【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう   作:ふくふくまる

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第32話 この世で一番嫌いなもの

 

 

 

 ふと目を覚ますと、地面に寝かされていることに気付いた。

 

 上体を起こして辺りを見渡すと、崩落した神殿から少し離れた場所に野営地が設けられているらしく、そのテントの中で俺は横になっていたようだった。

 

 ユーフィリアさんにかけた《身体強化(ブースト)》の影響と、アレン君の拳骨によって身体はだるいし頭も痛い。

 しかし寝ている場合ではないのでテントの中から顔を出す。

 

 神殿の瓦礫の周りには聖職者から冒険者などたくさんの人がいて、皆忙しそうに動いていた。

 ふと見慣れた顔が見えたため、俺は慌てて呼び止める。

 

「マリアベル!」

「───シグ!」

 

 台車を引き、瓦礫の撤去作業を手伝っていたようだ。

 髪を一つに束ねたマリアベルに声をかければ、マリアベルは一瞬笑みを浮かべた後──瞬時に地獄の鬼のような形相になってツカツカと近寄ってきた。

 

 そしてそのまま俺の胸倉をキュッと持ち上げ、口を開く。

 

「………………何か言うことは?」

「無茶ばかりして、ごめんなさい………」

 

 俺と同じくらいの背丈だというのに、力一つで俺を持ち上げてしまうマリアベルの怪力に内心慄く。竜人族(ドラコニア)ってすごい。

 

 そして彼女はじとっとした視線を送りながら、俺を地面におろしてくれた。続けて淡々と追及される。

 

「無茶って具体的には?」

「えっと、崩落する神殿に入ってしまったことです」

「そうよね? 何も言わず、一人で勝手に行っちゃったのよね? まだあの黒いカマキリみたいな奴がいるかもしれないのに。神殿の瓦礫に圧し潰されちゃう可能性もあったのに」

「は、はい、そうです」

「それで一人で、勝手に行って…………その後アレンさんや私がどんな気持ちで、崩れていく神殿を見たと思う?」

 

 申し訳なさ過ぎて顔を俯かせていると、マリアベルの声が段々小さくなっていくのに気付いた。

 そこでハッと顔を上げれば、マリアベルは顔を真っ赤にして目に涙をいっぱいに溜めている。

 

 怒りと悲しみと不安でごちゃまぜになった彼女の表情を見た時、俺の身体から一気に血の気が引くのが分かった。

 

 な、泣いてる………!

 

「ご、ごめん! 本当にごめんなさい! 俺の考えが浅はかでアレンさんとマリアベルにはものすごく迷惑をかけました! 本当にごめんなさい! な、泣かないで………!」

「迷惑!? 迷惑だなんて思ってないわよ! こっちがどれほど心配したか………!」

「ほ、本当にごめんなさい! もう二度とこんなことはしません!!」

 

 マリアベルの涙に人生で一、二を争うくらいテンパってしまう。

 いい歳した大人が12歳の幼い子供を泣かせるのってかなり胸が痛むし、とにかく泣き止んでほしいと願ってしまう。

 しかしそんな俺の思いとは裏腹に、マリアベルがぐすぐすと本格的に泣き出してしまった。

 

 あ、待って。つらいかも!

 子供泣かせるのって人生で一番つらいかも!

 

 ぼろぼろと涙をこぼすマリアベルにハンカチはないかと探すが見つからない。

 俺は自分の身に付けている白いローブの、比較的綺麗だと思われる裾で彼女の涙をそっと拭った。

 

「………………本当にごめんね」

「許さない。ずっと反省していれば良いわ」

「うん、分かった。でも許してくれなくても良いから、泣き止んで」

 

 マリアベルの顔が腫れてしまうと、ローブの裾で拭ってやる。

 それにマリアベルはされるがまま大人しくしている。

 すると彼女はぽつりとこぼした。

 

「……………大切な人が、自分よりも先に亡くなることがどんなに辛いことか、分かってほしい」

「……………うん、本当にごめんなさい」

 

 そんな彼女に俺は謝る。

 そしてマリアベルはしばらくして、溜め息を吐いた。

 

「まあ……………良くはないけど、良いってことにする。でも今度自分から危険な目に遭おうとしたら、今度こそ許さないから!」

「分かった。もう二度としない」

「………………それからアレンさんが見たことないくらい怒っているから、早く謝った方が良いわよ」

「ヴ、は、はい」

 

 マリアベルの言葉に素直に頷く。

 

 気絶する前に見たアレン君、相当怒っていたなあ………。

 ていうか俺ってアレン君に謝ってばかりなことをして本当に申し訳ない。

 

 そんなことを考えながら、俺はここにはいないアレン君と神殿の現状について思案した。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 マリアベルの話によると、あれから丸1日経過しているらしい。

 動くことができる者から神殿の瓦礫の撤去や生き埋めになっているかもしれない人達の救助をしているみたいで、つい先ほどエルドロス王国と王国に点在する聖堂の聖職者達に支援の旨を通達し終えたそうだ。

 

 そしてアレン君は神殿の瓦礫の撤去作業と救助。ユーフィリアさんは怪我人の治療と遺体の保全。

 それからマリアベルは瓦礫の撤去及び《エナジードレイン》《エナジーチャージ》による魔力供給を聖職者に行い、怪我人の治療のサポートを行っているらしい。

 

 辺りを見渡せば、皆ひいひい言いながらも動いている。

 ユーフィリアさんに嫌味を言っていた枢機卿──ラモット卿もぶつぶつ言いながら白魔法を使って怪我人の治療をしていた。

 

 俺も何かしなければ。

 そう思っていると、少し離れたところでユーフィリアさんとアレン君が話しているのが見えた。

 

 よし、まずはアレン君に謝ろう。

 それから俺は何をしたら良いか指示を仰ごう。

 

 見たことがないくらい怒っているらしいアレン君に声をかけるのは正直恐ろしいものの、とりあえず謝らなければならないと彼らに近付く。

 

 するとおそるおそるやって来た俺の存在にユーフィリアさんが気付いてくれた。

 

「シグ! 良かった! 目を覚ましたんですね!」

 

 パッと表情を明るくして声をかけてくれるユーフィリアさんに会釈する。

 そしてふとアレン君を見れば、彼はどこか遠くを見つめて俺の存在を無視していた。

 

 お、この反応を知っているぞ。

 納得いかないことがあったり意固地になっている時にアレン君はよくそうやるのだ。

 

(懐かしい)

 

 領主時代、裏森で突然現れたフォレストウルフの攻撃を、アレン君の代わりに俺が受けてしまった時もこんな顔していた。

 それにアレン君からめちゃくちゃ怒られたし、しばらく口を聞いてくれなかったのも覚えている。

 

「アレンさん」

「………………何だ」

 

 どうやら返事はしてくれるらしい。

 そんな彼に俺は真っ直ぐ見つめながら口を開いた。

 

「…………相談もせず、勝手に崩落する神殿に戻って申し訳ありませんでした。本当に、ごめんなさい」

 

 するとアレン君は何故がぐっと辛そうな顔をした。

 俺を見つめて───いや、俺という存在越しに何か別のものを見ているような気がする。

 

 何だろう。

 アレン君は俺を通して、一体何を見ているのだろう。

 

 すると彼は苦しそうにこぼした。

 

「………………俺は、自分の命を軽視して、他人の代わりに命を投げ出すような奴が、この世で一番大っ嫌いだ」

 

 そしてアレン君は俺を避けるように踵を返して去っていく。

 

 そんな彼の後姿に俺はふとある(・・)ことを思案した。

 

 

 

 

 

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