これは良識欠けてる僕に与えていいスキルじゃない! 作:peko34
「見て見て。さっきまで暗くて気付けなかったけど、まだ結構荷物残ってたよ」
必要になる素材は二人で取り分けておくから、ユウはあれらの片付けを──というシノさんの言葉に従って、僕は騎士団壊滅の証拠隠滅に取り掛かっていた。
包帯の類は他の荷物と一緒に突っ込まれてて不潔だから使えない。水と食料、短いながらもロープと超高級品であるコンパスは普通に嬉しい。
「お疲れ様。それはよかったね」
僕の犯した罪の諸々を回収して戻ってみると、二人は既にすっかり準備は終わらせていてくれた。
「なぁ、君は一体……彼らをどうしたんだ……?」
「片付けておかなきゃお互い困るだろうから」
「アイテムボックス……君たちの前では死者は……安らかに眠れもしないのか……」
「またそうやってー。シノさんは生きるのを頑張ってるだけなんだって」
「…………」
「私だけ庇うなよ。あんたも一緒にドン引きされてんだよ」
まあ僕は……ここに来たせいで、そういう良識が無くなってしまったみたいだから。
「…………」
『!! ――!』
「――と、ごめんねちーちゃん折角準備してくれたのに、さっそく始めようか」
アレンさんが何か言いたげにしている横で、僕は家から持ち出しておいた鍋の前に座って初めての調合へと挑む。
騎士団員に貰った経験値のお陰で『調合』スキルは既に獲得済みだ。
ちーちゃんは早速二つの素材を僕に渡して、手順を説明しようとしてくれるけど……え、割合……? この部分だけ? そんなに複雑なの?
「し、シノさんも、疲れてる所悪いんだけど……」
「……はいはい、ごめんねちーちゃん、もう一回いい?」
ビックリした。調合を重ねて上位の素材にする工程もあって、レシピがなきゃ絶対に分からないやつだとは。
手話の提案をしておいて、本当に良かった。
♢
そうしてシノさんに通訳に入ってもらってようやく──
「……これで完成か」
目の前に用意した容器に入った、透明な塗り薬を見て感慨深く呟く。
手話での意思疎通を、時間を掛けながらも無事初成功させて二人がハイタッチをしている。
まだ手話を開発して2日目。この2人、頭の作りから僕なんかとは違うみたい。
「……ば、馬鹿な……調合スキル……あれだけの事をしでかしておいて……せ、生産職だったとでもいうつもりか……?」
「はいはい、脱がすよ。ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
あーあー、皮膚が服に張りついちゃって取れないよ。許可を貰って身に付けているものを次々インベントリにしまっていく。
「…………っ、あのさ、私ら向こういるね」
あまりにグロい光景と、グチュグチュと聞くだけで精神が削れる音にシノさんも限界みたい。お礼を言って離れてもらう。
「……うわ、なにこの傷……なんでこんな事になってんの……?」
「お、お前は会話を成立させるつもりがあるのか!?」
脇腹のあまりに不自然な傷跡は一旦置いて、出来たばかりの薬を塗ってあげると効果は覿面だ。
患部が光り始めたと思うと、焼けただれた皮膚が見る見るうちに再生していく。
「痛みが……消えていく……夢でも見ているのか、俺は……」
「すっご」
これ絶対市販の薬じゃない。とんでもない薬効だ。
「というか痛みも? もしかしてもう動けたりします?」
僕の恐る恐るといった言葉に、アレンさんはゆっくりと体を動かしながら──
「…………なんとか、動けそう……だ」
「……そうですか」
もう騎士の生命力を真面目に考えるのはよそう。当分戦う事なんてないだろうし。
「あと自分で塗れる? これしかないから全身には塗れないと思うけど」
「……ああ。……君たちには迷惑を掛けてしまったのに、本当にすまない……」
「僕は平気。被害者はあそこの彼女だから、それだけは忘れないでね」
「…………ああ」
「あとその脇腹の傷ね。元は切り傷に見えるけど、普通患部周りにそんな広がらないよ。本当に治す気あった?」
「……っ、グ、グロスキーが、薬草を持ってきてくれて……そうか、そうだよな……」
「…………いい加減オムツは卒業しましょう」
弱点があった事でこっちも助かったけど、こっちの情報を知られてるのにこの迂闊さはあまりにも……
申し訳ないけど嫌味は言っておく。
「……すまない」
どんどん重くなっていく空気にシノさんへと目を向けると、どうやら準備を終わらせてくれたみたい。使う素材の取り分けが終わったようだ。
「──さて、じゃあ僕は先に準備あるから、大人しくしててね」
「準備? いや待ってくれ、俺は王都に戻らなくちゃいけないんだ。聖剣以外にまだ目的があるのか」
「そんなボロボロの身体で妹のとこ戻って何するの。先に妹の病気を治さないと」
「────っな、は!?」
説明しようにもこんな上手い話、現物無しで信じられるわけないんだ。放っておいて、手を振って待ってくれているちーちゃんの元へ急ごう。
♢
夜も更けて、辺りはすっかり真っ暗になっている。
アレンさんも多少動けるようになった事で、今は少し離れた森の中に場所を移している。
それでもシノさんが光の精霊に頼んで明るくしてもらって、調合には支障がない。
唯一の支障といえば移動前──先に火傷を治せというのに身体を引きずりながら、少しずつこっちへ向かってくるアレンさんがうるさかった事。
やれ、妹の事も知らないお前が何を作る、だとか、やれ初めて調合するような素人に何が出来るだとか。
あまりにも気が散るので──
「名前は『リン』──症状は夜だけ高熱、悪夢、幻覚、暗所恐怖、瞳孔異常。なのに発疹も感染経路もない、身体に力が入らずお手伝いさんなしには歩く事も出来ない──だったっけ。シノさん達の集中が乱れるから黙ってようか」
全てを言い当てて黙ってもらった。2人はまだ使い慣れてない手話で頑張ってくれているというのに。
今は僕らに向けて、土下座の態勢を崩さず完成を待っている。そういうのをやめろって言ってるのに……!
そんな寄り道もあって時間が掛かったけど、目的のアイテムもようやく完成が見えてきた。
だけどこれってなんだか……
「これとこれ? 違うの? えーと……ああ、最後はこれを何本にも束ねてくれだって」
「…………最後って……本当に? なんか想像もしてなかった形になってきたんだけど……」
王国ルート以外でアレンさんを仲間にするイベントアイテムって、豪華な見た目の草だってエレに聞いていたのに。言う通りに最後まで完成させたこれは……藁人形?
「な、なんだ、何かまずいのか……? 俺に何か出来ることはあるか?」
「なんかさ、病気を治すには、強靭な身体を作るっていう『神竜草』みたいな名前の薬が必要なんじゃなかった?」
『――!? ――!!』
僕が聞くとちーちゃんは驚いたような表情を浮かべて、ぺチペチと僕を叩く。
「…………あー、作れないって。怒ってるから『そんな貴重なもの作れるわけないでしょ!』かな」
「か、金ならある!! いくらでも払う!! だから──」
『!!?』
「この子を怖がらすな」
ゲシと怪我人に一蹴り、既にシノさんはアレンさんを雑に扱っている。
分かるけど。集中力のいる作業をするのに絶対隣にいて欲しくない人だったもんね……
この様子なら大丈夫そうかな。
シノさんはちーちゃんからこの藁人形の使い方を教えて貰ってくれているし、僕は僕で話を進めちゃおう。
「アレンさん、先に交換条件を言っておきます」
「なんでもする、いやさせてくれ」
「僕達の仲間になって下さい。もちろん妹さんが元気になってからで大丈夫ですし、連れてくるのも自由です」
「それは……ありがたい。それで?」
「給料は当分出ません。その間食事なんかは用意しますが、生活基盤を整えるところから始めるので、基本野宿になります」
「ああ……助かる、他には?」
「魔族との戦いや、僕らの護衛など危険な目にも遭うと思います」
「勿論だ。だが……なあ、対価を先に聞かせて欲しいんだ、覚悟は出来ているから」
……思わず敬語になる程のブラックな環境を用意したんだけど、これで疑心暗鬼に陥る事ある?
調合スキル習得の事を知らないなら、最初からこの取引を持ちかけろよとか思っちゃうのかな。
「これで終わりだけど……」
「………………いや待ってくれ。俺はこれから、国に追われる事は分かるよな? 匿う事になってしまうんだぞ?」
「原因の半分は僕なんだけど。それより見ての通り人手不足なのこっちは」
「……な、何を言っている……こんなの取引にすらなっていないじゃないか……」
「一国の騎士団長にまで登り詰めたのにそれでいいって言うの?」
そう聞くけど、アレンさんもこっちの心配を理解出来た表情じゃない。頭に情報量を叩き込み過ぎたかもしれない。
これ……目的、達成でいいの? こんなにアッサリ行って実感が湧いてこない……いや、簡単に行けたのはみんなで頑張ったお陰で──
胸が熱くなる、ここに来てたった4日のことだけど、エレ達もいないのにずっと頑張ってきて――!
~~~~っ!!
「あ、上手くいった? ならこっちも色々教えてもらえたから伝えたいんだけど」
遅れてやってきた達成感を感じていると、丁度シノさんからまるで温度を感じない声を掛けられる。
……元々アレンさんには迷惑掛けられて、いい感情は持ってないはずだから仕方ないけど、少し寂しい。
「……終わったよ。ありがとう、聞かせて」
「今作ったのは『身代わり人形』ってアイテムなんだって。妹さんの症状からいって、病気じゃなくて呪術師による呪いだから、移し替える頑丈な対象さえあればすぐ治るって──」
『──!』
へぇ、そんな裏設定があったんだ。
僕はちーちゃんに盛大な拍手を送ると、人差し指でこめかみをトントン叩いて得意気になっている。
そんな姿に癒されていると──
「────は?」
目から光を失くしたアレンさんがそこに立っていた。
「なによ、続けるからね。それで、そう、新しく呪いを掛けられたら人形は壊れちゃうから、引っ越しはした方がいいって。使い方は──」
「な、なあ。妹が動けなくなったのは──5年前から、なんだが……?」
「はあ」
「5年間! 妹は……誰かの悪意なんかで苦しんで来たとでも言うのか? そんな筈、ないよな……?」
「…………そう言えば私達の紹介はまだだったね。この子はちーちゃん、『知識の精霊』ね。診断に間違いはあり得ないから」
その重過ぎる説得力に──アレンさんのボロボロの体は支えきれなくなって、ついには膝から崩れ落ちていた。