嘘と無法の生存戦略 ゲームの知識ととんでもスキルでVR死にゲー世界を生きていく   作:peko34

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4 短気二人

「──何か、愉しい事でもあったかあ?」

 

 騎士は穏やかな言葉でこっちを向くけれど、顔から怒りが全く隠せていない。

 このプライドの高そうな男の前で笑っちゃったんだから当然だ。

 

 でも僕が好きな、見慣れた見苦しさを見て大分落ち着けたと思う。いつまでも動揺してないで──

 

「い、いえ、なんでもありません、すぐに村の奴らに伝えてきます!」

 

 出ていいみたいだし外に出よう。

 この狭い室内にいても、体格や力が足りていない僕に出来る事なんて何もない。

 外に出て、落ち着いてログアウトする方法を──っ!?

 

「…………」

 

 なんて事を考えていると、近くで急に大きな音が鳴る。何事かと考える間もなく椅子が飛んできて、僕の近くの壁にぶつかって砕けた。

 

 ……舐めた態度を取ったペナルティだろうか。破片が足にぶつかっただけなのに、悶絶しそうになるほど痛い。

 

 …………謝罪から、入るべきだったのかな。

 確かに今のは僕が悪い。それは間違いない。

 だけどここまでされる程、僕悪い事したんだろうか。失礼な態度はお互い様だったはずだ。

 

 1周目はここまで酷い展開じゃなかった。

 ゲーム中盤ではこの騎士を倒せるイベントも用意されて、憎むほどの男でもなかった。

 それでも臨場感抜群のVRで2回も胸糞展開を見せられて……泣くほどの激痛は、ここに来てから2回目で……

 

 そしてこんな痛みをくれたコイツはこれから家主の僕を追い出して、この圧倒的美少女とお楽しみをするみたい。

 

 ……そっか、なるほど。

 なるほど、なるほどねぇ。

 

 

 

 ────殺そう。

 

 もういいだろう。

 投稿した動画が荒らされて、例えゲームのキャラだろうと酷いことはしてはいけないと知った。ゲームで本気で怒るのは異常という事も。

 

 だけどここまで人間なら、それはもう人間なんだよ。法律が見当たらない世界で相手は人間なんだから、もういいんだ。

 

 分からない事は後回し。

 最優先でやる事を決めると、混乱していた思考が一気に晴れていくのを感じる。

 

 そう、ゲームなんだ。

 痛いならコイツを経験値にして、回復手段を手に入れればいいんだ。それに──

 

「シノ! 騎士様にはしっかりとご奉仕するんだぞ!?」

「──っ」

 

 せっかくならこのなんだか好感の持てる女性だって助けたい。余計な事はしないよう騎士の意識は彼女に向けておく。

 1人で立ち向かうとか無謀過ぎるから……

 

「っせぇ! テメェはとっとと消えろ!!」

 

 騎士の怒鳴り声と、2人からの殺意のこもった目を向けられて慌てて外に出る。

 目の前には木々の間に村へと続く、ちょっとした道のようなものが見える。

 

 騎士に従うならこの道を行けばいい。だけど僕はこの先に用はない。

 一つ、息と気合いを入れて、家の裏へと駆け出していた。

 

 自分でも頭の悪い事をしようとしてるのは分かってる。

 立ち向かう事もそうだけど、そもそも先にログアウト方法を見つけるべきだと思う。

 

 でも、現実にはこの騎士はいないから。

 誰に舐めた真似をしたのか──身の程を分からせてやる前に現実になんて戻れない!

 

 現時点では絶対に勝てない相手って……意味が分からない。この僕が! 手の内全部知ってる相手に負ける訳ないのにねっ!!

 

 目的の場所──壁を隔てて中にいるシノさんと一番近い場所に着くと、メニューを開いてパパッと出来る事を確認する。

 一周目の初期とそう変わりない。

 これならいけると、僕はそっと手を家の壁に当てて集中をはじめる。

 

 この家は僕の家だ。

 買った覚えはないし、なんなら一度だってここで寝た事がない。

 でもゲームはここがプレイヤーの拠点だと言っている。当然所有権は──僕のものであるはずだ!

 

 使うのは『インベントリ機能』

 プレイヤーが冒険中手に入れたアイテムを保存して、いつでも出し入れ出来る機能。

 

 対象は『自分と仲間の所有物』、『戦利品や床落ち素材』など制限は厳しくあるけど関係ない。

 この家が僕の所有物だと脳と心で認識すれば、どんな大きさだろうがアイテムだから!

 

『収納』

 

 心で唱えるとシュンと音を立てて目の前から壁がなくなって、インベントリのリストには『はじまりの家』の文字。

 家の中にあった家具がガラガラと音を響かせて崩れ落ちていく。

 

「――ひ、キャア! ――っ!」

 

 そして目の前にはシノさんと、少し離れて騎士が足場を失って、地面に突っ込む姿があった。

 

「おっと、セーフ」

 

 両手足を見るからに汚い地面に落とし、その勢いで顔まで突っ込もうというシノさんを間一髪で救い上げる。

 

 こんなに目の前にいるって事は、あの状況でまだ逃げてたって事かな。

 本当に諦めない姿勢になんか感動するけど──今はそんな場合じゃない。

 

「突然ですけど、ここ危なくなるので離れてもらっていいですか?」

「――は? え? え、何!? 何が起こって――」

「ごめんなさいちょっと時間なくて、あとはなんとかするのでお願いします」

「……っ、なんなのアンタ、意味分からない!」

 

 なんて悪態をつきながらもシノさんは、舌打ち一つで距離を取ってくれる。

 さっきも思ったけどこの人……頭の回転速くない? 普通、床が突然無くなったなら――

 

「ぁあっ!? な、なんだあ!? なんだこれはああっ! くっせ、チッ、汚ねぇなァクソっ!」

 

 ああなると思う。

 

 ちょうどいいから少し観察させてもらう。

 男のクラスは『騎士』――前周でもそうだったし、鎧も正式な物に見えるからそこは間違いないと思う。

 

 とんでもない硬さを活かして仲間を『身代わり』スキルで守る、いわゆるタンク職。

 

 ただ、仲間に『信号』を出したって話から、前職は警戒心が大事になるスカウト系だろうか。

 なら──

 

「騎士様大丈夫ですかー? なんか怒ってますかあー?」

 

 考える時間は与えたくない。

 警戒させて、せっかく脱いでくれたクソ硬い鎧は着せたくないから。

 

「――ああっ!? んだテメェは、まだいやがったのか!?」

「まあ、せっかくなら行為を見ていきたいなって。他人のそういうの見る機会って――」

「……なあ――まさかこれは、テメェの仕業か?」

 

 んー残念、僕の舐めた返答にもあまり怒ってくれない。

 平然としてる僕に違和感でも持ったのかな。よくすぐ繋げて考えられるわ。声を掛けて良かった。

 もう──何も考えなくていいからね?

 

「そうだよ。僕のクラスは『商人』でね。自分の資産ならいつでも取り扱えるんだ。もちろん捨てる事だって」

 

 状況は全部──僕がそれっぽい嘘で教えてあげるから。

 

 近くに落ちていた木の棚だった物を、足で蹴り上げ手に取って、指をパチンと鳴らすと同時に目の前から消してみせる。

 

「…………チッ、聞いた事ねェ……が、それで? まあ手品としちゃあビビったが、命を犠牲にしてまでやる事が、こんな──ただの嫌がらせか?」

 

 口調は強気なのに飛びかかってくる様子はない。

 まーだ警戒してるよ。だからさぁ──

 

「まさか! あのね、騎士様が今立ってるその地面も僕の土地――つまり『資産』だってわかってる?」

 

 もう何も考えなくていいんだって! 僕が余裕な理由だって雑に教えてあげるからさあ!

 

「……ただの馬鹿だったかよ。待ってろ、今八つ裂きにしてやるから」

 

 そう言って、騎士はゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 ──む。たかだか商人のスキルでそこまで大規模な事は出来ないって判断したか?

 近づいてくれるのは思惑通りではあるけれど、まだ冷静さを保っているのは都合が悪い。

 

 舐めんな! こんな時代なら──説得力なんて自信満々に言ってれば付いてくるもんなんだよ!

 

「ふふっ、頭固いなぁ。家が捨てられたんだよ? 土地が出来ない理由なんかないだろ」

「…………いや、出来る訳が……」

「俺の女に手を出した罰だ! 奈落の底で生き埋めになれ!!」

 

 最後は勢いで押し切ると騎士の動きが止まる。

 そうだよね、初めて聞くスキルだ。自分が大好きそうなお前なら命が懸かって揺らがない筈がない。

 

 出来ないんだけどね。家ならともかく土地を1つのアイテムとして認識出来る気がしないから。

 

 それでもゲームの知識もないこの男には効果は抜群で、何度か地面と僕を交互に見つめると──

 

「……待て…………分かった。もういい、この村からは手を引いてやる。テメェだってわざわざ自分の土地を捨てたくは──」

 

 一度引いた。当然ここを離れるまでの嘘だろうから最後まで聞く意味もない。

 

「僕はよくない。バイバイさようなら」

「お、おいテメェふざけ――!」

 

 僕は手を騎士に向けて、指を鳴らす。ここまできたらただの茶番なんだからちゃっちゃといこう。

 

「――ッ! …………っ」

「……ん? あ、あれ。え? な、なんで!?」

 

 僕は慌てた様子で何度も指を鳴らす。

 騎士は突然の不意打ちに、少しでもこの場所から離れようとしたのだろう。距離が先ほどよりも離れている。

 

 うわぁ。凄い勢いで顔が赤くなっていく。

 効くよねー。カスに上から目線で舐められて、ビビらされたって屈辱は。さっきまでの僕だね。

 

「……な、なんだよ! 落ちろ! 落ちろって!」

「ふ、ふふ。ふふふふふ――」

 

 騎士は笑いながら、ゆっくりと近づいて来る。

 なんかカッコつけて冷静ぶってるけど……周りの空気がグニャグニャと歪んで、キレてるのは一目瞭然だ。

 

 ゲームにおける強敵演出。

 加えて体からはオーラのような靄まで溢れ出し、圧倒的格上からの威圧感に思わず足がすくみそうだ。

 

「ふふふふふ。はぁ──おい、そこを動くなよ。一歩でも動いたらテメェ──この村ごと滅ぼしてやるからな」

 

 だけど考える事をやめた相手なら怖くない。

 途中剣だけを拾って、鎧は放置したまま向かって来る騎士を見て、こいつはもう僕に少しも警戒していないと確信する。

 

「ひ、ひぃいいいっ!!」

 

 ならこんな脅しなんか聞く意味もない。すぐさま悲鳴をあげて、出来るだけ情けなく後方へと逃げる。

 

「――っ! ガキがああーーッ! 逃げんじゃねぇぇえ!」

 

 あーあ、完全にキレてる……こんなに揺さぶりが効くんなら、元のAIの方が強かったんじゃないの?

 

 笑顔になりそうなところをなんとか抑えて、逃げた勢いそのままに家の裏にある一番近い木に登る。

 

 木の上に立って後ろを振り返ると、僕の家が無くなった事でポッカリとしたスペースが広がっている。障害になりそうな物はない。

 おかげで騎士がノコノコと、僕を追いかけてくれているのがハッキリと見える。

 

「んだそりゃァ!? 舐めてんのかァ!!」

「……怒る前にもうちょっと、敵の言葉は疑った方がいいよ……」

 

 想定していた何倍もぬるかったから。

 

 まるで警戒する事なく眼下にまで来た騎士に手の平を向け──先ほど回収したばかりの『はじまりの家』を取り出した。

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