【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
俺は猛烈に後悔していた。
アレン君達が立ち去った路地裏に座り込みながら、先のことを思い出して自己嫌悪する。
(まさかアレン君達があんなに
元日本人らしく自虐で色々言ってしまったのだが、それによってアレン君を怒らせてしまった。その上まだ俺だから良いものの、子供を蹴とばすという行為をさせてしまって本当に申し訳なく思う。
(うわ~~~~~申し訳ない!! すごくデリカシーがなかった!! 自分が嫌になる!!)
きっともう彼らに俺がシグレット・ワイヤーだと言っても信じてもらえないだろう。
全部俺が悪いため仕方がないが、はあと溜め息を吐く。
(こうなったらアレン君達に事情を説明するよりも、もっと別の第三者から話してもらった方が良い気がするな)
幸いこの街には領主時代の知り合いが多くいる。
侍女兼秘書さんは遺書に「次の領主になるように」と書いておいたから、きっと女領主としてこの街にいてくれているだろう。
それに商業ギルドもまだあるらしいし、引退していなければギルド長もいるはずだ。
他にも領主時代に支えてくれた部下の人達が(まだこの街にいれば)会えるだろう。
(一旦アレン君達に信じてもらうのは諦めて、別の人に事情を話しにいこう)
そうと決まればと、すくっと立ち上がる。
ユーフィリアさんの回復魔法のおかげでどこも痛くない(感謝)
「できたらロザリーさんに会いたいなあ」
ロザリーさん。
俺が領主をしていた頃、お付きの侍女兼秘書として支えてくれたハーフエルフの女性だ。
すごく仕事のできる人で、あまりの俺の無能さに呆れながらも最後まで見放さなかった恩人である。
俺の秘書として仕事はある程度把握してくれてたため(というか俺以上に理解していたため)領主の後任に指名したのだ。
あの遺書通り事が運んでいれば、きっと今も領主をやってくれているだろう。
(10年経って辞めちゃったかもしれないけど………)
とりあえず領主館へ行ってみよう。
しかしその後、意外にも早く彼女を見つけることとなる。
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領主時代、ごくたまに俺は仕事を放って屋敷を抜け出すことがあった。
俺は普通の人間で、特別な何かを持っているわけでもない。
頭だってそんなに良くないし、誰かを守れるほど強くもない。
だから自分の政策が甘くて魔物による被害が防げなかった時、たくさんの人の命を取りこぼして死なせてしまったことが辛くて、耐えられなくて、屋敷を出て
大通りから少し離れたところの、小さな小鳥の噴水のある空き地だ。
建物の奥に隠れるようにあるその場所は誰も来なくて一人で泣くにはちょうど良かった。
この世知辛すぎる世の中で人の命の軽さに慣れることなく摩耗した時、一寸の光が差し込むその場所でぼんやりするのが癒しだった。
たまに侍女兼秘書のロザリーさんにぼこぼこにしばかれたり、商業ギルドのギルド長から会議で鬼詰めされた時とかも、その空き地に来てめそめそしていたこともある。
そこで領主館に行く途中にあるため、今も残っているかなと興味本位で見に行ってみたのだ。
どうなっているかなあと。
区画整理で潰されていないかなあと。
そしたら、いたのだ。
ロザリーさんと商業ギルドのギルド長───ウィット・クロード氏が。
「───あの魔物侵攻から10年か。どうだ。ロザリー女史。領主業には慣れたんじゃないのか?」
「慣れるものですか。あのへっぽこ領主がめんどくさい仕事を押し付けてきやがったせいで、私の人生めちゃくちゃです」
プラチナブロンドの髪を一つにまとめたハーフエルフの女性、ロザリーさんが無表情でぼやく。
それにグレーの短髪に笑い皺が印象的な渋い中年男性、商業ギルドマスターのウィット氏が苦笑した。
(ロザリーさんにウィット氏!)
懐かしすぎる顔ぶれにテンションが上がり、つい声をかけてしまいそうになる。
しかしアレン君達の前例を思い出し、俺は物陰に隠れてとりあえず彼らの様子を伺うことにした。
「大体この領地の立地が悪すぎるんです。南西部辺境にある物だから隣国とかなり近いし、魔物の棲む森もある。王都から離れている分、中央政府の目が離れて好きにやれますけど、ちょっと気を緩めると他国のスパイや魔物達が紛れ込もうとするんですよ?」
「俺達の上の代はそれで苦労したもんなあ。頑張って開拓しても魔物が荒らすし。でもシグレット様が色々と整えてくれたから、今こうして魔物被害も収まったんだよな」
「王都から腕利きの冒険者を呼んで罠を仕掛けたり、定期的に結界を貼ったりとかもしましたね。…………でもあれ、めちゃくちゃお金かかりましたよね!?」
「人件費がすごかったよなあ。もうちょっとうまく交渉してくれれば多少まけてもらえたのに、シグレット様は馬鹿正直にほいほい出していたもんな。ま! ポケットマネーだったから良かったけど」
ロザリーさんとウィット氏の会話に何だか居た堪れなくなる。
彼らの言う通り、魔物被害を減らすにはまず退治する人を呼ばなければならないのだ。
そんな腕利きの人はこんな辺境の土地にはいないから王都に直接出向いて、冒険者ギルドに依頼し、長期で受け持ってくれる人をここまで来させなければならない。
そして彼らが魔物退治をしてくれている間に魔物被害対策用の罠を仕掛けたり、魔術師から高値で買った結界用の護符を張る。
最初の頃はどの人が腕利きの冒険者が分からず苦労したし、護符だってぼったくられたことがあった。
その度にロザリーさんにしばかれていたことを思い出す。
「あの人じゃなかったら、もっとうまくやれていた政策や事業なんて山程ありますよ!」
「あるある。それにあの人、人を信じすぎるきらいがあるから他所との交渉がてんで駄目だったしなあ」
「おまけにこんな面倒くさすぎる領地を押し付けて………! あのへっぽこ領主、絶対に許しませんから!」
「俺もこんな辺鄙なところの商業ギルド長なんてやりたくなかったよ」
沸々とした怒りを滲ませるロザリーさんに、心底うんざりした様子で大きな溜め息を吐くウィット氏。
ロザリーさんはともかく、ウィット氏は外部から呼んだ人だ。
領地も安定してきて経済が回り始めた頃、それを取り纏めてくれる人が欲しいと思い商業ギルド(リュシール支部)を作ることを王都に訴え、王都にある本部からウィット氏がやって来てくれたのである。
仕事がめちゃくちゃできる人で、もし俺がここに呼ばなければ本部のギルドマスターになっていたかもしれない。
………というか。
(あれ? 何か俺、めちゃくちゃ嫌われてる?)
ロザリーさんとウィット氏から出てくる言葉は現状俺の悪口しかない。
本人がいない場で話す上司の悪口程楽しいものはないのかもしれないが、段々と悲しくなってきた。
(でも、そりゃそうだよな。領主時代にロザリーさんには俺が無能すぎるあまりに苛立たせてばっかりだったし、ウィット氏からも会議でにこにこ笑いながら毎回詰められていた)
そして全部ほっぽり出して(死んではないが)死んだのだ。
アレン君達は俺のことをすごく良く思ってくれていたが、俺の傍にいた人達からすれば「あいつに夢見んなよ」とのことだろう。
ここで呑気に登場しても「今更何戻って来てんだよ。ボウフラが」とどつかれる可能性が高い。
「……………」
脳裏にロザリーさんにしばかれていた時の記憶が蘇る。
(ロザリーさんの回し蹴り、腰が入っていてかなり痛かったな…………)
ウィット氏の笑顔の鬼詰めもめちゃくちゃ怖かった。
どういった理由でこの予算を出して、どういう意図でその政策をするのか。またそれに対しての予測や効果を明確に数字で出せないと淡々と説明を要求される。
これに関してはウィット氏は何も悪くなく、俺の仕事の出来なささが問題であるのだが、たまにちょっと怖くて涙が出ちゃってた。
(……………や、やっぱり正体明かすの、やめとこっかな?)
殺される未来しか見えない。
そして俺は二人にばれないよう、こそこそと後退した。
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「───でも、あの人くらいですよ。市井のこと、本気でどうにかしようと動いてくれた貴族は」
シグレット・ワイヤーが姿を消した後、建物の奥に潜むその小さな空き地でロザリーが目を細めながらつぶやく。
ハーフエルフとして長い生を受ける中、シグレット・ワイヤーはどこにでもいる凡夫だった。
頭も良くなくて、カリスマ性もない。
全ての状況を逆転するような閃きも魑魅魍魎蔓延る中央政府をうまく渡り合っていく程の権謀術数もない。
ただ、逃げなかったのだ。
魔物被害により何をやっても結局無駄。ならば今を楽しむしかないと現実逃避し、道楽に走る貴族が多い中、シグレットだけはどうにかしようと奮闘していた。
魔物に襲われて死んでいった人達の死に馴れず、取りこぼしてしまった命に嘆くシグレットの姿に多くの者が救われただろう。
おそらくシグレットは気付いていないが、領民のほとんどはここでシグレットが死者の魂を追悼していたのを知っている。
「王都の貴族に喧嘩売ってここに左遷されたが、あの人みたいな奴はどこにもいなかったなあ」
ウィットがロザリーの言葉に笑う。
違法な関税をしているとして、とある貴族を告発したが、それが原因でウィットは辺境の地まで飛ばされた。
しかしそこにいたのは、何だか頼りなさそうな
最初の頃は彼もそこいらの道楽貴族と同じだと斜に構えていたのだが、領地の厳しい状況をどうにかすべく手当たり次第やってみて、失敗し───たまに成功して一喜一憂する領主に絆されてしまった。
正しい政治をしようとするシグレットに、ウィットもまた救われたのだ。
するとロザリーは鞄の中から小さな酒瓶とショットグラスを二つ取り出す。
シグレットがこの領地を守るために死んでから10年。
毎年命日にこうして杯をささげてきた。
清酒が入ったグラスを手に取り、二人はそれを掲げる。
「献杯」
愛すべきへっぽこ領主、もとい英雄シグレット・ワイヤーに捧げる。
二人はそれをぐっと飲み干した。