【悲報】自己犠牲で死んだはずの悪徳領主、何とか生還したものの偽物扱いされてしまう   作:性癖は脳焼き曇らせ

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第8話 魔力を繋いで

 

 

 

 レッドドラゴンの襲撃によって王都は地獄と化していた。

 貴族街への正門は閉ざされ、王都の人々はその門前でテントを張って避難している。

 

(まさかあんなところにマリアベルがいるとは………あとあのおじさん、どこかで見たことあるような………?)

 

 そんなことを考えつつ、俺は負傷者の治療を行っていた。

 

 城下のドクターやナース達と協力して、レッドドラゴンによって傷を負った者達に《治癒(ヒール)》をかけていく。

 

 軽傷者から重傷者に分け、傷の軽い者は医療知識のあるドクターとナースが、重傷者は《治癒(ヒール)》の使える俺が担当して治療をしている。

 けれど………

 

(めっちゃ怖い! 医療知識が全くないド素人の自分が、自分でもよく分かっていない魔法の力で傷を治してくのってかなり怖い!)

 

 《治癒(ヒール)》によって傷はみるみる塞がり、まるで時間を逆再生するかのように回復していく。

 しかしそれが反対に現実味が無さすぎて、きちんと治療できているか不安になってしまった。

 

(これって変な神経と神経を繋げちゃってないよね? 本当は傷を塞ぐ前に抗生物質的なものを入れてから《治癒(ヒール)》かけなきゃ駄目とかないよね?)

 

「あ、あの! 先生? 先生ーーー! 俺《治癒(ヒール)》かけちゃってるけど、ちゃんと治せてる? 変な感じになってない??」

「どれ見せてみろ! ……───(見たところ内部の腫れや赤み、神経異常も見当たらない。ただ念のため検査も必要とするが、今のところは)バッチリだ!!!」

 

 何だかめちゃくちゃ含みを持たせられた気もしなくはないが、筋骨隆々のドクターからのOKも貰い、とりあえず安堵する。

 

 治癒系の白魔術を使える者はこの世界で数が少ないため正解が分からないのだ。

 こんなことになるなら勇者パーティーの白魔術師、ユーフィリアさんの話をもっと聞いておけば良かったと内心後悔する。

 

 そしてそれとは別に、目の前の光景に顔を背けたくなるのも事実だった。

 

 瓦礫によって手足がひしゃげている者。

 

 内臓が腹からまろび出ている者。

 

 とんでもない量の血を流してピクリとも動かない者。

 

 彼らはまだ良い。治せるからだ。

 

 けれど俺のもとに運び込まれない遺体が、ナースや冒険者によってどこか別の場所に移動されるのに気付き絶望する。

 

 最初から死んでいたのかもしれない。

 けれどもしかしたら、俺が《治癒(ヒール)》をかけるのが遅くて、時間がかかって、その間に息絶えてしまったという可能性もあるのだ。

 

(そもそも俺が《切り札(ラストコード)》を使えていたら───)

 

 それを考えた時、途方もない罪悪感に蝕まれる。

 

「治ってる………! ありがとう、本当にありがとう………!」

 

 レッドドラゴンの息吹(ブレス)によって片足が焼け爛れてしまった男を治療すれば、彼に泣きながら礼を言われる。

 

 それに首を振り、次の重傷者が目の前に運び込まれようとした───次の瞬間。視界がぐらりと歪み、一瞬意識を飛ばしてしまった。

 

(魔力切れ…………!)

 

 全身の力が一気に抜け落ちていくような感覚がした。

 そのまま地面に倒れ伏し、心臓が底冷えするような寒気で身体ががくがくと震え出す。

 

「おい、大丈夫か!? もしかして魔力切れを起こしたのか!?」

 

 俺の様子に気が付いたドクターが慌ててこちらに駆け寄ってくる。

 すると傍で治療の手伝いをしてくれていた冒険者が口を開いた。

 

「こいつはギルド職員で、ついこの間まで《治癒(ヒール)》も使えなかったんだ………! そんな奴が立て続けに《治癒(ヒール)》を使い続けたんだ。魔力だって、切れるだろう………」

 

 辺りがしんと静まり返り、絶望に包まれるのが分かった。

 

 MPを回復するためのマジックポーションは手元にない。

 ドクターが俺の身体を支えてくれるものの、指先一つ動かすことはできなかった。

 

 どうしよう。

 怪我をしている人はたくさんいるのに。

 

 するとその時、子供の声がぽつりと聞こえてきた。

 

「…………………じゃあ、お母さんは助からないの?」

 

 ふと視線を動かせば、少し離れたところに5歳くらいの小さな女の子がいた。

 

 その女の子の傍らにはぐったりと倒れている女の人がいて、腹部に木材が刺さり夥しい量の血を流している。

 

「お、お母さん、わたしを庇って、お腹に木が………! 近所の人達にここまで運ばれて、もう大丈夫だよって。お母さん治るよって言われて………! でも、お母さんもう動かないの。助けられないの………?」

 

 しゃくりあげながら話す女の子に頭が真っ白になる。

 

(最悪だ…………!)

 

 早くしないと、その子の母親が死んでしまう。

 

 死んでしまったら《治癒(ヒール)》で治療はできても蘇生はできない。

 

 頼むから動いてくれと力を込めるものの、指先一つ動かない。

 

(このままじゃ駄目だ。どうなっても良いから、俺はどうなっても良いから、この子のお母さんは治さなきゃ。でも魔力が湧かない。どうしたら良い? マジックポーションは誰か持っていないのか? 早くしないと、この子のお母さんが…………!)

 

 領主時代、自分にも聖属性の魔力があると分かって《治癒(ヒール)》を覚えようとしたことがあった。

 

 けれどその時はうまくいかなくて、後から聞いた話によると、魔法の発現は成熟する前の身体───つまり子供の内に行わないと『魔法を使える体質』にならないそうだ。

 

 それを聞いて、すごく後悔した。

 転生してこの世界に慣れるのに手一杯だったけれど、もっと早く神殿で鑑定していればとか、どうして小さい頃から魔法を覚えようとしなかったんだとか自分が嫌になるくらい後悔した。

 

 俺が魔法を使えたら、きっと誰かを救えていたかもしれないのに。

 

(今度こそ、身体が縮んだ今、誰かを救えると思ったのに───!)

 

 焦燥と後悔で胸が綯交ぜとなり、無力感で項垂れる。

 

 しかしその時、雲を割るような少女の声が辺りに響き渡った。

 

「───みんな私に魔力を渡して! 集めた魔力をこの子にチャージさせるから!」

 

 そこにいたのはマリアベルだった。

 

 真っ白になるくらい手を握りしめて、緊張した面持ちでそう言い放った彼女に視線が集まる。

 それにマリアベルはびくりと肩を震わせ、意を決した様子で続けた。

 

「わ、私は竜人族(ドラコニア)の娘よ! 竜人族には生まれつき《エナジードレイン》と《エナジーチャージ》のスキルを持ってる! みんな多かれ少なかれ魔力を持っているでしょ!? 私が集めた魔力をその子に渡す! だからみんな、協力して! 協力してください!」

 

 そんな彼女の悲痛な叫びに俺はあることを思い出す。

 

 RPG『魔冠のレガリア』第二作目に登場する憤怒の魔女───マリアベル。

 MP(魔力)を吸い取り、その集めた魔力によって特大魔法を繰り出す厄介な敵だ。

 

 将来厄災の魔女となり得る少女が震えながら佇んでいる。

 そんな彼女の視線の先には、小さな女の子と血塗れになりながら倒れ伏す母親がいた。

 

 するとその時、マリアベルの後ろから先程一緒に逃げたおじさんが現れた。

 そして彼はバッとマリアベルに手を差し出す。

 

「ほら! 魔法も行使できねえミソっかすな魔力だが、全部もってけ!」

「オスカーさん…………」

 

(オスカー………?)

 

 マリアベルの口にしたその名に、ふとある人物が脳裏を過る。

 

(オスカー? オスカーって、もしかしてリュシール領の…………)

 

 するとそれを皮切りに周囲の人々が次々と立ち上がり、マリアベルに手を差し出した。

 

「嬢ちゃん、少ないが俺のも………」

「私ので良ければ、ぜひ…………!」

 

 そんな彼らに向かって、マリアベルは手をかざす。

 

 次の瞬間、差し出した人々の手から真っ白な光の粒が現れ、それは吸収されるかのようにマリアベルの身体に入っていく。

 

 固有スキル《エナジードレイン》

 『魔冠のレガリア』第二作目のゲームをしていた時、《エナジードレイン》後に放たれる特大魔法があまりにも凄まじくて───魔力を吸収し白く輝くマリアベルをプレイヤー達は『死の天使』と呼んだ。

 

 その天使が俺に向かって手をかざす。

 

 そして、叫ぶ。

 

「───《エナジーチャージ》!!」

 

 マリアベルの集めた魔力が一気に俺に吸収されていく。

 

(あたたかい)

 

 底冷えするような寒気は段々と治まっていき、日向に当たるように身体が温かくなる。

 

 震えは止まり、段々と意識がはっきりと覚醒していく。

 ゆっくりと体を起こし、額に濡れた脂汗を拭った。

 

 視界も、開いていく。

 

(───いける。まだ、やれる)

 

 おそらくギルドの魔術師達はレッドドラゴンの討伐に出っ張らっている。

 そのためここにいるのは魔法を使う程の魔力を持たない人達ばかりなんだろう。

 

 そんな彼らから集めた魔力はごく僅かだけれど、それでも十分だと思えた。

 

 だってこれで、女の子のお母さんを助けられるから。

 

「───誰か手を貸してください! お腹に突き刺さってる木材を抜きながら《治癒(ヒール)》をかける!」

 

 そう叫べば、ドクターが「任せろ」と言い放つ。

 そして女の子の母親のもとへ駆け寄り、俺は今度こそ手をかざした。

 

「《治癒(ヒール)》!!」

「───ッ」

 

 腹に刺さった木材を、ドクターがなるべく痛みを感じさせないように慎重に抜いていく。

 それに女の子の母親が呻き、俺も彼女がショックで死なないように願いながら治癒する。

 

 そうして血まみれの木材は全て引き抜かれ、《治癒(ヒール)》によって腹は癒えていった。

 傷一つない真っ白な肌に胸を撫で下ろし、すぐさま彼女の顔を窺う。

 

 ぐったりしているものの、顔色は悪くない。

 呼吸はゆっくりと安定していき、どうやら精神的な疲労から気を失っているようだった。

 

 その様子に俺は心から安堵し、深く深く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

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