亜人種のハーフだろうか?

 しかしこんなにも人の姿に近いのは珍しい。

 

「はぁ、飲み過ぎた……でもまだ飲むぞ。今日はすごく極悪非道な悪魔ムーブできた取引だった。今頃読者さん達もその時の様子を文章で読んで、恐れ慄いている頃でしょ。いやぁ、ドン引きしてお気に入り解除とかされたらどうしよう」

 

 山羊の角を生やした少女が、口元を拭って顔を上げる。

 そしてよく意味のわからない事を言うが、その口調や雰囲気から上機嫌なのが読み取れた。

 ――顔を上げた少女のその容姿は、まさに現実離れした美しさだった。

 まぁ、嘔吐のせいで若干台無しになっているが。

 

「……やっぱり夢か」

 

 これは間違いなく夢だろう。

 何故なら全てが現実と程遠いからだ。

 

「あー……その、大丈夫かお嬢さん?」

 

 自分の夢の中なのは分かった。

 だが自覚してもなお、夢はまだ覚めそうになかった。

 だからとりあえず目の前の少女に声を掛けることにしてみた。

 

「え? 大丈夫だいじょーぶ。吐いたらスッキリしたから。それにしてもこんな所でどうしたのお兄さん。迷子にでも……うん?」

 

 少女がオーロットの方に視線を向ける。

 

「あれ、うん? 人間? はぇ?」

 

 そして目を擦ったりして、オーロットをその金と赤の瞳でジロジロと観察する。

 頭に疑問符をたくさん浮かべながら。

 

「……いや、霊魂だけ? 生贄用のが逃げ出した――いや、印が付いてない……野良霊魂? でもここに流れ着くわけないしな……」

 

 あーでもないこーでもないと少女が眉間に皺を寄せる。

 

「ん、んん……ねぇお兄さん、どっから来たのぉ?」

 

 気を取り直したように、少女が声色と口調を変えて聞いてきた。

 

「どっからって言われてもな――」

 

 とりあえず簡単な自己紹介と、今日の出来事から寝るまでの経緯を説明してみた。

 自分の夢の存在に、ここは夢の世界なんだろ? と言うのは些か可笑しかったが。

 

「……あー、自覚のない才能(加護)持ちかな。多分霊媒関係のか――うーん」

 

 少女が腕を組んで真っ赤な空を見上げ、何かを考え出す。

 

「…………まいっかぁ。肉体が覚醒すれば自然と引き戻されるでしょ。いざとなれば叩き返すし」

 

 そして何かを納得したように言い放った。

 その後再びオーロットの方に向き直る。

 

「ねぇお兄さん、この夢ってとっても珍しいものだからぁ、どうせなら楽しんでかない?」

 

「楽しむ……?」

 

「そう! 具体的にはぁ、飲みに行こうよぉ」

 

 少女が握り拳を作り、親指だけ突き立てる。

 そしてその親指で、ある方向を指し示した。

 そこには、この真っ赤な世界に似つかわしくない、木造の建物があった。

 

 

 

「こんにちはぁ、今日も元気に首を洗って待っててくれたかなマスター。洗う首無いけどぉ」

 

 少女が遠慮なしに扉を強めに開けて、開口一番そう言った。

 少女の後ろに付いて、扉を潜って建物の中に入る。

 建物の中は、西大陸でよく見られる様式の酒場のようだった。

 というよりまんま酒場だ、椅子やテーブルの配置、カウンター、カウンターの奥に準備された酒の数々、そして酒を振る舞うマスターらしき人影――

 

「うっ……!?」

 

 変な声が出た、いやこんなの誰でも出る。

 カウンターの向かい側には、体型で見ると男、そして燕尾服を着ている存在。

 そこまでは良い。だが問題はその存在の首から上が無いことだった。

 一見すると首無しの死体、だが首が無くてもそれは器用にグラスを磨いていた。

 

「あぁ、彼はこの店のマスター。フィッシュ竹内さんだよぉ。とっても無口なんだ、彼の声は私も聞いた事がない」

 

「どう見てもフィッシュタケウチサンって感じの存在では無い気がするんだが……あとそれは当然だと思う」

 

 あれはデュラハンというアンデッドの魔物だろうか。

 出会ったことはないから、自分が想像上で作り上げた姿なのだろうが……

 我ながら少しリアリティがあり過ぎるぞ、心臓が止まるかと思った。

 

「――あ、お疲れ様です」

 

「おつかれぇ、今日はどうだった? 私は最高最善最大王だったよぉ」

 

「我はぼちぼちでした」

 

 そしてカウンター席に、今度はガーゴイルのような存在がいた。

 そして気さくに少女に話しかけていた。

 ……何だろう、今日の夢は非常に混沌としている。

 

「――そっちのは、代価ですか?」

 

「いや? 何か居たから連れて来たぁ。食べる?」

 

「いえ、お気持ちだけいただきます。以前頂いたレッドドラゴンのがまだありますので」

 

「さすがレッドドラゴンとなると腹持ちがいいねぇ」

 

 そしてそんな会話を聞いていると、背中がゾワゾワしてきた。

 何だろう、よく分からない会話なのに妙に身の危険を感じた。

 

「ほらぁ、座りなよぉお兄さん。特別に私の隣座っていいよぉ? こんなラッキー二度とないよぉ?」

 

「それはまぁ確かに」

 

 夢の中の存在とはいえ、こんな麗しい少女の隣に座れるのなら男冥利に尽きるというものだ。

 カウンターの席に座ると、程なくして隣の少女よりも幼い――10〜12歳くらいの女の子がメニュー表を持ってきてくれた。

 少し安心した。こんな混沌とした夢の中にも、幼子とはいえ普通の人間が登場してくれたことに。

 

「お酒とかおつまみとかはぁ、普通に飲み食いできると思うから安心してねぇ。でも3ページ以降のは私たち向けのだからぁ、お兄さんは頼んじゃダメだよぉ?」

 

 そう言われて気になり、メニュー表を少し捲ってみた。

 残念ながらそこからは、大陸共通語ではない読めない言語で書かれていた。

 

「マスター、一番良いのを頼む。え? そんな状態でまだ飲んで大丈夫なのかって? 大丈夫だ、問題ない」

 

 少女が上機嫌で注文を通した。

 

「ほらぁ、お兄さんも何か頼みなよぉ。あ、代金(代価)なら心配しないでぇ、私が奢ってあげるよぉ。何か聞いた限り私にもちょーっとだけ責任あるっぽいしぃ」

 

 明らかに年下の少女に奢られる男というのは側から見て如何なのだろうか?

 まぁ、さっきから何度も言っているが夢の中だ。

 好きなだけ、好きなものを飲ませてもらうとしよう。

 夢から覚めれば全部微睡みの記憶として忘れてしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、あるかも分からない場所探して旅してるんだぁ、お兄さん。ロマンチックだねぇ」

 

「そうかな、無謀だって親友には止められたんだがね」

 

 気が付けば、夢の中だというのに酔いが回って口が軽くなっていた。

 

「いいじゃーん、憧れは止められねぇんだって誰か言ってた気がするしぃ」

 

「はは、そいつは良い言葉だ」

 

 だから気兼ねなく内心を、本音を口にする。

 どうせ聞くのは夢の住人だ。

 

「それでぇ、名前とかあるのぉ? あるなら私が探すの手伝ってあげよぉかぁ? 代価はもらうけどぉ」

 

 少女がそう聞いてきた。

 だから正直に答えた。

 

「あぁ――()()()()()()っていう場所を……」

 

 パリンと音が響いた。

 何かが割れたような音に少し驚いて、言葉が詰まってしまった。

 そして音の出所に視線を向ける。

 それは少女の手元だった。

 少女が手にしていたグラスが、粉々に砕けて破片になっていた。

 グラスに入っていた液体が少女の手を、カウンターを、そしてそこから零れ落ちた雫がポタポタと床に水溜りを作り始めていた。

 ――その視線に気が付いてしまった。

 

「――――」

 

 少女の金の方の瞳、その瞳孔が山羊のように横長く不気味なものに変貌して、こちらを凝視していた。

 背筋どころか、全身が凍えるくらい冷たくなり、息の仕方も忘れそうになる。

 というよりもう忘れて、肺が酸素を求めてくるがろくに呼吸することすらできなかった。

 ――このまま酸欠で死ぬ。

 そう感じた瞬間だった。

 

「――ごめーん、ちょっと手がすべっちゃった」

 

 少女が瞬きをした。

 そうしたらその瞳は人のモノへと戻っていて、呼吸も自然と出来るようになっていた。

 さっきまでの緊張感が嘘のようだった。

 ただ、その恐怖は身体に残っていて、何かを言いたかったが口は動いてくれなかった。

 

「お兄さん、そろそろお開きにしよっかぁ。今日はありがとうねぇ、気を付けて帰ってねぇ」

 

 少女が人差し指でカウンターの机を2回ほど小突くように叩いた。

 すると粉々になったグラスやこぼれた液体が綺麗さっぱり消失し、同時に耐え難い眠気のようなものが襲ってきて、耐え切れず顔をカウンターに打ち付けてしまう。

 

「そうだぁ、一つ教えとくねぇ。お兄さんは無闇に()()()()しない方が良いと思うよぉ。今回はたまたま私のところだったからラッキーだったけど、次は何処に行くか分からないからねぇ」

 

 少女が微笑みながら言う。

 

「あ、あともう一つ。驚かせちゃったお詫び(代価)だよぉ――おっきな湖だよぉ」

 

 それを最後に、自分の意識は途絶えた。

 夢が終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十年後、旅人のオーロットの名は広く知れ渡る。

 彼は長い長い旅の末に、都市アトラスを発見したのだ。

 それはとある大陸の、山脈の中に隠れるように存在した大きな湖。

 その湖に、都市アトラスの廃墟は水没して存在していたのだ。

 そして彼は発見した後、自らの手で調査隊を結成。

 ついに実力ある魔法使いや研究者たちの力を借りて、湖の中の調査を開始する。

 調べれば調べるほど、判明することもあれば謎が深まるものもあった。

 その中で彼は、一つの石像に注目した。

 それはおそらく都市の中心部に位置するであろう場所。

 不思議なことに長い時間水に沈んでいたというのに、保存状態の良い大きな石像だった。

 オーロットはその石像を水中から引き上げることにした。

 水の中では全貌がよくわからなかったが、こうして地上に引き上げてようやく視認できたのだ。

 ――それは、女性の身体に山羊の頭をそのまま乗せたような、奇妙な石像だった。

 

 

 

 

 

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