【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
エスカリ諸島の神殿へ向かうには、ヴェラス領の港町トリオールから出る定期船に乗らなければならない。
オレンジの鮮やかな瓦屋根と太陽の光に白く反射する家々の壁。エルドロス王国内ではあるものの、どこか異国情緒あふれる美しい港町で足りない物資を補充した俺達は、そのまま定期船に乗船した。
そして船のウッドデッキにて。
神殿の鑑定がどういったものか、マリアベルと俺にアレン君が説明してくれる最中、アレン君の放った言葉に思わず俺は叫んでしまった。
「え、アレンさんのレベルって50なんですか………!?」
「? ああ、そうだが」
アレン君が少し照れた様子で頷くものの、俺は彼のレベルの高さに慄いたわけではない。
自分が想像していたよりもはるかに
というのも『魔冠のレガリア』第一作目の
もちろんレベル70~80くらいで挑む人もいるが、大体「余裕をもって倒したいよね」ということでアレン君達をレベル99にした状態で挑ませるのだ。
それにレベル90以降から隠しスキルの開放や魔力属性の変質なども行われて、今まで覚えることのできなかった技や魔法も使えるようになる。
そういったこともあってプレイヤー達はゲームをクリアする前に「俺達の勇者一行を最強にしよう」とレベリングをして、万全な状態で挑ませるわけだが………
「……………ちなみに、最後に鑑定したのっていつなんですか?」
「ちょうど10年前だな。邪神を倒す直前に自分達のステータスを今一度確認しようと思って、鑑定してもらったんだ」
「それはユーフィリアさん達も………?」
「ああ、そうだな」
何とでもないように話すアレン君に思わずポカンとする。
つまりアレン君達は、レベル50で邪神を倒してしまったということだ。
(あ、でも特にレベリングしないでラスボス戦まで行ったら、レベル50くらいになるのか。RTA走者はともかく、普通のプレイヤーはきちんとレベル上げしてから挑むけど………アレン君達にとったらここは現実なんだもんな)
一刻も早く邪神を倒さなければならないため、悠長に修行(レベリング)なんかできなかっただろう。
それでも尚邪神を倒してしまったというのだから、彼らは本当に───命をかけて、戦ってくれたんだと思う。
「…………すごい。本当にすごいですね」
「まあ、どんな強者でも大体はレベル30くらいの奴らが多いからな。途方もない数値に思うだろうが、魔物を倒していると自然とそうなる」
(………………ん?)
そんなアレン君の言葉に内心首を傾げる。
どんな強者でもレベル30くらいが多い?
もしかしてこの世界はゲームと違って、レベルが上がりにくいのだろうか?
そう思ったが、おそらく違うだろう。
もしそうだったらマリアベルのレベルは順調に上がっていないはずだから。
(ということは…………もしかしてレベリングの仕方が周知されていないのかな?)
基本的にレベルは経験値の増加によって上がっていく。
この経験値を効率よく上げるために、経験値の稼ぎやすい魔物を中心に討伐したり瞑想なんかしたりするのだ。
けれど、そういった方法はこの世界では確立されていないのかもしれない。
(モニカさんも俺が《
「……………私も、せめて20くらいまでレべルを上げられるようになりたいわ」
「レベル15までは上がりやすいが、それ以降は上がりにくい。だが、努力するまでだな」
「はい!」
マリアベルとアレン君の会話を横に、俺はふとレベル99のアレン君の姿を思い浮かべる。
レベル99の勇者アレン。
技術と肉体のみで最強に至った英雄。
ゲームの知識があるため、彼をレベル99にすることは可能であるが───そうした先にどのような影響があるのだろうとふと思ってしまった。
◇
エスカリ諸島の神殿への定期船には、国内にいる聖教会信徒や聖職者達が多く乗っている。
アレン君とマリアベルにせっかくだから船内を見て回りに行くと伝え、船のデッキを歩いていると、見習いシスターであろう小さな少女達が老女の後ろに整列しているのを見かけた。
そしてそれに微笑ましく思いながら進んでいると、一人の男が手すりに項垂れているのに気付いてしまう。
「ヴ、ヴおえええ…………」
「………………」
(吐いてる…………)
無造作に縛られた長い黒髪に、日に焼けた褐色の肌。
シンプルなシャツとスラックス姿を見るに聖職者ではないだろう。
きっと船酔いしたんだろうなと思いながら、俺はいそいそと男のそばへ近寄って行った。
「あの、大丈夫ですか?」
「………………んあ?」
話しかければ、男が怪訝そうに顔を上げる。
意志の強そうな太い眉に精悍な顔立ちの若者であるが、口は吐瀉物で汚れ目の焦点も微妙に合っていない。
そんな彼に俺は慌ててメイスをかざして《
「《
ついでに吐瀉物まみれなのも可哀想なので《
すると男は目をぱちりとして、ハッと自身の身体を見回した。
「んん? おお? 治ってる! 気持ち悪さがなくなったぞ! お前、すごいな!」
「良かった。回復したようで何よりです。それでは俺はこれで………」
「待て待て待て。礼をさせてくれ」
そんな彼に俺は首を傾げる。
すると男はニコッと───まるで昔のアレン君のように溌溂と笑った。
・
・
・
「───俺の名前は………ドレイクという! よろしくな!」
「俺はシグです。こちらこそよろしくお願いします」
船内で売られている(船酔い用の)レモン水をお礼として頂き、甲板にて互いに自己紹介する。
するとドレイクと名乗った青年は目をきらきら瞬かせて口を開いた。
「それにしてもお前、白魔法が使えるなんてすごいな! 神殿の聖職者なのか?」
「いえ、冒険者です。今回は鑑定してもらいに神殿へ向かうつもりで………」
「冒険者! 白魔術が使えるなら貴族の子飼いになるという選択肢もあるのに、見かけによらず胆力があるんだな!」
何だか言うことすべて肯定してくれそうなドレイクさんに「いえいえ」と首を振る。
そして今度は俺が尋ねた。
「ドレイクさんは神殿へ何をしに行かれるんですか? 聖教会の信徒の方でしょうか?」
「いや、俺は
「勧誘?」
「ああ、ちょっと神殿に気になっている奴がいてな」
そんな彼に俺は首を傾げる。
勧誘とは、一体………?
「とても差し出がましいことを聞くのですが、もしかしてドレイクさんは立場のある方なのでしょうか?」
「はは! そんな大層なものじゃない。新しく事業を始めようと思っていてな」
「ああ、商人の方でしたか」
「…………俺の事業に協力してくれる魔術師を探しているんだが、目星をつけた奴が聖職者でね。その勧誘さ」
明朗に話すドレイクさんに「なるほど」と納得する。
聖職者には魔法を使える者もいる。
冒険者ギルドにも勿論いるが、神殿に所属する聖職者ならばきちんとした身の上の者が多いだろう。
けれど………
(神殿の聖職者がそんな簡単に勧誘されるかな)
結構難しいんじゃないかと思っていると、そんな俺の視線に察したのかドレイクさんはくすりと笑みをこぼす。
「無理だと思うか?」
「あ、いえ、そんなことは………すみません、俺顔に出過ぎですよね」
「良い良い! 正直な方がこちらも気兼ねなく話せる!」
そして彼は快活に答えた。
「神殿よりも
「はあ」
「どうだ、シグ? お前も俺のもとで働くか?」
顔は笑っているものの、どこか探るような彼の目にふと身体が固まる。
気の良い青年、というだけではないのだろう。
もしかしたらどこかの豪商の子息なのかもしれない。
するとその時、後ろから声をかけられた。
「───ドローレス、何しているの。行くよ」
振り返ればフードを深く被った性別不明の子供がいて、ドレイクさんに対して呆れた様子で溜め息を吐いていた。
「お、悪いな! それじゃあ、シグ。またな!」
「あ、はい。お水、ご馳走様でした」
「おう!」
そしてドレイクさんが風を切るように、その子供と一緒に船内へ去っていく。
(ドローレス…………?)
先程の子供が放った名前に冷や汗が流れる。
だって『ドローレス』とは───七大罪の魔女の内、『強欲の魔女』ドローレスと同じ名前だったから。