【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:ふくふくまる
どうしてこのタイミングで言ってしまったのだろう。
このタイミングで言ったって、絶対にアレン君は俺を『シグレット・ワイヤー』だと信じない。
リュシールの街で再会した時のように、怒鳴られて腹を蹴られるかもしれない。
もう一度痛い思いをするかもしれない。
けれどそれでも良いと思ったのだ。
俺が傷付くくらいなら、彼の気持ちが少しでも楽になる方法を選びたいと思ったから。
・
・
・
アレン君は振り返らない。
固まったまま、その場で立ち尽くしている。
「子供の姿になっているのはレベルが1のまま《
本来ならきっと、ここで俺がシグレット・ワイヤーだと打ち明けるべきではないのだと思う。
しかしアレン君はこの10年、ずっと信じてくれた。
死んだという事実を受け止めながらも、どこかで生きていると信じてくれていたのだ。
そんな彼に対して、これ以上自分の正体を明かさずにいることはできなかった。
「正体を明かしたら、謝ろうと思っていたことがあるんだ。
───アレン君、10年前のあの砦で君達に邪神討伐の旅から「逃げても良いんだよ」と言って、ずっと謝りたかった。
色んなしがらみがあって逃げられない君達に「逃げても良い」だなんて無責任なことを言って、ごめんなさい。本当なら俺達大人が「何とかする」と言うべきだったから」
アレン君から息を呑む気配がする。
そして俺はアレン君の後ろ姿に向けて淡々と続ける。
「それから、君達に、アレン君と再会したら話そうと思っていたことがたくさんあるんだ」
「俺がいなくなった後、どんな旅をした? どんな人達にあった? 昔話してくれたけど、アレン君は色んな街に行ってみたかったから勇者選抜を受けて、勇者になったんだよね」
「俺はレベル1だったから気軽に外には出れなくて………だからアレン君達が旅の話してくれる時間が、すごく好きだったんだ」
「そういえば、約束してくれたね。いつか一緒に冒険に行こうって。あの時は本当に嬉しかった…………まあ、それも今、叶っちゃったわけだけど」
「それから………大きな怪我や病気にはならなかった? ユーフィリアさんがいたから大丈夫だと思うけど、アレン君って結構我慢するタイプだったよね? ユーフィリアさんに魔力を消費させるくらいなら黙っとこうみたいなところがあったもんね」
「あとは………」
いつの間にか口からぽろぽろとこぼれてしまっていた。
アレン君と再会したら話そうと思っていたことが止めどなく溢れ出てしまう。
そして何よりも、彼に言わなければならないことがあるだろう。
「アレン君───いや、勇者アレン。10年前、見事邪神を討ち取ってくださり感謝申し上げます。…………本当に、本当にありがとう。この世界を救ってくれて、ありがとう」
アレン君がゆっくりと振り返る。
朝日によって白く瞬く金の髪に、涙の張った透き通るような碧眼。
どこか夢でも見ているような、それでいて信じられないような顔をして俺の姿を目に映す。
「アンタは……………」
けれど次の瞬間、アレン君の顔は陰り、視線を落とした。
そうだよね。
すぐに信じられるはずなんてないよね。
それでも良い。今はそれで構わない。
だって───
「アレン君、俺はこの先、自分がシグレット・ワイヤーであることをずっと証明し続けていくよ」
そう言えば、アレン君は顔を上げた。
そんな彼に笑みを浮かべてみせる。
何年、何十年かかっても構わない。
アレン君が俺のことを信じてくれなくたって良い。
(どれほどの年月がかかろうとも、俺がシグレット・ワイヤーであるということを証明していこう)
アレン君が長い年月をかけて俺の生存を信じてくれたのだから、俺もそれと同じくらいに、いやそれ以上に証明していかなければならない。
「信じてくれなくたって良いよ。嘘だと思って俺を遠ざけても良いし、蹴り飛ばしたって良い。ニセモノだって城に突き出したって構わない。アレン君が心を乱してまで、俺を信じる必要はどこにも無いよ」
そして薄く笑みを浮かべる。
「今はまだシグレット・ワイヤーを騙る偽物にしか見えないだろうけど……………アレン君の心が癒えて、気持ちが軽くなって『そういえばあんなおじさんいたな』って振り返った時に、俺に対して少しでも『似ているな』って思ってくれたら、それだけで嬉しい」
そう言えば、アレン君は目を見開いた。
何だか、段々自分でも何を言っているのか分からなくなってきたな。
ともかく俺はアレン君にシグレット・ワイヤーであることを明かしたのだ。
その責任をもって今後はそれを証明し続けていこう。
勿論、これに対してアレン君は信じる必要は一切ないし「あ、こいつ変なこと言ってるな」くらいの認識でいてくれて構わない。
(先立って証明できるのは、リュシール領の内部情報だけど守秘義務があるしロザリーさんに話を通さなきゃ難しいよね。それから神殿での鑑定はできなかったけど『アカデミー』でも鑑定はできるはず)
そんなことを思案しつつ、アレン君に一発殴られる覚悟で彼を見据える。
すると彼はゆらりと動いたかと思うと、俺と視線を合わせるようにしゃがんでくれた。
どうしたんだろうか。
俺の瞳をじっと見つめて、何か思案している様子だった。
そしてしばらくして、アレン君がぽつりとこぼす。
「………………………リュシール領の裏森で、俺とシグレットさんが散策していた時、スライムに襲われたよな。若返ったってことはあの時の傷は無くなっているのか?」
「え、あ、どうだろう。でもアレン君が綺麗に止血して、ユーフィリアさんがしっかり《
あれ、記憶違いだったっけ?
でも確かフォレストウルフに襲われたって言ったら心配かけると思って「スライムに襲われました」って言ったんだっけ?
それでアレン君には「内密にお願いします」って頭を下げたような………。
すると混乱している俺にアレン君が噴き出した。
「フォレストウルフで合ってるよ。………………………本当に、シグレットさんなんだな」
「え、待って待って。そんなすぐに信じてもらわなくても………」
しかしアレン君を見れば、ひどく穏やかな顔をして俺を見つめている。
そういえば、勇者一行がリュシールの領主街へやって来てくれる度にこんな顔をしていた。
迷子の子供がようやく家に帰れたような───どこかほっとした表情と同じで、その度に俺はアレン君達に「おかえりなさい」と言っていた。
「シグレットさん、おかえり」
アレン君が笑みを携えてそう言ってくれる。
それに俺は堪らなくなる。
そして昔、アレン君達が言ってくれたように告げた。
「───ただいま、アレン君!」