【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
シグの病室を後にしたアレンはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
被害の少ない区画の建物を一時的に借りたギルドには、大勢の冒険者と王都の市民が詰めかけており、忙しそうに走り回っている。
というのも王都の行政が機能しておらず、それを取り纏めるはずの役人達に何の期待もしていないからだ。
以前からこの国───エルドロス王国の貴族達は役に立たなかった。
邪神が討伐される前は全てを諦め贅を啜り、邪神が討伐されてからはその一時の甘美な時間が忘れられず切り替えることができていない。
もちろんそういった貴族ばかりではなく、王都から比較的に離れた領地に住まう者や城内部でこの腐った現状をどうにかしようと奔走する者もいるのは確かだが………
今回のレッドドラゴン襲撃の際に貴族街への門戸が閉ざされたのだ。
もうアイツらには期待できない。
アイツらよりも城下で実質上の顔役として取り纏めてくれていた顔役達を中心に動いた方が、まだマシだという気持ちがあった。
(……………この国はもう終わるかもしれないな)
今は復興途中であるため皆自分達のことで手一杯だろうが、いずれ腐った貴族共を一掃すべく革命が起こるかもしれない。
そんなことを考えながら、アレンは足早に冒険者ギルドの執務室へ向かう。
「───おい、バルゴ。入るぞ」
扉を開けば、そこにはバルゴと───三人の男女がテーブルを囲んでいた。
商業ギルドのギルドマスター、シャムルーク。
王都医師局局長サミュエル・ノルトハイム。
聖教会王都支部代表シスター・クラリス。
それにバルゴがげっそりとした顔で手を振った。
そんな彼の様子にアレンは眉を寄せる。
「おい、大丈夫か。少し休んだらどうだ」
「休みてえのは山々さ。だが、国の協議はひと月経った今も足踏みしたまま、復興政策一つ決まっちゃいねえ。そんな中で悠長に休むわけにはいかねえよ」
王国は今、民を見捨て、貴族街の門戸を閉ざした責任の所在を誰に擦りつけるか。またそれを国際社会にて吹聴されれば、どれほどの社会的信用を失うかとのことで、事実をいかに脚色するか揉めているらしい。
すると褐色の肌をした男、商業ギルドのギルドマスター、シャムルークが口を開いた。
「城では危機対応より責任回避を優先しているのが現状ですね。けれど騎士団による治安維持や倉庫の備蓄放出は行われているのが幸いでしょう」
この中で比較的貴族との繋がりの多いシャムルークが苦笑しながら話す。
しかし、その支援だけでは当然足りなかった。
そのため冒険者ギルド、商業ギルド、王都医師局、聖教会王都支部はそれぞれ救助、物資調達、医療、避難民支援を担い、混乱する王都を支えているのが現状だ。
バルゴを始め、この執務室に集う顔役達が王都を守るべく奔走してくれているのをアレンは知っている。
「お前が来たってことは、シグが目を覚ましたんだな? 容態はどうだ」
「両腕に酷い魔力傷痕ができた以外に特に後遺症もない。明日の夕刻から面会を取り付けておいたぞ」
するとバルゴが「そうか」と頷く。
「今回のレッドドラゴンの襲撃でシグに白魔法が使えることが判明したんだ。希少な白魔術師を王国側に掠め取られないよう、お前さんにはしばらくシグを連れてエスカリ諸島の神殿に向かってもらいたい」
「神殿に?」
「ああ、聖教会ならそう簡単に手出しできないだろう。聖教会の庇護が得られれば良いんだが………」
王国に囲われた白魔術師はどうなるか。
貴族ならばまだしも、平民の白魔術師は酷使され、中には貴族の余興のために奴隷達を回復させ、延々と戦わせるといった惨い所業を聞いたことがあった。
「神殿にいるユーフィリア様から直に指導してもらった方がアイツの為にもなるだろう。それに神殿に行けばスタータスの鑑定もしてもらえるからな。シグの鑑定も頼むぞ」
そしてバルゴは続けて言う。
「それから、お前さんも神殿で鑑定してもらえ。今回のレッドドラゴンは変異種だったんだろう? 記憶の他にHP(体力値)やMP(魔力値)も削られているかもしれんから、現状のステータスを確認しに行ってこい」
「今、俺が王都を離れても問題ないか?」
「問題ない。むしろ今はお前さんも王都を離れた方が良い。この状況でもし他国から戦争を仕掛けられてみろ。『勇者』という戦力があるとたかを括って、碌に協議もせず、この国は戦争を受け入れるぞ」
そうなった場合、大陸全土を巻き込んだ戦争が起これば、この国もどうなるか分からない。
であれば戦争回避のために勇者という存在が離れていた方が良いだろう。
しかしそれに対して商人ギルドのシャムルークが顔を顰めた。
「勇者アレンが遅れを取るとは思えませんが、その少年を信用して大丈夫なんですか? もし他国の間者が勇者暗殺のために一計図っていたらどうするんです?」
「ですが、そのシグという少年はドラゴンの襲撃の際に身を呈して市民を助けていたのでしょう? 間者だとしてもそこまで命を賭けるものでしょうか? それに聖属性の魔力持ちは善性の強い者に宿ると言われておりますので………」
そんなシャムルークの言葉に、左頬に痛ましい刀傷が残る乙女シスター・クラリスが割って入る。
しかし彼は呆れたように「それは諸説あるでしょ」と鼻で笑った。この二人は本当に仲が悪い。
すると今度は豊かな白髭を持った老父サミュエルがアレンに声をかけた。
「勇者アレン、あのシグという少年と旅を同行するのなら、彼の魔法についても詳しく調べてほしい」
「…………魔法?」
「レッドドラゴン襲撃の際、彼は怪我人に《
通常まろび出た贓物や欠けた手足を再生することなど決してできない。
しかしシグはそういった者達を元通りに治療し、中には身を包んでいた衣服まで再生してしまったと聞く。
「そう、言うならば───まるで神の御業のような………」
サミュエルの言葉をアレンは頭の中で反芻する。
神の御業。
あの平和ボケしたような顔の少年がそんな大層なものであるととても思えないが、事実彼のおかげでアレンは生還できたと言っても過言ではない。
そしてアレンはふと思う。
どうしてアイツの顔を思い浮かべると、シグレットさんの顔が嫌でも重なるのだろうと。