昏き星のアドラスタ -第二王子は如何にして魔女と共に王位を簒奪したか-   作:鴉の子

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オリジナルって難しいですねマジで。
可愛いヒロインをかけるているか悩ましい。

感想、評価いただければ励みになるので是非。


第二話:千年生きてる、嘘じゃないよ

 

「説明」

 

「いいよ、ちょっと待ってね」

 

 浮いていた女が、すい、と空を泳ぐように窓から部屋に入り込む。

 

「私、魔女なのだけれど」

 

「見ればわかる」

 

 魔女、単に魔術を使う女……ではない。この世界において、もっと忌まわしき名前。世界の外から流れ着いた者、世界の理から外れた者。まぁ、簡単に言うと迫害された魔術を使う者たちはは、こういう名乗りをするのだ。

 

「私、宙から来て、ずっと生きているのだけど。星を見ていたら、ピカピカ光って眩しい人がいるのね?」

 

「俺の兄貴だな」

 

 やけにふわふわしているが、ぴかぴか光る、わかりやすい。兄の《魔法》は、光を司る。

 

「そう、それで、気になって見に来たら、あんな強い光に弟さんが襲いかかったって聞いて」

 

「うん、それで?」

 

「それで、視てみて。そうしたら、きっと貴方あの星を堕とすのが見えたから」

 

 あっダメだこいつ、関わっちゃいけないタイプの人間かもしれない! 

 

「魔法か?」

 

「ううん? そういう()()

 

 不穏なことを言いながら、ディアナと名乗った女は机の上のチョコレートを齧り付く。

 

 この世界には、こういう妙な奴らが幾らかいる。技術として、魔術というものが存在する世界でなお、異能と称されるモノを持つ存在が。まぁ、自分もそうなのだけれど。

 

 それを、人は古く魔法と呼んだ。魔術は、それを人間が追いつこうとして生み出した物だったりするのだが、今はいいだろう。

 

 おそらく、目の前の女もそうなのだろう、浮いているのは魔術かもしれないけれど。

 

「それで、有り難くも占い師の魔女は俺が王様をぶん殴って倒せる未来が見えたと?」

 

「そう、見えたの。だから、一緒にいようと思って」

 

 七色の瞳が、揺れる光と共に煌めいている。ディアナという女は、ずっと薄く微笑んでいるが、どうしてかそれがやけに寂しいような気がした。

 

 何かを期待するような、期待しすぎることを恐れるような眼は、どこか、何もかも完璧だったのに、いつも寂しそうな兄を思い出して。

 

「オーケー、じゃあ、自己紹介から始めようか」

 

 まぁ、お友達からなら構うまい。この女が何者であろうとも、貴重な暇つぶしである。

 

「俺の名前は、ロラン・アランキール・イスタリア。この国で生まれてこの国で死ぬ予定の、イスタリア王国第二王子にて、こないだ王様になった兄の腰巾着だ。なんの因果かこんなことになってるがね」

 

「当面の目標はあのバカ兄貴をぶちのめす事、他に聞きたいことは?」

 

「……ご趣味は?」

 

 お見合いかよ。しかし真面目に気になってそうなので真面目に答える。

 

「庭いじり、料理、香水作り」

 

「……乙女?」

 

「兄さんと違ってインドア派なんだよ、それで、お前の自己紹介は?」

 

 ディアナはその言葉にきょとんとした後、指先を顎に当てて思案する。すとん、と浮いていた体が椅子に落ち、体を机に寄せた瞬間緩やかな服に包まれていたはずの扇状的な身体が一瞬浮かび上がる。

 

「自己紹介は大事だね、忘れていた。私はディアナ・ベルヴェイグ、光が到達するのに千年かかる闇の向こうで生まれて、この星で死ぬ予定の魔女。好きなものはごはんとお肉とお魚とお野菜と甘いもの、嫌いなものはつまんないこと!」

 

 ふわふわと先ほどまで感じていた浮世離れした雰囲気が薄まって、ただの歳上の女性のようなそれで自己紹介をする。なんとも、掴みづらい奴だと思う。

 

「……気になることはいろいろあるが、聞かないことにしよう」

 

 空の向こうに星があることはとっくの昔に知られていることだが、そこから降ってくるのは石だけだ。基本的には。

 

 新聞の隅っこの三文小説じゃあるまいし、宇宙人なんているわけないだろ。うん、そういうこととする。……いや、まぁ嘘はついていないだろう。取り敢えずこの状態で受け止めるのは無理だから保留とする。

 

「了解、星のお姫さまね。それで、どうしてこんな陰気で、兄の陰に隠れているような男に求婚?」

 

「そうね、25秒後の貴方のことがわからないの。そんな人初めてだから」

 

「は?」

 

「私、とっっっっても強かったの。未来も見えるし、過去も見えるの。でもね、なんでもできるって気がついたら、何にもできなくなっちゃった」

 

「だから、答えが欲しくて」

 

 にこりと、寂しそうに笑って、俺の顔をピンと指差す。

 

「……」

 

 取り敢えず、5秒ほど待って反射でデコピン。

 

「あいたっ」

 

「……うーん、デコピンかぁ……」

 

 おでこを摩りながら、何故か嬉しそうな女を見て、さて、どうしたものかと考える。

 

「俺、監禁中、お分かり?」

 

「お分かりよ、だから契約しましょう」

 

「それが花嫁?」

 

「そう、私が貴方の花嫁になる代わりに、ここから出してあげる」

 

「新手の結婚詐欺?」

 

「あれは結婚するまでが詐欺でしょ」

 

「それはそう」

 

 それはそうだな、じゃあなんと言い換えようか、斬新な政略結婚? こういうのは巷ではなんと言うのだろうか。さて、しかし渡りに船というのはこういうことか、いかにも信用できないし、こういう契約は得てして目的を達した最後にした方が破滅するものだが。

 

「いいよ、フリーだから。代わりに」

 

 ベッドの横、小さなテーブルに置いてある宝石箱を開いて、指輪を探す。王家の刻印、薔薇の茨と、獅子の紋章。父のつけていた指輪の一つ、もう一つは、兄が持っている。

 

「これやるよ、契約書の代わりだ」

 

 ずっと昔に父が死んだ後に受け継いだもの、そして、兄が王になった時にもう二度とつけないと決めたもの。

 

 この、やけに寂しそうな女に、投げ渡してしまったのは、自分でもどうかしていると思うけれど。

 

「…………大事そうだけど」

 

「見えてるならわかるだろ、大事だよ」

 

「いいの?」

 

「いいよ、ただし」

 

「契約の条件、その1、それ無くすな。その2、逃げた後の行き先は決めさせろ」

 

「いいよぉ」

 

 ニコニコと嬉しそうに、投げ渡された指輪を左手の薬指に嵌めて、ディアナは言った。

 

 ……よし契約成立、さて、駆け落ちといくか。書き置きだけ残しておこう。

 

『母上、あるいは今日も今日とて街に繰り出している我が妹エリシアへ。家出します、探さないでください、あ、多分しばらくしたら帰るからよろしく』

 

『兄上へ、よくもやってくださいましたねこのバカがよ。帰ってきたら覚悟しとけよマヌケ、そのトンチキな頭が治ってなかったら今度はグーだからな、グー』

 

 適当な紙に万年筆、最近流行りの発明品らしいそれで書き記して。

 

「で、どうやって?」

 

「ん」

 

 眼前の女はぐっと手を広げて、こちらを抱きしめるようなポーズをとる。

 

「……抱かれて飛べって言うんじゃないだろうな」

 

「それが一番早いけど?」

 

「…………」

 

 そうかい、生憎女慣れもしない箱入り息子だが、まぁこの際それはいいだろう。恥を忍べばいいだけである。

 

「よし、待って、3秒待て」

 

「よいしょ」

 

 抱きつかれた、何故か果実のような匂いがする。……いや、違う、花でも、果実でもない。彼らは、土の匂いがする、土に長く触れていたからわかる、そういった生命の匂いではない。

 

 星だ。星と、(そら)の暗黒の匂い。直感的に、そう思った。

 

「おい!」

 

「? 荷物とかあった?」

 

「いや、ない」

 

 この部屋にあるものは全て、自分のものはない、王家か、あるいは兄のものだ。

 

「そう、じゃあ飛ぼうか」

 

「ああ、飛べよ魔女。着いていってやるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロラン・アランキール・イスタリアは、無能な王子だった。

 

 対して、ジョシュア・アランキール・イスタリアは、天賦の才を持っていた。否、天才という言葉では表せぬ、異様な存在であった。

 

 人間では抗うことのできぬ圧倒的な魔法、天才的というには悍ましき頭脳、美貌、人間を焼き尽くすカリスマ。

 

 そして、()()()()()。産まれ落ちた時から、彼は言葉を理解したという。幼き時から、彼はあらゆる碩学を超える知見を持ったという。

 

 金糸の如き輝く髪は、天より遣わされた者の証と言われた。紅玉の如き瞳は、全てを睥睨する王の証と賢者は宣う。

 

 だが、彼は怪物であると称される。

 

 

「陛下! ロラン様が脱走を……」

 

 執務室、サラサラとペンを走らせ、書簡に王印を押し。政務を恙無く終わらせている王の前に、近衛兵隊長が現れる。

 

「ん? そうか、あいつめ、やんちゃなのは昔のままか。放っておけ」

 

「……は、しかし……」

 

「俺の弟だ! きっと、何か目的があってやったのだろう。元より、兄としてはあのような措置も心苦しいんだよ」

 

 ははは、と、兄弟喧嘩をした後の、ただの兄のように王は言う。

 

「し、しかし」

 

「しかし、なんだ?」

 

 好青年じみた笑み、真っ赤な瞳が、報告する男を見つめている。

 

「弟といえど、御身を傷つけようとした者です、何より、死したはずのそれを逃したとなれば我々の面子が立ちません。どうか追討の用意を……!」

 

「……ん、確かにそうだな。悪いことをした!」

 

 ジョシュア、は得心したと言うように手を叩いて、立ち上がる。

 

 そして、男の肩を叩き、言い放つ。

 

「確かにみんなが困るのは良くないな! お前の首でこの件は終わらせよう、安心しろ! 家族や部下の補償は死ぬまで続けるとも!」

 

「────は……?」

 

()()()()()()()()()()、執務室を白く消し飛ばしたと錯覚するほどの極光が走り。

 

「おーい、メイド」

 

「……はっ」

 

 音もなく、呼ばれたメイドがやってくる。手元には白い布と、銀のトレイ。

 

 ジョシュアの片手には、近衛隊長の首が残る。首から下は、残滓すら残っていない。首の断面は、高熱で泡立つように焼け焦げている。

 

 ジョシュア・アランキール・イスタリアが魔法、《極光(クェーサー)》、その一端。光を手にした彼の王は、その熱のみで人体など容易に消失させる。そして、その熱の余波など一切存在しない。

 

「これ、きちんと化粧してやってくれ。家族には今すぐ俺から直接説明する」

 

「……承知しました」

 

「ん、ごめんな」

 

「いえ、我々の役目ですので」

 

「そっか、いつもありがとうな!」

 

 にこりと、明るく、まるで物語の勇者か、王子様のように笑っている。それを見て、メイドは微笑んでから首を布で包み、トレイに乗せてから部屋を退出した。

 

「全く、そもそもロランを閉じ込めるのが間違いだったのに。ちょっと俺のことを殴っただけで、びっくりして焼いちゃった俺の方が良くなかったんだあれは」

 

「あいつは()()()()()()()()、あれくらいでびっくりしちゃいけないのになぁ」

 

 ため息を吐いて、ぐっと背伸びをする。

 

「よし、ついでに母上にお菓子でも買って帰ろう!」

 

 外套をワードローブから取り出して、意気揚々と街へ王は繰り出していく。そうして、近衛の家族の前で、泣きながら彼の首を渡して、本気で悲しむのだ。

 

『ああ! 彼は立派だった! 故に俺は君らを生涯保護すると決めよう!』

 

 そうして、本当に生涯彼らは不自由のない生活を送ることになる。英雄となった父に憧れて、息子は兵士を目指すだろう。

 

 そうして、地獄に人を引き連れていく。

 




ちょっとした解説。

《魔法》:世界に募る異能。特異な才能であり、世界の有力者や偉人と言われるような存在はこれを所有することが多い。人智を超え、世界を壊し、世界を編む。

《魔術》:人の業、異能という星を目指した探索者の果て。技術として体系化された呪いの力。技術として世界を改変し、結果として現象を起こす。法術、呪法、陰陽術、様々な呼び名で呼ばれる。
現代において、これら二つは接近し、判別は付かなくなりつつある。民衆の生活においても、これらは用いられる。

イスタリア王国については次回。
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