これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない! 作:peko34
「っ! お、おい待て馬鹿が!! お前にはまだ話が──っ!」
なんて必死に叫んでいる父の言葉を、なんの感情も浮かべる事なくちーちゃんの元へと駆けていくユウの姿。
それを見て改めて思う。
本当にアイツは誰なんだよ……
「くそッ! 追いかけるぞ!? 奴はレベル上げ方法を知ってる、またあの馬鹿にデカイ顔させたくないだろ──急ぐぞ!!」
いやいい、胡散臭さは振り切れているけれど、なんだかんだで私の心は軽くなってる。もしかしたらちーちゃんにも、上手く自信を付けさせてくれるかもしれない。
──ふ、それは流石に高望みか。
でもあの様子なら、少なくとも寄り添ってくれるだろう事は分かる。だから私の役目は──
「……なんだシノ、そこを退け。今はお前の相手している場合じゃないんだ」
「シノ!! 退きなさい! アナタもあの男には怒りを持っていた筈でしょう!?」
これ以上、この雑音を向こうに届けない事。
確かにアイツに対して怒りが無くなった訳じゃないけど、今はコイツらに腹が立って仕方がない!
「……な、なあシノ。昨日から、様子が変だぞ? もしかしてアイツに何かされたのか? 話、聞くぞ?」
そんでコイツもさっきから馴れ馴れしくて腹立つ!
なんでか好意を向けられてるけど、この村の男なんてどいつもこいつも暴力の強さで威張った馬鹿ばっかで、見分ける気にもならない!
「……誰なのよアンタは」
「──え? い、いや俺だって、なあ、シノ。何度も話した事あるだろ?」
「ええいもういい! 退け!!」
「──ちょ、待ってって──キャアッ!」
私の態度に我慢の限界が来たのか、お父さんは力任せに私を突き飛ばし、地面に転がした。
感じるのは土の味と痛み。
最悪……ほんっと、暴力なんて下品で野蛮で大嫌い。
「……ま、待ってよお父さん! アイツがいなくなった今、話さなきゃいけない事があるの!」
「うるさい! 女が邪魔をするな!!」
「──お、お母さん!」
「っ! なによ!? 私だって今お前の相手なんてないのよ!」
土を払いながら立ち上がる。
大嫌い──だった筈なのに。やっぱり私もこの村の娘だからかな。昨日のユウの暴力は、凄いと思ってしまった。
「あ、新しい精霊と、契約出来る方法を見つけたの!」
「…………なんだと……?」
「……え?」
大声で彼らの興味を引くだろう事を叫ぶと、時が止まったかのように誰もが動きを止める。
「知の精霊に聞いた事だから間違いないから! アイツが戻ってくる前に、お願い! 話を聞いてください!」
アイツは──平気な顔してウソ付くわ、小さくて童顔のくせにカスみたいな倫理観だわ、およそ人として尊敬出来るところなんてひとつも見当たらなかったのに──
「……お、俺からもお願いします!! や、やっぱり……シノはアイツの言いなりになってただけで──」
「ば、バカな! 既に何度も試させて、出来る気配など微塵もなかっただろう!! 出まかせを言うんじゃ──」
「今度は出来るの! 私が次のレベルで覚えるスキルは──『契約破棄』だから!」
頭を使って、弱者が盤面全部をひっくり返したあの戦いには……全身が痺れた。
それは返しきれない恩があるから、だけじゃない。
「破棄……って、なっ!? そ、それは──」
「勿論、言葉通りの意味だよ……」
「──っ、それは本当なの!?」
「うん……ねえ、レベルを上げる方法、聞いたんだよね……?」
「あ、ああ、シノ、お前でもすぐに上げられる筈だ、が……」
「なら私はあんな男に嫁がなくてもいいんだよね……?」
「わ、私!? ……も、もちろんよ! ねえあなた!」
「…………いや、だが……」
流石にこれは都合の良すぎる話だったか。
──っじゃない! ユウはウザいほど観察してきて、こっちの事を言い当ててきたんだ。
お父さんは……どう見ても私の言葉に揺れてる。
そうだ、私には愛想の欠片もないのに、このよく知らない男も、以前のアイツだって夢中にさせた何かはあるはずなんだ!
「……私が馬鹿で、お父さんには嫌われちゃったけど、これからはまた、私を愛してくれる……?」
「……っ! あ、ああ、勿論だともっ! 流石、流石私達の、自慢の娘だ!」
そう言ってお父さんは私に手を差し出してくれる。
だから私は有り難くその手を取って──全体重を乗せて引っ張った。
「──! なっ!」
耐えようと一瞬踏ん張るけど、前につんのめった体勢だ。足を前から刈り取れば、どうしたって倒れ込む。
力のない私でも格上を倒せる方法──昨日のユウが見せてくれた、相手の勢いを利用する、そして意識の外から攻撃する事──!
「──な、なん、がっっ!!?」
突っ込んでくるお父さんの顔の高さに肘を合わせておくだけで、会心の手ごたえを感じる。
ゴッ! という、人間の身体から出してはいけない鈍い音と共に、肘に埋まったお父さんがズルズルと倒れ込む。
「…………え?」
お母さんの間の抜けた声が聞こえる。
勢いとか原理、今考えると当たり前だと思うけど、自分より強い相手に力で立ち向かう選択なんて考えもしなかったから──
「──ガ、ガァアアアッッ!! あ、ああああ!」
昨日は不安で不安で、一睡も出来なかった。
今の時代、力の強さが何より大事って、改めて思い知らされた。
それがない私は昨日、何もする事が出来なくて。
親にも簡単に脅迫されて、ここまで追い詰められてきたんだから。
だからこそ──頭を使って戦う方法があるって事が、只々嬉しい。
「ひっ……キャアアアア!! あ、あなた! 大丈夫──え? や、やめ、ぐぅッ!!」
レベルの高いお父さんを倒しちゃえばもう終わり。
そのままちーちゃんを傷つけたお母さんも、また余計な事を叫ぶ前に頭を掴んで勢いよく引き下ろし、膝に顔を埋めた。
「……はぁ、はぁ……ふーっ」
少し動いただけなのに、息が切れる、膝も笑う。肘も膝もじんじんと痛む。
……誰かを暴力で倒すって……とんでもなく心が疲れるものなんだ。足元から崩れていくような感覚。
「…………ふう」
物理的な暴力に頼るのは最低限かな。
頭なら違う暴力だって考えられるんだ。──ふっ、でもこれ罪悪感凄いっての。
「お……おい、なんだよ、どうしちゃったんだよシノおおお!?」
「な、なんだよそれええ!? さ、さっきのも嘘だったのか!?」
「…………うっるさ」
嘘は少し混ざってるってだけ。混ぜる手法を試してみたら、不気味なほど信じてくれてこっちが焦ったけど。
それと向こうに都合のいい展開を用意するのも真似てみた。人間こんなに力が抜けるんだって程、効果的だった……アイツ嫌らしい手段いくつ持ってんだよ!
「うるさい、とっととどっか行ってくれない? アンタらもこうなりたいの?」
「──ッ!」
「な、なんだよ……アイツの味方なんて……たった1日で……もうアイツの女になっちまったってのかよ!! クソみてえな手を使いやがって!」
まあ……それはそう思う。
でも、昨日は死を覚悟するまで追い詰められて、そしてあんな戦い方をしながら堂々と生きてる恥知らずを見て気付いた。
力が足りない時はなんだって、卑劣な事でさえも使って差を埋める──それで誰にいくら嫌われたって、大切な存在を守れるならどうでもいいって事に。
「そ、そんなお前なんて、こっちから願い下げだああぁぁ……」
「…………何それ」
意味不明に私を振って、逃げるように男達は去っていく。後に残ったのは2人だけ。
「ぅぅぅうう……」
「ぃ、ぃたひぃぃ」
これまで散々私を脅迫してくれた2人。
心から許せる気にはならないけど、育ててくれた恩を感じなくはないし、これ以上恨みを晴らす気はない。
これを恩返しとするのはおこがましいけどさ、まあ騎士団の追い返しには私も頑張るつもりだし──
「私を売って対価はもらえたんでしょ? だからこれで貸し借りはなし。今日これで縁は切らせてね、さようなら」
あ、だけどそういえばユウは倒した相手から……ふふっ。アレも衝撃だったな。自分の行動になんの疑問も抱いていないところが特に良かった。
「──! な、なんだ、おい、何のつもりだシノ!」
私もちーちゃんに新しい服作ってあげたいし、勝者の権利だけは使わせてもらうね。