【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
バルゴさんにそう言われて、ふと領主時代のことを思い出した。
何の対策もしていなかったがために、魔物の襲撃によって蹂躙された村。
それにより住む場所も働く場所も失った村人達。
賊に身を落とす者もいれば、奴隷商に売られてしまう者もいた。
少し前に視察に行ったばかりの長閑な村が文字通り無くなり、将来有望視されていた青年が山賊となって───金欲しさに彼を慕っていた村の子供や娘達を奴隷商に売り渡す。
そんな悲劇を、これまで嫌という程見てきた。
領主である自分が対策しなかったせいで引き起こされる───身が引き裂かれるような悲劇が、幾度となく繰り返されてきたのだ。
だからきっと『癖』になってしまったんだろう。
だってそうしなければ、人は簡単に死ぬから。
死ぬよりも酷い目にあって、尊厳を奪われる者がいるから。
こんな自分が嫌になって、死にたくなるから。
後悔しても遅い悲劇が起こるくらいならと、いつの間にか身体が勝手に動くようになっていた。
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バルゴさんが動かない。
どうしたんだろうと不思議に思っていると、彼はハッとした様子で顔を上げた。
「シグ、ひとまずこれは預かっておく。王都の顔役達から役人へ提出しよう。その際に多少推敲するが構わんな?」
「はい、もちろんです」
「…………それと、改めて感謝する。レッドドラゴンの襲撃の際に身を呈して王都の民を救ったこと、そしてこの嘆願書の作成も………大いに助かった」
そう言って微笑むバルゴさんに、こちらもつられて笑みが浮かぶ。
お役に立てたようで何よりだ。
「だがな、お前は昨日まで意識を失っていたんだ。その上魔力傷痕で跡も残っちまって………。そういう無茶は今後しないようにな」
「はい」
バルゴさんが仕方なさそうに苦笑する。
「それからお前には冒険者として、ある任務を任せたい」
「任務?」
「ああ、勇者アレンと共にエスカリ諸島にある聖教会の神殿に向かってくれ。今回のレッドドラゴンとの交戦によって、アレンのステータスが変わっちまった可能性があるからな。再度『鑑定』してもらう」
エスカリ諸島の神殿と聞いて、何だか懐かしい気持ちになった。
領主時代に一度だけ視察として赴いたことがあるのだ。
そこで俺も鑑定してもらい、年甲斐もなくはしゃいでしまったのを覚えている。
「で、だ。お前もついでに鑑定してもらえ。それと書状を書いておくから、聖女ユーフィリアから白魔術の鍛錬を受けるように」
バルゴさんの言葉に「はい」と頷く。
ユーフィリアさんか………。
正直気まず過ぎて仕方がないが、多分ユーフィリアさんもそうであろう。
ともかくバルゴさんの言葉に大人しく頷いておく。
「メンバーは今のところアレンとシグにしているが、場合によっては増えることも考えている。ともかく、退院したら任務の準備をし、直ちに神殿へ向かってくれ。いいな?」
「はい!」
何だかようやく冒険者っぽいことができるなあと思いながら、ふと領主時代のことが脳裏を過る。
───じゃあさ、行こうぜ! シグレットさんの仕事が落ち着いたら、俺達と一緒に冒険に行こう!
───うん、行こう!
あの時のアレン君と一緒に冒険に行くという夢が、ようやく叶いそうだ。
そしてその時、ふとあることを思い出した。
(あれ、俺って一度鑑定してもらっているよね?)
すでに鑑定した個人データが神殿内にて保管されているのだ。
とすればもう一度鑑定してもらった場合、シグレット・ワイヤーとしてのデータが表示されてしまうのではないだろうかと思案する。
でもって、もしそれができれば俺は改めてアレン君達に『シグレット・ワイヤーである』と信じてもらえるんじゃないだろうか!
(一石二鳥じゃん! これでやっとアレン君達にシグレット・ワイヤーだって信じてもらえる!)
そしたらまた、シグレット・ワイヤーとしてアレン君達と話すことができるかもしれない。
(話したいこと、たくさんあるからなあ………)
今はまだ何を言っても信じてもらえないだろうが、鑑定後のことを思うと楽しみで仕方なかった。
◇
エスカリ諸島の神殿への出発日まで、俺は《
「───退院後に重症患者の方への治療を始めるとのことですが、重症患者の方だけで良いのですか?」
「ああ、軽症者の治療にも回っていたらキリがないしな。それにあまり目立つような真似をしてみろ。城に目を付けられてでもしたら、貴族の奴らに身柄を拘束されちまうぞ」
バルゴさんの言葉に「なるほど」と納得する。
ちなみに両腕にひどい魔力傷痕があるとのことで、手から直接魔法を使うのは禁じられている。
そのため後日、冒険者ギルドから白魔術師用の杖が届くとのことだった。
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そしてバルゴさんの面会が終わった翌日、病室にはたくさんの人が見舞いに来てくれた。
レッドドラゴンの襲撃の際に助けた女の子のお母さんや、治療に当たった街の人達。それから炊き出しでボランティアをしているというオスカー君や、冒険者ギルドで世話になっている職員のモニカさんや冒険者の人達まで来てくれた。
「よお、シグ。思ったよりも元気そうで良かったよ」
そしてそんな最中、冒険者ギルドでよく話すヨルダンさん達一行も見舞いに来てくれた。
ヨルダンさんの後ろには彼のパーティメンバーである弓手のシルフさんや盾使いのリックマンさんもいて、俺の顔を見るなり笑みを浮かべてくれる。
「でもこの魔力傷痕の跡は酷いわね」
「腕は動くのか?」
「はい、黒くなっているだけで何ともないので大丈夫ですよ」
そんな俺の様子にシルフさんが「手から直接魔法を使わないように気を付けるのよ」と言ってくれる。
すると今度はヨルダンさんが口を開いた。
「にしても、お前よく頑張ったよなあ。レッドドラゴン襲撃の時に俺達も逃げ遅れた奴らの救助やら何やらやっていたが、お前が《
そんな彼の言葉に何だか気恥しくなって首を横に振る。
こういう時に真っ直ぐ褒められると、どんな風にしていれば分からなくなるのだ。
その時、もにょもにょする俺をリックマンさんがじっと見つめてきた。
「………………んん?」
「どうしたんだよ、リックマン」
「いや、何か………」
怪訝そうにするヨルダンさんとシルフさんにリックマンさんがまじまじと俺の顔を眺めてくる。
一体、どうしたんだろう。
そしてしばらくした後、彼は何か思いついたように言い放った。
「シグって…………シグレット・ワイヤーに似てないか?」
そんなリックマンさんの言葉に、俺は息をするのも忘れて固まってしまう。
「ほら、紫色の髪とか同じだろ? 名前も似てるし」
「まあ、紫髪の奴はそうそう見かけないが、それだけだろ? シグの名前だってよくある名前だしな」
「でも確かに似ているような気もしなくはないわね。私達リュシールの街によく行っていて、シグレットさんと結構な頻度で顔合わせしていたのよ。シグレットさんの小さい頃って多分シグみたいな感じなんじゃないかしら」
口々に言い合うヨルダンさん一行の会話に「ど、どうしよう」と頭を悩ませる。
(エスカリ諸島の神殿に行って鑑定してもらったら、俺の正体がシグレット・ワイヤーだって判明して、はっきりと正体を明かすことができるんだけど………え、ここで言っちゃう? ここで「実は俺の正体はシグレット・ワイヤーです」って言っちゃう?)
別にそれでも良い気はするが、アレン君の件(再会時の腹蹴り)もあるため、できればちゃんと証拠を提示してから正体を明かしたい。
するとヨルダンさんが固まる俺をじっと見つめた後「あ」と声を漏らした。
「もしかしてお前………………シグレット・ワイヤーの隠し子だったりするのか?」
「いえ、違います」
隠し子というわけではない。
だって本人なんだから。
それもあってすぐさま否定すれば、ヨルダンさんは「だよなあ」と頷いた。
「あの人ずっと独り身だったし、貴族なのに結婚しないってことは不能だったって噂もあったしな」
(え、俺不能だったっていう噂があったの………?)
「ちょっとヨルダン! 子供の前でそんなこと話す必要ないでしょ。それにシグレットさんに子供がいたら、あの人のことだからちゃんと認知するわよ」
「あー確かにそうだな。悪いな、シグ。変なこと言って」
「い、いえ………」
図らずも領主時代の自身の悪評を知ってしまい、内心落ち込んでしまう。
お、俺って皆から不能だって思われてたんだ………。
忙しすぎて女性と関わる機会がなかったというのもあるが、何だか変な誤解をされていたことにシンプルに傷付く。
そして俺は何だかもやもやとした気持ちを抱えながら、退院の日を迎えたのだった。