これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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17 精霊通信網

 

「違うってちーちゃん! これは、こうした方が分かりやすくない?」

『!? ――♪』

 

 村を出て、数時間程経っただろうか。

 整備などされている筈のない、石ころだらけの道らしき道を歩いているが、後ろでは二人が元気いっぱいで手話の開発をしている。

 最初は僕も混ざっていたけれど、二人の頭の回転に付いていけず早々に撤退する事となった。

 

 撤退──しなきゃ良かったかもなぁ……

 

「待て、確かにそれは分かりやすいが、元々言葉を使える者がいないと伝わらないだろう?」

 

 後ろから新しい声が聞こえる。

 なんか知らない人が、いつの間にか参加してるから……

 

 どちら様か尋ねたら、物凄い威圧感で「失せろ人間」と一蹴されたので未だに誰か分からない。

 それでいて全く不快な気分にならないから多分、僕にとって雲の上の存在なんだと思う。

 

 黄金に赤が混じった、とんでもなく綺麗な長髪に、目は鋭くて大きな態度がとても良く似合う、カッコ良過ぎる女性。

 

 まず地を歩いていない所が只者じゃない。

 宙にふわりと浮いて、こんな軽い話題を高みから話してくるのに、凄くしっくり来てしまう。

 ちーちゃんが懐いてるし、精霊のお偉いさんとかかな……?

 

「余自ら出向いて教えていたら、種全体に広まるまで時間が掛かりすぎる。他の方法はないのか?」

「あー……手話については私もさっき初めて知ったばかりで……詳しくはあの人間が知ってます」

『――♪』

 

「──ほう?」

 

 ……見てる見てる怖い! ちーちゃんもおいでおいでしてないで!

 余とか言ってて多分めちゃくちゃ偉い人だし……高校生まともな礼儀作法とか知らないよ?

 

「人間、聞いていたな? 良い案はあるか?」

 

 あ、ある訳ない。僕一人話についていけなくて輪から外れてたじゃん!

 いや、まあ……シンプルでいいって事なら……

 

「あの……そういう事であれば、右手で母音、左手で子音をそれぞれの指で対応させるのはどうでしょうか? あ、母音というのは──」

 

       ♢

 

「かああああ、くうううう。……本当だ。『ん』以外は伸ばすと最後にはその母音ってのになる。凄い……かも」

「い、いや僕もこれ教わっただけだからね? だからちーちゃんその尊敬の表情やめてね、本当に」

 

 手話というよりこれは、『指文字』を何倍も劣化させたような物で……やばい、不敬ですらある可能性を考えてなかった。

 

「母音と子音──聞いた事はある。が、成程。人間は下らん事を考えるものだと思っていたが……

 それならルールを教えるだけで済む、か?

 いや、効率のいい言語にするのはその後でいいが……」

 

 ……良かったまずまずの評価。

 でも頭いい人はすぐ改良が選択肢に出るのが嫌だよ。日常会話レベルまで持ち込む気だもん怖いよ。

 

 精霊間で意思疎通……あれ、種族バランス壊してない?

 流石にここまで未完成な物しか渡せない僕には一切の責任も栄誉もないけどさ!!

 

「だが待て。それでは不定形の者共はどうする?」

 

 …………分からない知らない。

 話は終わりではなく当然のように、更に意見を求められる。

 

「いいか、国が不穏な動きを見せている今、王として種全体の意思を統一せねばならんのだ」

「…………さ、さすがでございます!」

 

 王様だったかー。

 これ絶対答えなきゃいけないやつ……

 

「──この者が見えるか?」

 

 王様はそう言って自らの手のひらを上に向けて示してくるが、何を聞いているのかも分からない。シノさんに目を向けても首を振っている。

 なんだろう──いや、少し光ってる?

 

「生まれたばかりだが、『光』の精霊だ。余をここに連れてきたのもこやつらだ。見てほしい物があるとでも言いたげにな」

「な、なるほど……」

 

 日が高く、目立たないけど確かに目の前で『気付いて』とばかりに光が点滅しているように見える。

 

 へー、凄いな。そういえばちーちゃんと話してた時、こんな不自然な光を見たかも。驚いてくれてたなら嬉しいな。

 だけど九條星羅はなんでこんなの創っ……え? 

 

「あ、あの、それってもしかして──」

「こやつらはこの世界の何処にでも遍在していてな。介せば、遥か彼方の者とも意思を通わせる事が叶うのだが──可能か?」

「…………す…………すこ、少々お待ち下さい」

 

 なんかとんでもない事言ってる……! 

 鳩で手紙をやり取りしてそうなこの世界で──『擬似インターネット』がやりたいと??

 ──このぶっ飛んだ発想出来る人に言える事など何もないわ!! あーもう、えーと、えーと、あ。

 

「……よ、よくは知らないのですが、僕の地元にはモールス信号というものがありまして……」

 

 

       ♢

 

 

「ふむ。短点を母音、長点を子音として、指に相当するものは光の強弱で表す、か──」

「は、はい、そんな感じで、へへっ」

 

 あ、ああ……ごめんなさいモールスさん! 全く洗練されていない、伝達効率最悪の物をあなたの名前を付けて渡しちゃいました……!

 

『⭐︎――⭐︎ 〜〜〜♪♪』

「いやちーちゃん! 私たちはまず手話を作らないとでしょ!? というかそれすらしてる場合じゃ……」

「…………………………」

 

 後ろの2人は新しい知識にキャッキャはしゃいでる。

 こっちはこの王様に、凄い間を作られてドキドキが止まらないってのに……!

 

「──余にはない発想だった。これよりだいぶ詰めさせてはもらうが、まあいいだろう」

「!? こ、光栄です!」

「褒美を与える。何が欲しい」

 

 いや……流石にそれは。大元の知識すら僕のじゃないんだから──じゃない! 今そんな事言ってられないだろ!

 

「で、では、何か、この整備されていない道を歩くのに役立つような、靴のような物を頂けたりしないでしょうか……足が凄く痛くて……」

 

 だって僕はもう……これ以上、歩けないんだから……

 

「アンタ、これから騎士団に戦いを挑むんじゃないの……? 凄い情けない事言ってるけど」

 

 こんな田舎で育ってきた君らには分からない……現代人は、こんなデコボコな道を長時間歩けないんだ……

 

「…………貴様はそんな物でいいと言うのか」

「い、いや、足の指は血が滲んで……! 多分明日にはマメも出来そうですし……」

「……に、滲んだから、あ、歩けないの?」

 

 シノさんが田舎育ちモラハラをしてくる。

 違うから。僕の特技は痛みと違和感に致命的に弱いんだ、身体の感覚は何より大事なもので……!

 

「……まあいい、では余の権能の一つをやろう。人間にとなると相当格は落ちるだろうが、その程度の望みであれば叶うだろうな」

 

 そう言ってその白く透き通った指を伸ばし、僕の頭に触れると──

 

「っ!?」

 

 僕の体が淡く発光する。

 何……これ、体が光ってるのに感覚無くて怖い!!

 

「そして『知』と、その主。貴様らは何を望む」

 

 僕に何かを渡し終わったのか、次はシノさん達に話しかけている。

 ……足の痛みは治っていない、靴はボロ靴のまま。

 何が変わったのか? とメ二ューを開いてみるとスキル欄に「オートリカバリー(弱)」の文字。

 ──ぱ、パッシブスキル!? こんなもの貰っていいの!?

 

 ……なんだか意識してみると、確かに……少しずつではあるけど体が癒されていく感覚が……「ぁ、ああ、あああっ!!」

 

 ──っじゃない! 配信されてるのにこんなに恍惚としちゃダメだって! 落ち着けぇ、これは僕だけのアドバンテージにするんだ。

 

 僕が渡したのは知識の本当に触りの触りだけ、たまたまこの方の求めてた取っ掛かりと合致しただけだ。

 ライバルだってこの世界の痛みには苦労する筈、出来ればそのまま苦しんでいてもらいたい。

 

 痛みのある世界を舐めていた。

 コンクリートで道は整備され、いくら歩いても疲れない靴がごろごろしてた時代に生きた僕が、散々イキってほんと恥ずかしい。

 こんなの想像を遥かに超えて欲しかったものだったけど、失礼のないレベルの喜びに抑えろ僕……!

 

「い、いや! 私は何もしていないですし、とんでもないです!」

 

 幸い精霊王様はシノさんに話しかけていてこちらを見ていない。僕は小さく「ありがたき幸せ」と、喜びを抑えて跪く。

 ちーちゃんは僕があげたリボンを何か強化してもらってる。なにそれ、凄く嬉しい……

 

「──その手話だが、これより洗練された物は、貴様らが作るのであろう?」

「そ、それは……はい、えーと、そうしたいと思ってます。ちーちゃんと色々話したいですし」

『――◯♪』

「では完成後には使いを同行させる。見て覚えさせるつもりで構う必要はないが、その間そやつは好きに使うがいい」

「──え? ええっ!?」

「余の片腕だ。必ず役に立つだろう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 そしてシノさんにも、物凄いパワーアップフラグが立ってる。気前が良過ぎるよこのお方……

 

「さて余はそろそろ行くとする。すぐにでも広めねばな。

 ふっ、もし……もし近い未来、みなが言語を操れるようになれば……ふふ、ふははは」

 

 あ、悪役笑いで、未来を語るのやめろお! 敵か? 思うだろ!!

 

「――――――」

「──ふ。どうやら『光』達も楽しみにしているようでな。精霊術師が願えばいつでも力を貸す、だそうだ」

「わ、私!? あ、ありがとう、よろしくね、えーと、みんな?」

 

 直後、辺りから急に圧が消える感覚。

 絶対今出会えるような存在じゃなかった。

 

「はぁぁぁ……」

 

 肩の力が抜けて、ようやく今の出来事を振り返れそうだ。

 えーと、国が不穏とか言ってたっけ。いや、それより光は何処にでも存在するからいつでも呼んでもいいとか、何処にでも──?

 

 ああ、この世界電灯もないのに、夜が真っ暗闇にはならないのはこの子達のお陰かな?

 何も見えない時間があるなんて、ゲームとして欠陥だから──

 

 無粋過ぎる……目の前で、二人が空に浮かぶ無数の『光』に向かって笑顔で挨拶している微笑ましい光景を見て、僕は考えるのをやめた。

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