これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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連続投稿2話目です。


16 創世の女神様

 

「ちーちゃーん」

 

 裏の林まで来た僕はようやく、そこに置いてある古びた銅像の裏に隠れながらも、少しはみ出しているちーちゃんを見つけて声を掛ける。

 

 彼女はビクッと少し震えて顔を半分出して、僕を見ると安心したようにこちらへ駆けてくる。

 む。少し警戒心が足りていないな。後でシノさんに言っておこう。

 

 それにしてもさっきより元気がないな。向こうの声、やっぱり聞こえちゃったか。

 ちーちゃんは胸の前で両指を合わせ、気まずそうに笑ってる。

 

「向こう立て込んでるみたいだし、ちょっと離れよっか」

『――? ――――!』

「えーと? あ、シノさん? 向こうは心配いらないよ。シノさん冷静そうに見えたし、彼女の事好きそうな男性もいたからね。物騒な事にはならないと思う」

 

 僕がそう言うと、ちーちゃんはホッと安心した表情を浮かべる。

 それに──僕はふと思いついてメニューのパーティ画面を開いてみる。やっぱりあった、シノさんの名前。

 騎士を倒してレベルが上がっていたから、そうかなとは思ってたんだ。

 

 1周目では王国に復讐とか言って、魔族側についたシノさんがパーティ入りとはね……ストーリーちゃんと制御出来てんのかね。

 それよりえーと、シノさんのレベルは……3? ……これ本当に大丈夫?

 

 うーん、村長の自己申告でレベル4、あの状況でサバ読む事はあっても低くは言わないよね……

 クラス『村人』相手だから平気だとは思うけど、少しだけ気にしておこう。

 

 それでも優先はこっちだと、僕はちーちゃんの手を引いて少し離れた場所に、回収していた椅子を2つ取り出して話し始める。

 

「ちーちゃんさ、自分にあまり自信が持ててないんだって?」

『!? ――……』

 

 ちーちゃんは、突然の質問に驚いた顔で僕を見ると、顔を伏せ、悔しそうに小さく頷く。

 うっ、思ったより深刻に考えてる……

 

 僕はひとまず「そんな訳ないでしょ」として、どう話すかを考える。

 村長達がちーちゃんを誤解するのは、ただ単に今を生きるのに必死で、彼女の知識を活かせないからだと思う。

 インターネットがある時代でさえも、生活を豊かにするなんて難しいもんだしね。

 

「あのねぇ、ちーちゃん──」

 

 でもこれをそのまま伝えていいのか? だって周りが理解していないだけ、っていうのは、ある種逃げの考えだ。

 

 そういう考えが大事な時もあるけれど、ちーちゃんは僕がどんな質問しても、逃げないで全力で答えようとしてくれていたのに。

 

 思えば僕も、昔からとんでも特技を持っていたのに自信なんて欠片もなかった。それが今では、僕こそ世界最強なのでは? と、考えられる程に増長している。

 

 そのきっかけが何だったか。考えるまでもない。エレ達がいたからだ。

 日常的に厄介事を持ってくるエレによって圧倒的な数の成功体験を、僕に負けて本気で悔しがってくれるMOとピースケから自尊心を、抱えきれないほど貰ってきたからだ。

 

 だったら僕が今するべき事は──

 

「ちーちゃん、ちょっとこれを見て」

 

 そう言って、僕は両手を前に出し、思うまま動かした後、得意気な顔で締める。

 

『――。――???』

「今僕はね、手の動きを使って『僕の名前はユウです』って言ったんだ」

『?? ――!!』

 

 ちーちゃんは驚いた後、「もう一度! もう一度やって!!」とでも言いたげに、凄い勢いで僕に迫る。

 ふふ、知の精霊だけあって、新しい知識は好きみたいだね。

 

「これはね、『手話』って言うんだ。覚えれば手の動きだけで、他の人みたいに普通に会話出来るんだよ?」

 

 状況が落ち着くまでは、今すぐ成功体験を用意する事は出来ない。だから僕に出来る事は、習得すれば成功間違いなし、と思える事を提案するだけ。

 

 僕は精霊が言葉を話せないのって、開発者のゲームバランスを考えた調整だと思ってる。最初から何でも教えてくれる精霊なんて強過ぎるから。

 誰も彼も日本語を話してるこの世界で、雰囲気もクソもないしね。

 

 だからこそ、僕はこの枷を外したい。

 AIとはいえ、どう見ても心を持った小さな子に重いハンデを勝手に付けて、胸糞悪いっての。

 言葉が分かるなら、僕達だって大助かりだしね!

 

『――!! ――!!』

 

 なんて考えている間にもちーちゃんは僕の服を引っ張りながら、アンコールを繰り返している。

 

 やめてやめて! さっきの実は仲間内で使ってたただのハンドサインで、意味は『オーライオーライ!』だから! ちゃんとした手話なんてひとつも知らないんだから僕!

 

「……あのね、ちーちゃん。手話を使うなら、君が言葉を作るんだよ? そうじゃないと、ちーちゃんが評価を覆した事にならないから」

『!? ――……』

「まあまあ。仲間内で使うだけの、簡単なやつならそこまで難しくないから。先に共通ルールなんかを作ったりして──」

『…………』

 

 あれ? 乗り気に見えたけど、急にしぼんで不安気にこっちを見て……なんだろ。

 ──作ったら覚えてくれるって? 健気……! そりゃ覚えるよ!

 

「それにね、僕は勉強苦手だし、これから少し立て込んでるから覚えるのが遅くなるかもしれない」

『……――』

「でもね、誰か1人でも、そう、シノさんが覚えてくれれば、通訳を通して話せるようになるんだ」

『!! ――!?』

「えと、そ、そう! 通訳がいれば僕だけじゃなくて、世界中の人とも話せるようになるんだよ!」

『……!! ――♪』

「まあこれはただの、一つの案だから。手話を読み解くだけで済む僕達と違って、ちーちゃんの負担は──」

『――!!』

 

 僕が言い切る前にちーちゃんは首を振って、早速戻ってシノさんと言葉を作ろうと興奮している。

 

 それになんだかこの辺一帯が不自然に光輝き始めて、なんだろこれ──って、分かったから! このボロ服は引っ張らないで!

 

 そうだ、戻る前にシノさん。向こうは大丈夫かな?

 僕はメニューを開いて彼女の体力が少しも減っていない事を確認して一安心──ん?

 

 …………なんかシノさんのレベルが上がってる。

 村長達、倒しちゃったって事……?

 

 そ、そっか、昨日は僕と騎士でシノさんにストレスパンパンに詰め込んじゃったもんね……うん……

 

「なんか……シノさん少しご機嫌斜めみたいで、ゆ、ゆっくり帰らない──」

『──×!!』

 

 そんな僕の言葉には、渾身の両腕クロスで返された。

 

 

       ♢

 

 

 

 長い話を終えてさっきの場所に戻ってくると、ちーちゃんはピャーと駆け出して、像の前で小さな手を合わせて祈り始める。

 

 さっきは気にしてなかったけどあれは、女神像か。

 眼鏡を掛けた、美人だけどキツめの目をした女性の像。

 

 この女性は、この世界『ユートピア』で信仰の対象とされていて、像の周囲に魔物を寄せ付けないという効果がある。

 

 ゲーム的に言うとセーブポイント。

 そしてゲームオーバーになった際に一度だけ、最後にセーブした女神像から再スタート出来るという、リスポン地点でもある。

 一般ゲーマーに常在戦場の心構えなんて無理だから、街や村など、様々な場所に設置されている。

 

 魔族にとっても女神像は気分が悪くなるようで、その周辺だけは人間が生きる事を許している。

 

『…………』

 

 ちーちゃんが熱心に祈っているあたり、旅立ちの前にはこの像に無事を祈る風習でもあるのかな?

 僕はこの世界の人間じゃないから信仰心なんてないけど、1周目は休憩によく利用させてもらっていた。

 

 この村には珍しく2個設置されている。村の中央に一つ、少し離れたプレイヤーの家の裏に一つだ。

 一瞬不思議に感じたけど、まあ主人公の家だしね、と納得しかけて──ふと思い付く。

 

 プレイヤーの初期リスポン地点……

 そんなの大概はゲームが始まる初期地点に決まってる。つまりここだ。

 

 その為にこの女神像は開発者によって設置された物なんだろうな。

 …………ならこれも、『はじまりの家』と同じで、僕の物とも言ってもいいんじゃないか……?

 

 目の前の像は苔だらけで、まるで手入れをされた形跡はない。だって村には村用の女神像は設置されているんだから。

 台座には亀裂が入って、誰にも触れられていない時間が長いのは一目瞭然だ。

 

 こんなのってないだろ、像の立場になって考えろ。

 すぐ近くには、愛されて感謝されている同じ女神像があるのに自分はこの待遇。

 泣く、いや、嫉妬で狂うかもしれない。

 

 家が回収出来た体験を強く思い浮かべる。

 これは家の付属品で……

 だから当然窃盗なんかじゃない、救済、でもない。

 

(これを持ってくの忘れてた! なんて、どこまでも軽い気持ちで────『収納』)

 

 直後──シュン、という気の抜けた音と共に、数百キロはあるだろう石塊が消失する。

 

 インベントリを開いてみると、リストに書かれているのは『創世の女神像』の文字。

 お、おお、回収出来た……凄い! なんて図々しさなんだ僕は、心の中は本当にどうしようもない!

 

 歪んだままでいて良かった……だってこの先の旅の安全度が、飛躍的に上がったんだから!

 

『!? ――!?!?』

 

 突然自分が祈っていた像が消えてしまって一瞬パニックになったちーちゃん。

 きょとんと虚空を見つめた後、間も無く後ろで大喜びの僕の仕業と気付いて連続パンチを繰り出してくる。

 

 ちょ! やめてやめて! 僕まだ高校生なのに、父性が溢れてきちゃうから!

 

「違うって! この像は、ちーちゃんの新しいスタートの為に持っていくんだ!」

 

 自分でも意味分からないけど聞こえのいい言葉で誤魔化していると──

 

「アンタ達……この短時間で、どこまで仲良くなる気よ……」

 

 ガサガサと草木を掻き分ける音と共に、シノさんがまた一回り大きくなった大荷物を抱えて戻ってきた。良かった、僕らには怒ってなさそうだ。

 

 ちーちゃんはそんなシノさんに駆け寄って、早速僕の所業をチクろうとしている。

 はっはっは、無駄無駄、ジェスチャーだけで今の流れを説明するのは難しいって!

 

 シノさんも「はいはい後で叱っとくから〜」なんて言いながらも、元気になったちーちゃんを見て、目を細めて嬉しそうにしている。

 

「待たせてごめん。それと──ちーちゃんの事、ホントありがとね」

「……い、いやいいよ。こっちも楽しかったから」

 

 殊勝な事を言いながらも、シノさんは抱えていた荷物は僕に預けてくる。

 それは全然構わないんだけど……これ……僕の着ている服よりよっぽど上質な生地の手触り。

 さっきまで村長達が着ていた服じゃ……?

 

「……ねえ、なんかここ違和感無い?」

「まあ……家があった場所だからね」

 

 今は深く考えるのはよそう。

 シノさんがなんか勘付きそうだし……それに女神像も回収出来て、シノさんも戦利品を沢山ゲット出来たみたいで、うん……いいイベントだった!

 

「──なら今度こそ出ようか。やり残しとか大丈夫?」

「平気」

『――♪』

 

 ふふ、いつもギリギリまで余計な事ばっかりする幼馴染といたから、すんなりいくのってなんだか新鮮だ。

 なんて、2日目にして少しホームシックになりながらも、僕達はようやくはじまりの村を後にした。

 

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