【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう   作:ふくふくまる

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第33話 それはきっと優しい力

 

 

 

 アレン君が俺やユーフィリアさんの前から去った後、ユーフィリアさんから「怪我人の治療を手伝ってほしい」と申し付けられた。

 

「シグは白魔法が使えるんですよね? 初級魔法の《治癒(ヒール)》で治療に当たってほしいのですが………」

 

 言い淀むユーフィリアさんに首を傾げる。

 すると彼女はおもむろに口を開いた。

 

「……………実は先程、アレンから貴方の白魔法について聞きました。結界の間で見せた《身体強化(ブースト)》といい、もしかしたら貴方の白魔法は一般的なものではない可能性があります」

「え?」

「貴方の白魔法がどういったものを調べるために、神殿へ鑑定しにきたそうですが…………残念ながら神殿は崩壊し、所属する鑑定士が先程遺体で発見されました」

 

 ユーフィリアさんの言葉にそうだったのかと納得する。

 

 今回の神殿での崩壊を通して、自分の使う魔法に違和感を感じることが多かったのだ。

 本来ならば生物を貫通することのない《結界(シールド)》や、結界の間でユーフィリアさんに放った《身体強化(ブースト)》の威力。

 似た性能であるものの、何かがずれているような自分の白魔法に疑問を抱いていたのだ。

 

 今回の神殿への旅の目的がアレン君の鑑定だけでなく、自分の白魔法の正体を明らかにすることだったと聞いて「やっぱりそうだったのか」と察する。

 

(でも神殿の鑑定士の方は亡くなられたから、結局俺の白魔法がどういうものかは分からず仕舞いになったわけか)

 

 自分の白魔法が何であるか結局判明せずもやもやするものの、亡くなられた鑑定士の方のことを思うとそういった気持ちになるのは違うだろうと反省する。

 

「鑑定士の方にはお悔やみ申し上げます。…………ただ、俺の白魔法がどういったものか分からない中、今回怪我を負った人達に《治癒(ヒール)》をかけるのは危険でもある、ということですよね?」

「ええ。ですが、先のレッドドラゴンによる王都襲撃でシグは《治癒(ヒール)》を使い、何の問題もなく怪我人を治療させたともアレンから聞いております」

 

 ユーフィリアさんがはっきりと告げる。

 

「病院のドクターによる経過観察を見ても異常はなく、魔術的な後遺症も呪いも見当たらない。むしろ本来再生されるはずのない欠損された部位も再生されたとのことで、《治癒(ヒール)》よりも上位の白魔法ではないかという見解がされているそうです」

 

 ふと王都でのことを思い出した。

 王都で俺はバルゴさんに怪我人の治療を積極的に行うよう言われたのだ。

 

 《治癒(ヒール)》ではないかもしれないけれど、白魔術師の数が圧倒的に少ない状況で、危険性も後遺症もないのなら四の五の言わずに治療しろという内情だったのだろう。

 

 そしてユーフィリアさんは俺の魔法に対してどのような判断を下すのか。

 

「私は、個人的には解明されていない白魔法を他者に対して使うことに忌避感があります。白魔術師として検証し、安全を保障した上で治療することが優先すべき事柄だと思うからです」

「……………申し訳ありません。俺も、ユーフィリアさんの言うことは尤もだと思います。なのに、王都では無差別に白魔法を使って………」

「あ、いえ、あの、責めているわけではなくてですね!? というかレッドドラゴンによる王都の襲撃の件では白魔術師がシグ以外一人もいなかった上に、そうせざる得なかった状況だったってことは分かっているんです。それにその状況でしたら、私もシグに白魔法による治療を命じていたと思いますし!」

「ですが俺は神殿に来るまで、マリアベルやアレンさん、それから瘴気汚染にかかった村の人達にも魔法を使っているわけで………」

 

 するとユーフィリアさんがじとりとした目で遠くを見つめた。

 

「それははっきり言って、監督者として止めなかったアレンが悪いですし、水掛け論となってしまいますので、この話はここまでにしておきましょう」

「ですが………」

「というかこういう感覚って、白魔術師以外の方達にはあんまりない感覚というか………! 白魔法を使わない方達って『結局治るんなら何だって良くない?』みたいに思っている節があるので、むしろ私達白魔術師の方が気にし過ぎみたいに扱われることが多々あるんですよ」

 

 そう苦笑するユーフィリアさんに、俺も心配かけないよう笑みを携える。

 

 ともかく俺が《治癒(ヒール)》をかけた王都の人達には引き続きドクター達が経過を見てくれるとのことであり、ココル村の人達には後程神殿の白魔術師を派遣して様子を伺うとのことらしい。

 

 そしてユーフィリアさんがうすく微笑みながら続けた。

 

「ここには白魔法を使える聖職者は比較的多くいます。なのでシグ一人が白魔法によって治療を行う必要はありません。ただ、今回の神殿の崩壊で、腕が潰れてしまったり、身体の一部を切除してしまったせいでうまく魔力が練れず、白魔法を行使することができなくなっている者達がいるんです」

 

 するとその時、ユーフィリアさんの後ろに配置されているテントから、こちらを様子を伺う複数人がいることに気付いた。

 

 身体中包帯が巻かれており、肩から腕を失くしている者や、倒れ伏しながらも俺の方をじっと見つめる者達がいる。

 決して縋るような視線ではなく、早くこっちに来て治療しろと訴えてくるような視線だった。

 

「シグ、貴方の白魔法には欠損した部位までも再生できる力があると聞いています。なので今回シグには、白魔法を行使することができなくなる程の重傷を負った聖職者の───いえ、白魔術師の治療をしていただきたいです」

「……………それは、後ろのテントの中にいる人達のことですか?」

「ええ、《治癒(ヒール)》でも何でも良いから早く治して、怪我をした市井の信徒達を治療させろ、とのことです」

 

 そしてユーフィリアさんが俺の目線を合わせるように屈んでくれる。

 

「シグ、貴方の白魔法はまだ分からないことだらけですが、その力が優しいものであるということだけは理解しております。ただ今後白魔術師として生きていくならば、自分の使う白魔法の理解を深めた上で行使することが大切なのです」

「………………はい」

「けれどその力を欲している者がいるのならば、与えてやりなさい。彼らはその身がどのようになっても構わないと、覚悟をもって貴方に乞うているのですから」

 

 ユーフィリアさんの言葉に静かに頷く。

 

 彼らは進んで俺のよく分からない白魔法を受けると言ってくれているが、だからといって俺に責任はないかと言われれば違うだろう。

 

 けれどユーフィリアさんが少しでも俺の心を軽くするためにそう話してくれたことに内心感謝する。

 

 この子はやっぱり、気高くて、どこまでも優しい。

 

 そうして俺は、治療を待つ聖職者達のテントへ足を進めて行った。

 

 

 

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「───おい、坊主! 何聖女様とうだうだ話してんだ! てめえらが呑気に話している間に誰かが死んだらどうする!?」

「そいつの治療より俺の治療を優先させろ! そいつの白魔法が復活するより俺の白魔法が復活した方が大局的に絶対に良い!」

「お前の白魔法なんか何だって良いんだよ! 早く俺の身体を治して怪我人の治療をさせろ!!」

「はい只今! 少々お待ちください!!」

 

 身体の一部を欠損してしまった聖職者(白魔術師)のテントに着けば、来て早々怒号が飛び交った。

 

 直前まで「まだ詳しく判明していない白魔法を使っても良いのか」だとか「俺のせいで変な後遺症が残ってしまったらどうしよう」だとか色々考えていたものの………まるでヤクザのような聖職者達によって詰め寄られる。

 

 少しでも躊躇すれば「てめえが気を失ってる間に俺達全員念書書いてんだよ!」と俺の白魔法で何らかの不具合が起こってしまっても訴えないといった書面を見せられてしまい、俺は顔を真っ青にしながら彼らに《治癒(ヒール)》(?)をかけていくのだった。

 

(何だろう。聖職者の人達ってもっとこう、おっとりとした雰囲気だと思っていたんだけど…………)

 

 神殿が崩壊するまでに何人かの聖職者達とすれ違ったが、こんな荒くれ者みたいな人はいなかった気がする。

 もしかして神殿の楚々としたイメージが壊れないよう意図的に隠されていたのでは……と大変失礼なことを考えてしまった。

 

 真っ赤な血で染まったシャツで止血しているものの、腕が取れかかっていたり、両目が失明している人達へ白魔法を施していく。

 白い光を放ちながら時間を巻き戻すように再生していく身体を前に、怪我をした聖職者達は息を呑んだ。

 

 そして治療を終えた瞬間、聖職者達はメイスを手に取り、我先にとテントを出て行く。

 

「ありがとよ、坊主!」

 

 颯爽と走り去っていく聖職者の男の後姿を目で追うと、要救護者がいるであろうテントの中へ入っていく。

 テントの隙間から、彼が倒れ伏している怪我人にメイスをかかげて《治癒(ヒール)》を施している姿が見えた。

 

 たくさんいる。

 誰かの命を救おうとなりふり構わず力を尽くす者が、たくさんいる。

 

 ユーフィリアさんの所属する神殿に、こういった人達もいるという事実に胸が熱くなった。

 

 そしてその日は一日、白魔法を使えなくなった聖職者達の治療を行った。

 それが終わると瓦礫の撤去作業を手伝い、少し休むよう言われて指定されたテントへ戻る。

 

 そこでぼうと横になりながら、自分の白魔法のこと───そして仲違いしてしまったアレン君のことについて考えた。

 

 アレン君はもう、気付いているのだろう。

 

 

 俺がシグレット・ワイヤーであることに、きっと気付いてしまっているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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