贖罪を胸に、異世界で英雄となれ   作:東西南北!!

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第四話 リリシィ・ルミリンス

「は?」

 

彼女の質問に、思わず間の抜けた声が漏れた。

 

「どういうことだ?」

 

「アッシュ、私を助ける時……私よりずっと辛そうな顔をしてた。」

 

リリシィは不思議そうに首を傾げる。

 

「いじめられてたの、私なのに。」

 

なるほど。そういうことか。

まさか泣いてるところとか見られてないよな?。

 

「俺、そんな顔してた?」

 

「うん。あと泣いてた。」

 

「気づいてたのかよ!?」

 

思わずツッコミを入れてしまった。

 

助けた側が、助けられた側に心配されるなんて聞いたことがない。

 

「まぁ、その……色々あったんだよ。」

 

「大丈夫。誰にも言わない。」

 

「いや、そういう意味じゃ……まぁいいや。」

 

噛み合っているようで噛み合っていない会話に、思わず苦笑する。

 

「ところで、君の名前は?」

 

「リリシィ・ルミリンス。最近、お母さんとこの村に来た。」

 

リリシィ。

綺麗な白銀の髪によく似合う名前だった。

 

「俺はアッシュ・リグレット。よろしく。」

 

手を差し出すと、リリシィは迷いなくその手を握った。

 

「よろしく、アッシュ。」

 

そのまま上下にぶんぶん振られる。

 

「ちょっ、どうした!?」

 

「友達になれたのが嬉しくて。」

 

無表情のまま言うものだから、余計に面白い。

 

「友達……か。」

 

この世界に来て、初めてできた友達だった。

不思議なくらい嬉しい。

 

「ところでリリシィ、大丈夫か? 土とか投げられてただろ。」

 

「平気。こういうの慣れてるから。」

 

「慣れてる……?」

 

「前いた場所でも、よくやられてた。前は小石だったから、今の方が楽。」

 

あまりにも自然に言うものだから、逆に胸が痛くなった。

俺と同じくらいの歳の子供が、“いじめに慣れている”。

そんなこと、あっていいはずがない。

 

「アッシュ?」

 

「……あぁ、ごめん。ちょっと考え事。」

 

「顔、怖いよ。」

 

リリシィは心配そうに俺を見上げてくる。

なったばかりで馴れ馴れしいかもしれないけど、俺はリリシィをもう大切な友達だと思った。

 

だから――。

 

「なぁリリシィ。俺に、君を守らせてくれないか?」

 

「……守る?」

 

「もう二度と傷つかないように。いじめられないように。」

 

そう言うと、リリシィは少しだけ目を丸くした。

そして、小さく笑った。

 

「アッシュ、嘘つき。」

 

「え?」

 

「友達なのに、“守ってあげる”は変。」

 

リリシィは俺の手を握り直す。

 

「友達なら、お互い守るんでしょ?」

 

その言葉に、胸が熱くなった。

守る側と守られる側じゃない。

 

支え合うのが、友達。

 

そんな当たり前のことを、俺は今まで忘れていたのかもしれない。

 

「……ありがとう、リリシィ。」

 

「うん。」

 

気づけば、また涙が溢れていた。

 

「なんでまた泣いてるの?」

 

「嬉しいから。」

 

「変なの。」

 

そう言いながら、リリシィは少しだけ嬉しそうに笑った。

 

――その笑顔が、とても綺麗だった。

 

 

「ところでアッシュは、なんで森にいたの?」

 

「剣術の復習だよ。いつもここで練習してる。」

 

「へぇ……すごい。」

 

リリシィは少し興味深そうに木剣を見る。

 

「誰から教わってるの?」

 

「父さん。元冒険者なんだ。」

 

そんな話をしながら、俺たちは森の中を並んで歩く。

 

「アッシュの剣、見てみたい。」

 

「いや、そんな大したもんじゃないぞ?」

 

「じゃあやめとく。」

 

「やめるんかい。」

 

思わずツッコミを入れると、リリシィはきょとんとした顔をした。

 

天然なのか、本気なのか判断に困る。

 

「リリシィは? 何か習ったりしてないのか?」

 

「私、お父さんいない。お母さんだけ。」

 

しまった。聞かない方がよかったか。

 

そう思ったが、リリシィは気にした様子もなかった。

 

「別に平気。顔も知らないし。」

 

そう言ってから、少しだけ空を見上げる。

 

「でも、お母さんは好き。一人で私を育ててくれたから。」

 

――強いな。

 

心からそう思った。

 

「リリシィは強いよ。」

 

「アッシュの方が強い。」

 

「いや、そういう意味じゃなくてさ。」

 

俺は苦笑する。

 

するとリリシィは、小さく微笑みながら言った。

 

「だって、あの時のアッシュ。私には英雄(ヒーロー)に見えたから。」

 

その言葉に、胸が強く震えた。

 

英雄(ヒーロー)

 

それは――。

 

「俺、夢があるんだ。」

 

気づけば、自然と口にしていた。

 

英雄(ヒーロー)になりたいんだ。」

 

リリシィは笑わなかった。

 

真っ直ぐに、俺の言葉を聞いてくれる。

 

「誰かが困ってたら助けて守れる、そんな英雄《ヒーロー》になりたいんだ。」

 

少し恥ずかしかった。

馬鹿にされるかもしれないと思っていたから。

でも。

 

「素敵な夢だね。」

 

リリシィは、そう言って笑った。

その瞬間、胸の奥がじんわり熱くなる。

 

「……笑わないんだな。」

 

「なんで笑うの?」

 

不思議そうに言われ、俺は思わず吹き出した。

 

「むっ......何で笑う。」

 

「ははっ、いやぁ……嬉しくて。二人目だな、俺の夢を笑わなかったのは。」

 

二人で笑い合う。

 

するとリリシィは、少しだけ真面目な顔になった。

 

「じゃあ私も、英雄《ヒーロー》になる。」

 

「え?」

 

「アッシュと一緒に。」

 

木漏れ日の中で、リリシィは静かに言った。

 

「私も、誰かを守れる人になりたい。」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

俺はリリシィに樹の面影を見た。

 

自分と同じ夢を持っていた樹の面影が。

リリシィと樹は見た目も性格も似ていないはずなのに、なぜか時々重なって見える。

 

(おかしいなぁ……似てないはずなのに、なんでこんなに似てるんだろう。)

 

おかしくて、また笑ってしまう。

 

「だからなんで笑うの。」

 

むすっとしたリリシィの顔がおかしくて、さらに笑ってしまう。

 

「ごめん、ごめん。」

 

リリシィは笑われたのが嫌だったのか、俺をポコポコと軽く叩いてきた。本気で叩いているわけではないので痛くはない。

 

「いやぁ、似てるなって思って。昔の友人に。」

 

「アッシュ、私と同じぐらいの年齢でしょ?」

 

「あー、そういえばリリシィって何歳なんだ?」

 

「今、話をすり替えたね。まぁいい。私は今年で5歳になる。」

 

危ない危ない。転生者だとバレそうになった。

 

「俺も同じ5歳だ。」

 

「一緒だね。」

 

歳が一緒なのは素直に嬉しい。まぁ精神年齢は俺の方が一回り以上上だけど。

 

「リリシィはさっき言った夢、本当に目指すのか?」

 

「うん。私は本当、アッシュの夢を聞いて素敵だと思った。だから私も——」

 

リリシィは少し目を細めて、森の木漏れ日を見つめた。

 

「アッシュと一緒に、英雄(ヒーロー)になる。

私も、誰かを守りたい。」

 

その言葉は、静かだけどはっきりとした意志を帯びていた。

 

俺は胸の奥が熱くなるのを感じながら、そっと頷いた。

 

「じゃあ……これからよろしくな。相棒。」

 

「相棒?」

 

「友達で、一緒に目指す仲間ってことだ。」

 

 

そして翌朝。

 

「おはよう、アッシュ。」

 

「…………は?」

 

目を覚ますと、そこにはリリシィがいた。

 

――なんで?

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