【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう   作:ふくふくまる

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第31話 結界の間、崩壊

 

 

 

 結界の間にて、魔石の結晶が無色透明になったということは神殿の結界が再生されたことを意味する。

 俺のかけた《身体強化(ブースト)》がまだ続いているのか、バフ状態で虹色に淡く光るユーフィリアさんが呆然とした様子で立ち尽くしていた。

 

 そんな彼女に俺はおそるおそる声をかける。

 

「あの………魔石の結晶がこのような状態になったということは、神殿の結界が再生されたってことで良いのでしょうか?」

「…………え、ええ………ですが、何でこんな、早く………」

 

 ユーフィリアさんがぼうと透き通った魔石を見つめる。

 一体何が起きているか、理解できていないようだった。

 

 けれど俺は、魔石がこのように透き通り、最速で結界が張られたこと対しての理由が何となく分かるような気がした。

 

「……………ユーフィリアさん、今まで神殿の結界を張り直す作業は、ずっと誰かが一人でやってきたんですか?」

「そうですね。前回の聖職者も、一人で行い、20年もの月日をかけたと」

「それが理由なんじゃないでしょうか?」

 

 あっけらかんと言ってみせる俺にユーフィリアさんが首を傾げる。

 それに俺は苦笑しながら続けた。

 

「一人でやっていたから、単純にすごく時間がかかっちゃったのかなって。もちろん一人で行うことに何か意味があるのかもしれないけれど………聖属性の魔力を込めるなら、人は多い方が良いと思うし、今みたいに《身体強化(ブースト)》をかけて力を分け与えることもできるんじゃないでしょうか」

 

 つまり、そういうことなんじゃないだろうか。

 俺は魔石の結晶に魔力を流し込むことはできなかったけれど、ユーフィリアさんにバフをかけることはできた。

 元々のユーフィリアさんの能力の高さが更に底上げされ、このような結果になったんじゃないかと思う。

 

 するとユーフィリアさんがぽつりとこぼした。

 

「そんな簡単な話ではないと思いますが………」

「あ、そ、そうですよね」

「───ですが、シグが私に手を貸してくれたからこのような結果になったと理解できます」

 

 ありがとう。

 そう言って静かに微笑むユーフィリアさんに俺も釣られて笑みがこぼれる。

 そして気を取り直し、俺はユーフィリアさんに口を開いた。

 

「あとはここから出るだけですね! ………ところでどうやって出るんでしょうか?」

 

 現在神殿が崩壊し、生き埋めになっているのだ。

 特殊な魔石の力によって俺達の身体は今特殊な状態のため食料も空気も必要ないのだけれど、出れるのならば早く出たい。

 

 そんなことを考えていると、ユーフィリアさんがぴしりと固まってしまった。

 それから引き攣った笑みを浮かべ、もごもごとしながら話し始める。

 

「え、えっとですね」

「はい」

「出口はですね、私達が出入りしたそこの気密扉しかありません」

「へ?」

「そ、そもそもこんなに早く神殿の結界が張れるだなんて思ってもいなかったんです! 結界の再生をしている間に、外にいる者達が瓦礫の撤去をし、外へ出れるよう整備してくれることを想定していたんです! …………だから、しばらくは出られませんね」

 

 えへっと誤魔化すように笑うユーフィリアさんに「ええ……」と内心戸惑ってしまう。

 

 いや、でもしょうがない。こんなことになるのはユーフィリアさんも俺も想定していなかったのだ。

 けれど神殿の結界が再生されたと外の人達にも周知されているはず。きっとすぐに瓦礫を撤去して、出られるようにしてくれるだろう。

 

「それじゃあ、しばらくの間はここにいるしかありませんね。ユーフィリアさん、どうぞよろしくお願いいたします」

「あ、いえいえ、こちらこそしばらくの間よろしくお願いします」

 

 するとその時、気が抜けたのか。

 ふっと立ち眩みを起こしてしまった。

 

 新しい白魔法を使った影響もあって、魔力がごっそりと持っていかれた感覚がする。

 それにユーフィリアさんが慌てて俺の身体を支えてくれた。

 

「大丈夫ですか? しばらく横になっていなさい」

「すみません。ユーフィリアさんは大丈夫ですか? きっと神殿の結界の再生のために、大量の魔力を流し込んだと思うのですが………」

「私は大丈夫ですよ。それにほら。まだシグの《身体強化(ブースト)》がかかっています」

 

 そっか。それなら良かった。

 

 そしてユーフィリアさんのお言葉に甘えて、一旦横になろうとする。

 ほっと一息つくと安堵からか、段々と眠たくなってきた。

 

(これでユーフィリアさんの魔女化する未来が無くなれば良いんだけど………)

 

 ユーフィリアさんの顔をふと見つめる。

 神殿で再会した時よりもどこか穏やかな表情をしていて、願うことならこの子にはずっとこういった顔をしていて欲しいなと思った。

 

 ───するとその時、どこからともなく何かを破壊するような轟音が鳴り響いた。

 

 遠雷にも似た重低音にその正体を探ろうと耳を澄ませる。

 すると音は次第に大きくなり、どうやら天井の向こうから近づいてきていることに気付いた。

 

 まるで何者かが瓦礫を砕きながら、この場所を目指しているかのようだった。

 

「何でしょうか、この音は………」

 

 ユーフィリアさんが怪訝そうにこぼす。

 

 もしかして、外にいる人達が急いで瓦礫を撤去してくれているのだろうか。

 それをユーフィリアさんも思ったのか、パッと表情を明るくさせた。

 

「もしかしたら、外の方達が私達を救助しようとしてくれているのかもしれません! 結界の間は万が一に備えて人が住む区画や礼拝堂の真下を避けて造られているんです。だから上に積み重なる瓦礫も比較的少なく、救助隊もここまで辿り着きやすいはずです!」

 

 そんな彼女の言葉に俺も表情を明るくする。

 けれど次の瞬間、どこからともなく甲高い耳鳴りがし始めた。

 

 キ―――ンと鳴り響くそれに、何だか聞き覚えがあった。

 

(………………この音って確か『魔冠のレガリア』の勇者アレンが《切り札(ラストコード)》を発動する時に使用されるエフェクト音にすごく似てる気が………)

 

 レベルが10~20の時は使えなかったり、即死したりするのだけど、レベル30以降になると安定的に《切り札(ラストコード)》が使えるようになるのだ。

 もちろんその代償として、HPやMPがごっそり持っていかれるわけなのだが…………

 

(………………あれ、ちょっと待って)

 

 キイ―――――…ィィン

 

 勇者アレンの《切り札(ラストコード)》使用時に使われるような甲高い音が段々と近付いてくる。

 結界の間が地震のように揺れ出して、上からパラパラと砂埃が落ち、どこからともなく地鳴りも響いてくる。

 

(もしかして、これってアレン君の───)

 

 そう気付いた時、ユーフィリアさんが咄嗟にメイスを掲げた。

 

「《結界(シールド)》!!!」

 

 そして彼女が虹色に瞬く《結界(シールド)》を展開した直後、まるで星が落ちてきたかのような衝撃が上(・)から放たれる。

 

「─────《天穹の星々よ、その身を地上へ堕とせ(ステラ・フォール)》!!!」

 

 勇者アレンの聖剣の一撃。

 

 結界の間の天井が粉々に割れる。

 天井の向こう側から眩い光が差し込む。

 壁が崩れる。

 床が裂ける。

 

 数百年もの間、いかなる災厄にも耐えるよう造られた結界の間が、まるで砂の城のように崩壊していった。

 それを目視した途端、俺はあまりの眩さと爆風に身を守るように蹲る。

 

 そしてしばらくして、衝撃は止み、辺りはしんと静まり返る。

 

 おそるおそる顔を上げれば、《結界(シールド)》を展開するユーフィリアさんと、天井にぽっかりと開く巨大な穴があった。

 穴からは透き通った晴天の空が広がっており、もう夜が明けたということに気付く。

 

 するとユーフィリアさんはメイスを下ろし、結界を閉じた。

 それから「はあああ」と重い息を吐き、穴の向こうに佇む一人の青年に声をかける。

 

「………………もしかして私達のこと、殺す気でした?」

 

 剣を鞘に納めながら、青年──アレン君が天井の穴から結界の間に下りていく。

 

「神殿の結界を一夜で修復させる程の腕前なんだ。俺が《切り札(ラストコード)》を使ったとしても、お前の《結界(シールド)》なら破れないだろう」

「いや、普通に貫通しますからね? 今回は色々あってバフがかかっていたから破れなかっただけですからね?」

 

 そしてユーフィリアさんの無事を確認した後、彼は俺に顔を向けた。

 

 逆光によって表情が見えなかったものの、今はきちんと彼の顔が分かる。

 地獄から這い出てきた鬼のような形相をしていた。

 

 怖い。とても怖い。

 

 ともかくアレン君は俺達を助けてくれたのだ。

 お礼を言わねばと身体を起こそうとした瞬間、アレン君がつかつかと俺の前までやって来て、上からじっと冷たい瞳で見下ろしてくる。

 

(あ、めちゃくちゃ怒ってる)

 

 そう思った直後、アレン君は俺の頭をゴンッと拳骨をした。

 

 そしてそれがトドメの一撃になったのか。

 

 疲労と衝撃により、俺は意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

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