昏き星のアドラスタ -第二王子は如何にして魔女と共に王位を簒奪したか-   作:鴉の子

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オリジナルは初めてなので初投稿です。
間違えて途中で投稿しかけたのは内緒だ!


第1話:物語るは魔女

 

 ────これは、御伽話。

 

 王子様と、魔女が、悪い王様を斃すだけ。

 

 まず、初めに。青空の下、王子様と王様が、仲良しだった頃からお話は始まります。

 

 たった一人、世界に堕ちてきた孤独な王子様と、それに寄り添う優しい王子様。

 

 まだ、二人が暖かな光の中で、穏やかに微笑んでいた時。

 

 右手、まだ繋がれていた優しき日々のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄は、本当に優秀な男だった。優しく、聡明で、武勇に優れ、人心を理解する。そして、良き兄だった。

 遠乗りに行った時精巧な、母に似た金糸のような髪を風に揺らして、俺に様々な物語を語ってくれたことを、今でも鮮明に思い出す。

 それを聞いて、なるほど、兄の語る物語に出てくる王子様というのは、目の前の男のような奴なのだろうなと思っていたことを思い出す。

 

 そうして、いつかのこと。

 

『俺の可愛い弟よ! 俺は、王になろうと思う!』

 

『何バカを言ってるんですか、言われなくてもなるでしょう兄さんは』

 

『ああ! だが、なるにしても目標は必要だ! だから』

 

 だから? 5年前、12の時。まだ兄の瞳に映る景色を、理解できていなかった頃。

 

『お前と母上のために、()()()()になろうと思う!』

 

 なんとも、眩しい言葉だった。まだ若き王子の、いつも、物語を語るときのような大言壮語。俺は、それを鼻で笑ったことを覚えている。

 

 そう、それが、まだ世界と兄が血に塗れていなかった頃の、最後の記憶だった。

 

 

 

 

 

 

 王歴1102年、イスタリア王国は、世界の敵となった。

 

 第一王子、ジョシュア・アランキール・イスタリアは当時、父である先王を謀殺し、国王となった叔父を自らの手で斬殺、国王の座を簒奪。

 

 その後、若き王は2年は善政を敷くとともに、国力の増加に尽力していたが、突如、苛烈な拡張政策へ方向を転換。

 

 大陸統一を目指して周辺諸国への“聖戦”を繰り返し、大陸の版図を拡大。戦乱は燎原の火の如く広がり、イスタリア王国以外の諸国は血と、飢えに苦しむこととなる。

 

 そして、今も。

 

 人々は、竜と、太陽の化身と言われる王に熱狂する。戦乱は死と、飢えをばら撒きながら、民衆の狂気と、王の輝きによって進んでいく。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無論、そんな筈はない。局地的に敗北することもあるだろう。だが、それが、プロパガンダであれ、それを信じてしまうほど、ジョシュアという王は勝ち続けていた。

 

 天賦の才、圧倒的なまでの魔力と膂力、努力を怠らず、常に走り続ける人間性。そして、あらゆる人間を灼く、カリスマ性。

 

 それら全てを総動員して、屍山血河を築く。

 

 

 

 

 そんな、地獄に俺は生きている。

 

 

 

 イスタリア王国、首都の王城たるリカード城、その最上に近い部屋。本来なら王が招く賓客をもてなす為の部屋に、目に薄く隈の残る青年が閉じ込められていた。

 

 高価な服装に身を包むものの、灰色の髪を無造作に伸ばしているのが不釣り合いだ。酷く幸の薄そうな雰囲気も、整っていながらも苦労人じみた表情が、輝く金色の瞳すらもくすませるような印象を受ける。だが、ある意味では馴染みやすさを感じさせるともいえる。

 

 彼、第二王子、ロラン・アランキール・イスタリアは、凡人であった。家族を愛し、国を人並みに面倒に思いつつも嫌いになれない、そういう、ただの男だった。

 平和な世ならば、王となった兄の供回りをして、苦労をかけられながらも何とかやっていき、花の世話でもしながら老いていくような男だった。

 

「というか、今すぐにでもそうしたい」

 

 軟禁された王城の一室で、ため息を吐いて、俺は嘆いた。

 

 別に、閉じ込められるのは仕方ない、王位継承者というのはそういうものだ。

 

 だが、大好きだった兄がおかしくなって戦争を始めたというのはいただけない。しかもなんか勝ち続けているのが本当によろしくない。

 

 このままでは王国は本当に大陸を制覇して超大国となり、うちのバカ兄貴はスーパーウルトラ永世皇帝とか名乗りだし、そして俺にアホみたいな仕事量を押し付けるに違いない。

 

 なんてことだ、流石にそれはごめん被る。俺は別にそんな血生臭い巨大国家の運営なんかしたくない、というかあの兄貴は最悪俺に押し付けようとしている気がする。

 

 しかし、それをどうにかする手段はない。大人しく、この軟禁されている王の居室より豪華かもしれない部屋で、筋トレ、運動、読書、母と妹からの益体もない内容の手紙を読みながら暇をしているのが精々だった。

 

「………………意外と悪くないな……」

 

 軟禁されて“半年”ほどだが、順応している自分がいる。生活としては結構悪くないのが困る。

 

「しかしなぁ」

 

 兄の暴虐は、うっすらと伝え聞く。最近は、活版印刷で新聞が刷られ、街のコーヒー売りが並べるようになった。何故か知らないが俺も頼めば貰える、多分、王家が市井の言論監視のために集めているやつだろう。兄はその辺も抜かりないタイプだ。

 

「えー何々……レイオボルグ大公国との戦いを勝利、敵国の戦死者は3万……話盛ってるな、局地戦でこんな死ぬかいな。んで、多分帰りに凍死で随分と死者を出したか、こっちは批判記事」

 

 我が住まうヴァルトリオ大陸、その人界の北限からやって来た獣の民が治めるレイオボルグ大公国。未だ農奴制と封建制度が色濃く残る旧態依然の国だが、いかんせん女皇帝(ツァーリ)が有能。戦争も強い、勝ちきれはしないだろう。一回だけ会ったことあるけどマジで怖かったので二度と会いたくない。

 

「……シャール帝国での死者は8万、これは間違いなさそう。人口比なら向こうが圧倒的に上だもんな、そんぐらいやらなきゃ勝てないだろ」

 

 シャール帝国、うちの王国の5倍は歴史と人口がある大陸屈指の超大国だ。皇帝は代々祖先に竜を持つ一族で世襲とされているが、どんなにアホでも国が動かせる官僚システムがすごいな! と兄が語っていた。

 

 よく知らないが、飯と器はいいと思う。あのバカ兄貴は磁器ではなく都市を三つ焼いたらしい、なんて奴だ。

 

「はい次、ランケア共和国、ギリギリ引き分けだけど勝ちとしている」

 

 ついこないだ王族を皆殺しにして共和国になったランケア共和国。やたら戦争が強いので多分なんか悪魔とかと契約してんだと思う、何? 王族皆殺しって? あいつら目がガンギまってて怖い。あと、大統領がやたらイケメンでいけすかない。

 

「えー、エスペリア都市同盟、我が国への借款の返済を延期。……ああ……」

 

 あの何もかもがデカい女総督ならやりかねない、というか借款を踏み倒しておいて直接戦闘が起こっていないあたり、兄をいい感じに騙くらかしているのだろう。檻の中の猛獣を口説くより難しそうなのによくやるものである。伊達に俺と兄の友人をやっていない。

 

「次、アウレーザ魔導公国、呪法結界により軍勢を阻止、鎖国。鎖国て、アメツチかな?」

 

 アウレーザ魔導公国、建国の英雄たるエルフが掲げた“魔法より魔術を”をスローガンに、個々人の異能より汎用的技術を広げることを国是とした技術大国。いや国土はちっちゃいんだけど、なんか物理的に鎖国したらしい、意味がわからん、というかエスペリアと国交どうすんの? 神王と総督出来てなかった? 

 

「アメツチは? あ、知らんけど来たら殺すと」

 

 アメツチ、怖い国。昔一度だけうちの外交官が行って斬り殺されかけて逃げて来た国、話聞いてる感じだと俺は好きそう、めんどくさがり屋の気配がする。

 

 とりあえずうちの兄貴が喧嘩を仕掛けている連中はこんなもんか、勝とうが負けようが死人の数だけは増える一方で憂鬱である。

 

「あ────いいニュースなんもない!!!!」

 

 自国が勝っているニュースはいいニュースじゃないのか? それを主導しているのが兄で、人が無意味に死んでいる時点で全く良くない。

 

 この戦争は、夢でできている。

 

 きっと、世界の王になろうとするバカな兄の。そして、その理由がきっと家族なのも気に食わない。

 

 安穏とした地獄の中で、鬱屈としながら、自分が面倒を見た庭を窓から眺める。今日は薔薇が一段と綺麗に咲いていた、全て、俺が一から育てたものだった。

 

 色とりどりの薔薇に、触れることは出来ない。許可なく部屋を出れば、兵士に連れられて戻されるだろう。いっそ、殺してくれれば楽なのだがとすら思う。

 

「はぁ……嫌になるね、本当」

 

「そう? こんなに綺麗な花ばかり見て、ため息ばかりなんて変わっているね?」

 

 ……はて、半年の軟禁でついに幻聴が聞こえ始めたか。

 

「あら、せっかく眺めている薔薇を摘んできたのに」 

 

 ふわり、と花の香りがする。だけど、それは馴染みのある薔薇のそれではない。甘い、果実のような香りだった、だが、どこか不自然で、冷たい気配が感じられる。

 

 窓の外に、女が浮かんでいた。真昼だというのに、冬の星空のように昏く、眩い女だった。

 

 艶やかな肢体を緩い、まるで放浪する占い師のような衣装で覆い、御伽話のような魔女帽子を被っている。

 

 漆黒のようで、紫がかった髪は酷く不安定に揺らいでいる。髪の裏には、星空を切り取ったように光が舞っている。それは、流れ、消え、また現れる不規則な輝きを放つ。

 

 そして特異なのは紫色がかった瞳、それは太陽の下で、七色に色を変えながらこちらを覗き込んでいた。

 

「……そちらの美人さんは、どちら様?」

 

 地上30m、中庭から見ても15mはある高さの部屋の窓。そんな場所にふわふわと浮かんでいること事態は気にしない。

 

 魔術も()()もあるのである、別にそれはいい。問題はここ王城であり、おそらくこの国で一番セキュリティが厳しく、なんなら城の周りにはこういう変なのが入ってこれない結界とかも貼ってあるわけで。

 

「魔女、見ればわかるでしょ?」

 

「そうだな、わかりやすい」

 

「ええ、ちょっと気になる人に会いに来ようと思って」

 

 わぁ、うちの兄上かな? モテるもんなあいつ。

 

「巷で大人気の国王を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいるって聞いたんだけど」

 

「訂正、暗殺じゃない、諫言。話聞かないからその場にあった燭台でぶん殴っただけ。ただの喧嘩」

 

 回想。

 

『バ──────ッカ! クソ兄貴!!!! 王位簒奪はいいけど全世界に宣戦布告とかバカじゃねぇのか!!!! 死ね!!!!』

 

 で、罵倒と共にその場にあったデカい燭台で殴りかかった直後、視界で光が爆発、気がついたら部屋のベッドで全身丸焦げて起床。

 

 以上、回想終わり。

 

「死んだのは?」

 

「それはちょっと事情アリだ」

 

 そこは、《魔法》の話をしないといけなくなる。長くなるからやめてほしい。

 

「ふーん、思ったより面白いね」

 

「今ので?」

 

「うん、色々視えたから」

 

 女は、薔薇の花を、俺に手渡して。

 

「私はね、ディアナ、ディアナ・ベルヴェイグ」

 

「貴方の花嫁になりに来た魔女なの、よろしくね?」

 

 

 

 

 

 ──────生涯最大の後悔の一つ。

 

 ここで訳もわからずに手を取ってしまったこと。

 

 そう思い返して、出来るなら、出来るだけ格好つけてやればよかったと今でも思う、魔女との始まりの出会いだった。

 

 





ヒロインは沢山出ますがメインヒロインは魔女ちゃんです。
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