【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
アレン君にそう言われて、思わず硬直する。
冷や汗がだらだらと流れて、ふと彼とリュシールの街で再会した時のことを思い出してしまった。
あの時は俺が全面的に悪かったけれど、彼らの冷めた視線と蹴られた腹の痛みがじんわりと甦る。
するとその時、アレン君はゆっくりと俺の方に向かって手を伸ばした。
(───あ、殴られ、)
咄嗟に動くこともできず、ぐっと歯を食いしばって目をつむる。
しかし頬には何の衝撃もなく、頭の上にポンと大きな掌が置かれるだけだった。
あ、あれ?
おそるおそる目を開けてみると、そこには少しだけ傷付いた顔をするアレン君がいて、俺と目を合わすと困ったように苦笑した。
そして彼は大きな溜め息を吐いて口を開く。
「そんなに怯えるな。お前をどうこうするつもりはないし、ただ話しに来ただけだ」
そんな彼に不思議に思いながらも、俺は何とか頷いた。
・
・
・
アレン君の話を聞くところ、どうやら彼は一時的な記憶障害を起こしているらしい。
彼はベッドの横にある椅子に座りながらそう教えてくれた。
「───え、記憶がない?」
「ああ、そうだ」
素直に頷くアレン君に「どういうことなんだろう」と思っていると、彼は淡々と続ける。
「あのレッドドラゴンはどうやら『変異種』のようでな。通常の《
そんなアレン君の言葉に俺はふと『魔冠のレガリア』のゲーム知識を思い出した。
魔物の中には『変異種』といった固有スキルを持った奴らがいて、そのスキルによって様々な状態異常を付与してくるのだ。
その中には一時的に対象の
おそらく王都を襲撃したレッドドラゴンにもそのような力があり、アレン君から記憶を奪ってしまったんだろう。
(だから原作でアレン君はレッドドラゴンと相打ちになったんだ。むしろ相打ちだとしても、変異種相手に回復無しで倒せたって相当すごいのでは………?)
「あの、ちなみにどこまで忘れてしまっているものなんですか?」
「レッドドラゴンとの交戦の記憶はほとんどないな。だからドラゴンを倒した感覚はあるが、正直どうやって倒したのかまでは思い出せないんだ」
「それじゃあ、俺のことは………」
「……………お前がシグレット・ワイヤーだと名乗ったことに対して、俺に謝罪してきたのは覚えているぞ」
冒険者ギルドの裏口で、確かに俺はアレン君に謝罪した。
彼はそのことを言っているのだろう。
しかしそれ以降の、レッドドラゴン交戦時に俺が《
レッドドラゴンのブレスによって、記憶を焼かれてしまったから。
でも───
「……───アレンさんが無事で本当に良かったです。レッドドラゴンを倒し、貴方が生き残ってくれて、本当に良かった」
もうその事実だけで良い気がした。
俺の謝罪なんて自己満足みたいなものだし、彼が五体満足で生き残ってくれただけで十分だった。
「それより、どうして俺の病室に?」
「…………ギルドの奴らから聞いたぞ。お前が王都の市民に《
そしてアレン君がいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「お前がたとえシグレット・ワイヤーを騙るクソガキだったとしても、王都の市民や俺を助けてくれたんだ。それに対して何の礼もしないのは、俺のプライドが許さないからな」
「…………アレンさん」
「お前が目を覚ましたら、真っ先に礼を言おうと思っていたんだ。……───ありがとう、シグ」
そんな彼に、俺も自然と笑みが浮かぶ。
たったその一言だけで、全てが報われたような心地になる。
「…………お前のその腕は大丈夫なのか?」
「ええ、平気ですよ。杖無しで魔法を使い過ぎたのがいけなかったみたいで、今後から気を付ければ大丈夫だそうです」
そう返せば、アレン君は分かりやすく安堵した。
「だが、もう無茶をするなよ。他の奴らからお前が身を呈して俺を守ったって聞いている。お前みたいな子供が、俺に命をかける必要はないんだから」
そんなアレン君の言葉に俺は緩く頷く。
しかしその約束は守れそうにない。
(アレン君、君が世界を救ってくれたことに対して、俺はまだ何の恩を返せていないんだよ)
世界のために命をかけて邪神を倒してくれたアレン君達への大恩が、今回の手助けだけで返せたとはとても思えない。
領主時代にたくさん俺を助けてくれた彼に、何かしたいと思うのはごく自然のことであった。
・
・
・
それからアレン君は冒険者ギルドのギルドマスター、バルゴさんに俺が目を覚ましたことを伝えに行くと言って去ってしまった。
どうもバルゴさんが俺との面会を希望しているようで、明日の夕方くらいに顔合わせをしたいとのことらしい。
(俺に何の用だろう? 多分白魔法についてだと思うけど………)
バイトのギルド職員(新米冒険者)がこの世界で割と希少な白魔法が使えると判明したのだ。
冒険者ギルドでの今後の身の振り方とか相談されるかもしれない。
そして俺はぼんやりと別のことを考えていた。
レッドドラゴンによって焼け尽くされた王都の
(今回のドラゴンの襲撃で身寄りを失くした人や生活基盤を失った人は数多くいるよね。王都の行政はどれくらい手を出すんだろう。というより、現時点でそういった対応諸々はしてくれるのかな)
それとなくアレン君に現状を尋ねてみたところ、国からの直接的な支援がないまま、すでに半月が経過しているらしい。
幸い食料や水などの配給については、国が備蓄倉庫を開放したことに加え、商人ギルドの尽力もあり、何とか必要量を確保できているそうだ。
しかし現在もっとも深刻な問題は、身寄りを失った人々や社会的弱者の受け入れ先が限界に達していることで。
警備隊や騎士団が巡回を続けているものの、そうした弱者を狙った卑劣な犯罪が増加しており、大きな問題となっているようだった。
領主時代から現在にかけて、貴族達の選民思想は未だ高く排他的である。
レッドドラゴン襲撃時に貴族街の門を閉じていたくらいなのだ。王都の復興をまともに取り合ってもらえるのかと些か不安になる。
(こんなの、俺が一々考えることじゃないけど………)
けれど、不意にいつもの
(今もまだ行政のシステムとして残っているなら………身寄りのない人達を、王都からリュシールや他領地の領営保護院で一時保護させることはできないのかな。
徒弟制度と開拓民制度を併用して、希望者がいれば折を見てそちらに誘導。王都からリュシールまでは今も移住保証制度があれば、護送隊が来てくれるはずだけど………)
こういったことを王都の役人がやってくれるのであれば良いのだが、どうなんだろう。
ギルドマスターのバルゴさんは王都の顔役でもあるから、面会の際にそこら辺の事情も詳しく聞きたいし、彼自身に貴族への伝手があるのかというのも尋ねたい。
(もしプランを作るなら『提案書』よりも一市民からの『嘆願書』として出した方が角が立たないだろうな………って、俺は何を考えてんだ。
大体こういうのってもうすでに頭の良い人達が考えてくれて、俺が余計なことをしたらむしろ邪魔になるだけなんだよな)
間違いなく素人が黙ってろみたいなことになるだろう。
しかし───
「………………」
「こんなこと俺がやってもむしろ迷惑だって」という気持ちと「どうせ明日の夕方まで暇なら、嘆願書のたたき台くらい作ってみたら? 明日バルゴさんにそれとなく現状を聞いて、杞憂だったら渡すの止めれば良いんだし」という気持ちが相反する。
するとその時、病室の扉がガラリと開いた。
現れたのはナースの人だった。
そんな彼女に俺は尋ねる。
「あの、病院の売店に紙って売ってますか? できれば