昏き星のアドラスタ -第二王子は如何にして魔女と共に王位を簒奪したか-   作:鴉の子

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なんかランキング載ってたらしいですね、本当にありがたい……

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4話:総督令嬢に必要なものは筋肉と金

 青空の下で車は走る。なんの音だかわからないが唸り声を上げながら走っているが、これは乗り手に文句を言っている生き物の声ではないかと不安になる。

 

 そう言えば、隣の魔女は腹を抱えて笑っている。知らないんだから仕方ないだろう、単純機械だから心配するなとのことらしい、ほんとか? 

 

「それで、これから行くところってどんなところなの?」

 

「エスペリア都市同盟、自由都市の連合国家。良く言えば自由な気風、悪く言えばエゴイストの集まり。それをまとめてる超絶我儘女に会いに行く」

 

「あら、女の影」

 

「…………アレをそういう目で見たことはない、マジで」

 

 いや、向こうはどう思ってるか知らんが、少なくともこっちはガキの頃から地面に投げ技で叩きつけられて顎が砕けそうになっている身としては全くそういう目で見れない。

 

「……まぁ、見ればわかる」

 

 車を走らせて、向かうはエスペリア都市同盟、その国家の名にもなっている盟主都市エスペリア。幼少の夏を長く過ごした思い出深い()()()()()()である。

 

 進む方角には平原、青空は何処までも広がっている。

 

 さて、問題がなければこのまま着くだろうが、そうもいかない、この先はちょっと危ない場所なのだ。

 

 街道を車は疾走するが、その音を聞きつけて、空から羽ばたき音が聞こえ始める。

 

「おっ、ワイバーン」

 

 この辺に野生で飛んでいる肉食の亜竜が1匹飛んでいた。亜竜、空を飛ぶ鱗ある獣は大体こう呼ばれるが、その中でも言葉を持たないモノをそう呼ぶ。

 

 平原の草を喰む鹿や家畜の山羊を狙って襲いかかるが、最近は戦争続きで何処もピリピリしているから家畜狙いのやつらが追い返されて飢えているのだろう。迷いなくこちらに向かっているのがわかる。

 

「あの非知性原生生物ね」

 

「なんてこと言うんだお前」

 

「……?」

 

「いや……いいや、なんとかできるか?」

 

「助けてくれないの? 王子様」

 

 ディアナはパチリと真顔でウィンクをしてこちらに冗談めかして言う。それにため息を吐きたくなるが、そうも言ってられない。

 

「……追い払うくらいは、なんとかな」

 

「頑張って」

 

 車を止める。瞬間、停止した俺たちへ向かって降下する。重力を味方につけて堕ちるそれは、音の速度に迫って、飢えた牙は違いなくこちらの肉を狙っている。

 

 まぁ、でも、()()()()()()()()()

 

 座席を踏んで、跳び上がる。牙を剥く口の中にこちらから腕を突っ込み、舌を掴む。ザラザラと質感と、唾液の感触を掌に感じながら、えづくワイバーンに身体が持ち上げられる感覚を味わう。

 

焦熱術式(イフリート)晦冥術式(チェルノボグ)、起爆」

 

 あらかじめ決められたコマンドワードを言えば、身体に刻まれた魔術式は起動する。使い方さえ知っていれば、子供でもできる簡単なモノ。

 

 突っ込んだ手のひらから、質量を持った黒い焔が噴き上がる。それはワイバーンの喉を焼き、内臓まで達すると、主要なモノを破壊し、絶命させる。そして、反射で噛みつかれた俺の肩は鮮血を吹き出し、焔を閉鎖空間で爆発させた俺の腕も当然焼けて焦げる。

 

 次に、音速で飛びかかってた人間よりいくらか大きい生物へ体当たり同然に突っ込んだのだから、肋骨が粉砕する。

 

 そして、絶命したそれから空中で腕を引き抜いてもんどりうって頭から地面に激突したので。

 

「ぐえっ」

 

 死ぬのである。

 

「……あら」

 

 なにびっくりした顔をしているのだこの魔女は、心配とかしないのか。

 

「不思議、生きてる」

 

「そう、生きてるんだな」

 

 ははは、と先ほどの炎で炭化したはずの指先で親指を立てる。

 

「俺の魔法だ、死に損ない(ハングドマン)、と呼んでる。死にそうになると死なないギリギリまで回復する」

 

 そう、ギリギリである。つまり粉砕した肋骨はヒビが入るくらいまでしか治らないし、炭化した腕は火傷することに変わりはない。全く、クソの役にも立たない魔法である。

 

「よいしょ、まぁ気にするな。兄貴に消しとばされた時よりマシだ」

 

 車に乗り込みながら、少し前の大惨事を思い返す。

 

 あの時は酷かった、全身が死なない程度に焼けた火傷まみれになってしまった。どんなによく言ってもオーブンに入れられた後の生焼けのチキンだった。

 

「治せないの?」

 

「ゆっくり治るよ、そういう魔術式は身体に刻んである」

 

 急速に治すモノは、残念ながら無理だ。俺には才能がなかった。

 

 魔術、魔法とは違う、技術そのもの。世界を書き換えることで奇跡を起こす世界の根幹。……いやといっても仕組みとか全然わからんのだけど。生まれた時からある便利な物ってよくわからんよね。

 

 それはともかく、まぁ使うにも色々向き不向きがあるのだ。物質の動態とか、性質を変える錬金が得意なやつとか、直接的な破壊が得意なやつとか、あと治療が得意なやつとか。

 

 俺が得意なのは、炎を出す焦熱術式と (イフリート)と影とか重さを弄れる晦冥術式(チェルノボグ)。……とはいっても、マジで才能がない、炎は出せるがよく自分が燃える。

 

 影は影絵で妹を喜ばすか、影の中にリュックを一個入れられるか、重さを操るのは本当にわからん、炎と合わせると炎が質量を持って攻撃に便利、以上。

 

「…………勿体なーい」

 

「うるせ、才能ないのは知ってるよ」

 

「違う」

 

 なにやら不機嫌な目の前の魔女に首を傾げる。

 

「使い方がおかしい、それは星間飛行に使うのが便利」

 

「……無茶を言うなよ……」

 

 星の海を泳ぐのに便利だからなんだというのだ、基本的に使い道がないに等しいだろうそれは。それに、よく知らないが星の海には空気がないらしいではないか、エーテルで満たされた空間だのどうだの。

 

「ぶー」

 

 頬を膨らませてぺたぺたと俺の傷を触りながら、魔女は不機嫌そうだ。もしかして、心配とかしているのだろうか。

 

「気にするな、死なないから」

 

「おかしい、普通の知的生命は痛みが苦手でしょ」

 

「慣れればいけるもんなの」

 

「苦しいの嫌じゃないの?」

 

「嫌だよ、まぁでも、美人の前ではカッコつけたいだろ?」

 

 実際、理由としてはただそれだけである。ちょっと酒場で殴られるの大差はない。

 

「ま、さっさと行こう。エスペリアの宿は綺麗だし、飯も美味しい」

 

「……むぅ」

 

 

 

 ────魔女が睨むと同時に、傷口になにやら黒いモヤが纏わりつく。傷が、ゆっくりとそれで埋められていくことに、ついぞ気がつくことはないまま、二人は街道を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、着いた」

 

 たどり着いたのは海辺の真っ白な石作りの街。そして、その()()()()()()()()()()海運都市。

 

 海上に建つ建物は煉瓦や白い大理石造りの建物ばかりで、街の景色はそれが太陽に照らされて明るく、道を歩く人々も活気にあふれている。そして街は海の上に建っているゆえに、メインストリート、つまり主要な移動手段は船だ。

 

「洋上海運都市エスペリア、元は港町だったが、300年くらいかけて海の上に街を増築していった、らしい」

 

「……わぁ、石造りの建物が海の下まで柱建ててる、効率悪くない?」

 

「いや、そうでもない。柱自体は魔術的に建てられてるし、船乗りたちが作った街だからな。物を運ぶのに便利なのは船のほう……らしい?」

 

 どうもそれだけが理由ではないらしいが、別にそこまで詳しい歴史を知っているわけでもない。

 

 目的であるこの都市の女総督へ会いにいくのが目的である、さっさと会って宿と飯の用意でもして貰おうと車を降りて、水路にいる適当なゴンドラ乗りに金を投げて貸切にする。

 

 幸い、自分の影の中にはこっそり貯めておいたへそくりがある、伊達に王族ではない。兄貴への腹いせに国家予算の一部を掠め取っているのは内緒だ。

 

「ゆっくり観光しながら総督府のあたりまで行ってくれ」

 

「兄ちゃん、お金多すぎるよ」

 

「お釣りの代わりに道すがら適当に美味いものでも買ってくれ」

 

 この都市には水上屋台がたくさんある、平焼きの生地に具を乗せたピッツァや、それを包みにして揚げたもの、あるいは串焼肉など、様々あるが、まぁ大体地元の人間に聞けばいいのだこういうのは。

 

「いいねぇ、あんたたちみたいな観光客は好きだぜ。最近は戦争続きで人が減ったから暇してたんだ、色々案内してやるよ!」

 

 縞模様の水夫服を着た船頭が、歌を歌いながら水路をいく。横にいる魔女は、周囲の景色を不思議そうに眺めながら、俺と手を繋いでいる。

 

「……奥さんかい?」

 

「そうなんだ、新婚旅行でね」

 

 嘘は言ってない。

 

「は〜! 景気のいい話ありがたいね!」

 

 ニコニコと船頭は船を漕ぎながら、ゆっくりと屋台や、教会を巡る。

 

「これ、なに?」

 

 教会に設置される装飾された小さな六角形の柱のモニュメントを指さして、ディアナは首を傾げる。

 

「教会のシンボルだよ、この辺りはその柱に祈るのが信仰なんだ。大昔、天から降ってきたらしい、実物は海の底らしいけど」

 

「……」

 

 何か首を傾げているが、まぁ聞かないことにしよう。絶対今必要じゃないけど重要なことを言われそうな気がするので。

 

「ほれ」

 

 口に串焼き肉を突っ込む。海運の街だけあって、諸国のスパイスがふんだんに使われている。

 

「おいしい」

 

「なんだ、わかるのかそういうの」

 

「むっ、バカにしないで欲しい。私は超絶知的生命だから味覚も当然備えているわ」

 

「自分で名乗るのめちゃくちゃバカっぽいぞ」

 

 こいつ、思ったより面白いやつなのかもしれない、そう思った。

 

「さて、総督府にそろそろ……」

 

 遠目に見えるのは人だかり、そして喧騒。怒号に近いが、どこか楽しげな声が聞こえてくる。よく見れば、その中心には目立つ巨躯が見える。

 

 

「お〜〜〜っほっほっほっ!!!! 敏腕華麗美人剛腕総督の登場ですわ〜〜〜〜褒めなさい!!!!」

 

 2mに迫ろうかという巨躯、鍛え上げられた筋肉と腕、胴、胸、脚、何もかもが巨大なシルエット。透き通るような、という表現は似合わない、太陽のように明るく色彩あふれて輝く赤銅の髪。

 

 それを華美だが動きやすい白いドレスに身を包み、民衆へ手を振っている。手を振る音が風を切り、小さく衝撃すら起こしていそうな錯覚を起こす。

 

「デカいぞ──ーッ!!!」

 

「いつ見ても腕の筋肉バキバキだなーっ!」

 

「金返せ──ーっ!! 愛してるぞ──っ!」

 

「ツケ払え──ーッ!! また来いよ──ーッ!」

 

「善処しますわ!」

 

「「「ふざけんな──ーッ!!!」」」

 

 周囲を取り巻く民衆が思い思いの罵倒と称賛を投げつけている。花束を投げ込むものもいた。

 

 あいつ、領民にも金払わないのか。『債務とは一定のラインを超えたら持っているほうが強いということを教えてあげますわ!』と豪語しているだけある。

 

「…………アレだ」

 

「アレね」

 

 一目見たらわかったらしい。

 

 そう、今回の目的、あれがエスペリア総督にして、都市国家同盟盟主、ルクレツィア・スフォルツァ・エスペリアであった。

 





身長195cm、体重120kg、身体スペックはビスケットオリバ。
わかりやすく言えば、親友枠です。
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