これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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21 騎士団

 

 ──っああもう、やっと来た!

 お昼前に準備を終えて、今太陽はとっくに西に傾いている。村までほぼ一本道なのに入れ違いを心配しただろ!

 

 念のため、女神像の影響範囲ギリギリにいる二人に岩の影から小さく合図を送り、僕は遠くに見える騎士団へと目を向ける。

 

 先頭に見えるのは騎士団長の『聖騎士』アレン。

 年は20中盤くらいだろうか。騎士のくせにスラっとして、高身長。薄緑色の髪に碧眼の、相変わらずとんでもない美男子だ。

 白銀の鎧を纏った堂々とした歩き方からは怪我の影響なんて微塵も感じない。

 

 そして腰にはこのゲームのキーアイテムと言える神装──『聖剣シルフィード』。

 絵になり過ぎて嫉妬する気にもなれないね。

 

 対して後ろの団員連中は……あー、チンピラ集団かも。

 みすぼらしい鎧にボロ布みたいなマントを引っかけて、だらしなく肩を揺らしながら歩いている。

 これは遅れる訳だ……こんなの団長さんはちゃんと統制取れてるのか?

 

 内心で苦笑しながらも、僕にとっては好都合──いざとなったら2人と一緒でも逃げられそうだ。

 いつもの如く、一つ頬を叩いて気合を入れて──ヨロヨロと騎士団に向かって歩き始める。

 

 間もなく向こうも僕に気付くと──

 

「──な!? き、君は──」

 

 こっちが驚くほど動揺している。それを見てやっぱり優しい人だと確信。これ以上口を開く前に突っかかる!

 

「お、お前らがアイツが言っていた騎士団だな!? この先の村には──僕が行かせない!!」

 

 目の前に現れた、体は血だらけ、ボロボロの服に、手には木の棒の僕は、どう見ても圧倒的雑魚。

 実際緊張で心臓は大暴れしていて、リアリティだけはあまりに高い。

 

 そんな僕の姿に言葉が頭に入らなかったのか、団長は凄い勢いで駆け寄ってくる。

 

「な、なんだ! 君、酷い怪我じゃないか!? いったいどうしたんだ!?」

「──ち、近寄るなあっ! お、お前らの仲間が……騎士が僕の村で……若い女はみんな襲われて、みんなが……なのに! まだ村から搾り取ろうって言うのかあっ!」

 

 アレンさんに木の棒を向けて声を震わせ、涙ぐんだ表情で気になるだろうワードを散りばめて叫ぶ。

 ……効果は抜群だ。

 その整った顔が一瞬で曇り、眼は驚きと困惑で揺らいでいる。

 

「ま、待て! なんの事だ……? 俺たちは民を守るために存在している。人違いではないのか……?」

 

 動揺が声に滲む。だけど僕の言葉は完全には信じきれていないようだ。

 くそ、見る目がないだと? 真性のクズだったあいつまで信じるお人好しかよ。

 

「──ふ、ふざけるなっ!」

 

 僕はさらに声を張り上げ、木の棒を握る手に力を込めた。

 

「アイツは笑いながら、逆らった家には火をつけて……子供たちだって逃げ惑ってた! お前らがそんな奴を野放しにしたんだ!」

「う、嘘だろ……そんな事!」

 

 彼の眉が寄り、錯乱して声を上げる。

 うっ、こんな世界に生きながら、予想よりも遥かに純粋な様子に僕が罪悪感で苦しくなる。思わず「嘘だよ?」って言ってあげたくなる……!

 

 だけどダメだ、周りの連中はニヤニヤしているし手心は加えられない、このまま予定通り一騎打ちの流れに──

 

「──アレン邪魔」

 

 持ち込もうとしたのに団長の後ろから、肩までの金の髪を持つ、騎士団には場違いの小さな女の子に水を差されてしまう。

 ──誰?

 

「あのクズが村を見つけた時点で普通分かるんだよこんな事。話が進まないから下がってて」

「な! ま、待てユズハ! アイツはそんな事出来るような奴じゃないんだ!」

 

 なんだこいつ、団長に対して偉そうに……さっきまで全く存在感が無かったユズハと呼ばれた女性。一周目でも見た事がない。

 

「アレンさあ、嫌いな上司に見せる団員の顔を、もしかしてマトモに受け取ってるわけ?」

「──は? お、俺が、嫌われてる……?」

「……可哀想な奴。入団初日に誘われたわ。正義マンに隠れて略奪やら何やらするには、全員の協力が必要だとか。キモイから断ったけど」

「──っ、な、なんだよそれは……お前らそんな訳ないよな?」

「…………いや……まあ、そんな訳……はは」

「お前ら、ボクを嘘吐きにする気?」

「いや……その……」

 

 あーあ、誰彼構わず悪い事に誘うと、いつかこうやって地雷を踏んじゃうんだよね。

 ──ってどうでもいいわ! 何これ、なんでこんなに血だらけの僕が放置されてんの!?

 

「はいそういう事、加害者が弁明とか見苦し過ぎるから。アレンは下がってて」

「う、嘘だろ……なら、本当に罪のない村が──」

 

 い、いやいや、僕が話したいのは団長だけで、貴女はお呼びじゃなくて。

 

「さて、おいガキ。お前の話は分かった。だけどそれがどうしたの?」

 

 気怠げな半眼で、僕より背の低いくせに無理矢理見下ろしてくる彼女に、僕は一瞬言葉に詰まる。

 

「──ど、どうしたって、だから! 僕らはお前らの所為で──」

「こんな時代に弱いままでいたお前らが悪い。帰れ」

「む、村にはもう何もない!!」

「知らんっての。分かんないかなー? カス共とここまで歩いて、ようやく後は寝るだけって時に面倒事持ってくる罪深さがさー」

「──っ」

 

 こ、こんなに可哀想な見た目の僕を、閉店間際に来たクレーマー扱いだと……? 本当になんなんだよこいつは。

 

「普通なら殺すところを見逃してやると言ってんの。5秒待つ──今すぐここから消えろ」

 

 ダメだ話にならない、後ろのカスの皆さん言われてますよ!? シメとくべきですよこいつ!

 

「ま、待てユズハ! やめてくれ……確かに俺は、間違えたようだが……だからこそ俺は──!」

「なに見下してるんだ……」

「──な、なんだ?」

「お前らの仲間は僕が殺した!! もう僕は──弱者なんかじゃない!」

 

 もうこんな女はスルーだ、僕は団長が一騎打ちを受けてくれさえすればいいんだから──

 

「──ぷっ」

 

 そう思って叫ぶのに──

 

「ギャハハハハッ! 何? アイツ殺されたの!? この村の少年Aに!?」

「いや、よく見ろ! あのカスちゃんと……この村民を満身創痍までは追い込んではいるぞ……?」

 

 今度は後ろのチンピラに邪魔されて上手くいかない……! ああもう、身内ノリ爆笑は笑えないんだって!

 

 一人白けてる女も面倒な事を言いやがってとばかりに僕にメンチ切ってくる。なんだよこの迫力は……

 

「──こ、殺したのか……? いや、君の言う事が本当だとしたら仕方ない、が…………ユズハ。悪いが先に村へ行って確認してきてくれないか」

 

 そんな中、アレンさんだけはまだ僕を助けようと必死になって考えてくれている。

 ……そうだよ。それがいい。ちょっとユズハ、邪魔だから君は村へ行ってきなよ。

 

「…………やっぱりこういう展開に。もう寝たいっつってんじゃん。行くわけなーい」

 

 そんな願い虚しく彼女は少しも考えもしない。だけどアレンさんは引き下がらない。

 

「──頼む。俺たちは夜目が利かないんだ……彼の言う事が本当なら、村の人々には少しでも助けが必要なんだ」

「うっざい。そんなに心配ならダサい事言ってないでお前が──あー…………」

 

 ……? なんだ、まるでやる気を感じなかったのに、今は手を顎に置いて何かを考えている。

 いや──ピンと来た。この話の流れで考える事なんて『どっちが面倒か』くらいだ。そんな損得計算しかないだろ! 僕だったら絶対そうだ! 

 

 もう寝たいなら、適当に頷いてどっかで寝ててもバレない状況だと気付いたんだ。団員とも仲悪そうだし一人になっても不都合はない。だったら僕は別方向から──

 

「──ふ、ふざけるな取り消せ! 分かっているのか! そんな頼みをしたらお前は、この女に借りを作ることになるんだぞ!」

 

 滅茶苦茶強引にでも、村に行くメリットを足していく。不自然な発言だろうが関係ない、リスクなんかない。

 

「か、借りって、今はそんな場合じゃないだろう……」

「……ふーん」

 

 だってこの場の誰目線でも僕は、警戒も、罠、誘導の可能性も、全く考慮に入れなくて済むアリンコなんだから。

 

「でもさ。それは当然だよね。こんなのアレンの我儘でしかないんだし?」

 

 そうだよ、幼稚園児の癇癪をいちいち誘導だと深読みする大人なんていないんだ。

 

「借りでも貸しでもなんでもいい! そんなの人の命と並べていいものじゃないだろ!」

「……あっそ。分かってんならいいよ。貸し一つね」

「!? ああ、ありがとう! どうか、一人でも多く助けてやってくれ……」

 

 話が済むと、女は団員の元へと向かって単独行動の準備を始めてくれる。

 ふぅ……なんとか、ここからは消えてくれそうだ。

 

「聞いた? 2日分の食料と水。そんくらい言われる前に出せよトッロいなー」

「……ふ、2日分、な、なんでそんな必要なんだよ」

 

 それにしてもここは嫌な職場だな……あ、あんな軽い口答えに団員の首まで締めて──

 

「は? 走っていくんだから多めに持っていくのは当然でしょ」

 

 ……そうかな。うわ、そのまま放り投げている。最低だ。

 

 本当に村に向かわれると僕の嘘はバレちゃうけど別にいいよね。この様子なら、嘘で良かったとばかりに歓待でも受けてくるぞ。

 

 村もシノさんがいなくなった分1人くらい食い扶持が増えても大丈夫だろう。

 女は荷物を強引に受け取ると、僕には一瞥もせずに走っていく。

 

「彼女を通してくれた事。礼を言う」

「……女一人くらい村の人間でどうにでもなる。でもお前らは──絶対に通さない!!」

 

 とにかくこれで面倒な奴がいなくなったんだ。

 改めて──

 

「騎士団長アレン! 一騎打ちで勝負しろ! 僕が勝ったら──大人しく全員このまま帰れ!」

「なあ、一度落ち着いてくれないか? 君の言う事が本当なら、今すぐに助けなくちゃいけない──」

「騎士が、こんな弱者相手に逃げるのか?」

 

 僕の言葉にアレンさんは「……ふぅ」と小さく息を吐き、「俺は受けようかと思うが構わないか?」と、後ろの団員に声を掛ける。

 

「どうでもいいっす」

「……あああああっクソクソクソがああ! あの女いつまでも偉そうにしやがってよおおーー! いつか絶対に犯し殺してやる!」

 

 団長も滅茶苦茶舐められてる……大丈夫かこの団。

 ──ともあれ、やっと予定通りの流れに乗れたな。はぁ、モブまで人間的過ぎて焦ったよ……

 

 木の棒を握り直し、足を開いて構える。

 心の準備は既に終わってる。一対一こそ僕の得意分野、ここからの方が僕にとってはよっぽど気楽だよ。

 

「覚悟しろ──みんなの無念は僕が晴らすんだ!!」

 

 待ちに待った──ボスチクの時間だ!

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