嘘と無法の生存戦略 ゲームの知識ととんでもスキルでVR死にゲー世界を生きていく   作:peko34

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3 ゲームスタート(2周目)

「──え?」

 

 目が覚めて、僕はなぜか数ヶ月前に幼馴染が持ってきたゲーム、『ユートピア』の話を思い出していた。

 

 初めて投稿した動画が粘着質な視聴者に念入りに荒らされて、サービス終了と同時にこのゲームの事は僕の記憶から消していたんだ。

 なのに今更このゲームが頭に浮かんだのは多分──

 

「……なに、なんで?」

 

 その時と全く同じ光景の中で目を覚ましたから。

 見覚えのある天井。古びた石造りの壁。広さは20畳ほどか。鼻をつくのも、懐かしい埃っぽい土のにおい。

 間違いなく『ユートピア』開始直後のステージだ。

 

「──は?」

 

 目の前には、突然動揺し始めた僕に不審な目を向けて座っている女性『シノ』

 村長の娘で、18歳だったか。設定上の主人公の婚約者らしい。

 

 黒く長い髪を下ろして、切れ長だけど大きく開いた目。

 貧しい村の出身という設定から服は薄汚れているが、パッケージを飾るだけあって相当な美少女だ。

 

 ……夢、な訳がない。ドッキリ……僕に仕掛けて誰が楽しめるんだよ。

 

 まあ、別にいいけどさ……原因なんてログアウトすれば分かるんだから。こんな所で考えてても仕方ない事だ。

 それにここでのんびりしてたら――

 

「おいおい、このボロ小屋が村で1番いい家だってかァ? 騎士の俺に、こんな汚ねェ所に泊まらせる気かよ」

 

 このプロローグが始まってしまうから……何ボサっとしてるんだよ僕は……

 

 扉が乱暴に蹴り開けられ、男が入ってくる。

 中世の騎士のような剣と鎧を身に付けた30ほどの男。

 立派な見た目に反して傲慢な典型的な悪役だった。

 

「え? あ、あの、申し訳ございません、どちら様でしょうか?」

 

 目の前の女性が震える声で尋ねるけれど、男は答えず無遠慮にジロジロと眺めている。

 

 これは彼女がゲーム内でも相当な特殊クラスであると見抜かれて、王国にさらわれてしまうテンプレイベント。

 自分の格好は『布の服』一枚、どう見ても負けイベなのに、ピースケは突っ込んでやられている。

 

 主人公が旅立つ為の動機イベントだから抵抗しても絶対に勝てないし、プレイヤーは終わるのを待つしかない。

 

「……ほーう、汚ねェ格好の割に、見た目は悪くねェな」

 

 だけどもう見抜くって、今回はやけにテンポが…………見た目?

 

「くく、村のババアとガキで我慢してやろうと思ってたが――丁度いいのがいるじゃねェか」

 

 ……まあ、この外見に目が行くのは自然かもだけど、こんなゲームは嫌かも。とんでもない妥協しようとしてたし……

 

「――おい、そっちのガキは、村の奴らに伝えてこい!

 栄えある国王ルミナス三世陛下にお仕えする騎士たるこの俺が! お前らの村で手厚くもてなされてやるとな!」

「……は……き、騎士様!?」

「それと、魔物退治の際に団長が負傷してな。うちの連中も集めたんで、その準備にも取り掛かれとなァ」

 

 そして……今からお楽しみするから、お前は出てけって言われてる……嘘でしょ。ここ僕の家だよね?

 

「そ、そんなっ! この村は毎年ギリギリの生活でっ……騎士団全員なんてとても……」

 

「なーに、別に今すぐに、という訳じゃねェ。本隊はここから少し離れた集落にいるんでな。

 信号は出したが、到着するのは明後日頃か? それまでに20人の、そうだな……7日分の食事と寝床の用意しておけばいい」

 

 その言葉に彼女は真っ青になって震えている。

 なんか……次々に僕の知らない展開で話が進んでいく。なにこれ、アップデートされたとか……?

 

「──貧民風情には、過ぎた栄誉だろう?」

「な、7日分……20人を……む、無理です、用意できる訳……」

 

 そもそも僕は、なんで終わった筈のゲームの中にいるのかも……分からない。

 

「──まさか、この国の為に日夜戦っている騎士の要請を、拒否するつもりか?」

 

 怒りを滲ませた声を響かせながら、騎士は手にしていた剣を傍らに置き、彼女の髪を掴んで引き寄せる。

 

 突然の出来事に彼女は身体を硬直させて、何の抵抗も出来ていない。

 

「ち、まあいい。それなら、分からせてやればいいだけだからなァ」

 

 騎士はそう言い放つと、彼女を見下ろしながら下卑た声で続けた。

 

「今日から貴様には俺の世話を命じる!」

 

 この騎士だってもっと単純なAIだったのに、今は凄く嬉しそうにパワーセクハラしてる……

 もう分からない事が多過ぎて、考えるのも馬鹿らしい。

 

 とりあえずこれからもの凄い胸糞展開が始まる事だけは分かった。見てるの辛いし……僕は帰るよ?

 

 幸か不幸か騎士の視線はもう僕には無いようで、遠慮なくメニューを開くと――

 

「――え?」

 

 何かがおかしい。

 そっか、以前は端にあったログアウトボタンが見当たらないんだ。

 不思議に思いながらも手当たり次第に目の前に浮かんだメニュー画面を操作するが、それでも見つからない。

 

 ふふ――な、なにこれ。やめてよ。

 本当につまらない。もう充分ドッキリしたから早く出して――

 

「――あ? なんだお前」

 

 瞬間。

 視界がブレた。

 

「――がはっ! ――っ!?」

 

 遅れて、胸に焼けるような激痛。肺の中の空気が全て吐き出される感覚。

 喉が勝手にカエルみたいな声を漏らす。

 目の前がチカチカと明滅し、思考が白く塗りつぶされていく。

 

「なに遊んでんだ? 言ったよな? とっとと村の奴らに伝えてこいって」

「──ぐ、ぐぅぅ……」

 

 な、なに……け、蹴られた……?

 床に叩きつけられた衝撃で呼吸もまともに出来ず、まるで考えがまとまらない。

 

 さっきまで僕が立っていた位置を見る。遠い……3メートルは吹っ飛ばされている。

 

 目の前の男は血を吐いて動けなくなった僕に興味を失ったのか、一つ鼻を鳴らして彼女へと向き直る。

 また標的に戻ってしまった彼女は、咄嗟に僕へ視線を向けるけど――

 

 無理無理、助けられないからこっち見ないでよ……胸を蹴られて血を吐いてるんだよ? そもそも僕は、なんでゲームの中で痛みを感じているんだ……?

 

 意識が飛びそうになり、取り留めのない考えが次々と浮かんでくる。

 

「……わ、分かりました。本日より、騎士様のお世話は私にお任せください」

 

 彼女は僕の様子を見て役に立たないと思ったのか、覚悟を決めた表情で騎士に従おうとする――が、

 

「騎士からの要請には間を置かず『はい』だ。初っ端から躾けなんてさせんじゃねぇよ、テメェはよぉっ!」

「――ぅぐっ!! っ、が、がはっ!」

 

 騎士は女性である彼女にも、容赦なく蹴りを入れる。

 その場でうずくまった事から手加減はされているようだが、うまく呼吸も出来ていない。

 

「罰だ。脱げ──身に付けているもの全てだ」

「げほっゲホ――ォェェ……えっ?」

 

 ……最悪。最低のシナリオ。

 なのに僕たちと目の前の男との力の差は歴然で、従うことしか出来ない。

 彼女は痛みで震える足で必死に立ち上がり「は、はい」と小さな声で応える。

 

 その言葉に騎士は下品な笑いを浮かべ、自分も着ている鎧を外している。

 彼女はそんな騎士に背を向けると僕と向き合う形になったが、構わず自分の服に手を掛け――――ない?

 

 脱ごうという素振りは見せながら、彼女が注意深く手を伸ばした先は──

 

 先ほど騎士が、彼女の近くに置いた剣。

 ……思わず正気を疑う。…………戦うの? いやいやいや、そもそも持てないでしょそんな大きな剣……

 

「――っ、く――」

 

 案の定持てなかったようですぐに剣から手を離す。

 幸い騎士はちょうど今鎧を外し終えたようで今の怪しい動きには気付いていない。

 

「テメェ……いつまで時間かけてんだ? 力ずくでひん剥かれてェのかァ!?」

 

 下品の極みのような怒鳴り声にビクと身体を震わせるが、もう後戻りは出来ないとみたのか今度は目だけを動かして、部屋の中で何かを探している。

 

 足は震えて、冷や汗を流しながらも必死なその姿を見て僕は──

 あー……武器、になるものなんだろうなぁと、自然に察してしまう。

 分かる、こういう人ずっと見てきたから。どんな絶望的な状況に置かれても絶対に諦めないで突破口を探そうとする人。

 

 確かに、今コイツに従った所で既に仲間は呼んだ後、油断している今のうちになんとかしないとこの村に未来はない。

 本隊が到着する前に逃げることも出来ない。

 

 でもだからってこれは覚悟決まりすぎでしょ。

 目の前の女性の思い切りの良さは、諦めの悪すぎる幼馴染と少し重なって見えて──

 

「──あはっ」

 

 思わず声を出して笑ってしまった。

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