錬鉄と鍛造の贋作者 作:英雄に憧れた一般魔導師
「遅かったなウィル」
「遅れてごめん!でもキキとコレットの宝石のおかげでこうして来ることができた!それにしてもラグナその剣なに!?」
ウィルが嬉しそうな表情を浮かべながらラグナの双剣を見る。ラグナは
「そんなことより前だ、前!」
そんなやり取りをしている間シオン、ユリウスは目の前の不審人物に注意を向けていた。
「それよりも……なんだあいつらは?」
「首がない?」
首無しが言葉を空中に描く。
『可愛い首がこんなに沢山』
不気味なオーラを出し学生を怯ませる首無し。ウィルが駆け出し
「僕が押さえる!その間に―――」
『pon』
首無しがウィルに魔法を放つ。ウィルは剣で受け止めるが勢い良く後方に吹き飛ばされる。コレットとイグノールが魔法で飛ばされていくのを阻止する。
『いいねぇ君たち。ゾクゾクするよ…君達の首をぜひコレクションに加えて―――』
首無しを制止するようにマルゼが襟を引っ張る。
「時間切れだ。面倒な連中が迫ってきてやがる。『例のブツ』を回収しに―――」
マルゼの言葉が遮られる。マルゼはナイフを瞬時に展開し迫り来る二振りの剣を間一髪で止める。気づけばラグナが肉薄し、躊躇なく剣を振り下ろしていた。甲高い音を響かせ鬩ぎ合い、睨み合う。
「こっちは時間切れって言ってんのによ……面倒なガキだな」
「先に手を出したんだ、殺られる覚悟くらいあるんだろ?」
マルゼはラグナを弾き飛ばすと
「おい、首無し。さっさとアイツを呼んで始末させろ」
『えー、ざんねん。それじゃあ……皆殺しにしといて大公』
その直後空中に幾重の魔法陣が展開される。
「なっ!」
「『
「あれは……まさか……」
「うそでしょ……?」
「10層に現れた……あの『化け物』……」
10層で自分達をたたき落とした怪物が門より現れる。
「単位数……270……!イヴィル・グランドデューク!!」
イヴィル・グランドデュークが姿を現すと同時に口よりブレスを放つ。
「避けて!!」
ウィルの言葉に皆回避行動を取るが一歩遅れている。ラグナは双剣を交差させて受け止める。
「ぐっ……うおおおおお!!」
「ラグナ!」
拮抗することなく威力に押されていく。押し負けながらも逸らす事には成功し、ブレスはダンジョンの壁を破壊する。ラグナは転がりながらも体勢を整えてイヴィル・グランドデュークを睨みつける。ブレスの衝撃にユリウスは悪態をつく。
「……ふざけるな、なんだ、この威力は……!」
ウィルはその間にも周囲を見渡し生きている通路を見つけ出す。
「リアーナ!撤退!!生きている通路がある!」
迷わずリアーナは指示を出す
「走れッ!!」
その言葉を聞き皆は走り出す。そんな中、イグノールは足止めをするべく魔法を唱える。
「応じよ!来い!開け!!
成長したイグノールの幻想魔法が
「イグノール!早く!」
「ああ……!」
イグノールも通路に逃げ込もうとした瞬間。木々を薙ぎ払い大公が追撃を仕掛ける。
「『幻想魔法』を無理やりこじ開けるなんて!?」
間一髪のところでウィルが飛び出しイグノールを抱えて回避行動を取ることで二度目のブレスから難を逃れる。
「ラグナ大丈夫!」
コレットがラグナを気にかける。ラグナは納刀しながら小さく息を吐き
「オレは大丈夫。まともにもらった訳じゃないから」
心配いらないと言う。コレットとリアーナはその言葉でほっとする。しかし、状況は良くない。最悪と言っても差し支えないのだ。
「でたらめ過ぎるわ……!何なのあのモンスターは!?」
「……学院の蔵書で見たことがあるイヴィル・グランドデューク……25層に出現する
「25層!?何でそんな化け物がここにいるんだ!?」
「『門』を使ったあの魔導士達の仕業だろう」
状況を整理すればするほど最悪である。大公が指示を出したことでイヴィル・ガードやイヴィル・センチネルが獲物を探すように動き回っているのだ。
「おい……まさか……逃げられないっていうのか!?悪魔どもが包囲する階から!このまま死ぬっていうのか……私達は……!」
ユリウスの言葉に皆の表情が曇る。リアーナは分析しながら
(疲労困憊、満身創痍……そして最悪の不条理。絶望が全員の心を殺そうとしている……一体どうすれば……!)
ラグナは考えていた。
(オレ一人で戦えば勝算はある。この状況ならそれしか無い)
ラグナは覚悟を決めたように言おうとした瞬間
「戦おう。グランドデュークを討つしかない。
「つまり、統率さえ失わせることが出来れば学院の救助、及び突破口が開けるという事でいいんだよな?」
ラグナが確認するとウィルは頷く。それにユリウスは反論する。
「馬鹿を言え血迷っているのか無能者!私達だけであの化け物に勝てるっていうのか!?」
「……作戦はある。でも強要はできない……。僕は魔法が使えないから…」
「当たり前だ!誰がお前の作戦なんか信じて……」
ユリウスが言った直後イグノールが
「僕は信じる」
とはっきりと言う。
「僕は彼の『知恵』と『献身』に何度も救われた。今度もそれを信じる」
イグノールに続くように
「私だって信じるわ!ウィルが一番ダンジョンに詳しいんだから!」
「逃げようとしてもどうせ見つかって追い込まれるだけなら立ち向かうだけだ。…そこの落ちこぼれの言うことを聞く訳じゃないからな!」
コレットとシオンも賛同する。ラグナは一人で戦う案を出そうとしていた。が、作戦があるというウィルの話、皆の目が息を吹き返したのを見て一旦は取り下げる。
「オレも信じてるウィル。退路がないのなら勝つだけだ」
「ラグナも」
リアーナはウィルに歩み寄り
「私は最初から間違えていたらしい。貴方は『盾』などではなく。リーダーになるべきだった。この状況にあっても絶望に殺されてないのは貴方とラグナの瞳だけだ」
「リアーナ」
「私が信頼するイグノールとラグナが信じているのなら私も全てを委ねよう。セルフォルト……いや、ウィル。指示をくれ私達は貴方の判断に従う」
「分かった絶対に生きて帰ろう!」
ユリウスが皆がウィルを信じる状況が信じられない様子で勝てないと言うが、ウィルはユリウスが鍵だと言い、作戦を開始する。
ユリウスが『
「皆は援護!!下位呪文でいいからとにかく連射して足止めを!!」
「
「
「
放たれた下位の魔法は大公の翼に防がれる。傷ひとつすら負わない。
「無傷……!」
「クソっ!」
「『鉄壁の翼』……!ウィルが言っていた通り!」
魔導士の攻撃を鬱陶しく思ったのか大公はブレス攻撃を放とうとする。が二人の剣が上から強襲を仕掛ける。その衝撃で大公は体勢を大きく崩す。ウィルは翼で弾かれ、ラグナは尻尾で弾かれる。そんな中でウィルは見ていた。ラグナの剣で斬りつけたられた箇所だけが、傷になり出血していることを。
(あの双剣は
干将・莫耶。魔除の文句が刻まれており原典では破魔……つまり魔性に対して強い特性を持っている。その特性は投影されたものでもその特性は健在である。故に大公にもその効果が有効だった。
ラグナが攻撃し続ければ必然と傷も増えていく。そしてそれと同時にユリウスの詠唱も完成する。
「築け蒼鉄の棺!其は極地に咲く森の園!『
氷結魔法の一斉爆撃が大公に降り注ぐ。しかし、翼を盾にして防いで健在であった。
しかし、ウィルは防がれる可能性も考慮していた。だから最後の押し込みは
「『
リアーナが行う。砲撃を防げば氷結の影響で動きは必然と鈍くなり無傷ではいられない。そこにリアーナの高速移動での攻撃なら懐に踏み込んで仕留めることができる。全員が協力しての攻撃。
「はぁあああああああ!!!」
心臓を目掛けて雷の刃を伸ばす。が大公を守るように魔法陣の障壁が攻撃を防ぐ。
「まさか……
「リアーナ!!」
ウィルが飛び出しリアーナを庇う。大公の砲撃はカーバンクルのキキの防壁も突破し、ウィルの大事なゴーグルを破壊する。空中で体勢を崩しながら落下してくる二人を抱きとめるラグナ。
「ウィル、リアーナ!」
「二人とも大丈夫か!?」
「私は……無事だが……ウィルが私を庇って……」
ラグナはウィルの様子を見ながら覚悟を決める。ローブをリアーナに被せ、杖も置き双剣を持ち大公の方を見る。そして
「イグノール、リアーナと皆を頼む」
「き、君はどうするつもりだ?」
「どうするも何も無い」
ラグナの視線の先は氷を砕き拘束から逃れようとしている
「アイツはオレが引き受ける。脱出するまでならオレ一人でも稼いで見せる」
「そんなの……ダメだ……!待って……!」
「そうよ!そんな自分を犠牲にするなんて!ダメよラグナ!」
ラグナはリアーナ、コレットの制止を振り切り、姿勢を低くし魔力を体内で巡らせ身体能力を上げて
ピキッ!
嫌な音が耳に入る。手の二振りを見ると、一本がヒビが入っていた。しかし、ラグナは気にも止めずに走り出す。リアーナとイグノールが援護の為に魔法を放つ。
「リアーナ!イグノール!どうして!」
「どうして……じゃない……貴方が戦っているのに……!」
「リアーナが信頼する君を、死なせたくないと思ったから!」
二人は限界寸前ながらも戦い続ける。更にウィルも参戦してくる
「大丈夫かウィル?」
「遅れてごめん……ラグナ」
ラグナとウィル。二人の剣が並び立つ。リアーナもイグノールも限界、まともに戦えるのはラグナとウィル、そして
「礫よ!」
コレットの三人である。
「ラグナ、合わせられる?」
「合わせるさ。翼を叩き斬るんだろ?」
「うん!コレット!」
ウィルがコレットとアイコンタクトをする。それと同時にラグナとウィルが走り出す。大公も受けて立つと言わんばかりに砲撃を開始する。一撃でもまともに受ければ即死の一撃必殺。しかしウィルにとっては既知の攻撃である。ラグナも双剣で払いながら走る。砲撃で二人の姿が眩む。煙の後にはウィルの剣とラグナの双剣の片割れがあった。双剣の片割れは砕け、光となって霧散する。
「ウィル…ラグナ」
「あれは―――!」
二人は大公の上を取っていた。
「轟け鋼の断崖!砕け峡谷の石刃!『
ウィルの頭上にコレットからの巨大な剣が召喚される。
「オーバーエッジ!」
双剣の片割れを両手で持ち鳥の翼のような形状にしありったけの力で、二人同時に片翼づつ切り落とす。その直後薙ぎ払いブレスが放たれ、それがラグナの方に向かいラグナは強化した剣で受けるが後方に飛ばされ壁に激突し、手から剣が落ちる。
「ラグナ!」
ウィルがラグナを呼ぶ。その時ホルグスに乗り詠唱をしながらシオンが大公に向かう。
「灰燼よ今はなき死都の残滓よ!想起せよ、汝を焼き払いし炎苦の記憶、思い出せ汝を消し去りし焦土の焰奏、還らぬ故郷の火愴を以て、今こそ我が仇を焼き尽くす!」
しかし、大公のブレスがシオンを襲う。しかし守護者であるホルグスを盾にして更に肉薄する。
「お前らにできて僕にできないわけないだろぉおおおおお!!!」
そして大公の眼前に降り立ち至近距離から上位魔法を放つ
「『
衝撃で弾き飛ばされるシオン。シオンが決死で放った上位魔法も倒すまでには至らない。そんな時ウィルの前に結晶のようなものが落ち、ウィルがその結晶を拾い上げる。それと同時に何かを思い出したように剣に向かって走り出し
「シオン!!!『魔法』を『杖』と『剣』を!」
シオンは直感でウィルに魔法を放つ。ウィルは剣で受け止める。シオンの魔法が剣と一体化する。
「あれは……」
「剣が炎を纏った……?付与魔法?いや違う!」
「魔法を喰った?」
「落ちこぼれ……お前……」
ウィルは力の流れに従うままに大公と戦う。全ての攻撃を避け切りその名を告げる。
「装填完了――『
その一撃は
(ウィル……!)
その表情は嬉しそうだった。ウィルは片膝をつき、
(力が抜ける……剣が元に戻った?なんだったんだ今のは?)
「
「ウィル――!!」
ウィルが皆の元に駆け寄ろうとした時けたたましいモンスターの咆哮が響き渡る。開いている通路からイヴィル・センチネルが一斉に押し寄せてくる。
「イヴィル・センチネルの大群!?」
ラグナは赤い布に手をかける。その時、声が頭に響く。
(使うのか?ここで使えば後戻りなんぞ出来ないぞ?)
その声にラグナは言う。
(そうかもしれない……。けど、今、この力が必要なんだ……!)
そして赤い布を解放する。それと同時に、魔導士の自分と錬鉄・鍛冶師の自分が一つとなる。もう、分ける必要はない。誰も知らない所でラグナは進む。
「まさか、
「そんな……せっかくウィルとシオンが敵を倒したのに……」
(もう……我々には戦う力が残されていない……!)
誰もが絶望する中、一人の声が耳に入る。
「――――
皆の前に立ち、右腕を上げそう言う。右腕の袖に隠れていた赤い布は全て解放されている。靡く赤い布、聞いた事のない詠唱が皆の意識をラグナに向けさせる。
「ラグナ?」
「一体何を……」
敵の数は多い、故に大英雄の剣技を以て薙ぎ払うのが最適解となる。赤い外套の英雄が見た異界の大英雄の斧剣。右腕に青緑の筋のようなものが浮かび上がり、右手の虚空に同じ色に光が集約されていく。
「
見定める。迫り来る脅威の数と振るわれるべき斬撃の数を。
「
現れるのは人が振るうことが不可能な巨大な斧剣。しかし、その怪力、その技量、その剣技のを全て再現し、迫り来る悪魔達を神速を以て凌駕し討ち滅ぼす。
「なに……が……起こった?」
「ラグナ?」
「どこから……あんなのを……」
誰もが理解出来ていない。一瞬の惨劇と不可解な魔法行使。しかし、まだ終わらない第二波が押し寄せてくる。ラグナは構え迎え討つ構えをとる。しかし、
「裁け、破邪の賢王―――『
第二波は高位の殲滅魔法によって消し飛ばされた。魔法を放った主を見るとその正体が分かる。
「迷宮の闇に抗い抜いた者達に光の祝福を与えた。よくぞ戦い抜いた魔の子らよ」
その言葉を聞き
「うおおおおおお!!」
ユリウス達の歓声が迷宮に響く。全ての魔導士がエルフでさえも歓喜に身を震わせ拝礼する。あらゆる意識が一人の『光皇』に向かう中、ウィルとラグナは別の人物を見ていた。
「驚いた『剣』はまだ生きていたか。それに……面白そうな子も居る。君達の名前は?」
「ウィル・セルフォルト……」
「ラグナ・グレイス」
二人は名乗る。
「貴方は?」
フードの人物はフードを取り
「僕はフィン。ただのフィンさ」
こうして迷宮での事件が一つ幕を閉じた。
この世界で宝具って低ランクでもかなりヤバそうですね(小並感)