これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない! 作:peko34
大層な決意をしてからもうどれくらい経っただろう。最初の緊張はどこへやら、レベル上げは既に作業と化している。
「アレンてめぇ! いつまで待たせんだ、いい加減とっとと剣抜けやぁっ!!」
「バカみてえに胸ばっか狙いやがって、んなケガ嘘に決まってんだろ頭イカれてんのかあ!?」
最初は団長呼びしていた団員も、途中から呼び捨てになり暴言まで飛んでいる。
それも当然だ。見るからに知能の低い皆さんでも気付くのに、アレンさんは未だに手加減を崩さないし、仕掛けには全て引っかかっているからだ。
散々笑い者にした、たかが村人が自分達の団長を好き勝手している状況に耐えられないのだろう。
「……すまんな、どうやら本当に嫌われていたらしい。気にしないでくれるとありがたい」
目標まであとたった1レベル、だけど達成までは限りなく遠い。
僕から緊張感が減った事、そして向こうが敵対の意思を完全に無くしている事で、もはや経験値を稼ぐ事が出来なくなっているからだ。
なんなんだ、一撃でも受ければ僕は終わりなのに、まるで負ける気がしない……!
「……あのさ、彼らが言ってる通り怪我なんて嘘だよ? 普通分かるよね?」
くそ、不自然な事を言う事になったけど、この違和感はさすがに放置出来ない。
「そうなのか? 凄いな、すっかり騙されたよ」
「……聖騎士様も嘘とか吐くんだ」
この態度……ここは、ちゃんとバレてる。
でも欲を言えば少しはイラッとして欲しかったくらいで、なのに敵対の意思まで無くなるのはどういう事なんだよ!
「ははっ、そんな怖い顔するなよ。確かに悪ふざけが過ぎたな、すまん」
「……人が本気で立ち向かっているというのに、騎士とやらはそんな態度で返すのか!!」
なんだ、なんだよこの展開は……
一応倫理方面から攻めてみるけど涼しい顔は崩れない。
「俺だって本気さ。本気で、君の動きを見ていたんだ」
「……は?」
「ふふ、分からないか。あのな、君の動きは全てが異常なんだ、余りに洗練され過ぎているんだよ」
それは、ああ……はあ!? そ、そんなの戦いながら気付けるもんじゃ…………いや、そうかくそ!
どんな攻撃が来ようとも、一切警戒する必要がない防御力を持つこの男ならではの観察法……
僕はこの特技で現代の色んな専門家から動きを丸パクリしてるから、この時代の人間には珍しいのは分かる。
「踏み込みの速度、体の動かし方だけじゃない、君の攻撃は体の芯に届いて……なんでだ? 大して威力があるようには見えないのに」
でも地面を固く出来ず、筋肉の連動も、伝達効率も考えにない時代の人間が、いくら見たって真似出来る訳ないのに!
「村人がここまで強く……なあ、一体誰に教えを受けたんだ?」
なのにそんな嬉しそうに……今はお前にとってそんな場合じゃない筈だろ!
「僕の村は今、滅びかけているんだぞ……? 早く駆けつけたいって言っていたあの言葉は! 嘘だったのか!?」
「──ああ、それも君の嘘だよな?」
「っ!?」
目の前の男は苦笑したような顔で、確信を持った声で断定する。
…………なんで、そこはあのユズハってやつすら疑えていなかったのに、この心底お人好しが疑えるはずなくて。
あの騎士は確かにクズで、僕が強引に倒していなかったら実際にそうなっていて──
「君の村にあいつを送り込んでしまったのは、申し訳ないと思ってる。だけど村には君がいて、あいつが好き放題出来るわけないんだ」
「……待って、なんで、なんでだよ!? あの男のレベルは遥かに上で、僕なんかが勝てる訳──」
「あいつが俺にまともに攻撃を当てた事なんか一度だってないんだ。なのに君は──ふふふ、無理なんだよ、訓練もまともにしなかったあいつでは」
あ、あ、あのくそがぁぁ! この命の軽い時代に、訓練くらいしっかりやっとけよ!!
これは……撤退か? 撤退して、どこかでレベルを上げてからまた接触する……だめだ、不確定要素が多過ぎる!
「でも不思議なんだよな。君はこれだけの技術をもっていながら、どうしてそんなに小賢しいんだ?」
「…………」
「砂掛け大声虚言、子供しかしない事でも平気でしながら──」
「……は? なに、お説教?」
そんなの極振りなんだから当然だ。僕の強さを嫌な方向にだけ勘違いしないでよ。
「なぜ今そこから! って箇所から血が噴き出て、君が立っていた場所を踏み込んでも罠に掛かる──ふ、ふふ」
「…………」
「あっはっはっは! 何回頭を真っ白にされたと思うんだ! 未だにタネが分からない、こんなの初めてだよ!」
…………あー無理だ。思えば僕は、命のやり取りに慣れてる人と戦った経験はなかった。
戦いという、アレンさんにとっては聖域と言っていい場所で騙し合いなんて無謀だったんだ。今の方法でこの人相手に稼げる気がしない。
「そうだ。なあ! うちの団に来ないか? 君なら間違いなく俺より強くなる。君の目的は察するに──レベルを上げる事だろ?」
「…………」
そして結局『王国ルート』への分岐が始まる、と……
どうする? 逃げるくらいならこの誘いを飲むのもありか? 道中周りの騎士を不意打ちでもして──
「おい……あのクソ女だけでもストレスで死にそうだってのに、そんな生意気なガキまで入れる気か……?」
「──ふ、ふざけてんじゃねぇぞ! そいつはウチを舐め腐ったんだ、今すぐ殺せ!」
無理だ。大嫌いな団長がここまで褒めた人間に、警戒を解くやつなんかいるわけない。
少し……地雷を踏む覚悟で、アレンさんの妹の事を匂わせるのは、有りか? なんか僕、気に入られてるようだし、今なら話を聞いてくれるんじゃ──
「……すごい敵対心だろ? この環境ならレベルなんて上げ放題だ」
「だからよォ! ユズハに加えてんなガキまで入れて、こっちゃ面倒見きれねェッてんだよ!」
「……はあ。陰で悪事を行なっていたお前らに世話を任せるわけないだろ。悪いが今は秩序の再構築が最優先だ」
そのあまりの正論に団員は悔しそうに歯軋りしている。自業自得で、浅はか。
「──て、テメェ、こ、この俺に……」
「なあ、お前は何度言えば分かる。家の権力なんてここでは──」
だと言うのに、こんなの反論しようもないのに。一人、やけに豪華な鎧を着込んだ男だけは意を決したように──
「──い、いい加減にしろッ! こんな茶番、さっさと終わらせねえと、大事な大事なテメェの妹を攫い犯すぞ!!」
力一杯叫んでいた。
「……おお」
僕が軽く踏もうかと考えていた地雷に、全身で飛び込んだ騎士の発言に、思わず間抜けな声が出る。
なにこれ、というか大事な妹の事がチンピラにバレてるって何考えてるの?
アレンさんは──表情を失っている。
「──あ? なんだよ妹って」
「…………へっ、コイツいつもいつも綺麗事がキモ過ぎてよ。家に弱みを調べてもらってたんだ。そしたらなんと! 病気で動けない、可愛い妹がいるって言うじゃねぇか!」
待て待てお前らこっちを見ろ。団長の歪みがとんでもない事になってるぞ……自殺志願者か?
「マジ? ひゅー! ホントかよ、流石は大貴族の息子! だったら俺たちコイツの言う事なんて──」
「────おい」
下衆な奴らが騒ぐ中、突然響く重たい声に僕の体は動けなくなる。
──空気が凍る、寒気が止まらない。
その感じたことのない威圧感に、僕には死ぬほど手加減していた事が嫌でも分かってしまう。
「もう一度──言ってみろ」
初めて聞いた、恐ろしく冷たい声。この人は僕にとって都合がいいメタルキングなんかじゃなかった。
そこには彼の纏っていた余裕が、欠片も見当たらなかった。