【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
路地裏から聞き覚えのある声がしたと思い向かってみれば、そこには成長した姿の勇者アレン君達がいた。
10年の時が経ってしまっているせいか、どこか幼さを遺す18歳の青年だったアレン君が28歳の精悍な大人に。
あの頃の溌溂としていた瞳は陰り、ほんのわずかに人相が悪くなっているような気もしなくもないが、きっとこの10年間たくさん苦労することがあったのだろう。
そりゃ変わらない方がおかしい。
見ればアレン君だけじゃなくて、聖女のユーフィリアさんに魔術師のイゾルテさん。戦士ガイウス君までいる。
皆大きくなっていて、おじさん何だか嬉しくなっちゃうよ。
(しかもイゾルテさんがいる! 魔術に詳しいイゾルテさんなら俺が子供の身体になっちゃったと言っても信じてくれるはず!)
魔術に対して何の教養もないため詳しいことは分からないが、きっとイゾルテさんなら「《
そして俺は満面の笑みを浮かべて彼らに話しかけた。
「みんな久しぶり! いやあ、砦を守ろうとスキル使ったら子供の姿になっちゃってさ。気付いたら10年も経っていて、びっくりしたよ! あ、覚えてる? こんな姿になっちゃったけど、俺シグレット・ワイヤーなんだよね!」
アレン君達に会えた嬉しさでテンションが上がってしまう。
体感時間は一瞬であったが10年経って街の様子が随分と変わってしまっていたし、知り合いもいないのだ。
そんな中で領主時代世話になった勇者一行に会えたのだから気持ちが高ぶってしまう。
おまけに皆想像取もずっとかっこいい大人に成長してて、それに対しても感動してしまった。
「アレン君大きくなったねえ~! 領主時代は俺よりも小さかったのに、あれから随分と背が伸びたんじゃない? ユーフィリアさんもイゾルテさんもすっかりお姉さんになったんだねえ。ガイウス君なんてますます逞しくなっちゃって!」
気分は親戚の子供にウザがらみをするおっさんである。
だって本当に皆見違える程変わっていたのだ。
けぶるような金色のつんつん頭だった若獅子の勇者アレン君は、いつの間にか髪を後ろへ流すようになっていた。
粗野さは残しつつも、そこにはかつてなかった落ち着きがあり年月の重みを感じさせる。
14歳だった頃はまだ幼さの残る聖女ユーフィリアさんも、今ではすっかり成長して、腰まで伸びたピンクブロンドの髪を揺らしている。
儚げだった面影の奥に、優しさと仕事のできる大人の女性としての気配を宿していた。
イゾルテさんは背伸びするように官能的な装いをしていた昔とは違い、今では年相応の装いがよく似合う。
落ち着いた雰囲気は以前よりもずっと大人びて見えた。
ガイウス君も元々筋肉質な体つきだったが、さらに逞しさを増している。
一方で、顔立ちはどこか柔らかく、積み重ねてきた苦労の跡が静かに滲んでいた。
(みんな、大きくなって…………!)
ちょっと泣きそうである。
しかしその時、アレン君達の様子がおかしいのに気付いた。
怪訝そうに眉を寄せて、まるで意思疎通できない魔物でも見るかのように俺を眺めている。
(あ、あれ? 俺、シグレット・ワイヤーって言ったよね? ちゃんとスキル使ったから、こんな姿になっちゃったって説明もしたよね?)
まあ、確かに簡単には信じられないかと思い直す。
けれどふとある重要なことに気付いてしまった。
…………もしかしてみんな、{シグレット・ワイヤー《おれ》のこと忘れてる?
俺の命日ということでこの領地に来てくれていると思っていたが、実はそうでもないのだろうか。
しかし冷静に考えてみれば、俺のことを忘れている可能性は高い。
シグレット・ワイヤーなんて彼らの旅路の途中で休憩がてら立ち寄る土地の領主なだけで、彼らからしたら俺なんかただのおっさんでしかない。
まだ俺の領地で何らかのクエストやイベントがあれば記憶に刻み付けられるだろうが、普通に人が暮らす長閑な街で特にこれといったシンボルもないのだ。
そんな土地の領主なんて、過酷な旅の記憶に残らなくて当然だろう。
それでもどうにか思い出してほしくて、俺は慌てて口を開いた。
「ほ、ほら! シグレット・ワイヤーって覚えてる? この街の領主をしていて、ちょっとくたびれた感じのおっさんのことを! いつも秘書さんにバシバシしばかれていた、あの情けないおっさんの!」
その時、アレン君達がぴくりと反応した。
「本当にダメな大人だったよねえ………。仕事も全然できなくてさ。もっと領民達が楽できるように働かなくちゃいけないのに、要領が悪かったからいつもヘマばっかして。いい年した大人なのによく泣いてたりして気持ち悪かったよね!」
あの頃は本当に駄目駄目だった。
税金を徴収しているんだからもっと領民達に還元しなくちゃいけないのにうまくできず、毎日夜遅くまで残業していた。
俺一人の頭だけじゃ良い案は思いつかず仕事もできないため、よく侍女兼秘書さんや領内にある商業ギルドのギルド長、また各村の村長を集めて会議をしたものだ。
アレン君の肩がふるりと震えた。
「今思い出しても本当に恥ずかしいよ。君達が出会ってきた大人の中で一番頼りなかったんじゃない? ま! アレン君達が忘れても仕方がないよ! だってその程度の人間だったんだから!」
そう言い終えた瞬間、俺の身体はゴム毬のように後方に吹っ飛んだ。
路地裏の建物の壁に背中から衝突し、何が起こったのか分からず目を回す。
腹と背中がに鋭い痛みが走り、自分は蹴られたのだと理解した。
あまりの衝撃で起き上がれず、目を白黒させながら地に伏せっていると、俺は胸倉を掴まれそのまま無理矢理立たされた。
目の前には眼孔が開き切ったアレン君がいる。
そして俺の胸倉を掴みながら、底冷えするような声音で口を開いた。
「……───誰が
「え?」
「何にも知らねえくせに………あの人がどれだけ凄い人なのか知らねえくせに、分かったような口聞くんじゃねえよ」
アレン君の様子に戸惑う。
すると彼は堰を切ったように話し出した。
「あの人が情けないだと? 魔物によって死んでいった領民達を思って泣くあの人のどこが情けねえんだよ!! 領主としての仕事だって、あの人程真面目にやっている奴はいなかった!!
他の道楽貴族共が贅をすする中、あの人がどれほど身を粉にして働いてくれたか、今のガキには分かんねんだろ!!」
怒りに震え、凄まじい形相で叫ぶアレン君に目を丸くする。
「あの人だけだったんだぞ!! 俺達に『逃げてもいい』と言ってくれた大人は!! それをお前は───!!!」
俺の胸倉を掴んでいない方の腕がゆっくりと振り上がる。
殴られる。
しかしそう思った瞬間、アレン君の腕をガイウス君が掴んだ。
「もう止めとけ。こいつはガキなんだぞ」
アレン君の動きが止まる。
そしてしばらくして、彼は俺の胸倉から手を離した。
その反動で俺は地面に崩れ落ちる。
「…………あの人が命をかけて守った結果がこれかよ」
アレン君が心底幻滅した様子で吐き捨てる。
それから彼はゆらりと動き、その場から踵を返した。
それにガイウス君もイゾルテさんも続いていく。
「《
同情してくれたのか、ユーフィリアさんが俺の身体に回復魔法をかけてくれた。
けれど彼女と目が合わない。
そして彼らは俺を置いて、姿を消してしまった。