【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
神殿での鑑定は『鑑定の間』という部屋で行われる。
出入りの制限された神殿の奥に位置し、部屋の中央には巨大な水晶があって、世にも珍しい《鑑定》スキルを持った鑑定士がステータスを見てくれるのだ。
ユーフィリアさんに連れられて、鑑定の間に続く回廊を進んでいると、アレン君とユーフィリアさんの会話が聞こえてきた。
「───レッドドラゴンの変異種と交戦したんですか!?」
「ああ、王都にいきなり現れてな。変異種のスキルによって俺のステータスが変動されたかもしれないから、ここへ来たんだ」
「…………そういうことだったんですね」
驚いたように頷くユーフィリアさんに「あれ?」と首を傾げる。
アレン君のステータスが削られたかもしれないことは知らなくて当然だろう。しかし王都にレッドドラゴンが現れたことくらいは知っていてもおかしくないはずだ。
それなのに何故知らないのかと不思議に思っていると、アレン君もそう思ったのか口を開く。
「レッドドラゴンの襲撃の件を何も知らなかったのか? シスタークラリスから神殿への協力要請が送られているはずだと思うが」
「それは………」
そんなアレン君の言葉にユーフィリアさんの顔が強張る。
一体どうしたんだろう。
その時、向かい側から豪奢なローブを纏った聖職者達の一団が歩いてくるのが見えた。
おろらく高位の聖職者、枢機卿達であろう。
ユーフィリアさんがその一団を一瞥すると、俺達に「しばしお待ちを」と告げてつかつかと彼らのもとへ進んで行く。
「ラモット卿! 王都でレッドドラゴンの襲撃があったというのは本当ですか?」
すると一団の先頭を歩いていた───ラモット卿と呼ばれる男が「おや」とユーフィリアさんに笑みを浮かべた。
「聖女ユーフィリア。ええ、つい先日王都支部のシスタークラリスから書状が届きましてね。神殿の聖職者を何人か派遣する手筈となっております」
「何故その情報を私に共有してくださらないのですか」
「聖女ユーフィリアはお忙しいでしょう。諸外国にいる聖教徒達への対応や広報活動、更には神殿へ来られる信徒達に教義までお伝えになさっているじゃないですか。そんな貴女にこれ以上の心労を負わせたくなかったのです」
いかにもユーフィリアさんのことを思ってといった言い方であるが、僅かに侮蔑の声色が混ざっており剣呑とした空気が流れる。
大丈夫だろうかと心配していると、ユーフィリアさんはしばらく沈黙した後、極めて落ち着いた口調で口を開いた。
「…………こういったことは私にも共有していただかないと困ります。先代教皇を病によって亡くし、教皇の席が空白の今、神殿に仕える者達が一丸とならなくてどうするのです」
しかしそんな彼女にラモット卿が苦笑する。
そしてユーフィリアさんを下から舐め回すように見つめ、嘲笑した。
「そんなにも次期教皇になりたいというのですか?」
「そんなこと一言も………!」
「おや、これは失礼いたしました。てっきり市井の人々の信望をお集めになるため、今回の功績も聖女ご自身のお名前で収められるおつもりなのかと、早合点してしまいました」
「な、」
「聖女様ほどのお立場になりますと、そのようなご判断もあろうかと勝手に思い込んでおりましたゆえ………誠に申し訳ございません。
今後はこのような思い違いをいたしませぬよう、事前に聖女ユーフィリア様へもご意向をお伺いすることといたします」
そう言い終わるとラモット卿は一団を連れて去っていく。
残されたユーフィリアさんと俺達はその場で唖然としてしまった。
え、何今の。
今のって、ちょっと───
「…………お見苦しいところ見せてしまい、申し訳ありません。神殿でもこういったことはよくあることで───」
「いやいやいや、今の何!? ユーフィリアさん……じゃなくてユーフィリア様にめちゃくちゃ失礼じゃありませんでした!?」
「そうよそうよ! 何なのよあれ!! 正直聖女様のことはよく知らないけど、あそこまで言わなくったって良いじゃない!!」
俺とマリアベルが我慢できなくなって、ついユーフィリアさんのもとへ駆け寄ってしまう。
今の本当に何!?
すっごく嫌な言い方じゃなかった!?
マリアベルも憤怒の魔女となり得る素質を持っているからか怒り狂っている。
そんな俺達にユーフィリアさんがきょとんとしていると、アレン君が尋ねた。
「ああいったことはよくあるのか?」
「え、ええ、先代教皇が半年前に亡くなってから神殿内の派閥競争が激しくなってしまって………。本来ならば教皇亡き後、新教皇を一週間以内に決めなくてはならないのですが、外部からの圧力もあり中々決まらず………」
彼女の言い分を察するに、おそらく各聖職者の後ろに貴族や豪商といった権力者がついているのかもしれない。
(神殿と王国は基本的に不可侵ではあるけれど、全員が全員それを守っているわけではないもんなあ)
ともかくそれにしたって先の枢機卿の態度は何なんだ。
確かに彼女は邪神を打ち倒した英雄の一人であるけれど、若い女性に対していい歳したおっさんがして良い態度じゃないだろう。
(腹が立つ! 同じおっさんとしてすごく腹が立つ!)
この世に生きる善良なおっさん達があんなろくでもない奴と一緒だと誤解されかねないのもいい迷惑だ。
するとアレン君が納得した様子で頷いた。
「なるほど、ユーフィリアのもとにまで情報が伝達されていなかったということか。それならココル村の疫病についても知らされていないだろう?」
「ココル村の疫病………?」
「ああ、村人達が瘴気汚染に掛かっていてな。神殿に浄化要請を出したが、一向に聖職者が派遣されないと嘆いていたぞ」
「! その方達は今は───」
「シグが白魔法で治した」
アレン君の言葉にユーフィリアさんが弾かれたように俺を見る。
それに何だか居た堪れなくなって、慌てて口を開いた。
「疫病の原因となっていた外来種のブラッドボアはアレンさんとマリアベルが倒してくれたんです。俺は白魔術師として《
そう言えばユーフィリアさんはアレン君とマリアベルを見つめた後「ありがとうございます」と小さな声でこぼした。
そして戸惑った様子を見せながらも俺の方へ顔を向ける。
「貴方も………本当にありがとうございます。村を助けてくださって」
そんな彼女に何だか懐かしい気持ちになってしまった。
俺が領主だった頃、ユーフィリアさんはまだ15歳の子供で。想定外なことが起こると、こんな顔をしてぽかんとしていた。
そんな幼い表情と今のユーフィリアさんの表情が全く同じで、自然と笑みがこぼれてしまう。
相変わらず、この子は優しい。
決して許せない相手に対しても、礼を尽くそうとする。
(ユーフィリアさんには何の憂いもなく過ごしてほしい。だって彼女は───)
七大罪の魔女の内、『傲慢の魔女』ユーフィリアに変貌してしまうのだから。