錬鉄と鍛造の贋作者 作:英雄に憧れた一般魔導師
今回はやりたいようにやりました……。
二つの雷と一つの氷が、激しくせめぎ合う。
魔力を流出させる『雷霆』を以て魔導士らしからぬ戦闘スタイルで戦うゼオ。
そんなゼオの戦い方を目の当たりにし、それを再現するだけでなく、さらに自分なりのアレンジを加えて食らいつき始めたラグナ。
そして、圧倒的な魔法速度を誇るエルファリア。
三人による攻防は、既に常人には捉えることすら叶わない領域へと達していた。
異常なのは、至高の五杖に卒業したばかりの雛が食らいついているということである。
未開の魔法と言えるか怪しい異能を使うという優位性はある。しかし、それだけでは至高の五杖を驚かせることはできても、食らいつくことなど叶わない。
理想を追い求めた者の積み重ねてきた経験と知恵。
そこへ、ラグナがこれまで培ってきた全てを出力し、全身全霊を叩き込む。
そうして初めて、舞台に上がることを許された。頂に座する者達による、狂宴。
そんな光景を、コレットは静かに見つめていた。
「コレット?」
隣で三人の戦いを見ていたロゼ・プレナイトが、コレットの方を見る。戦いが始まる前は、必死になってラグナを止めようとしていたコレット。
それなのに今は、静かに戦いを見つめている。
気にならないわけがなかった。コレットは、ぽつりと呟く。
「……なんだか、遠いなぁ」
寂しそうな声を漏らしながら、戦場を見つめる。
「え?」
ロゼは驚いた表情を浮かべ、コレットを見る。
「ラグナね。境界祭の騒動が終わった後、心配をかけないように強くなるって言ってたの」
コレットは静かに話す。
「でも、私はね。心配をかけないための強さより……私の方が強くなって、並んで戦えるようになりたいって思ったの」
コレットは、空中から地上へと縦横無尽に駆け巡るラグナを見る。高速なんて生温い。戦いの中で、ラグナは至高の五杖と戦いを成立させている。
「……でも、遠いよ」
コレットの声が、僅かに震える。
「早く行き過ぎだよ……ラグナ」
追いつくのに時間がかかる。そんな生易しい領域ではない。それこそ、今のラグナと肩を並べるためには、ブレスレットによる封印がない状態でなければならない。
しかし、それがどんな結果を招くのかは、考えるまでもない。
――それでも。
その程度で、コレットは立ち止まるような人物ではなかった。
コレットは一度、深く息を吸う。
そして、自分の頬を軽く叩いた。
「……大丈夫」
自分自身に言い聞かせるように呟き、再び戦場を見つめる。今は、見守ることしかできない。
だからこそ――
(どんな結果になっても……ラグナが無事に、この戦いを終えられますように)
胸の中で、静かに祈った。
同じく戦いを見守っていたリアーナもまた、悔しそうにその光景を見つめていた。彼女もまた、同じことを感じている。
騎士の家系に生まれ、幼い頃から鍛錬に余念はなかった。学園では全ての単位を修め、塔へと登った。それまでにも、総合実習での襲撃を乗り越え、境界祭での襲撃を乗り越えた。
自分は強くなった。
そう思えるだけの経験を、リアーナは確かに積み重ねてきた。それだけの実績を積み上げて見せた。
――だが。
襲撃の際にはリアーナはラグナの後ろにいた。
イヴィル・センチネルが消耗しきったところへ襲いかかってきた時。絶望そのものを叩き伏せるように立ち向かったラグナ。あの時の背中は、いつも知っているラグナとは違って見えた。
そして
置いていかれてはいない。
――追いつけた。
リアーナは、そう思っていた。
少なくとも、そう思いたかった。
だが――
ラグナと最後に並んで戦ったのは、ウィルだった。
そして今。
ラグナは、
自分が積み重ねてきたものと、ラグナが背負っているもの。その間には、まだ埋められないほどの差がある。
「…………」
リアーナは俯く。
悔しい。
追いつきたい。隣に立ちたい。
それなのに、今の自分には届かない。拳を強く握りしめる。無力さは何度でも自分を苛む。
――けれど。
絶望している暇などない。
下を向いたままでも、一度は歩みを止めたとしても、逃げるつもりも目を背けるつもりだけはなかった。
強くなる方法なら知っている。ただひたすらに、研鑽を続けること。
学園でラグナが六年間、己を鍛え上げてきたように。自分も、これまでやってきたことを続ければいい。
積み重ねていくしかない、走り続けるしかない。リアーナは顔を上げる。その瞳には、悔しさが残っている。それでも、諦めだけはなかった。
(どれだけ時間がかかっても……必ず追いつく……!)
そして、もう一つ。
胸の奥にある想いを、強く握り締める。
(……独りにはさせない)
騎士の家系の少女はこの戦いで得られるものを得るため、強くなるため……そして無事を祈り戦いを見守る。
「……誰が勝つと思うフィン?」
三者の戦いを見ながらケリドウェンはフィンに尋ねる。フィンは頬杖をついて楽しそうに言う。
「ゼオ」
即答だった。迷いなんて無い答えだった。
「十二の魔法を創出したエルファリアが『実技』の天才とすれば、ゼオは『実習』の傑物だ。迷宮の到達階層は光皇に次ぐ48層。その能力はあまりにも実戦に特化しすぎている。『杖』でありながら彼の在り方はいっそ『剣』に近い」
フィンが言う通りゼオの戦闘スタイルは魔導士らしからぬ近接戦主体の戦い方である。
「ラグナが勝つのは今は難しいんじゃないかな。速度ではゼオに追走できるようになったと言えど、魔法の威力、精度は二人に劣っているからね。でも『剣製』は本当に多く見れたから収穫ありだよ。単純な近接戦ならゼオにも引けを取らないしね。でも、まだ届かない。ま、秘策があるならわからないけどね」
フィンは楽しそうに話していた。
「っ!」
ラグナが剣を上に向ける。三人を取り囲むように魔法陣が無数に展開される。それぞれが異なる色で展開される。
「下級魔法の
発動に要した一瞬の隙。それはゼオにとっては隙だらけ同然である。
ゼオは前髪をかきあげながら雷衝破砕の黄金戦槌を解除し
「終わりか?なら、もらっていくぜ。てめぇの『剣』とそいつを!」
ゼオがそういった直後、氷の魔力がゼオの頬を切る。
血を流しながらもエルファリアは立ち上がる。
「……わたさない。私の『
「吠えるじゃねぇか!!煮え滾るてめぇの姿初めて見たぜ!何がそうまでてめぇを駆り立てやがる!!」
ゼオの問いにエルファリアは正面切って答える。
「愛!!ウィルは私を守ってくれた。ウィルは私を追いかけてきてくれた。ウィルは……私との約束をずっと抱きしめてくれていた……だから、今度は私の番!私のウィルへの愛は誰にも負けない!そんなウィルを支えてくれた友達のラグナも譲らない!」
「ハッ!!それがてめぇの欲か!!」
ダメージがでかいラグナはゆっくりと立ち上がり頭を振る。エルファリアとゼオが吠えている。次の瞬間にはゼオが突っ込んでくるのは目に見えている。ラグナは銀色の剣を投影し、エルファリアと並んで構える。左手で剣を背負うように構え、右手は脱力し構える。ゼオを迎え撃つため。
壊れた幻想は魔力の詰まった宝具を爆弾として相手に破裂させる技法。物によっては本来の威力を超える程にもなる。
ラグナは投影した剣の魔力を外付けのもう一つの魔力の源として使い、壊れた幻想で放たれる爆発を全て斬撃として出力する。そうすれば勿論、武器は砕ける。さらに、記憶にある鍛冶師同様にその武器が一振で自壊する程の最大威力を引き出す。二つの技術によって放たれる文字通り、一斬限りの最大出力の斬撃を構える。右手も添えて迎え撃つ体勢に入る。
しかし、迎え撃つはずの雷霆も剣も等しく凍てつけばその限りでは無い。
「
「て……てめぇ……!?コレは……!?」
「凍って……動けない……!」
雷霆で迫るゼオと巻き込まれる形で凍るラグナ。
「発動条件が非常に面倒臭い私の隠し玉です。効果範囲内に私の魔力の五割を放出してようやくできる霜雪の結界。魔法をボンボン撃たないと行けないのが欠点です。ラグナに
少し不貞腐れた表情をラグナに向けながらに話を続ける。
「本当は恥ずかしがり屋のウィルを捕まえて抱きしめるための魔法だったのに……。ですが、使ったからには遠慮なくブチのめさせてもらいます」
「
「っ!」
エルファリアは腰を落として拳を振りかぶり
「ウィルはっ、私だけのっっお嫁さん!!!」
渾身の拳がゼオの顔面を捉える。そして、凄まじい勢いで飛んで壁に激突する。
「ごめん、手加減はするよ。でもラグナにも負けられないからっ!!!」
同じよう……少しゼオより手加減されてラグナも吹っ飛ばされる。
「「ラグナぁ!!」」
ついでの感覚で無防備に殴られ再び壁に激突したラグナは頭から血を流しながら項垂れる。
(本当に加減したのか分からないっ……!身体中が痛い……!)
これまでの戦い、至高の五杖からのクリーンヒットをもらい、ダメージがでかいラグナは半分以上意識が飛んでおり、魔力も残り2〜3割程度である。
そんな中、ゼオの声が耳に入った。
「簒奪者が来る!!無実の光よ、罪なき瞳よ、約束されし栄光の頂きよ!汝の偉業は毒蛇によって反転する!!」
ゼオが詠唱を始める。今までの戦いで詠唱をしてこなかった人物が詠唱を始めたのだ。
「あのゼオが詠唱……本気か!」
「魔法さえ凍結させる馬鹿女の霜雪結界を貫くには結界以上の火力を叩き込むしかないとはいえ……加減を知らない蛮族めっ!レフィーヤ、フィルヴィス!」
観戦していた二人の至高の五杖も対応する。ゼオから暗雲が立ち上る。
「なにあれ……あんなの見たことない。あの詠唱ってまさか……」
「上位魔法の更に上…最上位魔法!!」
ゼオが本気を出す。エルファリアも唱える。
「白氷河満ちる!暴禍の渦、引き裂かれし護盾、争乱の爪痕!楽園は死に絶え、白銀が覆う!雪風は鳴り、魔女は千の勇者を弔った!」
エルファリアも最上位魔法の詠唱を唱える。そんな中、瓦礫を押しのけてラグナも意識をはっきりさせて歩き出す。
「……最上位魔法?それに見合うものは……ひとつしかない」
ラグナはマントを外して投げ捨て、手を見て頷く。
「剣を作るだけじゃない……心を象に」
そして再び頂に向かって歩き出す。
「虚偽の咎、謂れなき代償!罪過の烙印は血の海へと!堕ちろ雷名!雷讃は翻り汝の愛を屠る!砕けよ理性!慟哭が"
ゼオはエルファリアを別の魔法で攻撃しながら詠唱を続ける。妖精の秘技『並行詠唱』をしながら戦う。エルファリアは
「民は消え、侵略者は絶え、そして後には何もなく!氷城に魔女はただ独り!涙は墓に、祈りは灰に、誓いは果てへ!孤独の玉座は今、守護者を名乗る!」
分身が呪文を引き継ぎ詠唱を繋げる『継承詠唱』を行い対抗する。
「偽罪至るは実現の鏖斧!簒奪せよ、蹂躙せよ、虐殺せよ!毒蛇を贄に開け絶望の宴!」
「凍土の翼、番人の嘴、白き真理、其は連鎖断つ氷天の王!」
二人の詠唱が続けられる。そん中第三者の声が全員の耳に入る。
「体は剣で出来ている」
空気が変わる。そこに立つのは血だらけ、満身創痍のラグナである。目が死んでいないのはもちろんだが、纏う空気も変わっている。さらに、
「いつもの『剣製』の詠唱じゃない……!」
「何をするつもり……ラグナ……!」
いつもの短文の詠唱ではない。明らか異質な空気を出している。それでもラグナを知る者たちはラグナを見守る。
「血潮は鉄で、心は硝子」
右手を突き出し詠唱を続ける。しかし、二人も詠唱は続けられる。
「魔王は嗤う」
「賢者が謳う」
詠唱も終盤に差し掛かった。しかしラグナは二人を見据えながら詠唱を続ける。
「幾度の戦場を超えて不敗。ただ一度の敗走も無く、ただ一度の栄光も無し」
右手に青緑の光が集約され、ラグナの顔に魔力路が浮かび上がる。更にラグナの足元にも魔力路が伸びる。
「「界騙る儚き花の永遠讃歌!」」
エルファリア、ゼオは杖を引き寄せ互いに向かう。
「滅べ万雷王国!愚かな終末をここに!」
「至れ銀世界!争乱なき天空をここに!」
だが、まだラグナの詠唱は終わっていない。
「偽りの担い手は此処に独り。果てなきの炉にて剣を打つ」
しかし待たない。二人は待つなんてことはしない。
「
「
ゼオは雷と雷雲で出来た鎧と斧を身に纏う金色のミノタウロスを作り出し、エルファリアは氷結で出来上がった超大型の怪鳥を作り出した。衝突は間もなくである。二つの魔法の衝突をまともに受ければ衝撃でラグナはひとたまりもない。
だが、
「ならば収斂と研鑽に終わりは無く」
詠唱は止まらない。ミノタウロスと怪鳥が互いに滅ぼすべくぶつかりあおうとする。それよりも早く
「偽りのこの体は――――」
詠唱が完成する。
「―――無限の剣で出来ていた」
真名を口にする
――――炎が走る。
「は?」
「えっ?」
ゼオとエルファリアが素っ頓狂な声が盛れる。それも無理はない。
次の瞬間には、燃え盛る火は壁となり、境界を造り、その場の全てを飲み込み世界を一変させる。後には地を焼く炎と荒野。無数の剣が乱立した、剣の丘にあるはずの無い星と月の夜空が広がっていた。
氷の怪鳥も雷のミノタウロスも気づけば互いの距離が空いていた。しかし、それは術者にとっては些事でしかない。
「転移か?いや……どういうことだ!?」
「ここは……一体……!」
皆が驚愕に染まる。さっきまでいた場所と異なると。ラグナ何かを詠唱してここに来たのだと。
「まさかラグナの奴、幻想魔法も使えるのか!?」
「そんなまさか!」
一部は幻想魔法だと決めるが、エルノール、イグノール、レフィーヤ、フィルヴィスは違うと一瞬で見抜く。
「これが幻想魔法だと?似ていると思われるのも癪だが、そんな生易しいものじゃない……!ハリボテの再現ならば出来るかもしれないが、私でもこれは使えない……!」
エルノールは面白そうにラグナを見る。術者であるラグナはエルファリアとゼオの間に歩みを進める。
「個と世界、空想と現実、内と外を入れ替え……現実世界を心の在り方で塗りつぶす。これが彼の……オレの心象世界。オレは無限に剣を内包した世界を作る、それが『剣製』の本当の姿」
「世界を……!」
「塗りつぶすだと?」
フィンは笑みを浮かべて笑う。
「すごい……!すごいよラグナ。君がここまでやるなんて……!本当に面白い!」
キャリオットも世界を見て感嘆の声を漏らす。
「想像以上だ……最早ここまで示してくれると思っても見なかった。それ故に、本当に祝福を与えていなかった自分の判断を久々に恨めしくも思うよ」
キャリオットは心底楽しそうに言う。至高の座についてなお知らない世界があったと。しかも脅威に思えるほどに。
意識を取り戻したウィルは言葉が出なかった。エルファリアが戦っている事にも驚いたが、ラグナも戦っているとも思わなかった。更に、ラグナの切り札が世界を塗りつぶす程のものだとも……。そして、周りにある剣がどれも一級品であり、一本一本が
「これが……ラグナの……切り札」
「世界を塗り替えるだと……バケモノめ」
ユリウスが悪態をつく。しかし、現状聞いた事のない現象を起こしているのは事実である。燃え盛る剣の丘は幻想では無いのだから。幻想魔法では無い。
「この……燃え盛る大地と無限の剣と夜の空が……ラグナの心?」
「自分の身を焼いて剣を鍛えていると言うことなのか?この荒野が……」
コレットとリアーナはそんな世界を見て締め付けられるような感覚を味わった。
ラグナは構える。それと同時に氷の怪鳥と雷のミノタウロスも再度ぶつかり合おうと進撃する。そんな召喚物にラグナは、それに相応しい武器を投影する。
「
投影速度、精度は固有結界内のため補強されている。更に結界内では神造兵装の投影に詠唱は不要となる。ラグナはミノタウロスに向けて
「
千の山すらも斬り拓く、長大にして無骨なる巨剣を放つ。氷の怪鳥に向けては
「
溶岩塊じみた峰と純然たる火の剣身で形作られた巨大な剣を放つ。衝突と同時に凄まじい衝撃が走る。
「「ディオ・グレイル」」
レフィーヤ、フィルヴィスが他の皆を守るべく障壁を張る。そして光と衝撃が辺りを覆う。
やり切った感が凄いです……
次回の投稿が終わればしばらく休みます。続きは書くつもりはあるので!
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