【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
ずっとアレン君に謝りたいことがあった。
シグレット・ワイヤーの姿でなければ意味のないことだけれど、ずっとアレン君に───いや、勇者一行に対して後悔していることがあったのだ。
(身体中が痛い…………)
《
そのため息を吸うだけで骨が軋み、内臓に激痛が走る。
両腕は焼け爛れて、真っ赤に染まっていた。
またすでに俺の魔力も尽きかけている。
レッドドラゴンが貴族街を囲う外壁に衝突し、雨のように瓦礫を降らせたのだ。
避難する人達の上に覚えたての《
おそらく、あと一回しか魔法を使えないだろう。
(《
かすむ視界の中、俺の身体を支えながら悲痛そうな表情を浮かべるアレン君を一瞥する。
そして俺は意識が朦朧としながら、ぽつりとこぼした。
最期に、アレン君に謝らなければ。
「……………アレン君、ごめんね」
「一体何を、」
「
それにアレン君の動きが止まる。
きっと彼からしたら何のことを言っているか分からないだろう。
俺だって正直自分で何を言っているか分からない。
けれどずっと後悔していた。
俺がシグレット・ワイヤーだった頃、魔物の大群へ身を投げる直前に彼らにかけた───最後の言葉を。
「色んなしがらみがあって、逃げたくても逃げられない立場の君達に…………あんな無責任なことを言って、本当にごめんなさい」
あの言葉は本当に無責任極まりなくて、実際にアレン君達が逃げられる立場じゃないのに「なんて軽々しく言ってしまったんだろう」とずっと申し訳なく思っていたのだ。
俺は『逃げてもいいよ』だなんて言うべきじゃなかった。
俺は───
「本当は、『逃げてもいいよ』じゃなくて、俺が、大人達が代わりに『何とかする』って言えば良かったのに。それをする勇気も力もなくて…………結局アレン君達に任せきりにして、ずっと謝りたかった。本当に、本当にごめんなさい」
彼らの代わりに戦うと言えれば良かった。
でもそれを実行する勇気も力もなくて、そのくせ上から目線で『逃げてもいいよ』だなんて吐き気がする。
「アレン君」
そして最後の力を振り絞って、焼け爛れている両手をアレン君にかざす。
自分ではなく、アレン君を治癒するために。
「《
その瞬間、アレン君の身体が柔らかい光に包まれた。
逆再生するかのように彼の傷を癒していく。
破れていた服は瞬く間に治り、欠けている剣の刃も修復される。
全てが元通りに巻き戻っていく。
しかしそれと同時に、自分の中の魔力がごっそりと持っていかれたのを感じた。
心臓が底冷えするような寒気を感じ、身体ががくがくと震え出す。
視界が段々と白んでいく。
けれどアレン君にようやく謝れた。
思い残すことは何もない。
「何で、俺なんかに───」
アレン君が途方に暮れた子供のようにこぼす。
そんな彼に俺はゆるく微笑んだ。
そんなの決まっている。
どうか───
「───アレン君、どうか死なないで」
アレン君が死ぬ運命を回避できますように。
そして俺の意識はそこでプツンと途切れてしまった。
・
・
・
夢を見た。
俺がまだシグレット・ワイヤーとして領主をしていた頃、ちょうどリュシールの街に勇者一行が立ち寄っていた時のことだ。
領主館で彼らをもてなし、ユーフィリアさんやイゾルテさん、そしてガイウス君が先に部屋へ戻って眠ってしまったのだ。
そして残されたのは勇者のアレン君と俺だけで、暖炉の火を眺めながら取り留めのない話をしていたのを思い出す。
「アレン君は確か『勇者選抜』で勇者に選ばれたんだよね? どうして勇者になろうと思ったんだい?」
『勇者選抜』というのは、見込みのある若者達を集めて行われる選抜試験のようなものだ。
ちなみに『魔冠のレガリア』第一作目が始まる前にそれはすでに終わっており、プレイヤー達はアレン君が『勇者』として選ばれている状態でゲームを始めることとなる。
そのためアレン君がどうしてその選抜試験を受けたのか、知らなかったりするのだ。
(あれって確かユーフィリアさん達も参加していて、勇者には選ばれなかったんだけどアレン君との連携を見てメンバーに選ばれたっていう裏話があるんだよね)
エピソード0みたいなそこら辺の話を詳しく聞きたかったりもしたが、まずアレン君にどうして勇者選抜を受けたのか尋ねてみる。
もし無理矢理参加させられて、流れに流されて勇者にされてしまっていたらと心配になったからだ。
しかしアレン君はくすりと笑って話し出した。
「最初はただ村を出てみたかっただけなんだ。勇者になったのも色んな街や国に行けると思ったのがきっかけで、大それた理由は何もなかったんだよな」
「そうだったんだね」
少なくともアレン君が無理矢理勇者にされたわけではないと知って胸を撫で下ろす。
そしてそんな彼の言葉に思わず同意してしまった。
「でも分かるなあ。叶うことなら俺も色んな街や国に行ってみたいから」
せっかく異世界に転生したのだ。
正直魔物が恐ろしすぎて簡単には出歩けないが、この世界の摩訶不思議なものをこの目で見てみたいという気持ちもある。
「シグレットさんはいつも俺達の話を楽しそうに聞くもんな」
「君達の話を聞いていると、自分も実際に行ったような気持ちになれるからね」
だからアレン君達の話は数少ない俺の楽しみだったりする。
すると彼はふと笑みをこぼして続けた。
「───じゃあさ、行こうぜ! シグレットさんの仕事が落ち着いたら、俺達と一緒に冒険に行こう」
そんなアレン君にこちらもつい嬉しくなる。
お世辞とはいえ、そう言ってくれるだけでおじさんはとても嬉しい。
(アレン君、まじで良い子すぎるな………)
「うん、行こう!」
そしてそこで記憶は途切れる。
暖炉の温かな火も、領主館のサロンも、アレン君の姿も蜃気楼のように消えていく。
辺り一面真っ黒に染まり、俺の身体もゆっくりと闇に溶けて消えていった。
書き溜めておりますので、更新は少々お待ちください。