嘘と無法の生存戦略   作:peko34

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14 村人

 二日目の朝。目覚めても未だにゲームの中にいる現実にガックリと肩を落とす。

 だけど落ち込んでなんかいられない。今日は朝イチで出掛けて、なるべく万全の状態で騎士団を迎えたいんだ。

 

 パンパンと頬を叩いて気合いを入れ直すと、昨日作った『やることリスト』を確認する。

 スクリーンショット機能で暗闇を撮り、その上に落書き機能の蛍光ピンクで書いた疑似メモ帳だ。

 

『騎士団を追っ払う事(できれば団長を仲間に)』

『失敗したときは他国へ』

『成功したらインベントリで持ち運べる拠点の作成依頼』

『失敗したらお金稼ぎ』

『成功したら仲間集め』

 

 うん、まとめると大したことないように思えていいね。過程は大幅に省いているけど。

 そうして目標を再確認し、出かける準備を終えた僕が外に出ると──

 

「あら、おはよう。見送りに来てくれたの? ありがとうね」

『――♪』

 

 外では眩しい朝日と共に、大きな荷物を持って2人が待っていてくれた。

 ちーちゃんは今日も元気いっぱい──だけどリボンは自分で結んだのかな、どうにもバランスが悪い。

 全く……仕方ないなあ。今日はおしゃれさ重視で、頭頂に結び目を作ってみよう。

 

『――!? ――⭐︎⭐︎』

 

 パパっと結びなおしてあげると、目を輝かせながら『ほほー』と感心した表情でお辞儀をくれる。こちらこそ元気をありがとう。

 反対にシノさんは昨日から無言ですっごい気まずいね……失敗した時は僕が責任取ると言っても、普通信用なんて出来ないもんな。

 

「…………」

 

 だからと言って、シノさんは代案を出せないから何も言えないのだろう。視線をそらしている。

 ストレスかけて申し訳ないけど、僕もここは譲れない。

 

「……私達も、途中まで一緒に行くから」

「──ん?」

 

 予想外の提案に、思わず間抜けな声が出た。

 

「いやダメでしょ……途中までって、魔物がいるのに帰りはどうすんの。見張りたくなる気持ちはわかるけどさぁ」

「あのさぁ! まだこっちは全然話についていけてないんだって!」

 

 うーん、どうなんだ。こういう特殊な状況で、相手の立場で考えるのは難しそうだな……

 シノさんの立場──もし僕が彼女だとしたら…………なんだ……目の前の、この怪しい男は!?

 

「それにこう見えて料理や、針仕事なんかは誰にも負ける気ないから。ちーちゃんと遊ぶ為に家事の終わらせ方は2人でずっと研究してたんだから、迷惑は掛けないつもり」

 

 そう言ってシノさんは持ってきていた荷物を叩く。

 裁縫道具かなんかかな。

 ど、どうしよう、物凄く助かるけど、流石に断らなきゃダメだよな……

 

「あのね、だからそういう問題じゃ──」

「あとはまあ、おかげ様で? 私も結構レベルアップしてるし、ここらの魔物になんかやられないから」

「……荷物……持たせて下さい。お世話になります」

 

 でもこれは、助かりすぎて断れない……! 

 シノさんがどういうつもりか知らないけど、寮生活で学食一本で生活してきた僕は前回、適当に生えてる草で空腹ゲージを凌いできたんだから……!

 

「あー、うん、よろしく──そっか、なんでも出来る訳じゃないんだ。そこは少し安心した」

「……今はレベルが上がりやすいから出来る事多いってだけで、これからは嫌って程安心出来るよ」

 

 こんなに甘えていいのかな……なんて、内心不安ではあるけれど──

 

「……じゃあちーちゃんも、少しの間よろしくね!」

『――b!』

 

 サムズアップで返してくれるちーちゃんの頼り甲斐には逆らえないんだから、考えても無駄か。

 

 2人とも準備は済ませてくれたみたいだし早速出発する。僕の家跡地を超えて、木々の隙間を縫うような細い道を進む。

 そうして3人で村へと続く道を歩いていると──

 

「……今度はなに」

 

 少し先に見える人影は、この村の人達のようだ。

 比較的豪華な服を着た40、50くらいの男女と、二十歳前後の青年3人が遠巻きからこちらを警戒するように見ている。

 

「お父さん……?」

 

 後ろでシノさんの呟く声が聞こえた。と同時にちーちゃんには何か、小声で指示を出している。

 

 お父さん……ああ、村長さんか、シノさんを脅迫してるっていう。本当かどうかはさておき、敵対は避けた方が良さそうだな。

 

「ん、んん! あの──」

「シノ! こちらにいらした騎士様が、もう帰ったとはどういう事だ!?」

 

 娘さんを預かるから挨拶でもと声を掛けるが、こっちを見もしないで村長は怒鳴り声をあげる。

 家に戻った時、軽く説明でもしたのかな?

 

「──な、なんでそんな嘘吐くんだよ! 騎士様は、この村に滞在されるって言っていたぞ!? それに、蔵の食料をいつでも出せるようにしておけとも……」

 

 後ろの青年の1人も、こちらに近づいてきてシノさんを問い詰め始める。

 あの騎士余計な事を……どうするべきかとシノさんを見るとまるで動じていない。僕は見ているだけで良さそうだ。

 

「あのさぁ、今まで娘のピンチを放ってた癖に、騎士がいなくなったと聞いて急に偉そうにするのはどうなの?」

 

「っ、ぐ! で、でたらめを言うんじゃない! 私は準備を万全にしてから、騎士様をお迎えしようとしただけで──」

「はいはい。というか騎士様があんたらに何言ったか知らないけど、帰ったんだから仕方ないでしょ?」

 

 凄い。証拠は僕が片付けたと知ってすぐ、ここまで強く出れるもん? なんて恥知らずなんだ……

 

「ふ、ふざけるな!! これは──村の存続に関わる問題だという事も、お前には分からんのか!?」

 

「はぁぁぁ、そんなに疑うなら見てくればいいじゃん。もう帰ったってのに、さっきからビクビク警戒しちゃって。見ていて恥ずかしいんだよ」

 

「──っ! どけっ!」

 

 あからさまな挑発に、村長は顔を真っ赤にしてシノさんを乱暴にどけて道を進む。

 いや……確かに僕は証拠なんて残してないけど──

 

「…………な、なんだこれは!? こ、ここで爆発でも起きたかのように……なんだ、これは一体どういう事だ!?」

 

 視線の先には、更地になった地面と抉れた土。そして辺り一面に散らばる家の残骸を見て、村長が絶句している。

 

 だよね……何も考えずにその辺に色々捨てまくったし、不自然過ぎるって。

 どういう事って、あー、理由、理由は──

 

「なんか壊れてました」

「……ふ、ふざけるな!? 一昨日シノの事で会った時には何ともなかった筈だろう!?」

「──だったら何?」

「っ!?」

 

 僕もしっかり恥知らずだった。

 

 不法投棄は本当にすみません。

 でも僕はあの騎士を対処したんだからの精神で開き直る。この状況を推理なんて不可能なんだし、堂々としていればマウントは取られない。

 

 まあ、精神的に負けていないだけで何の解決にもなっていないんだけど、弱みを見せたら駄目な人みたいだし。

 

「お、おい、村長がそいつと会ってたって、どういう事だよ? シノの事って、なんなんだよ?」

 

 先ほどとは違う青年が、村長に恐る恐る問いかけている。なんだよ、僕が誰と会ったっていいだろ。僕の彼氏か? 村長も僕と同じような顔で問い返している。

 

「──俺は! おかしいと思ってたんだ! 昨日になって突然シノがこいつの所に嫁ぐとか──」

 

 あー、さっきシノさんが言ってたやつ──「ねえちょっと……」って、何、どうしたの?

 僕は何を見せられてるんだろう。と見ていると、シノさんが焦ったように僕の服を引っ張る。

 

「悪いんだけど、向こうの林にちーちゃん隠れてもらってるから、一旦どこか遠くに連れてってもらえない?」

「? まあ、いいけど」

「──急いで!」

 

 僕達が小さく会話している間も、村人達は村長に対して、シノさんを売ったんじゃないかと問い詰めている。

 その隙に、よく分からないけど言われるままちーちゃんのもとへ向かおうとしたところで──気付いた。

 

「ええい、うるさいうるさい!! お前らは、こいつがしでかした事を知らんのだ! いいか? シノはこの村を裏切──ぐっ!」

 

 村長は保身の為か、詰められるとあっさり2人を切り捨てようとしている事に。

 近くにいた僕は咄嗟に村長の口を塞いで黙らせたが──

 

「そ、そうよ! 私が苦労して産んだ、せっかくの精霊術師なのよ!? なのにこの子は村に何の役にも立たない無能な精霊と、勝手に契約なんかしてっ!」

 

 離れた場所に立っていた村長の奥さんらしき女性が、ヒステリックな大声でぶちまけてしまった。

 

 こういう事か……ちーちゃん、近くに隠れているなら、聞こえてるよね、今の。

 あーあ、シノさんの言う通りか。自分達が追い詰められたら間違いなく、両親は2人を売るって。

 

「せ、精霊術師……? シノが……? 嘘だろ」

 

「いや、で、でもさ、それがもし本当だったら……これからは魔物なんかも狩り放題なんじゃないか!?」

 

「馬鹿か、国に連れてかれるに決まってんだろ! でもその代わり、報奨金はたんまりって話……なんだけど……」

 

「そうだよ……シノは、さっき無能な精霊と契約しちゃったって……」

 

 契約破棄のスキルの事は誰も知らないのだろう。

 周りは今の言葉を理解し始めると同時に、若い青年達は途端にざわつき始める。

 

 それだけ昔の人は苦労してるって事なのかな、正直こういう汚い感情を目の前で見るのはきっつい……

 

「ユウはさ、ちーちゃんの凄さは分かってるよね?」

「それはまあ。なんならシノさんより分かってるまであるよ」

 

 意外にも冷静なシノさんにそう問いかけられる。

 こっちは既にちーちゃんの知識に頼りっぱなしなんだが? それに僕は今より未来の人間なんだし、色々思い付きもする。

 

「──そんな訳! いや……いい、じゃあさ、ここはいいからユウはちーちゃんを迎えに行ってあげられない?」

 

「……大丈夫なの? なんかあっち、シノさんに敵意を向け始めてる人もいるんだけど」

 

「いいから。あのさ、ちーちゃんは最初、私が契約をお願いしても、自分は無力だからって断ってたんだ」

 

 あー、ちーちゃん単体だと知識って中々活かせないかもねぇ……

 

「だから、ユウにはあの子の魅力を余す事なく語ってあげて欲しいんだよ。私が言っても気遣いだと思っちゃって」

 

 …………昨日、もっと興奮を表に出せばよかった。初対面の距離感が裏目に出たなら、僕の責任でもあるか。

 了解。返事をしてすぐに向かおうとするが──

 

「おい待て! こっちはお前に言っておく事があるんだ。勝手に動くんじゃない!」

「……僕?」

 

 なぜか村長に呼び止められる。

 シノさんに聞いた限りじゃ……僕とは円満に話は済んだみたいなのに。

 

「ふぅ、そこで驚くか。本当にどうしようもないなお前は」

 

 ──む。シノさんとドヤ顔似てて腹立つ。

 

「一昨日ワシが求めた情報を、お前はシノが貰えるならとあっさり渡したが──馬鹿が、渡していい情報と悪い情報の、区別もつかんのか?」

「…………うん」

 

 想像もつかない。

 すぐにでも駆け出したいけど昨日以前の僕のやらかしは知らなくちゃいけない。

 

「最弱職『村人』でもレベルを上げる方法。素晴らしかったぞ。お陰で昨日は徹夜だったがな、レベル4まで伸ばす事が出来た」

 

 ああ、昨日言ってた見返りってそういう。

 村の外れの戦闘チュートリアル広場かな?

 

 僕の初期レベルが2だったのはそのせいで、僕が村でやけに忖度されてるのもレベルが高かったからで──なるほど。

 

「それは凄いですね」

 

 本当に。完璧にしてやられてる。流石シノさんのお父さん、しっかりと盤面をひっくり返してる。

 

「──分かっていないのか? これはつまり、お前との取り引きなんぞ、もう守る必要などないという事だ!!」

 

 勝ち誇った村長の高笑い。でもそれは騎士を倒してなかったらの話だからね?

 

 あ、僕は今レベル10だから問題ないけどシノさんは──大丈夫そうだ。こっちに向かって「早く行け」と手を振ってくれてる。

 

 はいはい、じゃあ後はよろしく。

 僕は背中越しに聞こえる村長の怒鳴り声を無視して、1人裏の森へと向かった。

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