【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
『魔冠のレガリア』第二作目が始まる前に、勇者アレンは王都を襲ったレッドドラゴンとの交戦により相討ち───死亡する。
マリアベルの魔女化のきっかけだけでなく、レッドドラゴンの王都襲撃は前作主人公である勇者アレンの死亡というイベントも発生させたのだ。
そして勇者がこの世界からいなくなり10年後、カインという少年が現れ、二代目勇者に選ばれるのだが………
(アレン君が死ぬ)
邪神を倒した程の強さを持つアレン君が、何故レッドドラゴンと相討ちし死んでしまうのか。
その理由として挙げられるのは、仲間であるユーフィリアさん達がおらず碌に回復できていなかったこと。またレッドドラゴンから市民達を守りながら戦っていたためだとされていた。
そんなアレン君が死んでしまう未来に、途方もなく打ちのめされる。
だって俺はアレン君にまだお礼を言えていない。
領主時代、冒険の話をたくさんしてくれたり、この世界の破滅を目論む邪神を倒してくれたことに対して、きちんとお礼ができていなかった。
もちろんそれだけじゃない。
俺はずっと、アレン君に謝りたかった。
俺はアレン君に謝りたいことが
◇
レッドドラゴンから繰り出される灼熱のブレスによって街が溶けていく。
羽を広げれば熱風が吹き荒れ、尾を叩き付ければ地割れが起こり大地は抉られる。
そんな化け物が避難民が集まる貴族街への正門付近へ向かおうとしていた。
火の手が回っていないそこには、かき集めただろうテントが張られ、人々が忙しそうに動いている。
それにドラゴンが吸い寄せられるように目で追っていた。
(何故、貴族街への門が開かれていない………!?)
レッドドラゴンと交戦していたアレンはその光景に目を見開く。
この王都は王族の住まう城を中心に貴族街(貴族達の移住地区)が広がっている。
そしてそれをぐるりと囲むように巨大な防壁が聳え立っており、東西南北に貴族街へと続く門が設置されていた。
その門が何故か閉め切られているのだ。
(あのクソ貴族共、まさか………!)
おそらく貴族達はこぞって我が身を守るためだけに、門を塞いでいるのだろう。
そのせいで市井の人間は逃げられず、門の前で立ち往生してしまっている。
その事実にアレンは舌打ちした。
こんな危機的状況にも関わらず、貴族の奴らは何故こうも腐っているんだ。
こんな奴らを間接的に守るくらいなら全て放り出してやろうか。
しかしその時、ふとある人物を思い出した。
亡き領主シグレット・ワイヤー。
辺境の領地から魔物を被害を防ぐために奮闘した───アレンが唯一尊敬する大人。
10年前に魔物のスタンピードを自らの命をもって防いだ英雄だ。
(……………シグレットさんなら、どんな理由であれ守ろうとするか)
自分のことを最期まで子供扱いしたシグレットを思い出し、闘いの最中であるものの懐かしくなる。
(そういえば、あの人だけだったか。『逃げてもいい』と言ってくれたのは)
魔物のスタンピードを止めるため、シグレットが《
君達に負担ばかりさせて申し訳ないと。
逃げても良いんだよ、と。
そんなことを言ってくれるのは、後も先にもあの人くらいだろう。
それくらい『勇者』という存在は当たり前のように戦うことを求められるから。
(でも、あの人は逃げなかった)
アレン達には逃げても良いというくせに、自分は絶対逃げなかったのだ。
それを思うとアレンの中で『逃げる』という選択は自然と消える。
あの人の信念を、この手で否定するような真似は絶対にしたくなかった。
しかしその時、レッドドラゴンが翼を大きく広げる。
後ろ足にぐっと力を込め、鋼鉄の鱗がピシピシと軋む。
それを聞いた時、奴が飛翔するつもりであることに気付いた。
(───まずいッ!)
次の瞬間、レッドドラゴンは飛翔する。
向かう先は───避難民の集まる正門前の野営地。
弓矢のように飛んで行ったレッドドラゴンはそのまま貴族街を囲う防壁に衝突し、その壁に這うようにしてへばり付いた。
突然現れたレッドドラゴンと崩れた防壁から降り注ぐ瓦礫の雨に、避難民は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
アレンもすぐさまレッドドラゴンを追いかけ、奴の翼を薙ぎ払った。
片翼を負傷したドラゴンは怒りに身を委ねて暴れ出す。
いつもならそれを回避すれば良い。
けれど周囲には逃げ遅れた避難民がおり、アレンはそのまま奴の攻撃を剣で受け止めた。
(───クソッ!!!)
もう魔力が底をつきかけているのも事実。
回復無しでのドラゴンとの交戦はアレンを追い詰め、身体が限界を訴えているのにも気付いていた。
けれど、ふと見れば逃げ遅れた避難民はもういない。
アレンが耐え抜いている間に逃げてくれたのだろう。
それに安堵し、早く決着を付けようとした───その時。
死角からドラゴンの尾が現れ、地面に叩きつけられる。
そしてレッドドラゴンがブレスをしようと腹を膨らませ、頭部を仰ぐ。
ドラゴンの口から炎が溢れる。
(やられる───)
しかし次の瞬間、アレンの目の前に小さな紫色の影が飛び込んできた。
「───《
少年だった。
紫色の髪をした少年がアレンとレッドドラゴンの間に滑り込み、《
けれどドラゴンのブレスは《
地面を何度も転がり、瓦礫の中へ叩き込まれる。
少年の《
しかしアレンを庇うように前を出た少年が無傷なわけがない。
辺りを見渡せば、少年はだらんと力が抜けたように地面に倒れ伏していた。
「ッおい! しっかりしろ!」
慌てて駆け寄り、その小さな体を起こす。
そして彼の顔を見た瞬間、その少年がギルドで働いている子供であることに気付いた。
「お前は…………」
確かシグという名前だっただろうか。
シグの両腕は
吹き飛ばされた衝撃で頭を打ったのか、額から血を流している。
何故こんな危険な真似を。
すると少年は焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、ぽつりとこぼした。
「………───アレン君、ごめんなさい」