これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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26 獄炎

 

「あんた今……とんでもない物で殴ってなかった……?」

『――!! ――!』

 

 団長が吹き飛ばされて皆が呆然としている隙に二人と合流すると、シノさんは呆れた声で出迎えてくれる。

 ちーちゃんは女神像を武器にした僕にプンスカだ。ごめんって。

 

「……それと、結局巻き込んじゃったのも、ごめん。本当に助かりました」

 

 あれだけの行動、どれだけの勇気が必要になるんだろう。なのに彼女は僕の言葉に少し困った顔になる。

 

「っ、いや、そうじゃないだろ! あんだけの隙でいいなら、もっと早く合図でもなんでも出せたでしょうが!」

「あー、中々敵対状態になれなくて……二人には感謝が止まりません」

「……どんだけ言うのよ。ただ光って叫んだだけで、そこまで言われると居心地悪いんだけど」

 

 今更になって足が震えてる癖に……気丈な態度を崩さないこの人はなんなんだろうな。

 いきなり目の前に莫大な金貨相当が出現したんだから、それはもう物凄い囮効果だったのに。

 

 そんな讃えたい事は山ほどあるけど今はこっちが先かな。

 

 少しごめんと後ろを向いてメニュー画面を開き、目的のスキルを探す。

 それを見てシノさんはため息をついて僕の前に立って壁になってくれた。ホントこの人ってさあ……

 

 おかげで安心して操作出来る。まさかこのスキルを取れるとは思ってなくて、見つけるまで少し時間掛かりそうだったから。

 

「それで──後は任せていいの?」

「いいよ」

「こっち来る時倒れてる団長さんと目があったから、今のもそこまで効いてないと思うけど」

「問題ないって。ちーちゃんも本当にありがとうね。出来るなら今すぐお礼したいんだけど……今は下がっててもらっていい?」

『……。~~、――!』

 

 怒っていたのに、ため息一つで親指を立て、了承してくれるちーちゃんのカッコ良さに涙が出そうになる。

 

 そう、何も問題ない。

 もう調合スキルで取り引き──なんて不確かな事にも頼らない。二人を巻き込んだんだ、確実に決めてやる。

 

「そうだよ。私と違ってちーちゃんのは100%善意だからね? この子にだけはもっと感謝を──」

 

 シノさんの言葉が途中で止まる。もう起きちゃったか。

 丁度目的のスキルを取り終えたとこで良かった。予想外にダメージを稼げた分、大量に貰えたSPも全て使って。

 

 二人の前に立つ。脳震盪でも起こしてくれてるなら楽でいいんだけど。

 

「なあ、確認するのも怖いんだが……俺は今、一体なにで殴られたんだ……?」

 

 アレンさんが何事もなかったようにゆっくりと、起き上がって話に割り込んでくる。

 あんな一撃を受けて第一声それって……この国で一番固い人相手にそう上手くいかないか。

 ……本当にやばい事しちゃった訳じゃないよね?

 

「はぁ。答えないならいいけど、教会の人間に見つかったらその場で処刑だからな? これから気を付けてくれよ」

 

 というか……また急にフレンドリーに話してくるけどなんなの? それに──

 

「これから?」

 

 んー、いや分かった。そのホッとした顔、僕たちを保護しようとしてるのね。

 甘い甘い。だけどそんな激甘なアレンさんが本当好き。

 

 もうさ、ここに来てから出会う人達みんな素敵過ぎるんだよ。弱くてビビっても誰にでも立ち向かうシノさんに、全てが完璧なちーちゃん。妹思いのお兄ちゃん。

 

 最後に現代人の僕でもこれから殺すのに一切躊躇いを感じさせない、騎士団員のクズの皆さん。

 

 今回盛大にガバガバだった僕の作戦を、色んな人がフォローしてくれて……もう……テンションがどうにかなりそうなんだよ僕はっ!!

 

「そう、君たちは国で保護する事になる。全く……只者じゃないとは思っていたが──アイテムボックス持ちとは、恐れ入ったよ」

「あ、アイテムボックス……?」

「それに、精霊術師。悪いが、ここまでの貴重なスキル持ちを見逃す訳にはいかないんだ」

「全然分からない……僕を殺さないと後ろの人達納得しないんじゃないの?」

 

 そんな言葉にアレンさんは少し笑って、後ろを親指で指し示す。

 

「あの女……精霊術師、じゃああのチビは精霊、か?」

「野良の……アイテムボックス持ち……よ、容量は……容量はどうなんだ!」

 

 ……全会一致で保護に決まりそうだね。

 でもさ、それならこんなに時間を与えちゃ駄目だよ。

 

「悪いけど、僕らは逃げさせてもらうから」

 

 この世界には『プレイヤー』っていう、戦闘中でも都合の良いスキルを選んで獲得出来るバグみたいなのがいるんだからさあ!

 

「……女性と子供を連れて、か?」

 

 準備を終えた僕に丁度よく追い詰めるようなセリフが来たので、相談するようにシノさんに小声で話しかける。

 

(シノさん、あいつら一直線に並べたいから、僕の合図でちーちゃん連れて後ろに逃げてもらっていい?)

(……そのどうなるか、まるで想像つかない頼みはなんなのよ……了解)

 

 よし、これで仕込みは終わり。

 そういえば今も配信見てるやつっているのかな。いるよね、あんな退屈なシーンにまでいたんだから。

 

 人の生活を好き勝手見てくれて……心底うざいと思ってたけどこの際だ。

 もういっそ大注目を浴びて、幼馴染達にまでこの僕の姿を届けてやる!

 

「安心して欲しい、国は君たちに危害を加えるつもりは──っ!?」

「逃げるよ!」

 

 話の途中で悪いけど言う事は予想が付くし、さっさと始めさせてもらう。

 

「だ、だから逃げても無駄だと────うおっ! な、何だこれはっ!? くそ、また土魔法か!」

 

 僕の選んだスキルは『魔法陣』

 魔法は念じて発動する"通常起動"と、魔法陣スキルを使った範囲や威力の高い"陣起動"の二つがある。

 

 これで土魔法の範囲を広げて、一番に追ってくる彼の足を沈めて動きを鈍くさせてもらった。

 

 入門魔法は陣が単純で、僕なら会話中に足で描く事だって造作もない。

 モタモタしているうちに、すぐに後ろへと駆けさせてもらう。

 

「──馬鹿な! 俺たちが毎日どれだけ訓練してると思っている!? 逃げ切れる訳がないだろう!?」

「ちょ、何やってんすか団長おおおっ!!」

「つ、捕まえろおお! こいつら三人、国からどれだけの金が出るか分かんねーぞ!?」

 

 アレンさんの叫びに呼応するように、後ろにいた団員達も慌てて僕たちを捕まえるべく走り出す。

 

 もう遅いよ。これだけ距離を取れば十分だ。

 シノさん達にはそのまま距離を取ってもらって僕は振り返り、魔力を纏わせた指で目の前に大きな魔法陣を描き始める。

 

『集中しろ』

 

 心で唱えた瞬間──僕の世界から音が消え、色も消える。

 目に映るのはアレンさんと後ろの騎士だけで、時間すら止まったように感じる。

 

 なんだか……ここまで集中出来たのは久しぶりだな。

 テンション上がり過ぎてこうなるってバカっぽくて嫌だけど、ふふっ、今回は凄いものが描けそうだ。

 

 魔法陣は魔法を習得した時点で自動的に頭に入る。だから本来僕は土の陣しか持っていない。

 

 だけど僕だけはこの世界二周目というチートオブチート。前の周で紋様を記憶した魔法陣は全て使用可能。

 その中でもこの魔法陣は──

 

「っ! 待て! みんな気を付けろ! あれは……ま、魔族の魔法陣!!」

 

 うわ……正解。勉強家だねぇ。でもちょっと言葉足らずかな。

 

「──あ、あのガキが魔族って!? ばかな事言ってんじゃねーっすよ!」

 

 その証拠に団員達は急停止する者もいるが、殆どの人間がそのまま突貫してくる。

 もうどうしようが関係ないけどね! 僕は構わず陣の完成を目指す。

 

「この紋様は……火……? 火の魔法陣だ!」

「っ!! 火って! おいおいマジかよ!?」

「総員防御姿勢!!」

 

 おっとそれは──んー、不正解! ベースはそうだけど火じゃないんだよ。

 あー、今の言葉を信じてみんな盾を構えちゃった。

 

 僕の特技は『自分の身体を自在に操れる事』

 こんな超特技を持つからには当然もう一つ。

 『動きを脳に焼き付ける観察力』はずっと磨き続けていて──

 

 前周でこれをそのまま描き返した時は、無表情のあの女も流石に驚いてたっけ。

 

「…………なんもこねえぞ?」

「い、いや、まだ描き続けて……ま、待て、あんな複雑な紋様、見た事──」

 

 魔王を除いて魔族の頂点に君臨する、エレが何度挑んでも勝てなかった『赤髪の魔人』の切り札にしていた魔法陣。

 世界で唯一あいつを追い詰めた僕だけが知る魔法陣! 火なんて言葉じゃ、何もかもが足りないんだよぉ!!

 

「──そう、言うなればこれは……『インフェルノ』だっ!!」

 

 完成した魔法陣から吹き出す猛火は視界一杯に広がって、耳が馬鹿になりそうな程の轟音を出して騎士達へと向かう。

 

「……う、嘘だよな」

「な、なんなんだよこれはあああ!?」

 

 そんな声が途切れ途切れに聞こえてくるが、数秒で何が起こっているのかすらも分からなくなる。

 

 ──あはっ。

 あはははっ! はははははは!! 何だこれ! カッコつけてインフェルノなんて言ったけど、それでも言葉足らずじゃん!

 最早これは太陽──凄いよ! 僕のMPがもの凄い勢いでマイナスになっていくもん! 次いつ魔法が使えるようになるかまるで想像がつかない!

 

 熱風で空気が歪む、灰が舞う、鎧の金属が悲鳴を上げる。

 そして一度は騒音と化した、20人もの騎士団員の叫び声も間もなく止んで、目の前には辺り一面を覆う真っ赤な景色だけが残る。

 

 うんうん、今回の魔法陣は僕の特技を惜しみなく使った超絶美麗版、あんな雑な奴とは違うんだよ!

 

 って、それより離れてもらった二人は──

 

「……ふ……ふふ、ふふふ──あは、あははははっ!」

 

 うん良かった平気だね。

 ちーちゃんを膝に抱えて座りながら元気に笑ってる。

 パーティを組んでるんだから当然だけど、この火による熱気の影響もなさそうだ。

 

「あーはっはっ! あんたもう、馬鹿! 意味分からん過ぎて、逆に馬鹿なんだよそれはもうっ!」

『!? ――♪』

 

 僕を笑ってたんかい。

 まあ……シノさんがこんなに笑ってるの初めて見たし、涙ボロボロ流しながらだから何も言えないけどさ。

 少し前からストレス続きだったもんね、どれも超特大の。本当にお疲れ様でした。

 

 ちーちゃんもシノさんが元気になって嬉しいのか、綺麗な炎を前に「見て見てー!」とばかりに大はしゃぎ。それを見た僕もニッコリ。

 

 後はアレンさんだけど……大丈夫だよね?

 前の周でも僕を庇って、1発は耐えてくれたもんね。聖騎士の魔法耐性スキル、信じてるからね?

 

 ──ようやく炎が消え去った時、目の前には聖剣を杖に膝立ちの、予想を遥かに超えて満身創痍になっている、一人の男だけ。

 

「……ぐ、ぐぅっ……なんだ、な、なにが起こった……?」

 

 おお……あ、あっぶな。良かった。美しすぎた魔法陣のせいでダメージ計算めちゃくちゃ狂ってる。

 一緒に巻き込んだ団員はプスプス音を立てて焼け焦げているのに、よくぞ生きててくれたよ!

 

 アレンさんは目の前の団員だった物に気付くと、身体が震え、怯えたような目で僕を見つめる。

 

「……な、なんだこれは……こんな、こんなでたらめな魔法が……あってたまるか!! ば、化け物が……!」

 

 肩が震えて、剣は握り落して、呼吸は心配になるほど浅くなっている。

 けどなんとか話も出来そうで一安心。そう、僕は化け物。

 

 本当はMPをマイナス4桁まで伸ばしたザ木っ端だけど、そんな素振りは一切見せないで──

 

「さぁ、取り引きしよっか」

 

 飛び切りの笑顔を浮かべて切り出した。

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