【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
退院後、俺は王都にいる重症患者の治療に当たった。
冒険者ギルドに見繕ってもらったのは杖ではなくメイスで、先端には魔水晶の魔石が嵌め込まれている。
(杖とメイスって何が違うんだろう?)
そんなこと考えつつ、俺はメイスをかざして患者の治療に当たる。
ブレスによって皮膚が壊死した者。
四肢を切断しなければならない傷を負った者。
目が潰れ失明し、喉が焼かれて声が出ない者。
メイスに嵌め込まれた透明な魔水晶が真っ白な光を放ちながら患者の怪我を癒していく。
《
この力があれば、領主時代に取りこぼしてしまったたくさんの命を救えただろうに。
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重症患者の治療を終えた俺はエスカリ諸島の神殿へ向かうため、長旅に必要な装備を揃えることにした。
冒険者ギルドには所属しているものの、普段は受付や事務仕事が中心で冒険者らしい装備はほとんど持っていない。
そこで今回、旅の同行者であるアレン君が装備選びに付き添ってくれることになったのだ。
「───アレンさん、今日はよろしくお願いします!」
レッドドラゴンの被害から難を逃れた王都北部、そのアイテムショップの店前にて。
軽装のアレン君に俺は深々と挨拶する。
そして俺の後ろで様子を伺う
「あの、マリアベルといいます。………よろしくお願いします」
今回の任務でマリアベルも同行することになったのだ。
マリアベルが追加人員として配置された理由は、回復役の俺が魔力切れになった時の保険と、将来性のある新米冒険者のステータスも神殿で鑑定してもらおうという目的もあるらしい。
そしてマリアベルはまだ武器を持っていないとのことで、一緒に買い物をする流れとなったわけである。
「俺は装備一式で、マリアベルは武器が必要なんだよね? 長旅用の寝袋とかリュックとか、そういったものはすでにあるのかな?」
「ええ、ギルド職員のモニカさんが融通してくれたから大丈夫」
そんな彼女の言葉に「それなら良かった」と頷く。
最近マリアベルはギルド職員のモニカさんに目をかけられているみたいで、色々とお世話になっているそうだ。
そして改めてアレン君に「今日はお願いします」と言えば、彼はこくりと頷いた。
「それじゃあ、行くぞ」
そしてアレン君が慣れた様子でアイテムショップへ入っていく。
ショップの中は薄暗く、所狭しの多種多様な武器が並んでいた。
乱雑に樽の中には入れられたセール品もあれば、壁に立てかけられた業物もある。
ふと別の一角を見れば、冒険者用のローブや鎖型帷子といった装備も置かれていた。
するとアレン君はマリアベルに顔を向ける。
「まずは武器を買うか。…………マリアベル、お前はどんな武器を使いたい。魔術師は基本的に杖かメイスのどちらかを扱うが」
アレン君に話しかけられて、マリアベルの顔がほんの少しだけ強張る。
元々スラム出身で警戒心の高いマリアベルは、基本的に(オスカー君を除く)大柄な男性に対して一定の距離を保とうとする。
彼女自身無意識にやっていることであるため、勿論悪気はないのだ。
年頃の女の子に対してどこか戸惑っている様子のアレン君と、まだアレン君という存在に慣れていないマリアベルの間で「どうしようかな」と思案する。
そして俺はふと前から気になっていたことを尋ねた。
「はい。杖とメイスはどう違うんですか?」
手を挙げて尋ねれば、アレン君は壁に掛けられた杖とメイスを指差す。
「…………そうだな。まず材質が違う。杖は基本的に魔力を宿す特殊な木材から作られる。自分の魔力を込めて魔法の威力を増大させたり、自分の使いやすいように杖の形を変えることもできる」
「杖の形?」
「ああ、材質は木だからな。俺のパーティーにいた
アレン君の説明に俺もマリアベルも「ほお」と息を吐く。
確かにイゾルテさんの杖の形はぐにゃぐにゃとしていた。
あれもきっと彼女が魔法を使いやすいように杖を変形させたのだろう。
そしてアレン君が「次に」と続ける。
「メイスは見ての通り、魔石に鉄製の柄がついている。杖のように本人の魔力で色々と調整することはできないが、既存の魔石の種類によっては扱う魔法の威力も変わるし、単純に鈍器にもなるな」
「へえ」
「白魔術師は基本的に攻撃手段を持っていない。そういうこともあって、聖女ユーフィリアはメイスを選んでいたぞ」
そんなアレン君の説明に俺はにやけていく頬を咄嗟に抑えた。
いやだって面白すぎるでしょ!!!
領主時代からアレン君や冒険者の人達から話を聞いていたけれど、やっぱり異世界ならではの話を聞くのは面白い。
遠い外国の文化を知るみたいで自然と心躍ってしまうのだ。
(そうか。だからギルドから支給された武器がメイスだったのか)
白魔術師をジョブにするのなら、という今後のことを考えてのメイスだったのだろう。
するとその説明を聞いて、マリアベルは口を開く。
「…………それじゃあ、私は杖を選ぼうかしら。魔力量も多い方だと思うし」
「うん。良いと思う」
『魔冠のレガリア』第二作目に出てくる原作のマリアベルも真っ黒な杖を持っていたのだ。
きっとメイスよりも杖の方が相性が良いだろう。
「ギルドマスターのバルゴから聞いているが、マリアベルの魔力属性は『火』らしいな。だったら杖は溶岩樹のものを使うと良い。…………これなんか良いんじゃないか?」
そしてアレン君が壁に飾られている黒い杖を指差す。
大きさは大体マリアベルの背丈と同じくらいで、硬質な枝がぐにゃりとした曲線を描いていた。
一目で他の杖よりも良い代物だと分かるそれを、アレン君はカウンターにいる店主を呼んで包むよう命じる。
「次は装備か。シグは冒険者用の装備を持っていないんだよな? 白魔術師は基本的に白のローブを纏う。かなり目立つが回復役は貴重なんだ。賊に襲われたとしても白魔術師なら生かしてくれるだろうし、魔物からの襲撃があった際は守りやすい」
「は、はい」
「中はこの鎖帷子を着ておけ。重そうに見えるが、
「………………」
「お前ら、他に何か欲しいものはあるか? ああ、あと武器の手入れ道具も必要だな。それから皮のポーチとかあればあるだけ良いから買っておこう。
それとシグの武器も買っておくか。ギルドから支給されているとはいえ、予備のメイスがあっても良いだろう」
アレン君が何とでもないように続けていく。
店のカウンターにはマリアベルの杖や俺の装備一式が積み上げられており───どれも新品で、値札を見ると高価なものばかり。
正直中古の装備を買おうと思っていた俺は、大変情けない声を出しながらアレン君を止めに入った。
「すみません。見繕っていただくのは大変ありがたいのですが、あまり手持ちがなくてですね………!」
「わ、私もです! 武器は中古のものをローンで買おうと思っていたんで………」
マリアベルもハッと我に返ってアレン君に声をかける。
しかしそんな俺達にアレン君は不思議そうに首を傾げた。
「何を言っているんだ? ここは全て俺が支払うつもりだが」
「へ?」
「そもそも年長者が若者に金を出すのは当然のことじゃないか? 俺が世話になっていたシグレット・ワイヤーという人もそう言っていたぞ」
そんなアレン君の言葉に咄嗟に領主時代を思い出す。
言ってた。俺めっちゃ言ってたわ。
邪神討伐という過酷な任務を若者に背負わせているのが我慢ならなくて、俺にできることならとポケットマネーで装備やら何やらめちゃくちゃ貢いでいたのだ。
それでもってそう言われると、とても断りづらい。
でもスラム出身で新米冒険者のマリアベルにとっては大変有難い話だし………。
(ていうかそもそもあれは
そして俺はしばらく考えた後、できるだけ明るい声で提案した。
「ええと、それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます! でも、やっぱり高い買い物なので必要分で大丈夫です!」
それにマリアベルもこくこくと頷く。
不要な物まで買ってくれそうなアレンをなだめれば、彼は何も分かっていないような顔をして「そうか?」と呟く。
「こんなことを言うのも何だが、俺はどちらかというと資産は有り余っている方なんだが」
「お心遣いは嬉しいですけど、やっぱり貰い過ぎは良くないですから」
俺達の言葉にアレン君がもにょもにょと口籠る。
しかし観念したのか「分かった」と最後に頷いた。
それに俺とマリアベルは顔を見合わせて笑い合う。
マリアベルも最初程の緊張は解けたようで、彼女の表情にほっと安堵した。
そして彼女はもじもじとしながら、アレン君に声をかける。
「ア、アレンさん」
「何だ?」
「その、ありがとうございます。いっぱい魔力を入れて、特別な杖にしてみせます!」
そう宣言するマリアベルにアレン君も俺もつい微笑んでしまう。
小さな声で誤魔化すように「モニカさんがお礼はきちんと言いなさいって言ってたから」と話す彼女に、何だか自分のことのように嬉しくなってしまった。
そして俺もアレン君に顔を向ける。
「アレンさん、ありがとうございます! 俺も大事に使わせていただきますね!」
するとアレン君が俺とマリアベルを眺め、眩いものでも見るかのように目を抑え出した。
おいおい、どうした。
アレン君程の人間といえど、彼もアラサーなのだ。
ちょっと早いが、立ち眩みでも起こすようになったか?
「どうしたんですか? アレンさん」
「いや、ここ10年人間の汚い面ばかり見てきた弊害が出たみたいでな………」
不思議そうに尋ねるマリアベルに、アレン君が冗談か本気か分からないトーンで返す。
アレン君とマリアベルと、俺。
何はともあれ、これから向かうエスカリ諸島への神殿への旅をこの三人なら諍うことなく行ける予感がした。
◇
その後、王都では死者への追悼式が行われた。
国中からかき集めたランタンと蝋燭が用意され、オレンジ色の火を灯す大量のランタンが夜空の闇へ溶けていく。
天の川のような美しい光景に目を奪われるものの、その光の数だけ人が亡くなったのだと思うとやるせない。
きっとその中には、王都で知り合いになった人や冒険者も数多くいるだろう。
それに俺は、途方もない無力感に苛まれた。