これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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24 Future Tech

 

「な、なんだよ、団長、一騎打ち中だろ……?」

「関係無いな」

 

 そう断じて聖剣を抜くと、アレンさんは迂闊な発言をした男に向けて近付くと、ゆっくりと刃先を向ける。

 弱味を見つけたまではお見事だけど、出すのはもう少し後だったね。温厚なアレンさんがその場で殺しに来るのは予想外だったのかな。それともユズハによるストレスか。

 

「俺の妹を、なんだって?」

「──っ!? ま、待てよ、オレは、不甲斐ないお前に頑張ってもらいたかっただけだって……!」

「そうか、それはすまなかった。

 向こうで存分に俺を恨んでくれて構わないからな」

 

 そう言ってアレンさんは部下に向けた聖剣を振り上げる。

 というか、さっき大貴族の息子って言われてたけどいいのかな。鎧には確かに王国の大貴族である『グロスキー家』の紋章が彫られている。

 

「や、やめ──やめてくれええ、ただの冗談だろお!!」

 

 まあその辺の設定はよく知らないし別にいいか。

 ──南無。僕は彼の死に何か意味がありますようにと願って待つけれど……まだ?

 

「……はぁ、はあっ……っ! な、なんだ……?」

「……っ!! あ、あれ、生き……てる?」

 

 勢いよく振り下ろされた聖剣は、何故か迂闊男の顔の目の前で止まっている。

 ……何? なんで? 

 

「くっ!」

「……は、な、なんで!? 見逃してくれたんじゃ――ッ!!」

 

 アレンさんは一つ息を入れるともう一度剣を高く上げ、今度こそ渾身の力で振り下ろす。なのに先程と同じく目の前で剣はピタリと止まってしまう。まるで誰かに手首を掴まれているかのように。

 なんだかよく、分からないけど……

 

「……僕代わろうか?」

 

 実際偉い人に歯向かうのって怖いよね。躊躇っちゃうのは分かる。コツは救われる側の人を思い浮かべる事だよ。

 

 貴族の息子は腰が抜けて立てなくなってるようだし、敵意剥き出しで僕の目的にも丁度いい。むしろ代わりたい。

 そう思って近くに向かおうとすると──

 

「……なんだ、『この行為は禁止されています』とは……どういう事だ!? 一体、なんなんだよこの声は!?」

 

 アレンさんの異常な様子に足が止まる。

 声って……な、何? 魔法……いやそれなら魔法耐性持ちのアレンさんが気付かない訳がない。

 

「……仲間は殺しちゃいけないって事、か? だが! 罰が無くては組織として機能出来ないだろう!」

 

 誰か、見えない人に言い訳しているようにも見える。

 言ってる事は分かる。罰無しでこんなならずもの集団を統率なんて出来ないと思う。

 

「……あ」

 

 まさか、これって……

 自分と喧嘩している男、なんてあまりに不可解な光景を見てようやく気付いた。

 

「があああああっ!!」

「──や、やめ、ひぃぃぃい!!」

 

 アレンさんはがむしゃらに剣を振り回すが、剣先が男に届く様子がない。

 こんな現象、いくらこの世界でも不自然過ぎる。

 

 間違いない……これ『未来技術』だ。

 僕が一目見て、胸糞が悪いと回収しようとしたスキル、未来技術の三番目。

 このゲームに使われている人の心を持ったAI技術とそのサンプル。技術には色々あったけど、特に酷いのがこの『AIに命令を書き込む技術』

 

 これを見た時、主要キャラには使ってそうだと思ってはいたんだ。NPCに人間的なAIを埋め込んだら、このゲームのストーリーがどう崩壊するかなんて想像つかないから。

 

「一体これは、なんなんだ……! 俺の行動を! 誰が何の為に禁止を掛けているっ!?」

「あ、ああ……あは、あはは、な、なんだよ訳わかんねーよお前──って、そうだ待て! い、言い忘れてたがオレを殺せば、家族がテメェの妹を襲う手筈になってんだ、舐めた真似してんじゃねえ!」

「──っ!」

 

 おい言い忘れるかあっ! こんなの明らかな嘘っ……とは言い切れないのか……何が禁止で、なんで禁止されてるのかも分からない今は断定出来る事じゃない。

 ──くっそ! 気にせず僕が先に殺しに向かえば良かった……!

 

「それに、お、オレは理不尽な事を言ってる訳じゃねェよな? 国の騎士たるオレらを侮辱した、そのガキを殺せって言ってるだけで」

「──バカな! お前はこの才能を見て何とも思わないのか! 彼の力は人類に絶対必要で──」

 

 そもそも侮辱なんて大してしていないのに……ちくしょう、ユズハってやつのパワハラのせいで立場に敏感になってしまってる……! 

 だからって、このまま好き勝手させるか!

 

「──アレンさん! 禁止なのは人殺し行為かもしれません! 最初は両手足、いや指辺りから試してみましょう!」

 

 何が禁止か、それは団長が正義の人だから人を殺せない設定にしている──とか仮定して提案してみる。

 正義という属性を付けておけば、少なくともこの一騎打ちイベントの発生は確定出来るから。

 

「な、ななな、なんて事言いやがんだこのガキがぁ! 今すぐオレらでぶっ殺してやろうかあっ!?」

「──こ、この大人数で僕を……? お前らに正義の心はないのかっ!」

「……」

 

 だから正義は僕にあるという立場は念の為、強引にでも取っておく。

 

「ぐっ! んな事、さっきから卑怯な手段ばっかの──」

卑怯者! 圧倒的レベル弱者のこの僕に、正々堂々を強要だなんて──恥を知れ!!」

「!? ぐ、て、てめ……ゴラア!」

「…………」

 

 卑怯云々は先に言ったもん勝ち、大声で上書きさせてもらう。人間、見方を変えれば卑怯な事なんて大概してるから。

 

「──おいアレン! 可愛い妹の為だろ? 言っておくが、オレの家はこえーぞぉ?」

「俺は……俺はあああああっ!!

「わっ! び、ビックリした、急になに!」

 

 アレンさんの突然の大声に周りは言葉を失っている。呼吸は荒く、体は震えて目の焦点も合っていない。

 え、なんで……? なんか行動を制限されてるだけなんじゃないの……?

 

「俺は……既にあの男を、平和な村に送るという愚行を犯している……」

 

 ま、まあそうね。それは反省した方がいいと思うけど、村への実害でいうとシノさんの方が酷い事したからさ。

 

「無事だったのは結果論で……俺の思い描いた正義なんてもう、何一つ残っていないじゃないか……」

 

 ……? 今から正義を行うのは遅いの……? なに、何を言ってるのか全然分からない。

 男は一人、懺悔のように呟きながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。言葉の内容に反して、その足取りに迷いが……無い?

 

「いや……何? どういう事?」

「嘘だとは思うよ。さっきの話は余りにも……ご都合的だ。そんな訳ないってね」

 

 う、嘘? ああさっきの脅し……え? ちょっと待って、あんなのに屈するの!?

 

「待って待って! ここから王都までどれだけの距離があると思って──」

「正しい自分でいたかった。妹に、誇れる自分でいたかった。でも……結局そんなものは妹とは天秤に掛けられるものじゃなかったな」

 

 いや聞いて! 殺すのが無理なら報告される前に口封じするとかあるじゃん!

 

「こ、こいつらは監禁しよう! そうすれば──」

「だから、なんの罪もない君には悪いとは思うけど……妹に及ぶ危険は、何をしてでも排除する。それが今の俺に残された、唯一の正義だから」 

 

 ……は、ははっ、なんで? 突然の自分の世界……人間こんな急におかしくなる事ある……? 絶対不自然だよ。

 それにこの正義の形は……現代で見る開き直りも含んでて、何言っても通じないやつ……

 

 こうなったら妹を助ける手段が僕にはあると明かすか?

 この状況じゃ嘘臭過ぎるけど、調合スキル獲得までたった1レベル。

 1人だけでも殴る蹴るしてもいい団員を融通してくれれば──

 

 あまりに意味不明の展開に撤退の判断が出来ないままでいると、突然僕の耳に空気が裂けるような音が響く。

 

「──ぶふっ!」

 

 同時に僕の周囲にとんでもない強風が起きて吹き飛ばされて、硬い地面の上で何度も跳ね、激痛に息が止まる。

 なんだ!? 何が──っ

 

「だからもう、君には何もさせるつもりはないんだ」

 

 少し離れた先に、剣を振り上げた格好の男が見える。

 風を操る聖剣『シルフィード』

 聖騎士であるアレンさんだけが扱うことの出来る専用装備。専用だけあってその威力は──

 

 小柄とは言え男の僕を、剣を振るうだけで吹き飛ばしたって? 周囲の地面から砂と草花が舞い上がって、目を開けているのも辛い。

 でたらめ過ぎる……防御力に振ってない僕にあんなの防ぐ手段なんてない。

 

「ごめんな。君はここで、死んでくれ」

「……っ! あっ、ぐぐぅっ!」

 

 アレンさんが振り上げていた剣を降ろす。

 僕が後退りして、その上吹き飛ばされて10メートルは離れているのに、頭上から物凄い風圧が襲ってくる。

 堪らず地面に押し付けられて、体をピクリとも動かすことが出来ない。

 

「が……がぁぁ……ぐっ」

 

 唸るような声が出る。

 こんなのまるで──僕の上に力士でも乗っているんじゃないかと錯覚するほどだ。

 

 遠くから騎士達のどよめく声が響く。離れた敵を風で押しつぶすとんでもない光景で、当然だ。

 だけど……なんだよ、なんなんだよこれは!? 

 なんて、地味な攻撃なんだ……こんなんで人が死ねるか!

 

 SPは滅茶苦茶余ってる。その気になればいつだって抜け出せるけどその前に、どういうつもりなんだと顔を上げ、アレンさんを睨みつける。

 すると彼の剣を持った指が、さり気なく下を指しているのに気付いた。

 意図が分からず注意深く見ると、口も小さく動いて──

 

 ……あー、なるほど。『そのまま寝とけ』……ね。

 やけに大袈裟に苦しんでたと思ったら、闇落ちした振りね。言われてみると強敵演出なかったや……

 

 はあ……それで僕はこのまま死んだフリでもしとけば、ここは収めてくれるって事か、ありがたいね。

 

 

 

 本当……ありがた迷惑だ。僕、尊敬した人に見下されたまま終わる展開──大っ嫌い!

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