昏き星のアドラスタ -第二王子は如何にして魔女と共に王位を簒奪したか-   作:鴉の子

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決闘回なんだから螺旋階段上らなくちゃね。




第8話:天使創造即ち光

 

 ぐしゃり。

 

 “誓約”の言葉と共に、頭蓋が粉砕する音がした。正確には、粉砕する音と同時に蘇生が始まり、それを理解したのだが。

 

 顔が再生する、身体も、火傷はある程度治ったらしい。再生術式(エイル)を回しながらゆっくりと立ち上がる、火傷の痛みというのは再生した後の方が痛いのが困る。

 

「……なんだ、心変わりしたか?」

 

「いいえ、普通に危なかったですから」

 

「そうかい」

 

「ええ、ですので早めに参ったと言ってくれますこと?」

 

「ヤダね」

 

「あらそう」

 

 瞬間、音が弾ける。俺の頭が吹き飛んだ。

 

 激痛とともに再生する。眼前には、拳を振り抜いたルクレツィアがいた。

 

「相変わらずグロテスクなこと」

 

「これだけが取り柄だからな」

 

 さて、勝ち目がいよいよ失せてきた。まぁ、最終的には目の前の女がなぜ怒っているのかかが解決すればいいからいいのだが。

 

「泣いて詫びればこれで終わりにしますわよ?」

 

「……さて、それでもいいんだけれどな」

 

 手に持っていた剣は、傷ついていない。一体何で出来ているのか、全くわからないが丈夫で助かる。

 

 構える目の前の女へ、渾身で振るう。だが、肌一枚でそれは停止し、代わりに俺の胴へ衝撃が走る。

 

 ルクレツィアは、動いてすらいない。これは、彼女の魔法だ。

 

「……ずるいよなぁ、それ」

 

「おほほほ、国を治めるにはこれくらいありませんとね!」

 

 ルクレツィア・スフォルツァ・エスペリアが持つ、魔法。『祈りより重き音色(ペルヴィギリウム・ウェヌス)』の真髄、()()()()

 

 厳密に言えば、物がぶつかる瞬間のインパクトという現象そのものをを、任意の触れている場所を通じて移動させる。

 それは、物理攻撃だけでなくあらゆる事象にも適応される。

 

 炎、電気、流体の衝突、俺のバカ兄貴の極光(クェーサー)の放つ光すらも、他のどこかへ受け流す。

 

 つまり、彼女にはあらゆる攻撃が効かなないどころか、触れていればその攻撃は丸々自分へと帰ってくることになる。

 

 そして、それだけではなく。

 

 ルクレツィアの拳、シンプルな正拳突き、威力は強烈だが、刀身で弾けば問題のない一撃だった。

 

 だが、触れた瞬間、俺の()()()()()

 

 一瞬、意識を消失したのちに、また蘇る。昏倒はしない、膝から崩れ落ちはしたが。

 

 全くもってインチキである。

 

 衝撃を操作すれば、()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 刀身に発生したインパクトを、頭蓋を超えて俺の脳の内部に発生させたのだろう。おそらくは、建物の一つや二つ倒れるような衝撃が俺の頭の中に発生したに違いない。

 

 鼻血、いや鼻から流れ落ちた脳漿を拭って、立ち上がる。

 

「…………手加減とかできんのかお前は」

 

「あら? 情けないこと、男でしょう?」

 

「今時流行らないぞ、そういうの」

 

 刃一つでなんとかなる訳でもない、さて、それ以外には油断している間に自爆しかない訳なのだが、それもおそらくもう効かない。

 

 さて、手詰まりだ、降参するかと思ったあたりで口を開こうとして、ルクレツィアがこちらを睨みつける。

 

「貴方、相変わらずですのね」

 

「なにが?」

 

「泣きも叫びもしませんのね、脳を砕かれているのですよ?」

 

「……ああ、まぁ、そうだな?」

 

 それがどうしたというのだろうか、意外と普通に殴られるよりは痛くなかった。脳には痛覚とかないから。

 

「まだ立つのもそうです、いざという時に自分だけ責苦に遭えばいいと思っていますわね?」

 

「ああ、だって、当然だろう?」

 

 命は大事な物だ、みんなは一つしかないから。

 

 俺はそうじゃない、なら、雑に扱うべきだ。

 

「………………言っておきますけど、そういう態度がムカつきますのよ!」

 

「そんなこといわれてもなぁ」

 

 再度、怒りとともに殴りかかってくるルクレツィアの拳を、避けない。インパクトの瞬間に掴み再度、全力の自爆攻撃を試みる。

 

 だが、術式の起動の出がかりに、もう片手のチョップが俺の首を切断、吹き飛ばした。

 

「…………おい勘弁しろよ! 首が飛ぶと大変なんだぞ!」

 

 1分くらいこのままになってしまう前にキャッチする、ギリギリ間に合ったので首を接続しておけばギリギリ治る。……今回は運悪く頸動脈が治る前に失血死し、蘇生したが。

 

「なんですかこのトンチキ生命体! どうやって黙らせればいいんですの!?」

 

「トンチキとはなんだお前!」

 

 ……実のところ、元気を装っているが、それなりにまずい。死に損ない(ハングドマン)の蘇生は、あくまで生存できる範囲までしか保証されていない。

 

 つまり、見た目には肉体が治っているように見えても、治っていない部分が死ねば死ぬほど増える。

 

 ゆっくりと再生術式(アンブロシア)を回しているが、それも俺の才能では大した効果はない。つまり、あと十回も死ねば、多分馬に轢き潰された蛙の如く動けなくなる可能性が高い、あいつは知らないし、言わないけれど。

 

「…………そうやって、ヘラヘラとしている間は終わらせませんわ」

 

「生憎、こういう性分だからそんな酷いこと言わないでくれよ」

 

 …………はて、そもそも、どうして今こんな頑張っているのだろうか? 

 

 一体、何に怒っているのだろうか、全くわからないのが悪いということはわかる。多分、俺のために怒っていることだけはわかるから、尚更だった。

 

 うん、それをわかってやるのは無理でも、寄り添いたいから俺は今ここに立っているのだろう。ぼんやりと、そんなことを考えてしまう、おそらく出血か何かで思考がぼやけているのが原因だ。

 

 視界の隅で、魔女が笑っていた。

 

 笑っている、なにか、楽しそうに。

 

『くすくす、くすくす』

 

 ああ、楽しそうだな、何の用? 

 

 寄り添うように、嘲るように、星のような魔女が、笑っていた。

 

『きっと、こんなことに意味などないのに。どうして貴方は擦り減るの?』

 

 あるよ。

 

 あるんだ。

 

 だってほら、兄貴が何を考えてるかなんて、全然わからなかったから。あいつは一人でどっかに走り出しちゃったからさ。

 

 俺は、誰かにわかってほしいし。わかってやりたいよ。

 

『……私も?』

 

 もちろん、だって俺の奥さんだろ? 

 

 可愛いし、何より、ずっと悲しそうなやつは、寂しいから。

 

『…………………………』

 

 おや、顔が赤い。いつのまにか、魔女は俺の腕の中にいた。

 

 そして、彼女の胸の中心に、黒い虚空が空いている。その向こうには、光が見える、黒い何かが集まって、これから星になろうとしているような光だった。

 

『剣を』

 

「ああ」

 

「────」

 

 その光景を、ルクレツィア・スフォルツァ・エスペリアは、止めることなく、見つめている。

 

 それは、何か、儀式のようであり、きっと止めてはいけない物だと理解してしたから。力がどうとか、決闘が如何とかではなく。

 

 恋する乙女が、男に向ける目線を邪魔するのは、総督の流儀ではないから。

 

 

 ロラン・アランキール・イスタリアが、剣を天に向けた後。

 

 ────魔女ディアナの胸の虚空へと、それを突き立てた。

 

 そして、そこから溢れ出すのは暗黒そのもの。原初、宙の果てで星を生み出した雲のカケラ。

 

 それは、この場にいる誰もが知らない、暗黒星雲。あらゆる物質を構成する原初の塵は、二人の肉体を溶け合わせる。

 

『我は声に応えて影。無垢で蒙昧な影絵の少女』

 

『貴方の祈り、貴方の願い。私は、貴方の永遠のかたち』

 

 いつか聞いた時とは違う、“誓約”の言葉。それは心からの言葉故に、魔女の力を引き出して。

 

『────編纂(excitare)

 

『御伽話《あなたのためのつるぎ》』

 

 

 

 

 

 ────黒い、黒い鎧。

 

 夜空の暗黒を煮詰めたような、いっぺんの光すら通さぬような暗黒に、真っ赤な瞳の光だけが浮かんでいる。

 

 それは、これから星が生まれる時の光。

 

『────創成星雲・咆吼骸装(ダークネビュラ・アラストール)

 

 ──魔女の声と共に、生み出されるは、星の海の暗黒を固めて作り出された、異界の鎧。

 

 その兜は、非ユークリッド幾何学的に歪み、歪んだ狼の如き貌を浮かび上がらせる。鎧は、この世のものではないように揺らぎながら、黒き煙ような何かを放ち、幽鬼の如く歩みを進める。

 

「…………随分と変わったわね」

 

「いいや、余り変わらないさ」

 

『ええ、そんなに変わりないわ』

 

 ルクレツィアは異変に気がつく、魔女がいない。声が、一つの身体から二つ。

 

 ────否、鎧こそが魔女なのか! 

 

 これこそが魔女の魔法だとするのならば、情報のない今、先手を取られれば何が起こるかわからないのが、魔法を持つ相手同士の戦闘。

 

 たとえ、目の前の男が自分を殺す気でないとしても、地に膝をつくことは許し難い。好きな男だからこそである。

 

 即座に一歩を踏み込んで、足の裏に発生した震脚の衝撃を操作、最大効率で前進のエネルギーへと変換することで容易に音速を超える。

 

 そして、音速を超えることによって発生する空気との衝突発生するインパルスの衝撃を操作、全身を伝い、拳の先端へ。最適効率による全身駆動のエネルギーは拳の先、立てられた一本拳に一点集中される。そして、対象に衝突した瞬間に、確実にその全てを伝達する。

 

 それは、修練と才能の結実であり、その一撃はあらゆる構造物を破壊する。

 

 はずだった。

 

『──────痛いわ』

 

「鎧越しでもいってぇなおい……!?」

 

 伸ばされた右腕、掌がそれを受け止めた。手ごたえはない、それはまるで、霞に拳を撃ち込んだかのようで。

 

 否、霞ならば、この拳は払い、打ちのめすことができる。ならばこれは何だ? 

 

「何だって? 花嫁パワーだ、甘すぎて吐くなよ?」

 

 視界が、暗黒に染まる。

 

 否、これは、彼の右拳であると気がついた瞬間、ルクレツィアの身体は、宙を待っていた。

 

「────バカな……!?」

 

 ただの拳の一撃を喰らって、宙を舞う。予測できない速度と重さ、衝撃操作も出来ずに吹き飛ばされる。予想外の事態に困惑と共に態勢を立て直そうと、何とか空中で姿勢を立て直そうとした瞬間、目撃する。

 

 ────溟い、溟い色の(ツルギ)が、朝焼けの紫のように煌めいていた。

 

 それは、青空の陽光を飲み込んで、その構えは、私の心臓を貫くように鋭くて。

 

 ああ、まるで、遙か遠い幼い頃に見たことがあるような。そうだ、蝋燭の影に浮かんでいた、幻影だ。

 

 いつか、何処かで、ロランが教えてくれた王子様の物語に出てきた、怪物の騎士の、影絵の姿を思い出して。

 

「────きれい……」

 

 思わず、口から言葉が漏れた。

 

 

 

 

「────暗黒のきみ。我が花嫁、ディアナ」

 

『ええ、なにかしら、なにかしら?』

 

「成り果ててやるよ、お前の王子様に」

 

『まぁ素敵!』

 

 

 喝采はない。花嫁は黒い鎧を引きずって、王子は、花冠もなく重力半径の螺旋階段を昇り始めた。

 

 暗黒を纏った生贄は、極光を殺す為に、今ここに疾走する。

 

 




作者の好きなものはウテナです。みんなも見よう!少女革命ウテナ!

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