嘘と無法の生存戦略 ゲームの知識ととんでもスキルでVR死にゲー世界を生きていく   作:peko34

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7 精霊術師

 さて、もうここに用はないんだけど──どこに行こうか……ここは大きな音がしたから誰か来るかもだし。

 

「向こうに小さいけど洞穴があるから、そこでいい?」

 

 悩んでいると、僕の考えを読めてるかのようにシノさんが提案してくれる。

 

「汚い場所ではあるけど、なんか色々回収してたでしょ? それ敷けばだいぶマトモになると思うし」

 

 そしてインベントリにも当たりをつけていると、いやこれはカマ掛けかな。なんにせよこの話の早さはありがたい。

 

「ありがとうございます、お願い出来ますか?」

 

 この、僕の返答が予想していたものと違ったのか、目の前の女性は嫌な顔を浮かべ、言葉を選ぶように──

 

「……なんかさ、問い詰めるつもりはないんだけど、以前から私にウザ絡みしてたあんたとは違い過ぎて……初対面として接した方がいい?」

 

 なんて言葉を掛けてくる。

 これ……本当にありがたいか? なんか頭の回転早くて怖いかも。嫌なワードも聞こえてきてるし……

 

「えーと……お気遣いありがとうございます。遅れましたが、ユウといいます。遠くから来て常識とか全く知らないので、色々教えてくれると嬉しいです」

 

「…………ご丁寧にどうも……シノです。早速で申し訳ないんだけど、私はただの村娘だからあまり丁寧な言葉は使い慣れてないの。そっちも崩してくれていいから、言葉使いはこのままでいい?」

 

 僕も学生敬語で大したもんじゃないから当然問題ない。

 だけど初対面の人にため口って躊躇いが……いやここでは僕が異物だしな。

 

「もちろんです。じゃあ僕もお言葉に甘えて崩させてもらうね」

 

 軽く挨拶だけ済ませて人目を避けるように林の奥へと足を踏み入れる。

 力を上げた事で、木の根が隆起した歩きにくい道でも、騎士を運ぶのは全く苦にならない。

 どちらも混乱していて口も開かず、落ちている葉っぱを踏む音だけが目立つ。

 

「………………」

 

 シノさんはそんな僕を無言で見つめてくる。

 あまり見ていて楽しいものではないから分かるけど、こんなのが僕の家跡地に落ちてたら……まあ僕にとって辛い展開になる事は間違いない。

 もう少しだけ我慢してほしい。

 

「で、でさ、こっちも早速なんだけど、シノさんは明後日以降に来るっていう騎士団に対して、どんな対策を考えたの?」

 

 誤魔化すように切り出した僕に、シノさんはわずかに眉をひそめる。

 何か気に障ったかもしれないと思ったけど、これは聞いておかないと。

 

「……なんで? 別に、私がなんとかするから、そんなの気にしなくていいよ」

 

「いや、えーとさ、ここに転がってる物騒な物はお互い見られたくないよね。あまり時間に余裕ないと思うんだけど」

 

 そう言うとシノさんは地面に倒れている男を一瞥し、少し考えて続ける。

 

「──それなら、じゃあ、さ……騎士団は私が引き受けるから、ユウはそれをお願い出来る? 血を収納? だっけ? なんか消してしまえるみたいだし、そのナイフを使えば自然に細かく出来ると思う」

 

 …………めちゃくちゃ言ってくる……嘘でしょ? 普通の神経でお願い出来る事じゃないよこれ。

 なんだろ、なんか……余裕がない?

 

「……さっきさ、騎士に『お前のせいで私は』みたいな事言ってたよね? あれってどういう──」

 

「っ! ……しつこい! アンタを信用出来ないから、言いたくないってだけ!」

 

 まぁ……信用出来ないのは、それはそう。うーん、考えは聞けそうにないし、推理してみるしかないか。

 そもそも何とか出来るのか? もし僕がシノさんの立場だとしたら──

 

「はい、ここね! 私はもう帰るから後は──」

 

 それに私達でなくて、私……? あれ、もしかして。

 

 怒ったように案内してくれたそこは、確かに小さな洞穴だったけど、目立たない場所にあるのに外の様子は確認しやすくて、すごくありがたい。

 

 いやそうじゃなくて。さっき頭に浮かんだ考えが正しかったなら──

 

「──精霊術師?」

「……っ、は? 何、急に……」

 

 思い付きを口にしてみるとこの反応。まあこの設定は変わらないよね。

 

「……なんでアンタが知ってんのよ!?」

 

 シノさんは動揺が全く隠せなかった事で諦めたのか、怒りで返してくる。

 脳に余裕がないのでそういう質問は置いておく。

 

 『精霊術師』──精霊と契約し、その力を借りる事の出来る稀有なクラス。契約できるのは一体だけ。

 それでも、その力は国が報奨金を出してでも欲しがるほどの力を持っている。

 

「精霊術師である自分を売り込むことによって、村は見逃してもらおうと──」

「……は、なにそれ。それが出来んなら最初からやってるけど」

 

 あれ、それは確かに。でもこの人間臭さ、考える方向は合ってる気がする。

 最初と今とで違うこと──騎士を倒したこと?

 

「ああ──『契約破棄』のスキル。レベル上がったんだね」

「ッ!?」

 

 シノさんが立ち向かおうとしていなかったら、あの騎士は倒せてなかったんだし経験値が入っていても不思議じゃない。

 敵が強くなるにつれ、精霊も少しずつ強いのと契約しないと戦えないクラスだから、契約破棄は基本にして必須のスキル、らしい。

 

 僕の言葉にシノさんは、ほんの一瞬だけ目を逸らしたが、すぐに認める。

 

「……これ、覚えるまで私も知らなかったスキルなんだけど」

「もうその不思議について考えても仕方なくない?」

 

 一周目で国から散々言われてたんだ。

 既に契約してる人がいても問題ないから連れてこいって事みたい。

 

「…………ああそう。おかげさまでね。わかったでしょ? この状況をなんとか出来るのは私しかいないの。国には優遇されるだろうし、自己犠牲ってほどでもないけどね」

 

 ──んん? えーと。

 

「えーと、それが必要だったということは、今契約してる精霊はいてー」

「っ」

「事前に契約破棄しておけば、その精霊を巻き込むことなくこの件を収められるって考えてー」

「…………」

 

 あれ、これ多分うまくいくぞ……? ちょっとこのAIすごすぎない……?

 

「あ、でも取り乱してたから、本当は契約破棄なんてしたくないんじゃ──」

「──当たり前でしょッ!?」

 

 考えなしに喋っていると、シノさんの震えた声が、高く響く。

 未来を知ってることだし、たまにはお節介でもーなんて考えていたら盛大に地雷踏んでいる。

 相変わらず僕は距離感をすぐ間違える……!

 

 そんな無神経な僕にいらだったのか──

 

「──あの子はねえ! 私がドジって怪我した時に、小さな身体で必死に助けてくれて! 私からどうしてもとお願いして契約してもらったんだよ!?」

 

 一度叫んだ後は、もう止まらない。

 

「優し過ぎるから戦うのは得意じゃなくて! この時世にそんな精霊と契約した事が国にバレたら、村も、精霊だって殺されるって、親に口止めされて──」

 

 ここは剣と魔法と無法の世界。そういう考えも……あるのかもしれない。

 

「──『精霊を酷い目にあわせたくなかったら、アンタと縁を繋いでこい』なんて言われて! 来てみたらこんな事に巻き込まれて……! 今も、村の外で……隠れて私を待ってるのに……」

 

 その目がこちらを睨むように見据えるが、その奥には涙が溜まって見える。

 

 ──突然キレた、なんて一瞬思ったけど違う。

 最初から、なんかとんでもない状況に追い込まれて、大量のストレスを叩き込まれてたんだ。

 

「騎士団が来て命が危なくなったら、親は精霊の事を絶対話す……あいつら馬鹿だからあの子を軽視してるけど……国に存在がバレたら間違いなく攫われちゃう……」

 

 最後の言葉は囁くように小さかった。シノさんは堪えようとしたのか、一度ギュッと目を閉じたが、涙は流れてしまう。

 そういう事なら、今も絶体絶命から抜けられた訳じゃないんだ。

 

 ゲームだからって18歳の女の子が、あの騎士に立ち向かうなんて異常だと思ってた。

 村じゃなくて、守りたいのはそっちだったんだ。

 

 大事な存在の為に、犠牲を買って出ようとする気持ちは僕にも凄く分かってしまう。

 

 

 ふぅー、僕が無神経で良かったよ。シノさん勘違いしてるし。自己嫌悪は心にしまって平常心で、何も心配する事なんてないかのように──

 

「ちなみにその契約してるのはどんな精霊なの?」

 

 余裕たっぷりは崩さない。

 シノさんがこっちを睨むように見つめるけど、まあ待ってよ。僕にはデリカシーは無いけれど──

 

「一応言っておくと、僕ならなんとか出来るからね? 契約破棄なんかしなくても」

「──え?」

 

 人としてあり得ない物を持ってるんだから。

 完全にゲームからの貰い物だから、胸は張れないんだけどさ。

 

「精霊術師ってのも確かに凄いんだけどさ、正直僕のほうが何倍も国の役に立つと思うんだ」

 

 インベントリ持ちだよ?

 現代日本で育った人間が、こんな世界での旅を可能にするとんでもチート。

 これひとつで、戦争のあり方すら変えられるね。

 別々に逃げたとしたら誰もシノさん達を追いかけないって。

 

「──え? え?」

「でも何にもしないで投降するなんて嫌だし、僕、村にそんな義理ないし。だから――2人で、じゃない、精霊も加えて3人で、力を合わせて対策考えてみない?」

 

 得意げに、したり顔で地雷踏んだだけで何もしないなんてかっこ悪すぎるから。

 

 何もかも分からないままエレ達に救われて、楽しい事なんて全部友達から教わった僕は当然のように、シノさんが格好いいと思えるし。

 

 だからまあ、僕は当分この人を見捨てられそうにない。

 一度深呼吸を挟んで、腹を括る。ごめん括るは言い過ぎた、とりあえずにはなるけど──

 

 帰るのは、いったん後回しかな。

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