昏き星のアドラスタ -第二王子は如何にして魔女と共に王位を簒奪したか- 作:鴉の子
すんません!!!!色々治療とかしてたら遅れた!!!!!元気になったので再開!!!!!
「さて、じゃあ何処へ行く?」
ディアナ、魔女は俺を抱き上げながら笑っている。空中を踊るように歩く女は、よく見ると自分より大きい、180近い上背だった。
「……飛んでてわからなかったが、カッコいいじゃないか、お前」
175センチ程の自身からすると若干憧れるな、とため息を吐いて。王国を囲う“城壁”を睨みつける。
「あら、ありがとう。人間の平均より大きいみたいでびっくりされちゃうんだけど、これより小さくすると概念密度が高くて、こう……」
「ああ、いい、不穏な話はもういい……それで、どうやってあれを超えた」
指す方向には、薄く輝く、光の天幕。偽りの晴天、光輝の城壁、
この王都は、王の魔法で護られている。許可なく鳥獣以外が通れば即座に灰となり、空は雲以外浮かばぬ死の領域となっているはずだった。
「こう、すいっと」
「すいっと」
「具体的解説する?」
「いやいい、理解できなさそうだ」
「亜空間を泳ぐのは基本なのに」
「…………で、俺も出来るのか」
「私の体感時間は数秒だけど……三次元空間の時間で1時間くらい息を止められる?」
「無理ということだけわかった」
さて、魔術や不可思議では兄上の結界を超えることはできない。いや、
「……城門を通る、あそこだけは誰もが通れるようになっている」
「門番さんにバレるんじゃない?」
「そこは上手いことやるんだよ! まぁ見てろ」
指示して、城下町の路地裏へ着地する。
「おい衛兵!」
関所の門番、無精髭を生やした冴えない男のようだが、この国でも随一の使い手という噂だけある。噂だけなので知らないし、俺からしたらガキの頃から盛り場に抜け出していた俺を見逃しているサボり魔でしかないが。
「あら坊ちゃん、王様殴って捕まってたんじゃないですか?」
畜生、バレてる。門番にまでバレてるとなると街中の人間に広まってるのは間違いない。
「色々あって、逃げた」
「…………王様に怒られるのは嫌ですよ」
「まぁ待て、一筆書いてやる。あのバカ兄貴ならこれでいけるはずだ」
『この衛兵は律儀に俺を止めようとしました、臨時ボーナスと昇進もさせてやれ』
サラサラとサインと指輪の押印とともに門番へ渡す。
「……最近近衛隊長死んだの知ってます?」
「だろうな、一番強硬に俺を閉じ込めようとしてたし。あれはあれで善意だったんだろ」
多分、あの兄貴から俺を引き離したかったのだろう。なら国外追放の方がよかっただろうに、いや、それがダメだったからあの措置だったのか。
「二の舞になるのはゴメンですよわたしゃ、貴方が酒場に行くのを見逃すのとは違うんですから」
「お前なら逃げ出せるだろ」
「そりゃまぁ、逃げるだけなら。でもこんなに楽な職場捨てるほどじゃありませんし」
「水筒の中にウィスキー入れても許されるからな」
いつ見ても若干酒臭い、これで強くなかったら三日でクビに違いない。
「ふむ、ふむ、坊ちゃん、何処へ行くつもりですか?」
「ん、自由都市連盟」
真っ先に逃げ込む先が王国の同盟である都市連合というのもどうかと思うが、一番信頼できる知り合いがいるのはそこしかいない。あそこの国家元首の元に転がり込んで詐欺を働くのが一番だ。
「…………よし、坊ちゃんは知り合いのところに遊びに行きました。私もそう伝えられたので止められませんでした」
「よし」
「生きて帰れたら城のいい酒奢ってくださいよ」
「樽でやるよ!」
よし、脱出成功。
「行くぞー」
ふわふわと浮いている魔女の手を引いて門から堂々と外に出る。
「…………」
胡乱な目で俺を見るな門番よ、なんだその『ついにあのお坊ちゃんにも恋人が出来たんですねぇ』みたいな目は、駆け落ちとか勘違いしてないだろうな。
「駆け落ちと報告しておきましょう」
「やめとけ、多分機嫌悪くなるぞ兄貴の」
さて、それだけ言い放ち王都を出ればその先には緑の草原と、遠くには森。近くにはシュライア川と呼ばれる大河が流れている、目的地への最速はそこを下ることだ。
「……いいの?」
「何が?」
「門番さん、逃げたこと報告しちゃうけど」
「
「……追われるけど」
「来ないよ、今忙しいからな」
イスタリア王国は現在、
「それで、出れたけど、飛んで行くか?」
「ん、もっといい方法があるね」
ディアナと手を繋いだまま二人で平原を歩く。女の手は人の体温より少し冷たく、何処か不思議な温度がする。やはり、人間ではないのだろう。
「魔法か?」
「そう」
魔法、この星に生まれる僅かな英傑、怪物たちが使う、異能。
『我は声に応える、無垢で蒙昧な影絵の少女。ああ、ご存知かしら、貴方、私と踊らなきゃ』
朗々と、歌うように“誓約”の言葉を口にする魔女の影が足元から伸びる。指を鳴らせば四輪の馬のない車が現れる。
魔法には、必ず誓約の言葉が付いてくる。言わずとも使うだけならできるが、本気で、能動的に発動するなら必ず必要となるモノだった。
そして、彼女のそれは無から物が出てくるタイプらしい、召喚なのか作製なのかはわからないが、なかなか強そうである。
「……何だこれ」
「オープンカー」
真っ赤な車体は金属を塗料で塗ったようで、太陽に照らされてぴかぴかと輝いている。正面から見た姿は顔のようで若干の可愛らしさもある。
「……馬も駄竜もついてないけど、動くのかこれ」
「動くよ、内燃機関で」
何を言っているかわからんが多分なんか不思議な装置なのだろう。いや、実際のところ確かアメツチかシャールで似たような名前の機械を聞いたことがあるような気がする。
「……動かし方、教えてくれ」
「私がやるよ?」
「馬鹿、花嫁に馬車……じゃない、なんだっけこれ」
「オープンカー」
「そうそれ、なんでもいいけど運転させるわけにはいかないだろ」
「……ふふふ」
なぜ急に嬉しそうな顔をしているのだろう、この魔女は。
機嫌が良さそうに使い方を教わり、オープンカーなるモノは走り出す。随分と速いが、馬車よりは生き物の気を使わないという意味では楽で、どこまでもこちらの意思通りに動くという意味では難しい。
「……おい、揺れなさすぎるぞ、なんかおかしいだろこれ」
「サスペンションって偉大」
「……あー……なんか兄貴が作ってたような……」
馬車の荷車に積むだのなんだの言ってたような気がする。いつも突然思いついたように何かの発明をするので、横で見ていても全てを覚えているわけではないが、この魔女が作ったモノは何処かそれらと同質のものを感じた。
「この速度なら、一日だな。ま、途中で野営することになるか徹夜で走るかだけど、どうする?」
「泊まろう、テント作れるから」
「便利ねお前……」
作れる、と言ったか、やはり何かを作り出す異能なのだろうか。まぁ、おいおい聞けばいいだろう。それにしても、便利なことに変わりはない、己のソレと比べれば。
ため息を吐くと、隣の女の笑顔が目に入る。満面の笑みで、ロランという男を見つめている。一体、何がそんなに嬉しいのか、何を気に入ったのかはわからない。
「顔は悪くないだろ?」
「好きよ、可哀想な犬みたいにくりくりしてて」
「幸の薄そうな童顔で悪かったな」
二人してケタケタと笑う。案外、冗談の通じる女ではないか。
「それで、未来の見える魔女様は、これからどうなると思う?」
「さぁ、貴方がいるとわからないから」
「なんじゃそりゃ」
詐欺師みたいなことを言い出す女だと思ったが、浮かべる笑顔が妙に綺麗だから、本当だと信じることにした。つくづく、王族になぞ向いてない人間だと自嘲する。
「でも」
「でも?」
「ここが、回帰不能点よ」
「そうか、キスしたくなるほど嫌になる言葉だ」
「する?」
「運転中にそういうことはしないようにしてるんだ、昔それで馬車で酒屋に突っ込んで大惨事だ」
あれは酔ってたのと、兄貴が後ろでスピードを煽ったのも悪いとは今でも思っているけど。
「悪い子だ」
「悪い王子じゃなきゃ王様殴って出奔なんてしないだろう?」
日が暮れていく、夕日は大地を血に染めるように光を伸ばして、鳥は巣へと帰ろうと群れの中で鳴いていた。
「……久しぶりに見たな」
永らく、あの兄があのザマに成り果ててしまってからは、見ていなかった景色だった。王様になってしまった、優しい兄が好きだった景色。
「……しばらく行った先、森のそばに小さな泉がある。そこで野営だ」
「わかった」
「……テントは二つ出せるよな?」
「一つでいいでしょ?」
「…………駄目だ」
「えー」
「えーじゃない」
正直、こんな状況だ、破れかぶれに誘いに乗ってしまいたいという気持ちもあるが……
このディアナという魔女を信用できないわけではない、どうせ信用しなければ何も出来ない状況なのだ。ただ、どうしてか、一夜を共にするだけにしたくはなかった。
「俺の悪さしてた時の経験だ、寝る男は選べ。出来るだけ優しくて、馬鹿な奴がいい、真面目ならなおいい」
そうすれば、少なくとも不幸は防げる。ま、その辺りを騙す悪い男が沢山いて、そういうのを兄貴がボコボコにするのに巻き込まれて俺もボコボコにされてたのも懐かしい。
「……優しくて」
「うん?」
なぜかディアナが俺に指をさしている。
「私よりは賢くない」
「は?」
「真面目で、馬鹿なことをしてる」
ぷに、と頬を突かれる。身長は随分と高いせいか、見下ろされている。その瞳は星空のように煌めいて焦点がわからない。
「いいんじゃない?」
「よくない、俺は不真面目で、優しくなくて、無能で狡賢い」
「自分で言うと説得力ないよ?」
どんどんと隣の席からはみ出してこちらに寄ってくるディアナ、シンプルに体格の差もあって、邪魔である。
「ええい! 寄るな! 乳がデカい!!!」
直球セクハラをかませば流石に妙な気も起こさないだろうと強めに罵倒する。
「おっきいでしょ、知的生命体はおっきいのが好き」
「主語までデカいとは恐れ入った」
なんだこいつ。思わず素の言葉が頭に浮かぶ。
「みんなおっきな塔とか建てるし」
「それは……そうか?」
「そうなんです」
益体もない会話が繰り広げられる、それは結局、夜が深まるまで続いた。それは、久しく得られていなかった得難い時間だった。
そうして、たどり着いた泉で、また一瞬にして作られたテントの中で、二人で横に寝転がる。
「……狭い」
「丁度いいでしょう?」
「ええい! 暑……くはないが、手のやり場に困るだろう!」
密着した状態でも、生命の熱は感じない、暖かいはずなのに。夜空に浮かぶ星の光のように、眩いが冷たい光のような熱だった。
「星の海って寒いけど熱いんだー、だから、これくらいの温度が好き」
「ギュッとするな! アダダダダダダ!?」
ミシミシとアバラの軋む音がする、なんという力か、シンプルにやはり化け物なのかこいつ。
「ペット扱いはやめ……マジで死ぬ!」
「ペットじゃない、王子様」
「王子様の肋骨が粉々になるぞお姫様!!!」
「それは困るかも」
「はぁ……はぁ……よし、人肌が欲しかったら手を繋いでやる、それで勘弁してくれ」
「いいね、花嫁っぽい」
なんとか落ち着いて、距離を離す。握る手からは、脈動を感じない。
「……お前、宙から来たんだろ?」
「うん」
「独りで?」
「産まれてから独りだよ」
「なんだ、寂しい奴だな」
「んー? 寂しくはないかな、そういう生き物だから」
「そう産まれたからって、どう生きたいかは別だろ」
「……そうなの?」
「そうなんだよ、俺は王子やめたかった」
「そっか」
それを最後に、寝息が聞こえる。
ふと、目を向ければ、人間のように眠る女がいた。
ああ、可愛いなと思った。
兄貴の過去編は話が進んで需要が出てきたあたりでやります。
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