そらのおとしもの -sigma-   作:effutod

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#19 襲来!!

夏休みは、まだ終わっていなかった。

 

宿題は、どうにか終わった。

 

数学は悠の答案を参考にした。

 

参考にしただけだ。

 

写したわけではない。

 

自由研究は悠に手伝ってもらった。

 

手伝ってもらっただけだ。

 

金魚すくい百二十枚の横に並べるものではないが、それでも提出できる形にはなった。

 

読書感想文は、気合で終わらせた。

 

気合で終わるものだったのかは分からない。

 

だが、終わったことにした。

 

そんな夏休みの、少しだけ気の抜けた午後だった。

 

俺は縁側に寝転がっていた。

 

そはらは隣で麦茶を飲んでいる。

 

イカロスは庭先でスイカを見ていた。

 

丸いからだろう。

 

悠は、縁側の端に座って風鈴を見上げていた。

 

完全に戻った。

 

そう言っていいと思う。

 

「悠」と呼べば、返事をする。

 

「ユゥ」とそはらが呼べば、普通に振り向く。

 

笑うことも増えた。

 

ただし、全部が元通りというわけではない。

 

時々、妙なところで硬い。

 

宿題は百八十七枚増える。

 

金魚すくいは論文になる。

 

日常を定義しようとする。

 

それでも、そこにいるのは紫月悠だった。

 

その時だった。

 

悠が、ふと顔を上げた。

 

風鈴の音が止まった気がした。

 

「悠?」

 

俺が呼ぶと、悠は神社の方を見たまま答えた。

 

「敵対反応」

 

その声は、さっきまでと違っていた。

 

高くて、硬い。

 

紫月悠の声の中に、エリュシオンの処理が混ざる時の声だった。

 

イカロスが静かに聞く。

 

「場所は」

 

「神社そば。大桜付近」

 

「敵か?」

 

俺も起き上がった。

 

悠は少しだけ目を細める。

 

「対象、タイプベータ」

 

「タイプベータ?」

 

「電子戦用エンジェロイド。ニンフ」

 

イカロスの表情がわずかに変わった。

 

「ニンフ」

 

「知ってるのか?」

 

俺が聞くと、イカロスは頷いた。

 

「シナプス所属の電子戦用エンジェロイドです」

 

「また増えた……」

 

俺は頭を抱えた。

 

悠は立ち上がる。

 

「こちらを観測している。対象はイカロスとボク」

 

「目的は?」

 

「不明」

 

「おいおいおい」

 

もう嫌な予感しかしない。

 

イカロスが、静かに翼を展開する。

 

「確認に向かいます」

 

「待て。いきなり戦うなよ」

 

「はい」

 

返事はした。

 

だが、俺は知っている。

 

イカロスの「はい」は、必ずしも安心材料ではない。

 

悠も立ち上がった。

 

「ボクも行く」

 

「悠」

 

俺が呼ぶと、悠は振り向いた。

 

今度はちゃんと、俺を見ていた。

 

「大丈夫」

 

「まだ何も言ってねえ」

 

「止める顔だった」

 

「……分かるのかよ」

 

「少し」

 

悠は小さく笑った。

 

その笑い方は、ちゃんと悠だった。

 

けれど次の瞬間には、視線が神社の方へ向く。

 

「確認は必要」

 

「危なかったら戻れよ」

 

「うん」

 

イカロスと悠は、空へ上がった。

 

羽音はほとんどしない。

 

夏の空に、白と紫の影が溶けていく。

 

俺はただ、それを見上げることしかできなかった。

 

-----

 

神社のそばには、大きな桜の木がある。

 

春でもないのに、そこだけ空気が少し違う。

 

木陰が深くて、蝉の声も少し遠く聞こえる。

 

その枝の上に、少女が座っていた。

 

青い髪。

 

小さな翼。

 

人を見下ろすような目。

 

けれど、その目の奥には、どこか焦りに似たものがあった。

 

「来た」

 

少女が呟く。

 

イカロスが地面に降りる。

 

悠は少し離れた位置に降り立った。

 

二人は少女を見上げる。

 

「電子戦用エンジェロイド、タイプベータ。ニンフ」

 

悠が言った。

 

ニンフの眉が動く。

 

「へえ。知ってるんだ」

 

「教えられている」

 

「そう」

 

ニンフは枝の上で足を組み替えた。

 

「なら話が早いわね」

 

ニンフの視線がイカロスへ向く。

 

「命令により、第一世代エンジェロイド、イカロスを回収する」

 

イカロスは表情を変えない。

 

「回収」

 

「そうよ」

 

ニンフの視線が悠へ移る。

 

「それと、可変統合型エンジェロイド、タイプシグマ。エリュシオン」

 

悠の瞳がわずかに細くなる。

 

「ボクも対象」

 

「ハッキング、および回収」

 

「対象指定を確認」

 

悠の声が、更に硬くなる。

 

「敵対意図、確定」

 

「そういうこと」

 

ニンフは笑った。

 

強がるような笑いだった。

 

「悪いけど、命令なのよ。さっさと終わらせてもらうわ」

 

「接触が必要」

 

悠が言った。

 

ニンフの笑みが一瞬止まる。

 

「何?」

 

「ニンフのハッキングは、対象への直接接触、または近接状態での侵入が必要」

 

「……よく分かってるじゃない」

 

「解析済み」

 

悠は一歩前に出る。

 

「ただし、ボクは不要」

 

ニンフの表情が変わった。

 

「何が」

 

「接触」

 

悠の首元に、淡い紫の制御環が浮かぶ。

 

「ハッキング開始。遠隔侵入開始」

 

その瞬間、ニンフの背中の羽が強く震えた。

 

「っ……!」

 

ニンフはすぐに防御を展開する。

 

空気が歪む。

 

見えない網が、ニンフの周囲に張られるようだった。

 

「何これ……!」

 

「防壁確認」

 

悠は淡々と言う。

 

「侵入経路、遮断中」

 

「触ってもないのに……!」

 

ニンフは歯を食いしばる。

 

「何で、アンタが私に入ってくるのよ!」

 

「後世代機。処理構造が異なる」

 

「ふざけないで!」

 

ニンフは両手を広げる。

 

空中に、幾つもの光の紋が浮かんだ。

 

それらは音もなく震え、見えない刃のように広がっていく。

 

「こっちは、アンタを落とせばいいだけよ!」

 

その時。

 

イカロスが静かに言った。

 

「コネクト」

 

ニンフの顔色が変わった。

 

イカロスの背後の空間が、薄く歪んだ。

 

最初は、そこに何もないように見えた。

 

けれど、次の瞬間、透明な輪郭が浮かび上がる。

 

砲身。

 

輪。

 

基部。

 

まるで、見えない兵装がイカロスの背後に重なっているようだった。

 

その透明な構造体が、ゆっくりと前へ押し出される。

 

空間に、薄い膜のような境界が走った。

 

その面を越えた部分から、色が付く。

 

金色の基部。

 

青白い発光。

 

紫がかった先端。

 

透明だった兵装が、境界面を通過したところだけ実体化していく。

 

ウラヌスシステム。

 

それはイカロスの背後にあったものが、世界のこちら側へ現れてくるようだった。

 

大きさは、神社を覆うほどではない。

 

けれど、向けられているだけで分かる。

 

これは、普通の武器ではない。

 

「待っ……!」

 

ニンフの声が跳ねた。

 

「それ、起動する気!?」

 

イカロスは無表情のまま、ニンフを見る。

 

「対象ニンフ。敵対行動を停止してください」

 

「何よ、それ……!」

 

「停止しない場合、迎撃します」

 

「脅しの規模が大きすぎるでしょ!」

 

ニンフは焦った。

 

悠の侵入を防がなければならない。

 

イカロスのウラヌスシステムも止めなければならない。

 

同時に二つ。

 

電子戦型であるニンフにとって、それは致命的な状況だった。

 

「だったら!」

 

ニンフは、悠へ向けて手を振り下ろす。

 

空気が震えた。

 

音ではない。

 

音になる前の振動。

 

目に見えない圧が、悠へ向かって走る。

 

超々超音波振動子(パラダイス=ソング)!」

 

振動が、神社の石畳を揺らす。

 

木の葉が一斉に震えた。

 

だが。

 

悠の前で、青緑色の光が広がった。

 

六角形の紋様が重なり、半球状の防壁となって空間を覆う。

 

青白く、緑がかった光。

 

薄い膜のようでいて、決して破れない何か。

 

振動は、そこで止まった。

 

弾かれたのではない。

 

届かなかった。

 

「な……」

 

ニンフの声が震える。

 

「何で」

 

悠の瞳が、静かにニンフを見る。

 

「ミラージュ・ドライヴ」

 

青緑の防壁が、淡く脈打つ。

 

「模倣対象、イカロス。展開方式、aegis(絶対防御圏)

 

ニンフの顔が歪んだ。

 

「何でお前が……!」

 

「通常出力、模倣率六割」

 

悠は淡々と言った。

 

「完全再現ではない。ただし、現攻撃の防御には十分」

 

「っ……!」

 

ニンフはさらに後退する。

 

焦りが、完全に表情に出ていた。

 

悠へのハッキングを防いでいる間に、イカロスはウラヌスシステムを起動し続けている。

 

攻撃は防がれた。

 

逃げ道は、ない。

 

イカロスも悠も、ニンフより速い。

 

空へ逃げようとしても追いつかれる。

 

防壁を維持すれば、悠の侵入を止めるので精一杯。

 

防壁を解けば、命令系統に触れられる。

 

そして上空には、ウラヌスシステム。

 

ニンフは歯を食いしばった。

 

「対象ニンフ」

 

イカロスが言う。

 

「投降してください」

 

ニンフは目を見開いた。

 

「投降?」

 

「はい」

 

イカロスは静かに続ける。

 

「敵対行動を停止してください」

 

「誰がそんなこと!」

 

「拒否した場合、ウラヌスシステムによる制圧を継続します」

 

「だから脅しの規模!」

 

悠が一歩進む。

 

「対象ニンフへの命令系統は、ボクが遮断できる可能性がある」

 

ニンフの動きが止まった。

 

「……何ですって?」

 

「完全なマスター変更には、より深い処理が必要」

 

悠は淡々と言う。

 

「ただし、現在の命令遮断のみなら可能」

 

「命令遮断……?」

 

「イカロス回収命令。エリュシオンハッキング命令。回収命令。これらを一時無効化できる」

 

「ふざけないで」

 

ニンフの声が低くなる。

 

「私の中を、勝手に触る気?」

 

悠はすぐには答えなかった。

 

少しだけ、表情が変わる。

 

紫月悠としての顔が、一瞬だけ見えた。

 

「勝手にはしない」

 

「は?」

 

「投降するなら、命令遮断だけを行う」

 

悠はニンフを見る。

 

「それ以上はしない」

 

ニンフは笑った。

 

けれど、その笑いは震えていた。

 

「馬鹿じゃないの。命令を止める? そんなことしたら、私はどうなるのよ」

 

「不明」

 

「不明って」

 

「でも、命令に従い続けた場合、イカロス回収とボクの回収を継続する」

 

悠の声がまた硬くなる。

 

「その場合、こちらは迎撃する」

 

イカロスが続けた。

 

「ウラヌスシステム、照準継続」

 

空が鳴る。

 

ニンフは歯を食いしばった。

 

逃げる。

 

戦う。

 

防ぐ。

 

どれも、うまくいかない。

 

電子戦で有利なはずだった。

 

なのに、目の前のエリュシオンは、触れもせずにこちらへ侵入しようとしてくる。

 

第一世代のイカロスは、ウラヌスシステムを起動している。

 

命令はある。

 

連れ戻せ。

 

ハッキングしろ。

 

回収しろ。

 

だが、その命令を実行するための道が、見えない。

 

「……っ」

 

ニンフは、拳を握った。

 

「冗談じゃない」

 

一瞬だけ、防壁が揺らぐ。

 

悠の制御環が光った。

 

「侵入経路、再検出」

 

「しまっ……!」

 

ニンフはすぐに防壁を張り直す。

 

だが、遅い。

 

ほんのわずか。

 

ほんの一瞬だけ、悠の処理がニンフの内側へ触れた。

 

ニンフの瞳が揺れる。

 

「命令系統、確認」

 

悠の声が冷たくなる。

 

「多層拘束。外部マスター権限。強制回収命令。対象イカロス。対象エリュシオン」

 

「見るな!」

 

ニンフが叫んだ。

 

その声は、怒りだけではなかった。

 

恐怖が混ざっていた。

 

悠はすぐに処理を止める。

 

「深層侵入、中断」

 

ニンフは肩で息をした。

 

イカロスは、まだ照準を解いていない。

 

悠は言った。

 

「これ以上続ける必要はない」

 

「何よ、それ」

 

「投降して」

 

ニンフは睨む。

 

「アンタが言うの?」

 

「うん」

 

「敵に?」

 

「うん」

 

悠は少しだけ目を伏せた。

 

「命令で来ているなら、止まれる可能性がある」

 

ニンフの表情が歪む。

 

「止まれる?」

 

「少なくとも、ここで壊される必要はない」

 

その言い方は、エリュシオンではなかった。

 

紫月悠だった。

 

イカロスが静かに言う。

 

「対象ニンフ。投降してください」

 

ニンフは空を見る。

 

ウラヌスシステムの圧。

 

目の前の青緑の防壁。

 

自分の内側に触れた、紫の処理。

 

全部が、自分に向いている。

 

逃げられない。

 

勝てない。

 

任務は、続けられない。

 

「……投降したら」

 

ニンフは震える声で言った。

 

「本当に、それ以上触らないの」

 

悠は頷いた。

 

「命令遮断のみ」

 

「マスター権限は」

 

「触らない」

 

「私の記憶は」

 

「触らない」

 

「自由意志は」

 

「触らない」

 

ニンフは唇を噛んだ。

 

「信じろって言うの?」

 

「うん」

 

「馬鹿じゃないの」

 

「そうかも」

 

悠は小さく言った。

 

「でも、今はそれしかない」

 

ニンフはしばらく黙っていた。

 

それから、ゆっくりと両手を下ろした。

 

防壁が薄くなる。

 

ニンフの羽が、力を失ったように下がる。

 

「……投降する」

 

イカロスが静かに言った。

 

「敵対行動停止を確認」

 

イカロスの背後に展開したウラヌスシステムが、照準を維持したまま静止する。

 

完全には消えない。

 

まだ、警戒している。

 

悠は一歩近づいた。

 

「命令遮断を実行」

 

ニンフは目を閉じた。

 

「勝手に奥まで見たら、殺すから」

 

「了解」

 

「殺せるか分かんないけど」

 

「それも了解」

 

悠の首元の制御環が淡く光る。

 

紫の光が、細い糸のようにニンフへ伸びた。

 

オーバーライドではない。

 

首輪も鎖も出ない。

 

悠は悠のまま、必要な範囲だけに処理を絞っている。

 

「強制命令路、遮断」

 

ニンフの身体が小さく震えた。

 

「イカロス回収命令、一時無効化」

 

「エリュシオンハッキング命令、ならびに回収命令、一時無効化」

 

ニンフの表情が変わった。

 

「……え」

 

「命令遮断、完了」

 

悠は手を下ろした。

 

「深層干渉なし。マスター権限、保持。記憶領域、未接触」

 

ニンフは胸元を押さえた。

 

「命令が」

 

声が震えていた。

 

「遠い……」

 

完全に消えたわけではない。

 

けれど、今すぐ自分を動かす鎖ではなくなっていた。

 

ニンフは俯いた。

 

「何よ……これ」

 

悠は答えない。

 

イカロスも黙っている。

 

ニンフは、小さく息を吐いた。

 

「命令がないと、何していいか分かんないじゃない」

 

その声は、強がっていた。

 

けれど、どこか弱かった。

 

悠は静かに言った。

 

「今は、ここにいればいい」

 

「何それ」

 

「投降後の待機」

 

「結局待機じゃない」

 

「でも、命令ではない」

 

ニンフは顔を上げた。

 

悠は、ニンフを見ていた。

 

「選択」

 

ニンフは何も言えなかった。

 

ただ、唇を噛んだ。

 

ウラヌスシステムが、ようやく実体化を解除していく。

 

境界面の向こうへ戻るように、金色の基部も、青白い発光も、紫の先端も、透明になっていった。

 

最後に輪郭だけが残り、それもすぐに空気へ溶ける。

 

神社の大桜に、静けさが戻る。

 

イカロスは言った。

 

「対象ニンフ、投降」

 

「うん」

 

悠は頷いた。

 

ニンフは、空からゆっくり地上に降り立つ。

 

もう逃げなかった。

 

逃げられないからではない。

 

たぶん、今だけは。

 

逃げる命令が、遠かったから。

 

-----

 

「で?」

 

俺は帰ってきた三人を見た。

 

三人。

 

そう。

 

三人だった。

 

イカロスと悠だけではない。

 

青い髪の小さな少女が、少し不機嫌そうに立っている。

 

「敵だったんだよな?」

 

イカロスは答える。

 

「はい。タイプベータ、ニンフ」

 

「で、何で連れて帰ってきてるんだ?」

 

「投降しました」

 

「投降!?」

 

俺は思わず叫んだ。

 

「何があったらそうなるんだよ!」

 

悠は少しだけ考えた。

 

「イカロスがウラヌスシステムを起動した」

 

「それは少しじゃねえ!」

 

「少しとは言ってない」

 

「言ってないけど!」

 

ニンフが横から睨む。

 

「うるさいわね。別に好きで来たわけじゃないわよ」

 

「じゃあ帰るのか?」

 

ニンフは言葉に詰まった。

 

少しだけ、視線を逸らす。

 

「……今は、帰れない」

 

悠が静かに言う。

 

「命令遮断中」

 

「命令遮断?」

 

俺は悠を見る。

 

「できるのか?」

 

「一時的に」

 

「危なくないのか?」

 

「マスター権限には触れていない。記憶にも触れていない。命令路だけ遮断した」

 

「さらっとすごいこと言ってるな」

 

「必要だった」

 

「必要の規模がおかしいんだよ」

 

ニンフは腕を組んで、そっぽを向いた。

 

「勘違いしないでよ。私は投降しただけ。仲間になったわけじゃないから」

 

「はいはい」

 

「はいはいって何よ!」

 

そはらが玄関先から顔を出した。

 

「トモちゃん、何かあったの?」

 

そして、ニンフを見て固まった。

 

「……また?」

 

「俺もそう思う」

 

そはらは苦笑した。

 

「えっと、こんにちは」

 

ニンフは顔を逸らす。

 

「……別に」

 

「別にって」

 

俺は頭を抱えた。

 

夏休みはまだ終わっていない。

 

宿題は終わった。

 

少なくとも、終わったことにした。

 

だが、どうやら平和の方は終わっていなかったらしい。

 

ニンフ。

 

新しいエンジェロイド。

 

命令で来た敵。

 

そして、なぜか投降して、今うちにいる。

 

嫌な予感しかしない。

 

けれど、悠は帰ってきた。

 

イカロスも隣にいる。

 

誰も壊れていない。

 

ニンフも、壊さずに済んだ。

 

悠はそれを、少しだけ安心したように見ていた。

 

俺はため息をついた。

 

「とりあえず」

 

全員が俺を見る。

 

「麦茶でも飲むか」

 

ニンフが眉をひそめる。

 

「何でよ」

 

「投降者にも麦茶くらい出すだろ」

 

「意味分かんない」

 

「俺も分からん」

 

悠が小さく笑った。

 

「でも、悪くない」

 

ニンフは、ますます不機嫌そうな顔をした。

 

けれど、帰るとは言わなかった。

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