【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
アレンの腕の中で紫髪の少年が息を引き取るかのように気を失う。
《
そして少年の正体がシグレット・ワイヤーだと理解した瞬間、アレンの中で吐き気を催す程の後悔が襲う。
俺は今まで、彼に何をしてきた。
───アレン君!
自分の姿を見つけ、笑顔で駆け寄って来てくれた彼を手加減もせず蹴り上げた。
───この間は本当に申し訳ありませんでした! 貴方にとってシグレット・ワイヤーが大切な存在であることを理解せず、軽率な言葉を口にしてしまったことを深く反省しております! 本当に申し訳ありませんでした!
正体を偽らせ、何度も謝罪させた。
───アレン君、どうか死なないで。
散々な目に遭わせてきたというのに、自身の命を捨てる覚悟で回復させてくれた。
「………は、はは………ッ」
この10年。
この10年、どれほど夢見てきただろうか。
実はシグレットさんは生きていて、ケロッとした顔をしながら俺達のもとへ帰って来る。
そして「ごめんね、思ったよりも時間がかかっちゃって」と言い、ユーフィリアに泣かれ、イゾルテに叱られ、ガイウスに苦笑される───そんな都合の良い夢を、何度見てきただろうか。
(……………こんなところにいたのか)
ようやく会えた、はずだったのに。
それなのに自分が全部ぐちゃぐちゃにした。
偽者だと決めつけ、腹を蹴って、胸倉を掴んで、罵倒した。
そして終いには、自分のせいで彼の命が潰えようとしている。
「はは………! 俺は、今まで何を………!」
しかしその時、背後からレッドドラゴンの唸り声が耳に入った。
振り返ればレッドドラゴンが口から火の粉を噴き出しながらにじり寄って来ている。
………ああ、そうだ。
まずはコイツを倒さなくてはならない。
血塗れの細い少年の体をそっと地面に下ろし、シグレットの魔法によって修復された剣を構え直す。
そしてアレンは自身の身体に魔力を込め、レッドドラゴンを一閃した。
レッドドラゴンの翼から大量の血が吹き出し、まるで紙のように千切れる。
同時にドラゴンから雷鳴のような絶叫が響き渡った。
(早くコイツを倒さなければ、シグレットさんが───!)
しかし次の瞬間、レッドドラゴンの黄金の瞳がぐるりとどす黒く変色した。
爬虫類特有の縦筋の入った眼孔が、まるでくり抜かれたかのような漆黒に変わる。
(まさかコイツ、『変異種』か…………!?)
『変異種』
人間と同じように特殊スキルを持つ魔物であり、長命で、知性は極めて高く残忍。
そしてアレンが10年前に倒した邪神という魔物も『変異種』であった。
するとアレンの頭蓋の内側に、異形の意志が流れ込む。
【───
【我が炎は、あらゆるものを灰へ還す】
【肉も、魂も、記憶さえも】
【勇者よ、お前の最も大切なものを焼き尽くそう】
ソレと呼ばれたのが、シグレットのことであると瞬時に理解した。
アレンの視界が怒りによって赤く染まる。
そして次の瞬間、レッドドラゴンのブレスがシグレットに向かって放たれた。
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レッドドラゴンと対峙する中、まるで走馬灯のようにとある記憶がアレンの脳裏を過ぎる。
シグレット・ワイヤーの領地───リュシール領の領主館に滞在していたその日。
ユーフィリア達が先に寝たため、シグレットと暖炉を囲んでぽつぽつと会話をしていたのだ。
そしてその最中、色んな国や街を見たいというシグレットにいつか自分達と共に冒険に行こうと約束をした。
「───じゃあさ、行こうぜ! シグレットさんの仕事が落ち着いたら、俺達と一緒に冒険に行こう」
「うん、行こう! …………………でもなあ、」
途端に言い淀むシグレットに首を傾げる。
するとシグレットは苦笑しながら口を開いた。
「でも俺、前に神殿で鑑定してもらったんだけど、レベルが1だったんだよね。レベル1のおじさんを連れて冒険行くのは流石に申し訳ないから、今まで通りアレン君が外の話をしてくれると嬉しいかな」
そう何とでもないように言ってのけるシグレットに、高揚していたアレンの気持ちがしゅるしゅると萎えていく。
「いや、大丈夫だって! 比較的魔物の少ない道を通るようにするから!」
「けど本当に迷惑かけると思うよ? レベル1のスライムにだって負けるからね?」
そんなシグレットに、若かりし頃のアレンは笑い飛ばす。
「シグレットさん、俺を誰だと思ってんの? 『勇者』だよ?」
「たとえ
なんて無邪気で、傲慢だったのだろう。
今となっては「どの口が」と思う。
守ってみせると約束したくせに、自分は二度も命を賭けて守られたのだ。
だから目の前にいるレッドドラゴンは、死んでも倒さなければならない。
レッドドラゴンから放たれる業火のブレスは、いつのまにか毒々しい黒い炎となって渦巻いていた。
剣でいなすものの───僅かに触れた瞬間、熱傷だけでなく自分の中の何かが欠けていくような心地がした。
レッドドラゴンはこう告げていた。
この炎は、肉も魂も記憶さえも焼き尽くすと。
シグレットさんの記憶も、俺の中から失ってしまうのだろうか。
その時アレンはふと、自分の後ろで倒れている紫髪の少年を見つめた。
そして思う。
あれ、この少年は一体何者だったのだろうか───と。
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天洋暦692年。
エルドロス王国王都にてレッドドラゴンの襲撃あり。
勇者アレンの剣をもって、討伐されたことをここに記す。