【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
『傲慢の魔女』ユーフィリアの誕生は、勇者アレンの死から始まる。
平和の抑止力を失ったエルドロス王国エスカリ諸島へ、隣国の異教徒が海を渡り侵攻するのだ。
神殿を覆う結界は破られ、聖職者たちは虐殺される。
聖遺物は奪われ、神域は崩壊の危機に瀕した。
その全てが終わった後、聖女ユーフィリアは神域を守るため、自らの身体を魔力炉とし『結界の間』にてその身を封印することに決める。
そして5年の歳月を経て結界は再生し、封印から解放された彼女を待っていたのは───堕落した聖職者達だった。
多くは異教徒に奴隷として連れ去られ、生き残った者達は各地の聖堂で信徒から金品を搾り取り、うら若い少年少女を嬲っては私欲に溺れる。
そしてその者達は何事もなかったかのように、結界の張られた神殿へ帰還した。
───よくやった、聖女ユーフィリアよ。これで神殿は蘇る。再び迷える者達を導こうではないか。
その光景に絶望したユーフィリアは世界そのものを憎み──『傲慢の魔女』へと変貌するのだった。
◇
RPG『魔冠のレガリア』第一作目は主要キャラ、ガイウスの死から徹底的な鬱展開により話題になった。
しかし話題になったのはコアなファンの間だけで、ゲーム二作目は制作会社の意向により、明るくフラットな方向へと転換されたのだ。
前作主人公であるアレンを退場させることで新主人公への世代交代を明確にし、聖女ユーフィリアの変貌によって一部の前作ファンを続編へ引き込む。
前作ファンからの不評は勿論あったものの、大衆向けに作られた第二作目では新規層の人気を取り込むことに成功し、『魔冠のレガリア』シリーズは徐々に知名度を上げていったというわけだ。
───神殿の鑑定はあっという間に終わった。
鑑定の間にある巨大な水晶に手をかざし、それを《鑑定》スキル持ちの鑑定士が一晩掛けて解析してくれるのだ。
そして現在、鑑定を終えた俺達はそのままユーフィリアさんに今晩泊まる部屋に案内され、そこでのんびり休憩させてもらっていた。
部屋は三人用の大部屋でベッドが3つ並んでいる。
ちなみにベッドとベッドの間にはカーテンのような敷居が備え付けられているのだが、うっとおしいのか邪魔だと言わんばかりにアレン君もマリアベルも全ての敷居を開けっ広げにしてしまっていた(プライバシーが………)
「二人とも、まだ寝る前だから良いけど、野宿じゃないんだから寝る時や身だしなみを整える時はきちんとカーテンを閉めようね」
「何かお母さんみたいなこと言うわね」
そんなマリアベルの悪意のない言葉がぐさりと胸に刺さる。
お父さん……!
せめてお父さんんと言ってほしかった………!
前世では縁がなくて子供はいなかったけれど、歳の離れた弟や妹がいて小さい頃から面倒を看てきたのだ。
それもあって(アレン君はともかく)マリアベルのことをつい下の兄弟のように見てしまう。
するとそんな俺達の様子にアレン君が割って入った。
「シグは気にし過ぎだと思うが、こいつの言うことも一理ある。無碍にしてやるな」
「はあい」
アレン君の言葉には素直に聞くマリアベルに「やっぱり誰が言うかで違うんだよな」としみじみと思う。
分かる分かる。前世の弟や妹達も姉(暴君)がバシッと言ったら一発で言うこと聞いてたもんな………。
そしてアレン君は話を変えるかのように尋ねてきた。
「それよりお前ら、これからどうする。食事まで時間はあるが………」
「アレンさんは?」
「剣の手入れ道具が壊れれたから、神殿へ借りに行く」
そう話すアレン君に、俺はどうしようかなと思いつつ答える。
「俺は神殿を見て回ろうかと。マリアベルはどうする? 一緒に来る?」
「ええ、行くわ」
10年前とほぼ同じであるが、あの頃は視察という名目もあって好き勝手見て回ることはできなかったのだ。
そのため今回は観光がてら美しい神殿内を探検して回りたいと思っていた。
ふと部屋の窓の外を見れば、真っ赤に染まって日が暮れている。
もうすぐ夜が来るだろう。
・
・
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蝋燭の火によって照らされる神殿は、日中とはまた違う美しさがある。
白い石壁には柔らかなオレンジ色の光が映り、等間隔に並ぶ柱が長い影を床へ落としている。
磨き上げられた大理石の床にも蝋燭の明かりが淡く映り込み、ふと上を見上げれば天井一面に神々の姿絵が描かれていた。
「きれいだね………」
「そうね………」
マリアベルと共に夜の神殿を徘徊しながら、天井に描かれる宗教画にほうと見惚れる。
蝋燭の熱で溶けないようにしているため、灯りは届かず薄暗い。
けれど闇夜からそっと異界の神々がこちら覗き込んでいるように見えて、月並みであるものの「きれいだなあ」と感嘆した。
(異世界転生の醍醐味って、きっとこういうところなんだろうなあ)
地球とは違う文明や人種、宗教観。ここはゲームの世界で、所謂空想の世界でもあるわけだけれど、転生した俺にとってみれば確かに現実なのだ。
前世で見たこともない景色を、液晶越しではなくこの目でありありと見れることの贅沢さに何だか感慨深くなる。
(ユーフィリアさんは、ここでずっと過ごしてきたのか)
聖属性の魔力を持つことから、幼少の頃より神殿に召し上げられた聖女フーフィリア。
ここで聖職者達と共に慎ましく暮らし、白魔法を学び、邪神討伐の旅へ向かった少女。
そんな彼女が『魔冠のレガリア』第二作目にて、傲慢の魔女に変貌するのはにわかには信じ難い。
(ユーフィリアさんが魔女になるのは、アレン君の死がきっかけだ)
レッドドラゴンとの交戦によってアレン君が死に、それをきっかけに隣国から戦争を仕掛けられる。
その一番初めに狙われたのが、神殿だった。
軍勢が神殿へ襲い掛かり、向こうの魔術師によって結界は破壊。逃げ惑う聖職者を惨殺し、捕え、聖遺物を略奪。
そして全てが終わった後、ユーフィリアさんは神殿の結界を再生するため、2メートル四方の小さな『結界の間』に閉じ籠るのだ。
永続的で強固な結界を張るためには長い年月をかけて魔力を流し込む必要があり、ユーフィリアさんは結界の間で一人で魔力をこめ続けることとなる。
いつ結界が完成するかも分からず。
ずっと、一人で。
そして結界の安定化を終えて解放されたユーフィリアさんを待っていたのが───聖職者達の堕落だ。
それにユーフィリアさんが絶望し『傲慢の魔女』となってしまうのだが───
(今回アレン君は死んでないわけだから、隣国から神殿に攻め込まれることもない。結界も破壊されず、ユーフィリアさんが魔女化するなんてことはないと思うけど………)
「……………」
「どうしたの? シグ」
「ううん、何でもないよ」
ユーフィリアさんが魔女化してしまった経緯を思うと、あまりにも残酷で途方もない気持ちになる。
アレン君が死んで、悲しむ暇もなく戦争に巻き込まれて。
神々の聖地と呼ばれるエスカリ諸島で再び神殿を再興するために、その身をもって破かれた結界を再生させる。
そしてようやく結界が完成し外へ出たら、世話になった神殿の聖職者達は隣国に売り飛ばされ、生き残った者は欲に溺れて堕落していたのだ。
(…………そりゃ、魔女にでもなるよね)
アレン君が死ななくて本当に良かった。
彼が死ななかったことによって、戦争を回避し、ユーフィリアさんが魔女になる未来は立ち消えたはずだから。
するとその時、マリアベルがぴしりと硬直した。
背中に掛けている黒い杖に手を回し、ゆっくりと俺を後ろに立たせようとする。
「? マリアベル? どうした───」
「シグ、後ろに下がって」
剣呑としたマリアベルの声色に危険を察する。
メイスを構え、彼女がじっと見つめている通路の向こうの───蝋燭の明かりの届かない暗闇に、何かが蠢ていているのが分かった。
成人男性程の大きさの、黒くつるりとした質感の
それが暗闇で無数に蠢いており、血の気が引く。
あれは『強欲の魔女』ドローレスが固有スキルによって生み出された使い魔。
それを理解した瞬間、暗闇の向こうから無数の使い魔が俺達に襲い掛かってきた。
◇
「───ねえ、ドローレス。何でこんな面倒くさいことするの?」
高く聳える神殿の、一柱の先端にて。
褐色の肌をした青年に、淡い水色の髪をした幼い少女が気怠げに尋ねる。
それにドローレスと呼ばれた青年が「んん?」と首を傾げた。
「面倒くさいこと? 面倒くさいって何がだ?」
「だからあ、神殿の結界を壊してー、貴重な魔力を消費して大量の使い魔を放ってー、神殿をぐちゃぐちゃにすること。聖女ユーフィリアを私達の仲間にするんだったら、適当に人質捕まえて拘束して、後でゆっくり洗脳しちゃった方が良いんじゃない?」
「ああ、まあそうなんだが」
「それに今って勇者アレンも神殿にいるんだよね? こんな大掛かりなことするよりも、こっそり聖女様を誘拐しちゃった方が良いでしょ」
「うーん、でもなあ、
ムイムイと呼ばれた少女がドローレスの言葉に「ふうむ」と唸る。
「神殿が使い魔達に蹂躙されてみろ。きっと聖職者達の化けの皮が剥がれるだろうな。皆我先にへと助かろうとし、弱い奴らは肉壁となって死んでいく───それを見た聖女様が世を恨んで俺達の仲間になってくれたら万々歳じゃないか!」
「そんなうまくいくかなあ」
「それに元々
「そうだけどさあ。……………ていうか、いつまで男の格好しているの? もう止めたら?」
呆れたように溜め息を吐くムイムイにドローレスは「男の身体って便利なんだけどなあ」と懐から小瓶を取り出す。
《
それをぐっと飲み干すと、ドローレスの身体は歪な音を立てながら見る見る内に肉欲的な女性の身体に変形した。
緩くウェーブした長い黒髪に、シャツやスラックスを押し上げる豊満な肢体。
いずれ『強欲の魔女』となり得る褐色の魔女――ドローレスが姿を現した。
それに後の『怠惰の魔女』ムイムイが怪訝そうに眉を潜める。
『魔冠のレガリア』第二作目の登場する七大罪の魔女。
この世を破滅へと導く魔女達が何故徒党を組むようにとなったのか。
その裏には、強欲の魔女ドローレスが組織的に動いていたのではないかと言われている。
「それじゃあ、神殿をぐちゃぐちゃにして───聖女様を『巡礼団』に招待しようか!」
七大罪の魔女の前身───巡礼団。
この世を混沌に導く、まだドローレスとムイムイだけの小さな組織。
そして高らかに言い放ったドローレスにムイムイがふと尋ねた。
「ところで何で男の姿をしていたの?」
「男慣れしてない聖女様なら、イケメン相手にころっと靡くかなって。ま、そんな感じでもなさそうだから諦めるけど!」
「ばか」