これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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連続投稿2話目です。


25 神の裁き

 

「これで気は済んだか?」

 

 遠くでアレンさんの、自嘲したような声が聞こえる。

 

「……この距離から……風だけで、押し潰したってのか?」

「全身の骨を砕いた。持って数分だろうな」

 

 感情を押し殺したように淡々と、僕の死を周りに告げる声。

 

「す、すげぇ……こんな事も出来んのかよ……あ、いやだけどよ、本当に死んだのか? ちょっと俺確かめて──」

「グロスキー、お前何か勘違いしていないか?」

「あ? なんだよお前。ビビって俺に手出し出来ねえクセに、家に報告するぞ」

 

「今回はお前にも一理あると思ったから殺した。俺たち騎士が舐められるのは国力の低下にも繋がるからな」

「そうだよその通りだよ。お前はそういう事が分かってねぇからこの俺が──っ!」

 

 っ! 突然響く「ガンッ」という大きな音に、思わず身体が反応しそうになる。

 お願い、話の流れを読んでくれグロスキー君……!

 

「け、剣が……俺の剣がああぁ! て、テメェアレン──!」

「団長という立場も同じ、舐められたら終わりなんだ。分かるか? 確かに俺はお前を殺せなかった」

 

 今度は「ゴッ」という重たい打撃音。

 ……見る事が出来ないから余計に怖い。

 

「っ! あ、ぁぁ、俺の鎧……」

「だがお前の物はなんだって壊せるし、今見せた通りお前以外なら殺せるんだ」

「だ、だからなんだよ! 別に、俺以外の奴なんかどうなったって──」

「もし妹に指一本触れようものなら、お前と接触した奴は誰だろうが殺して、お前の手に入れた物は全て壊してやると言っているんだ!!」

「──は? な、なんだよその脅し……あっ」

 

 実際されたら殺されたも同然だね。ビクッとするからもう少しだけ察し良くお願い……!

 

「お前らもそうだ。俺の弱みを見つけた気でいたか? その弱さで、俺の上に立つ気だったのか?

 馬鹿が! 誰か1人でも妹に手を出した時点で、お前らもその家族も皆殺しにしてやるからな!!」

 

 場が重い空気で満たされる。倒れている僕でも感じる強烈な殺意に誰も言葉を発する事が出来ない。

 

「──行くぞ」

「は、はい!」

 

 その短い一言で、ガチャガチャと大きな音を立てながら、彼らは出発の準備をはじめる。

 あの温厚過ぎるアレンさんにここまで言わせたんだ、みんな相当に焦ってるのだろう。

 

 凄い……本当に僕を殺さずに収めきった。不自然なところは沢山あったのに、誰も突っ込めない。

 

 この場はアレンさんの実力によって完璧に統率された。僕の生存は確定したし、騎士団のこの様子なら村でもそんなに無茶な事はしないかもしれない。

 

 だけど……ふふっ、想像したらドキドキが止まらないや。

 

 この完璧な状況で──僕が何事もなく起き上がったら、流石のアレンさんでも怒ってくれるかな、なんて。

 

 目を開けると景色が歪んでいた。

 痛みのせいじゃない、光に隠れていたシノさんとちーちゃんが、僕の無事を確かめようとしているんだ。

 

 さっきから、僕がやられそうになる度これだもん、いつバレるかと気が気でなかったよ。

 

 だけど……本当にありがとう。

 このタイミングで指示を仰ぎに来てくれるシノさんが、よく自信を失くせるもんだよね。

 

 少し離れるように、そして数秒欲しいと伝える。合図は出すって。

 

 戦いが苦手と言ってたのに巻き込んで、ごめん。

 だけどもう勝ち筋は見つけたんだ。

 

 なのにこんな……二人は村に戻れなくなって、僕は見下されたまま何も得られない。

 そして仲間予定のアレンさんにはバッドエンドが見えている。

 

 あんなにプライドの高い権力持ちと敵対しておきながら傷付けることが出来ない。更に病気で動けない妹を守り続ける。

 敵対は僕に責任あるから強く言えないけど、無理だよ。とれる手段が違い過ぎる。

 

 今が収まっただけで誰も得していない──こんなビターエンドじゃ終われないんだよ!!

 

 

 決意を固めて、さり気なく騎士団の様子を伺うと、チラチラとこちらを見ていたアレンさんと目が合った。

 

 見過ぎだよ、罪悪感でいっぱいかい。

 僕がそのまま身体をピクピクと動かすと、アレンさんは焦ったように口パクと指で、「ね・て・ろ」と伝えてくる。

 伝わらない、ネテロって誰? 来い、来いよ──伝えたいなら、もっと近くに来い!

 

「……だ、団長、どうしたんですか?」

「っ、何でもない、準備を続けていろ。俺は──やはりアイツにトドメを刺してくる」

「──へ?」

「万一生きていたら、復讐にでも来られそうだからな」

 

 なんて言いながら、思惑通り1人で近付いてくる。ピクピクを止めない僕に直接警告でもしてくれるのかな?

 ありがとうアレンさん。その優しさも、暴力でまとめた結束も──僕が全て台無しにしてあげるからね!!

 

 痛む体に鞭を入れ、気合いで立ち上がる。

 さあ、全力でイラつくんだよ!

 

「な──ばっ!」

「ぁあ? ってあ、アイツ……!」

「生きて、生きてやがんじゃねーか!! どうなってんだよさっきの大層なセリフはよおお!」

 

 僕の無事に団員が大騒ぎを始める。

 それはそうだ。あれだけ偉そうな事を言いながら自分はやるべき事をしなかったなんて、どう考えても筋が通らない。

 

「ホント、滅茶苦茶言ってたよね。ちなみに僕が受けた圧力は成人男性二人分くらいの優しいものだったよ」

 

 身体は滅茶苦茶痛い。

 だけどそんな素振りを見せない。流石にここまで気遣いを仇で返されてイラつかない人は、人に無関心なだけだと思う。

 あはっ、だって見てよ、あのお優しいアレンさんでさえ──

 

「……君は一体、何がしたいんだ? 俺の行動の意図が分からなかった訳じゃないよな……?」

 

 言葉も態度も穏やかで平静を装ってるけど、漏れてるんだから。

 ここにきてようやくゲームの『強敵演出』──ドス黒いオーラがさあ!!

 

「それより後ろの彼らも結構怒ってるみたいだけど、僕ばっかり見てていいの?」

 

 ──なんて、浅はかな事を言ってみる。

 この敵対状況ならあと一撃、なんとしてでもダメージを与えれば、僕は間違いなくレベルアップする。

 

「……残念だよ」

 

 心底残念そうに呟いて、聖剣を低く構える。いつでも僕を、そして周りの騎士が敵対しようがまとめて吹き飛ばせる態勢だ。その剣、絶対反則だから。

 

 良かったよ、最後までアレンさんは優しくいてくれて。これまでにそれ使われてたら近寄れもしなかったのに。こんなとこまでわざわざ来てくれてさァ!!

 

 この距離なら──三秒だ! シノさん、ちーちゃん!

 景色の歪みに向けて三本指を立てたその瞬間、目の前が真っ白に光って──

 

『貴様らっ! 我が領域で何をしているッ!!』

「──!?」

 

 突然響く大声に、全員の視線がそこに向かう。

 

 暗くなり始めた夕闇の中──二人が目が眩むほどの光で輝きながら、堂々と立っていた。

 

「……は。な、なん──え?」

 

 着ている服は貧相で、なのにその輝きはまるで天の使い。間違いなく清い存在と思わせる説得力と、誰の目でさえも惹きつける神々しさがあった。

 

 ……絶句する。シノさんってただの村人だったはずなのに、なんであんな発想が出る?

 

 光の精霊を、あんなたちの悪い宗教家みたいに使う発想……ふ、ふふ、笑っちゃうからやめてよ。この人本当に最高過ぎる。

 

「──い、いや、申し訳ない! 我らはこの辺りに来たのは初めてなもので……あの、貴女方は一体──」

 

 全員が二人に釘付けになっている事を確認して、僕はすぐさま行動に移す。当初の予定は破棄だ。

 

 三秒どころじゃない、ここまで完全な空白を作ってくれたんだ──ただの一撃で終わらせていいわけない!

 

「せ、精霊……? 精霊じゃねぇかあれ! ど、どこから現れた!?」

「──ば、馬鹿! あんなのに迂闊に近寄るんじゃねぇ!!」

「…………いや、ちょっと待て……ヤバそうに見えたが、よく見りゃチビと、ただの女じゃねぇか……? あれくれえなら捕まえられんじゃねぇか!?」

 

 外野が二人を見て急激に盛り上がりはじめる。

 初めて見る精霊の神々しさに、まだ警戒は残しているが流石ならずものの集団。今にも行動を起こしそうだ。

 

「……いや……その服は、少年と同じ──しまっ!?」

 

 今更ながら僕と同じ村の人間だと気付いたアレンさんだけは、振り返り視線を戻す。

 当然そこに僕の姿はない。

 せっかく二人が特大の危険を冒して視線を逸らしてくれたのに、いつまでも同じ場所にいる訳ない!

 

 僕は最高速度になるまで大回りして、全速でアレンさんに向かっている。

 走るたびに全身の骨がミシミシ言う──それでも足は止まれない。

 

 彼の位置から少し首でも回したらすぐにでも僕を見つけられるだろうけど。

 当然、そんな事をさせるつもりはない。

 

 僕が元いた場所にはインベントリに入れておいた、『騎士の死体』を椅子に座らせて置いてある。

 

「──な、なんだ? お前は死んだ筈じゃ……何がどうなって──うっ!」

 

 ゴール。こんなにあっさりと。

 全く……ここに来てから僕は、1人じゃ何にも出来ない!

 

 アレンさんに辿り着くと、走った勢いそのままに背後から鎧の背に片足を掛け、蹴り上がって頭上を取る。

 手のひらは騎士の頭に向けたまま、高く手を上げる。

 

 武器になりそうな物はこんな物しかなかったけど……今回は奇跡的にこれを使ってもおかしくない状況だから問題ない!

 

「懺悔しろ──」

 

 そう、これは聖なる騎士を名乗りながら、闇に堕ちようとした罪深い貴方へ贈る──

 

「神罰だっ!!」

 

 騎士に向けた手のひらから、この世界の信仰の象徴──『女神像』を取り出して、渾身の力で頭に叩き込んだ。

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