【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう   作:ふくふくまる

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第29話 聖女失格

 

 

 

 領主時代、初めて出会ったユーフィリアさんはたったの15歳だった。

 

 この世界の年齢からすれば働いていてもおかしくないのだが、前世の基準からしてまだまだ本当に幼いし、こんなこと言っては大変失礼であるが───正直とても頼りなく見えてしまった。

 

 そりゃそうだろう。

 『聖女』だからと常に笑みを貼り付け、穏やかに振舞おうと背伸びする姿はあまりにも子供過ぎる。

 

(こんな子供が、世界を救うのか)

 

 それじゃあこの子が助けてと言った時、誰が助けてやるんだろう。

 

 そもそも助けてと言える状況を作ってやれるのだろうか。

 

 それを考えた時、自分がその内の一人であれたらと思ったのをはっきりと覚えている。

 

 

 

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 『結界の間』へと続く道は、過去に視察へ行ったため覚えていた。

 当時の枢機卿が「ここはいざという時のシェルターにもなっているんですよ」と案内してくれて、流石に中には入れなかったが物々しい気密扉に気圧されたのを思い出す。

 

 傲慢の魔女ドローレスの使い魔達はいつの間にか少なくなっており、大方港でアレン君達にやられたか、崩壊していく神殿に圧し潰されてしまったかのどちらかだろう。

 

 《結界(シールド)》で身を守りながら結界の間へ行き、重たい開閉ハンドルをゆっくりと回せば、部屋の中にはポカンとした表情のユーフィリアさんがいた。

 

 そんな彼女につい「一人になっちゃ駄目だよ(意訳)」と言えば、ユーフィリアさんはつかつかとやって来て───俺の頭をメイスで思いっきり殴った。

 

「いたーーーーー!!!」

「なーにしているんですか!? というか何でここにいるんですか! 今すぐ帰りなさい!!」

 

 何か思ってた反応と全然違う!!

 

 いや、そりゃそうか!

 倫理観の強いユーフィリアさんのことだから、結界の再生にこんな子供(俺)巻き込ませるわけにはいかねえとか思ってるんだよね!?

 それなのに俺がのこのこ来ちゃったわけだから殴ってでも帰らそうとしているのか!

 

「ごめんなさい! ユーフィリア様が大丈夫か心配になっちゃって………!」

「心配!? 誰が誰の心配をしているですって~~~!? 私は聖女ですよ!? ちょっと白魔法が使えるからって調子に乗らないでください!」

 

 ぶち切れながらも「帰った帰った」と言わんばかりに追い返そうとするユーフィリアさんに、俺はされるがまま引きすられていく。

 

 しかしその時、結界の間が轟音と共にドシンと揺れた。

 地震のような縦揺れに床にしゃがみ込んでしまう。

 

 しばらくして揺れが収まると、ユーフィリアさんは慌てた様子で開閉ハンドルを回し扉を開いた。

 

「塞がれている………」

 

 しかし扉の向こうは瓦礫によって埋め尽くされていた。

 神殿がいよいよ崩壊してしまったのだろう。

 

 ユーフィリアさんはゆっくりと扉を閉じ、その場で崩れ落ちてしまった。

 そして彼女は茫然とした様子で吐露する。

 

「あ、貴方は、貴方は………ここに閉じ込められるということがどういうことか分かっているのですか………!?」

「分かっています。神殿の結界が再生するまで何年も出られないんでしょう?」

「ほら、何も分かってな………え!? 分かっているのですか!?」

 

 俺の言葉にユーフィリアさんは顔を青くしたり赤くしたりする。

 そんな忙しそうな彼女の表情に苦笑しながら、俺は口を開いた。

 

「この結界の間で自分の身体を魔力炉として、何年もの月日をかけて魔力を流し込み、神殿の結界を再生させなければならないんですよね?

 具体的にどうするかまでは分からないけれど、ユーフィリアさん一人より、二人でやった方が良いと思ってここに来たんです」

「何で………」

「二人分の魔力を流し込めば、その分結界も早く再生されるかなって。そうしたら、ユーフィリアさんが早く解放されると思ったから」

 

 ユーフィリアさんが驚いたように目を見開く。

 

 ゲームのシナリオではユーフィリアさんが神殿の結界を再生するまでに5年の月日がかかる。

 それが長いのか短いのか、そこまで一人になったことは無いから分からないけれど、俺だったら気が滅入ってしまいそうだ。

 

 それにユーフィリアさんが結界の再生を無事終えて外に出た時、彼女は聖職者達の堕落を目にする。

 そして『傲慢の魔女』へと変貌する。

 

 この時に、誰かが彼女の隣にいてくれたら何か違ったのかもしれないと思ったのだ。

 その誰かが俺みたいな頼りない存在で力不足であろうが………

 

(それに、ユーフィリアさんとは約束したから)

 

 彼女はきっと覚えていないだろう。

 けれど俺が領主をしていた頃、15歳のユーフィリアさんと確かに約束したのだ。

 

 もうどうにもならなくて一人になってしまった時、助けに行くと。

 

 シグレット・ワイヤーの姿で約束を履行しなければ意味が無いとは思うけれど、それでも勝手に約束を破るのは違うような気がした。

 

(まあ、助けに来てるといった感じではないんだけど………)

 

 むしろ迷惑がられてしまっている現状、何とも居た堪れない。

 

 するとユーフィリアさんはしばらくして、ぽつりとこぼした。

 

「…………何年も、何十年もここにいなくてはならないかもしれないんですよ」

「はい」

「私だけならともかく、貴方まで犠牲になる必要なんてないのに…………」

「……………ユーフィリアさんは、一人の方が良かったですか?」

 

 それを言えば、ユーフィリアさんの顔はくしゃりと歪んだ。

 俺を見つめているのに、俺じゃない何か見ているような感覚がする。

 

 ユーフィリアさんは、俺を通して一体何を見ているのだろう。

 

 そしてしばらくして、ユーフィリアさんは大きく息を吐き俺のもとへ近寄る。

 また怒られるかもと身構えていると、彼女は俺を───そっと抱きしめた。

 

「ユーフィリアさん?」

 

 それにぎょっと驚いて、思わず硬直してしまう。

 すると彼女は困ったように笑みをこぼした。

 

「…………貴方は───シグは、本当にお馬鹿ですね」

「す、すみません」

「でも、私も聖女失格です」

 

 そんなことはない。

 そう否定しようとすれば、それよりも前にユーフィリアさんが口を開いた。

 

「私はまだまだ未熟者で、聖女という称号を持つだけの信徒に過ぎないことを思い出しました。だからここから出た後も、たくさん、たくさん、色んな人に手を貸してもらわねば生きていけないでしょうね」

 

 ユーフィリアさんが顔を上げる。

 桃色を帯びた美しいブロンドの髪がさらりと揺れた。

 

「そのためには結界を再生して、早くここから出ないといけませんね」

 

 仕方がなさそうに目を細めるユーフィリアさんに、俺も「はい」と頷く。

 

 良かった。

 ユーフィリアさんが笑顔になってくれて。

 

 それだけでも、ここに来た甲斐があるというものだ。

 

 

 

 

 

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