嘘と無法の生存戦略 ゲームの知識ととんでもスキルでVR死にゲー世界を生きていく 作:peko34
今回で長かった洞窟は最後です。
「と、いうわけなんだけど」
「…………はああぁ」
僕が別の、ここより発展した世界から来た事、限定的ではあるけどこの世界の未来を知っている事も含めて説明し終えた僕に待っていたのは、シノさんの大きなため息だった。
ゲームの世界って事は省いた。意味分かんないだろうし、無駄に悩ませるだけだろうから。
「その説明しきったって顔やめてくれない? 仮に全部受け入れたとしても、納得出来ない事だらけなんだけど」
「まあまあ、自分でも馬鹿な話だと思うけど、これから先も訂正する事はないし、受け入れた方が早いと思うんだ」
こめかみを指で押さえて苛立った顔を浮かべるシノさん。
憑依転生物ってこういう説明どうやってるんだろう。こんなの告げられる相手の気持ちなんて想像出来ないから、誠実に、全部相手にぶん投げる方針でいく。
本当に苦労をかけます。
「そんなわけで僕が知ってる次の展開なんだけど、まずここに向かってる騎士団20人、そしてその団長は負傷していると。ここまでは知ってるよね?」
「……そうね」
「それでその団長ってのが、まあ、正々堂々とした人でね。病気の妹の為にあんな騎士団に入ってるってだけで」
AIが進化してるから断言は出来ないけど、そんな性格でもないと次のイベントは発生しないだろうから、大きくは変わらないと思う。
「……正々堂々って、迷惑かけられてるこっちは全然納得出来ないんだけど……それが?」
「その団長を仲間にしたいんだけど──ちーちゃんさ、もしかしてなんだけど。この世界の病気にも詳しかったりする?」
恩を更に増やしていく。
だけどこれは一応シノさんの自己犠牲の阻止にも役に立つだろうから許して欲しい。
「──な、何勝手な事言ってんのよ!? ちーちゃんまで巻き込もうとするんじゃ──」
『――――!』
ちーちゃんがペチペチと、興奮したシノさんの足を叩いて止めに入る。
「だ、ダメだよ、ちーちゃん! 失敗したら逆恨みされちゃうかもしれないんだよ!?」
『――!』
そんな心配の言葉に両手で「頑張る!」のポーズをするちーちゃん。うぅ、いい子だ……
「というか矢面に立つのは僕だけだからね? ちーちゃんには完全に安全になった後、知識を貸して欲しくて」
僕がそう言うとシノさんは、「……まあ。それなら」と、判断は後だと渋々話の続きを促してくれた。
そんな訳で改めて団長の妹の症状を説明すると、ちーちゃんの気合い十分だった表情が、少し考えた後どんどん曇っていく。
そして──最後には首を横に振った。
流石にそう都合良くはいかないか……
……いや……でも少し考えた様子があった。もしかして、何かが足りないだけなのか?
そう思ってスキル習得画面なんかも見せながら色々聞いてみると、『!? ──!』と未知の技術に大興奮。
分かる。スクロールとタッチパネルって凄い技術だよね、いつまでも触ってていいから──
「…………っ」
……シノさんがイラついてるから後でね。
さて、ふむふむ、どうやら『調合』というスキルか、貴重な素材のどちらかが足りないらしい。
「……結局その青いのの説明されてないんだけど」
「いいからいいから」
シノさんがメニュー画面について聞いてくるけど、これは話したい事に直接関係ないので強引に置いておく。
なるほど……スキルがあればいけるのか。
僕はスキル画面の『調合』について調べてみると『素材を混ぜ合わせ、新たなアイテムを作成する』との事だ。
これは……取ってもいいんじゃないか……?
習得する為の必要SPはかなり多いけど、団長を仲間に出来る事を考えたらお釣りが来る……と思う。汎用性だって抜群だ。よし──
「分かった、じゃあ調合は僕が覚えるから──」
「覚えられるかぁっ! 覚えるだけで人生大成功って生産スキルを、調合? 初めて聞きましたって男が、数日で手に入れられるか!」
ついにシノさんがキレた。
確かに大概のRPGでは、アイテム合成系のスキルやお店が一番活躍してるまであるし、簡単に手に入らないのも納得だ。だけど──
「普通なら難しいよ。でも今回僕には一国の騎士団長と敵対して戦えるっていう、とんでもない機会があるんだよ?」
敵対していないと、いくら戦っても経験値は入らない仕様のせいで、生産職には絶対に真似出来ないレベル上げ。
僕には圧倒的強者と戦って得られる経験値があるんだから。
「──ば、バカなの!? 勝てるわけないし──そもそも人数が違い過ぎるでしょ!」
「だからさっき言ったように、ただの村人相手に大勢で掛かってくる人じゃないんだって」
これは騎士団長との一騎打ちイベント。
精霊術師を輩出した村へ、近くまで来ていた団長が褒賞の通達に来る。
その際に可能性を見せる事で『王国ルート』に分岐するという重要イベントだ。
前の週、僕はそのルートで労せず団長を仲間に出来たけど、国には大分酷い目に遭わされたから関わらない方向で行こうと思ってる。
だけど僕は──団長という美味しいところだけは頂きたい……!
正直めちゃくちゃ怖い。
だけどVRRPGでは一部を除いて敏捷のステータスはないのが基本だ。早くなればなるほど身体を動かす難易度は飛躍的に上がるし、配信映えもしないから。
だからこのゲームのステータスは
走る事に関してMOを見てきた僕が負けるわけない。
インベントリもある──うん、失敗しても僕一人なら逃げられる。
「それにね、勝つ事──は無理でも負けない事は出来なくもないんだ。向こうはこの無法の世界で正々堂々なんて、物凄い弱点を持ってるんだよ?」
例えば──さっきの騎士が村で好き勝手して、とんでもない被害が出たって設定でいけばどうだろう?
人の心を持っているなら反撃すら簡単じゃないと思う。僕を憐れんでいる間は経験値稼ぎ放題だ。
そう伝えるとシノさんは嫌な顔で僕を見て。
「ユウは一度死んだ方がいいと思う……」
なんて事を言うんだ……
力が足りてないのに正々堂々挑むなんて、何にもいい事ないのに!
「……でもさ、実際村は平和で私たちも元気だし、騙されるわけないじゃん」
それでもドン引きしながら倫理を置いて考えてくれるのは凄く頼もしい。
「そこはほら、復讐の為とか言ってこっちから出向けばいいし、見た目もほら──」
僕は重傷に見えるよう、インベントリに収納してあった『血液』を全身から吹き出して見せると──
「ひ──ひぃひゃぁぁあっ!」
『!!――――!』
パァンッ、と小気味よい音が鳴り、頬が熱くなる。
ビンタされた。
「あ、あんた急に、な、なんて気持ち悪い物掛けてくれるのよ!?」
か、掛かっても回収出来るって。
僕の特技を地味とか言うから見せたくなっちゃうんでしょうが!
全く、ちーちゃんは突然のサプライズにきゃっきゃ大喜びなのに……汚いものかけちゃってごめんねー
散らかした血は手で触れながら、一通り回収していく。
「…………確かにそれは……とんでもないスキルかも」
「でしょ。こんな僕が囮になれば、この村に辿り着かせない事だって簡単なんだ」
こんな事も出来るし──と、汚いものを掛けたお詫びも兼ねて、スクリーンショット機能で髪型がオシャレになったちーちゃんを撮影して、写真を渡す。
『――!――――!』
「な、何これ! ちーちゃんの──絵!?」
写真なんて見た事のない2人は手の中の精密過ぎる絵に大はしゃぎ。
背景の洞窟の壁には血が飛び散って、最低な絵面になってしまったのにちーちゃんは凄く喜んでくれてる。私も欲しいとばかりに手を伸ばしてくるシノさんの手はペシとはたいて拒否する。
今は大事な話の途中でしょ!
「だからさ、もし失敗したらインベントリの事を打ち明けて囮やるし、僕が帰ってこなかったらこのまま村で過ごせばいいからさ。
──成功した時だけ、頼ってもいい?」
この死ねない世界でゲームをクリアする為には──僕の代わりにあのリザの魔法を、一度は耐えてくれた彼。
世界でたった八人。
専用クラスの一つ『聖騎士』は絶対必要なんだ。罪悪感で雁字搦めにして、絶対仲間に引き入れてやる……!