【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう 作:性癖は脳焼き曇らせ
半年後。
思いの外部下や仕事仲間達から好かれていなかったことに傷付いた俺は、いっそのこと新たな人生を歩もうと思った。
動けばすぐに関節の音が鳴る中年男性の身体から、ぴちぴちの子供の頃の身体に戻ったのだ。
ちょっと走っても息が切れない。関節が痛まない。
身体は羽のように軽い体に生まれ変わった俺は、憧れの異世界生活をするために王都へ向かって冒険者ギルドに登録しようと考えた。
王都へ向かう途中野党や魔物に襲われたりもしたが、とりあえずそれは割愛するとして(多分聞いても大変だなあとしか思われないため)
無事に王都に辿り着いた俺は、これから冒険者として大成していくぞ!わくわくするような冒険に行くぞ!と浮かれに受かれていた。
───しかし現在。
冒険者ギルドのカウンターにて、俺はひらすら書類を捌いていた。
「冒険者の皆さま~~~! こちらのカウンターがお隙です! えっと何々? 《灰霧の森》霧狼の討伐に成功した? クエスト達成おめでとうございます!
基本報酬は金貨20枚、成功報酬はその一割増し。更に霧狼の魔石を持ち帰れば、一つにつき3%加算なので………魔石が5つで3%×5で15%。20枚の15%は3枚………合計で成功報酬金貨25枚ですね! 職員のおねえさん!! 成功報酬の準備をお願いします!!!」
「シグ!! もう少し静かになさい!!!」
冒険者が大勢いるギルド内にて、声を張り上げないと遠くにいる職員に気付いてもらえない。
そのため前世の居酒屋バイトで培った発声をすれば、報酬カウンターのおねえさん───モニカさんがこれまた大きな声で俺を叱った。
それに反省し、次はもう少し声の音量を下げて次の冒険者に案内する。
現在俺は冒険者ギルドの職員に交じって働いていた。
年齢国籍身分不問の冒険者として最初は登録していたのだが………。
俺が掲示板に張られたクエストの概要を見て必要資金を計算したり、文字の読み書きができない冒険者に代わってクエストの内容を読み上げたりしていたら、冒険者ギルドのギルド長───バルゴ・バートリーに声をかけられたのだ。
───お前、冒険者じゃなくて職員として働かないか?と。
この世界において簡単な文字の読み書きはともかく、その教育水準の低さから計算をできる者は限られているらしい。
おまけにたった12歳のひょろひょろの子供にやれるクエストなんてたかが知れている。
そのためギルドマスターのバルゴさんは冒険者として俺を使うよりも、職員として活用した方がまだマシだと考えたのだ。
正直冒険をしてみたかったが俺のやれるようなクエストはどれも低賃金で、その日の安宿の料金も払うことができない。そういったこともあり、俺は冒険者兼ギルドの職員のバイトとして働くことになったわけである。
(お金を貯めて、身体も鍛えて、いつか冒険者としてクエストに挑戦しよう)
それまでの準備期間だと割り切り、俺は今日もギルドのカウンターで働いていた。
「───よお、シグ! 今日も元気だな!」
「ヨルダンさん!」
するとその時、カウンターに顔見知りの冒険者一行が現れる。
パーティーリーダーの剣士ヨルダンさんに、その仲間である弓手の女性シルフさんと盾使いのリックマンさん。
ちなみに俺は現在『シグ』と名乗っている。
「ふふ、シグったらモニカにまた叱られているの? 仕事はできるんだから、もう少し落ち着いてやりなさいよ」
「いや、
シルフさんとリックマンさんが微笑ましそうに声をかけてくれる。
そんなヨルダンさん達一行に俺も何だか嬉しくなってしまう。
だって彼らは───俺が領主時代に王都から呼んだ冒険者の人達なのだ。
魔物被害から領地を守るべく、たくさんの腕利きの冒険者達を呼んだ。
随分昔のことだからほとんどの人達は引退してしまっただろうが、その中でも当時新入りだった彼らはまだ冒険者業を続けている。
ヨルダンさんやリックマンさんはともかく、今も若々しすぎる女弓使いのシルフさんに当初「娘さんかな?」と思ったものの、まさかの本人であったことに驚いた。
(みんなこんなに大きくなって…………!)
「おい、シグ。たまにやるその目は何だ」
「何だか親戚の子供みたいな気分になるわね」
「12歳のガキがいっちょ前に悟りやがって」
気分は遠縁のおじさんである。
するとその時、ギルド内がざわりと騒めいた。
建物の入り口を見れば、そこには勇者アレン君が立っている。
そしてそんな彼のもとに職員の人が駆け寄っていった。
「勇者アレン様、お疲れ様です。今回ドラン峡谷に棲み付いたアークドラゴンの討伐ですが───」
「もう終わった。表に素材をまとめて置いた」
「あ、ありがとうございます! ただ今計算させていただきます!」
アレン君は邪神を倒した後この冒険者ギルドの冒険者として身を置いているらしい。
ちなみに戦士ガイウス君は流れの傭兵をしているそうで、魔術師のイゾルテさんは他領にある魔術学校の特別講師として働いている。
また聖女ユーフィリアさんはエスカリ諸島にある教会本部に戻っているそうだ。
前回アレン君達を怒らせてしまった手前、ものすごく気まずかったりする。
するとアレン君は俺の方を一瞥し、そのまま何もなかったかのようにギルドの奥へ入って行った。
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アレン君に謝りたい。
謝りたいけど、それが自分の気持ちを楽にしたいがために謝ろうとしている打算もあるように思えて声をかけるのも憚られる。
休憩時間に入りギルドの裏にある階段に座ってぼんやりと思案する。
誤っても許されないことはたくさんある。
俺がアレン君達に仕出かしたそれもその内の一つだろう。
けれど、だからと言って謝らないのも不誠実だと思う。
「どうしようかな………」
すると次の瞬間、建物の裏口がガチャリと開いた。
思わず立ち上がって振り返ってみれば、そこには先程会ったアレン君が出てきたのだ。
向こうもまさか俺がいるとは思わなかったらしく、目を丸くして驚いている。
「………………お前は」
「え、ええと。ですね…………」
そして俺は腰を直角に曲げ、すぐさま謝罪した。
「───この間は本当に申し訳ありませんでした! 貴方にとってシグレット・ワイヤーが大切な存在であることを理解せず、軽率な言葉を口にしてしまったことを深く反省しております! 本当に申し訳ありませんでした!」
それからバッと顔を上げて、アレン君が何かを言う前に口を開く。
「あと、決して許してもらおうだなんて思ってもいないし、もしアレン君………じゃなくてアレンさんの気に障るようならギルドを辞めます。本当に申し訳ありませんでした」
そう謝罪し、彼の反応をじっと待つ。
するとアレン君はしばらくしてぽつりとこぼした。
「……………腹は」
「へ?」
「蹴り飛ばした腹は、もう平気なのか?」
そんな彼の言葉に俺はハッとしながら答える。
「え、ええ。ユーフィリアさんが《
そう返せば、アレン君はどこか安堵した表情で「そうか」と頷く。
それを見て俺が怪我をしていないか心配してくれていたことに「やっぱり良い子なんだよなあ」ともどかしくなった。
本当に彼には悪いことをしてしまった。
「謝罪は受け取った。それにお前がギルドを辞める必要はない。だが、金輪際ああいった口の利き方をするなよ」
「はい。申し訳ありませんでした」
「謝罪はもういい」
そしてアレン君はそのまま踵を返し、立ち去って行く。
謝罪を受け取ってもらえたことに胸を撫で下ろした。
内心何を思っているか分からないけれど、今後はあまり彼と関わらない方がお互いのためだろう。
(領主時代、アレン君にはたくさん冒険の話をしてもらった)
ああいったことはもうできないかと思うと寂しくなるが、他人として生きていくのなら仕方がない。
(アレン君達と再会したら
そんなことを考えながら、ぼんやりとその場で立ち尽くした。