これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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2 ゲームスタート(2周目)

「──え?」

 

 目が覚めて、僕はなぜか数ヶ月前(﹅﹅﹅﹅)に幼馴染が持ってきたゲーム、『ユートピア』を思い出していた。

 

 初めて投稿した動画は、粘着質の視聴者に徹底的に荒らされた。

 それでこのゲームのことは、サービス終了と同時に僕の記憶から消していたんだ。

 なのに今さらこのゲームが頭に浮かぶのは──

 

「……なに、なんで?」

 

 その時と全く同じ光景の中で目を覚ましたから。

 

 見覚えのある天井。古びた石造りの壁。広さは20畳ほどか。

 鼻をつくのも、懐かしい埃っぽい土のにおい。

 

 間違いなくゲーム開始直後のステージだ。

 

「なにって、こっちのセリフなんだけど……」

 

 目の前には、僕に不審な目を向けて座っている女性『シノ』

 村長の娘で、18歳だったか。

 設定上の主人公の婚約者らしい。

 

 黒く長い髪を下ろして、切れ長だけど大きく開いた目。

 貧しい村の出身という設定から服は薄汚れているが、パッケージを飾るだけあって相当な美少女だ。

 

 この感覚。夢、な訳がない。

 ドッキリ……誰が、なんのために。サービス終了したゲームを動かしてまで……?

 

「別にいいけどさ……」

 

 原因なんてログアウトすれば分かるんだから。こんな所で考えてても仕方ない。

 それにここでのんびりしてたら──

 

「──おいおい。マジでこのボロ小屋が、村で一番マトモな家だってかァ? こんな汚ねェ所に俺を泊まらせる気かよ」

 

 このプロローグが始まってしまうから。何ボサっとしてるんだよ僕は……

 

 扉が乱暴に蹴り開けられ、男が入ってくる。

 中世の騎士を思わせる鎧をまとい、腰に剣を下げた三十半ばほどの男。

 

 立派な見た目に反して、傲慢で典型的な悪役だったっけ。

 

「あ、あの、申し訳ございません、どちら様でしょうか?」

 

 横の女性が震える声で尋ねるけれど、男は答えず無遠慮にジロジロと眺めている。

 

 これは彼女が男に価値を見抜かれて、王国にさらわれてしまうテンプレプロローグ。

 主人公が旅立つ為の動機イベントだから抵抗しても絶対に勝てないし、プレイヤーは終わるのを待つしかない。

 

 自分の格好は布の服一枚、持ち物は無し。

 どう見ても負けイベなのに、ピースケは突っ込んでやられている。

 

「……ほーう、汚ねェ格好の割に、見た目は悪くねェな」

 

 だけどもう見抜くって、今回はやけにテンポが…………見た目?

 

「くく、村のババアとガキで我慢してやろうと思ってたが──丁度いいのがいるじゃねェか」

 

 いや……こんな展開だったっけ⁉︎ なんかとんでもない妥協しようとしてたけど!

 好き放題している男の視線は、やがて僕へと向いて──

 

「そっちのガキは村の奴らに伝えてこい! 栄えある王国の騎士たるこの俺が! お前らの村で手厚くもてなされてやるとな!」

 

 今からお楽しみするから出てけって言ってくる……嘘でしょ。ここ僕の家だよね?

 女の子もあまりのことに、言葉をなくしてるわ。

 

「それと魔物退治の際に団長が負傷してな。うちの連中も集めたんで、その準備にも取り掛かれとなァ」

「そ、そんなっ! この村は毎年ギリギリの生活でっ……騎士団全員なんてとても……」

 

 ……うん。でも確かに流れはこんなんだった。

 二人とも別人のように生き生きしてるのに、イベントの大枠は変わってないのがなんとも混乱させてくれる。

 

「なーに。別に今すぐに、という訳じゃねェ。本隊はここから少し離れた集落にいるんでな。

 信号は出したが、到着するのは明後日頃か? それまでに20人の、そうだな……7日分の食事と寝床の用意しておけばいい」

 

 その言葉に彼女は真っ青になって震えている。

 この表情のリアルさは一体……なんなんだよ、今更アップデートされたとか?

 

「貧民風情には、過ぎた栄誉だろう?」

「な、7日分……20人を……む、無理です、用意できる訳……」

 

 考えがまとまらない僕の横で、必死で頑張る女の子。

 

「ち、仕方ねえなあ」

 

 その様子に騎士は一度怠そうな顔になり、腰の剣を脇に置いた。

 その仕草に、彼女の表情にはわずかな安堵が浮かぶ。

 

「あ、ありがとうございます! 今日は村一同、精一杯おもてなしさせて頂きますので──っ⁉︎」

 

 だけど男はそのまま手を伸ばし、彼女の髪を掴んで引き寄せた。

 

「どうも貴様には、騎士の偉大さを身体に教え込む必要があるようだ」

「……っ、ぇ……」

 

 AIが騙して、AIが騙されている……

 もはや何も分からないけど、これからもの凄い胸糞展開が始まる事だけは分かった。

 見てるの辛いし……僕は帰るよ?

 

 幸か不幸か騎士の視線はすでに僕には無いようで、遠慮なくメニューを開く。

 

「──え?」

 

 だけど何かがおかしい。

 

 そうだ、以前は端にあったログアウトボタンが見当たらないんだ。

 不思議に思いながらも手当たり次第に目の前に浮かんだメニュー画面を操作するが、それでも見つからない。

 

 ふふ。な、なにこれ。やめてよ。

 本当につまらない。もう充分ドッキリしたから早く出して──

 

「あ? なんだお前」

 

 瞬間──視界がブレた。

 

「──がはっ! ──っ⁉︎」

 

 遅れて、胸に焼けるような激痛。肺の中の空気が全て吐き出される感覚。

 喉が勝手にカエルみたいな声を漏らす。

 目の前がチカチカと明滅し、思考が白く塗りつぶされていく。

 

「なに遊んでんだ? 言ったよな? とっとと村の奴らに伝えてこいって」

「っ、ぐ、ぐぅぅ……」

 

 な、なに……け、蹴られた……?

 床に叩きつけられた衝撃で呼吸もまともに出来ない。

 

 さっきまで僕が立っていた位置を見る。遠い……3メートルは吹っ飛ばされている。

 

 目の前の男は血を吐いて動けなくなった僕に興味を失ったのか、一つ鼻を鳴らして彼女へと向き直る。

 また標的に戻ってしまった彼女は、咄嗟に僕へ視線を向けるけど──

 

 無理無理、助けられないからこっち見ないでよ……胸を蹴られて血を吐いてるんだよ?

 そもそも僕は、なんでゲームの中で痛みを感じているんだよ……っ!

 

 意識が飛びそうになり、取り留めのない考えが次々と浮かんでくる。

 

「……わ、分かりました。本日より、騎士様のお世話は私にお任せください」

 

 彼女は僕の様子を見て役に立たないと思ったのか、覚悟を決めて騎士に従おうとするが、

 

「騎士からの要請には間を置かず『はい』だ。初っ端から躾けなんてさせんじゃねぇよ、テメェはよぉっ!」

「──ぅぐっ! っ、が、がはっ!」

 

 騎士は女性である彼女にも、容赦なく蹴りを入れる。

 その場でうずくまった事から手加減はされているようだが、うまく呼吸も出来ていない。

 

「罰だ。脱げ──身に付けているもの全てだ」

「げほっゲホ――ォェェ……えっ?」

 

 ……最悪。最低のシナリオ。

 なのに僕たちと目の前の男との力の差は歴然で、従うことしか出来ない。

 彼女は痛みで震える足で必死に立ち上がり「は、はい」と小さな声で応える。

 

 その言葉に騎士は満足そうに笑いを浮かべ、自分も着ている鎧を外している。

 

 彼女はそんな騎士に背を向けると僕と向き合う形になったが、構わず自分の服に手を掛け────ない?

 

 脱ごうという素振りは見せながら、彼女が注意深く手を伸ばした先は──

 

 先ほど騎士が、彼女の近くに置いた剣。

 思わず正気を疑う。え…………戦うの?

 いやいやいや、そもそも扱えないでしょそんな大きな剣。

 

「――っ、く――」

 

 それ以前に痛みのせいか、持つこともできずすぐに剣から手を離している。

 幸い騎士はちょうど今鎧を外し終えたようで今の怪しい動きには気付いていない。

 

「テメェ……いつまで時間かけてんだ? 力ずくでひん剥かれてェのかァ⁉︎」

 

 男の怒鳴り声にビクと身体を震わせるが、今度は目だけを動かして部屋中を見渡している。

 

 足は震えて、冷や汗を流しながらも必死なその姿に僕は、

 あー……武器、になるものでも探してるんだろうなぁと、自然に察してしまう。

 こういう人、ずっと見てきたからすぐに分かった。

 

 確かに、今コイツに従った所で既に仲間は呼んだ後、油断している今のうちになんとかしないとこの村に未来はない。

 コイツがいたら、本隊が到着する前に逃げることも出来ない。

 

 でもだからってこれは覚悟決まりすぎでしょ……

 目の前の女性の思い切りの良さは、諦めの悪すぎる幼馴染と少し重なって見えて──

 

「──あはっ」

 

 思わず声を出して笑ってしまった。

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