これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない!   作:peko34

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27 制圧交渉

 

「……と、取引、だと?」

 

 アレンさんの声は震えている。既に僕を格下に見てる顔じゃない。好都合だ。

 大人を相手にため口は気を遣うけど、僕の持ってるカードは強過ぎてへり下ると逆に怪しくなりそうだから。

 

「そうさ。勿論、取引である以上そっちも得するようには……」

 

 ……ただ、その姿はなんというか流石に……

 

 焼け焦げた鎧が溶けて肌に張り付き、露出した皮膚は赤黒く爛れていて。

 呼吸のたびに聞こえるヒューヒューした息が、凄く生々しい。

 

「ち、ちーちゃんさ、火傷を治す薬って、手持ちの素材で作れたりする?」

 

 うん……これは甘さじゃない、捕虜に対する必要な配慮だ。

 まだ少し離れた場所に座っているシノさんより先に、「お疲れ!」を言いに来てくれたちーちゃんに尋ねる。

 

『? ~~、――◯!』

 

 えーと、少し悩んでから、控えめなマル。

 ある程度の薬なら、ってとこかな。

 

「──な、なに、ちょっと治療するの? 暴れたらどうすんの!?」

 

 でも、アレンさん最後までいい人だったし……

 この状況でまだ心配なのか、シノさんも焦ったように立ち上がってこっちに駆けてくる。

 

「──お、お前は自分のした事を分かっているのか? 言うに事欠いて、と、取引なんて──」

「ごめんなさい。シノさんの言う通りでした」

 

 どうもまだ状況が分かってないみたい……

 そんなボロボロの姿でまだ目に力があるのは流石だけど、内側も外側も大分熱くなっちゃってる。

 

「あのさ、その凄い視線はやめてね。もうそっちは詰んでるんだし、これ以上敵対するつもりないんだから」

「──どういう、意味だ」

 

 僕の一挙手一投足に注意を払って、まだ何かに身構えている。それはとんでもないんだけど──

 

「ここで燃え尽きてる人達、確か貴族の息子さんばかりなんでしょ?」

「あ、ちょっと聞きたくないかも」

「なんでさ」

 

 シノさんは教育に良くないと言わんばかりにちーちゃんの耳を塞いでいる。

 確かにこれは僕が説明していい理屈じゃないけど、その子あの炎を見てキャッキャしてたし多分人間らしい倫理観は持ってないと思うよ?

 

「…………何が言いたい?」

「ええ……流石にそれは目を逸らしてない? 無理だって。アレンさんの輝かしい道はついさっきのここでおしまい。第二の人生の話をしようよって事」

「──何が言いたいのかと聞いているんだ!!」

 

 叫びながらも案の定、話の流れで薄々自分の状況に気づき始めているのだろう。

 アレンさんは彼らだったものを見渡して、間違いなく誰も生きていない事を再確認するとみるみる顔が青くなっていく。

 

「…………俺が……君を甘く見ていた所為で……っ、こ、この状況は全て俺がやった……とでも言いたいのか」

「まさか。やったのは当然僕だけど、でもそれを国に言っても信用されないと思うよ」

「…………あんなもの……どうしようもなかったじゃないか……!」

 

 それはそう。二人がいなかったら僕は完封されてたし、反省するのは部下を見る目の方だと思う。

 

「あ、それと僕らを連れ帰って手柄にするってのも無理だからね」

「…………」

「さっき散々僕のスキルは見せたから分かるはずだけど、僕なら両手足縛られて、目も口も塞がれようがいつでもどこでも死ねるんだ。捕まって利用されるくらいなら──分かるよね?」

「……元々……君たちを使って対価を得ようだなんて、思っていない」

 

 そうだろうけど、一応ね。

 この世界に来て4日目、当然そんな手段は持ってないけど。僕の見せたインベントリの汎用性を見て疑える訳ないから適当言っておく。

 

「──それは当然私もね」

 

 そしてシノさんはしっかり僕の作った説得力に便乗している。真顔でこれよ……ちょっとこの人怖いょ……

 

「だから最優先は敵対の継続じゃなくて、その火傷を治すこと。グロスキー君が言ってた事もあるし、やらなきゃいけない事出来たよね?」

 

 俺に手を出したら家族が──ってやつ。

 ユズハって人に託す手段は──まああの様子では無理そうだ。

 

「まあ、死なないならゆっくり考えてくれていいんだけど……なんで喋れてるのか不思議な見た目で……」

「……そうだ、そうだな……俺が分かっていなかった……な、なあ、治す手段が……あるのか」

「ある程度はみたい。それで最初に戻るけど、治したら僕らが危険だよねって話で」

 

 イベントアイテムを渡して、次に会った時に仲間になる。今はそんな確定イベントなんて存在しないんだ。

 僕はここまで嘘しかついてない小悪党、ゲーム設定に甘えていい立場じゃなかった。

 

「……どうしたら、信じてもらえる」

 

 シノさんが止めてくれて良かったよ……

 

「その聖剣は預かるから。全てが解決するまでね」

「──なっ!?」

 

 僕の言葉に、アレンさんは少し驚く様子を見せた後、やがて失望したように僕を見る。

 

「聖剣……か。それが、お前の狙いだったのか……」

 

 と小さく呟く彼に続くように、シノさんからもそう尋ねるような目を向けられる。いや、おかげ様で当初の予定と全然違うけど。

 

「もとより俺に拒否する力なんて残っていないが……どうかっ! それは少し待ってくれないだろうか! 事が終わったら、必ず渡すと約束する……!」

「…………あ、違う違う! 僕の話す順番が悪かったです」

 

 言い方も悪かった。ゲームの根幹に関わる設定なのに、興味が無さすぎて思いつきもしなかった。

 

「神装の『継承』がしたい訳じゃなくて、その武器が僕らの安全の為に必要なんです」

 

 その事をアレンさんは言いたかったのだと思う。

 

 『継承』──神装武具の所有者を一対一で殺す事により、その勝者が所有権を引き継ぐ事。

 それによって継承者はその武器を装備する事が可能となり、武器によって定められた様々な能力も引き継がれていく。

 

「だがそれでは渡す事など……」

「それはこっちでなんとかするので。アレンさんは僕に『預ける』という意思を示すだけでよくて」

「…………」

 

 こんな申し出は初めての事だったのだろう、何か色々考えているけど──

 防御力一桁の僕が『聖騎士』なんてタンク職に就いてどうするんだ。『魔法耐性』ごと貫かれて即死だから……

 

 アレンさんは黒焦げになった部下達を見て、次に自分の焼け爛れた腕を見た。最後に縋るような目で、僕を見る。

 

「……君に、この剣を預けよう」

 

 そして試しに、とばかりに呟いて、杖代わりにしていた『聖剣シルフィード』を僕に差し出してくれる。

 

 同時に踏ん張りが効かなくなった彼は、「……うっ」という声を洩らして膝立ちしていた体を地面に下ろした。

 

「ありがとう」

「…………な……は?」

 

 渡す意思の確認だけは取れたので、僕は心でその剣を『戦利品』として処理。インベントリへとしまう。

 

 どんなに力を強くしても、適合者以外が触ると絶対に持てない重さに変わる『神装武具』

 RPGではあまりにありふれた設定で、だからこそ僕にとってのチート武器。

 ふふっ、一時的にとはいえまた手に入れる事が出来て草。

 

「──ちなみにこの状態の僕を殺すと聖剣ごと抱え落ちするから。国宝を失くしたくないなら絶対裏切らないように」

 

 魔族に唯一対抗する事が出来る神装を、継承ではなく『紛失』だなんて他国から滅ぼされてもおかしくない。これは人類全ての問題だから。

 

「何を言っているのか……まるで分からない……! 剣は、どこに消えたんだ!?」

「…………すぐ自分の命を盾にする厄介人間」

 

 言わないで。これはちーちゃんの力を借りるのは安全を確保した上でって約束を守る為で……

 まあいい、ここまできたらもう余計な遠回りはなしだ。

 

「じゃあちーちゃん。火傷の薬、教えてもらってもいいかな」

『…………! ──ゞ』

「疲れてるのに、ありがとうね。なら素材になりそうな物は一度全部出して、と」

 

 ドサドサドサ、と僕の体から二人に渡された素材に加えて、移動中役に立つかもしれないと回収したすべてを取り出していく。

 

 草、木の皮、よく分からないけど乾燥した果実。

 魔物の牙らしき物や骨、そして草、草、草──

 

 基本的に見たことない草は回収しきっている。なんか『調合』って響きと相性良さそうだから。

 

「……待て、一体今お前らの中で、どういう話になっているんだ……!」

 

 僕は今日、沢山嘘をついた。

 取引に大事なのは何より『自信』だと思う──弱者である僕にはこれしか出せないとも言える。

 だけどもう一つ大事な事、誠実さはどこにも見当たらない。

 

「…………」

『…………』

 

 だから代わりに『得体の知れなさ』で信用させていく。こいつなら、本当に妹を治す薬すらも作りかねないと。

 それには何より勢いも大事で……! そんな目で見られるような、整理整頓が出来ない男じゃないんだ……!

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