妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件   作:パッタリ

11 / 11
11話 3Dモデルのお披露目と外面の良い化け狸

 「……完成した」

 

 事務所の収録スタジオ。

 大型モニターに映し出された二体の3Dモデルを前に、私は思わず息を呑んだ。

 銀髪に狐耳、すらりとした体躯に揺れる尻尾。クール系妖狐のシズク。

 そしてその隣には、茶髪の狸耳に、少し丸みのある柔らかそうなシルエット。甘えん坊後輩化け狸のコノハ。

 

 Live2Dの頃から見慣れていたはずなのに、立体になると迫力が違う。

 横を向くと尻尾が揺れる。袖がふわりと遅れて動く。

 画面の中に、もう一人の自分が本当に存在しているようだった。

 

 「すご……。ちゃんと私だ」

 「本当に素敵です、シズクちゃん。凛としていて、綺麗で、でも少しだけ触れたら消えてしまいそうな儚さもあって……」

 

 隣でコノハが、いつもの配信用の甘い声でそう言った。

 私はちらりと横を見る。

 今日のコノハは、完全に外向きモードだった。語尾は柔らかく、声は可愛く、所作は控えめ。

 家で私の尻尾に顔を埋めて「シズク殿の匂い……♡」などと限界化している化け狸と同一人物とは思えない。

 

 「コノハ、事務所だとちゃんとしてるよね」

 「えへへ。お仕事ですから」

 「その顔で言われると、逆に怖いんだけど」

 

 スタジオのスタッフさんが、にこやかに近づいてくる。

 

 「お二人とも、本日はよろしくお願いします。まずはモーションキャプチャの確認から入りますね」

 「はいっ、よろしくお願いします!」

 

 コノハがぺこりと頭を下げる。

 完璧な後輩ムーブである。

 私は内心で感心しながら、マーカー付きのスーツに着替え、収録スペースへ向かった。

 カメラに囲まれた広い床。

 正面のモニターには、私の3Dモデルがリアルタイムで立っている。

 

 「では、シズクさん。軽く手を振ってみてください」

 「はーい」

 

 右手を上げる。画面の中のシズクも、同じように手を振る。

 次に一歩歩く。尻尾が遅れてふわりと揺れる。

 

 「おお……! 尻尾、ちゃんと動く……!」

 「すごく自然ですね。シズクちゃん、かっこいいです!」

 

 コノハがぱちぱちと拍手をする。他人の前なので、ちゃんとシズクちゃん呼びだ。

 偉い。いや、普段からそうしろ。

 

 「次はコノハさん、お願いします」  「はいっ」

 

 コノハが収録スペースに立つ。

 彼女が軽く体を揺らすと、画面の中の狸耳少女もふわふわと動いた。

 大きめの尻尾が丸く揺れ、スカートの裾がひらりと揺れる。

 

 「……おお」

 「シズクちゃん? 今、どこを見てました?」

 「いや、3Dモデルの出来を確認してただけ」

 「本当ですか?」

 「本当です」

 

 コノハのモデルは、かなり出来がよかった。

 茶色い髪の柔らかさも、丸い耳も、少しむっちりした健康的な体型も、全部いい感じに立体化されている。

 これはリスナーが騒ぐだろうな、と私は冷静に分析した。

 

 収録は順調に進んだ。

 歩く、座る、手を振る、二人で並んでポーズを取る。

 途中、スタッフさんから「せっかくなので、お二人でハートを作ってみましょうか」と言われ、私は一瞬固まった。

 

 「ハート、ですか」

 「はい。お披露目配信用に可愛いと思いますよ」

 「やりましょう、シズクちゃん」

 

 コノハが微笑みながら言う。

 外面は完璧。だが、その尻尾だけが異様な勢いでぱたぱたと揺れている。

 

 「……はいはい」

 

 私は諦めてコノハと向かい合う。

 互いに片手を出し、指先を合わせてハートを作る。

 画面の中の二人も、同じように寄り添っている。

 

 「いいですね! もう少し近づけますか?」

 「近づくんですか」

 「はい、お願いします」

 

 業務命令なら仕方ない。

 私は一歩近づいた。コノハの肩が、かすかに震える。

 

 「大丈夫?」

 「は、はい。大丈夫です、シズクちゃん。とっても」

 「声、ちょっと裏返ってるよ」

 「気のせいです」

 

 そんなこんなで収録を終えて、数日後。

 いよいよ3Dお披露目配信の日がやってきた。

 

 【配信中】

 

 『みんなー、こんばんきつたぬー!』

 

 画面の中で、3Dの私が手を振る。コメント欄は開始直後から爆発していた。

 

 [コメント]

 ・うおおおおおおおお!!!

 ・動いてる!!

 ・シズクちゃん3Dかっこよすぎる

 ・尻尾ふわふわ!

 

 『ついに私たち、立体になりました!』

 

 私はくるりと回って、尻尾を見せる。

 ふわりと広がる銀髪と狐尻尾。

 自分で見ても、なかなか悪くない。

 

 『そして、もちろんこの子も一緒だよ。コノハ、どうぞ』

 『は、はいっ。皆さん、こんばんきつたぬです』

 

 コノハの3Dモデルが、とてとてと画面に入ってくる。

 その瞬間、コメント欄がさらに加速した。

 

 [コメント]

 ・コノハちゃんかわいいいいい

 ・丸い! かわいい!

 ・尻尾でっか!

 ・むっちり3Dタヌキ助かる

 

 『む、むっちりって言わないでください……!』

 

 コノハが両手で体を隠すように縮こまる。

 その動きがまた妙に可愛く、コメント欄は大いに湧いた。

 

 『いいじゃん。健康的で可愛いよ』

 『シ、シズクちゃん……っ。配信中にそういうことを言われると、わたし……』

 『はい、今日はお披露目配信だからね。崩れない。耐える』

 『が、頑張ります……』

 

 その後は、定番の3Dお披露目企画を進めていった。

 全身チェック、尻尾チェック、表情差分、簡単なダンス。

 二人で並んでポーズを取るたびに、スパチャが飛ぶ。

 

 『では次、事務所スタッフさんから提案された例のポーズ。二人でハート』

 『とうとう来ましたね』

 

 私はコノハと向かい合う。

 配信画面の中で、二人の3Dモデルがゆっくり近づく。

 

 『ほら、手』

 『はい……っ』

 

 指先を合わせ、ハートを作る。

 その瞬間、コメント欄が弾けた。

 

 [コメント]

 ・てぇてぇ!!!

 ・公式ハート助かる

 ・結婚会見ですか?

 ・赤スパチャ(¥10,000):ご祝儀です

 

 『あはは、祝儀助かるー』

 『シズクちゃん……』

 『ん?』

 『この姿で、こうして隣に立てる日が来るなんて、夢みたいです』

 

 コノハの声は、いつもの配信用の可愛い声だった。

 けれど、その奥にある熱だけは、私にはわかった。

 室町からずっと追いかけてきた化け狸が、ようやく同じ舞台に立っている。

 そういう、重くて面倒で、少しだけ眩しい感情。

 私は小さく息を吐き、画面の中のコノハへ少しだけ身を寄せた。

 

 『……私も、コノハが隣でよかったよ』

 

 一瞬、コノハが固まった。

 次の瞬間、狸耳がぴんと立ち、尻尾が限界まで膨らむ。

 

 [コメント]

 ・今のガチでは?

 ・シズクちゃん!?

 ・コノハちゃん固まったw

 ・赤スパチャ(¥50,000):ありがとう世界

 

 『し、シズクちゃん……っ』

 『はいはい、泣かない。まだ配信中』

 『泣いてません……! ただ、幸せで胸がいっぱいなだけです……!』

 

 結局、お披露目配信は大成功だった。

 同接は過去最高を更新し、スパチャも切り抜き動画もたくさん増えた。

 

 【配信後】

 

 配信終了ボタンを押した瞬間、コノハは私の方へ向き直った。

 外向きの笑顔がゆっくりと溶ける。

 呼び方も、声色も、いつものものに戻った。

 

 「シズク殿」

 「はい」

 「隣でよかった、というのは」

 「言葉通り」

 

 私はため息をつきながら、ソファに腰を下ろした。画面には、配信終了後も増え続ける高評価とコメント。

 3Dになった私たちは、確かに一つ上のステージに進んだのだと思う。

 ただし。

 

 「次は3Dで添い寝ASMRなどいかがでしょう」

 「やらない」

 「需要はあります」

 「私欲が漏れてる」

 「需要と私欲が一致しているだけです」

 

 立体になろうが、舞台が広がろうが。

 この化け狸の重さだけは、相変わらず二次元にも三次元にも収まりきらないらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

死んでも復活して永劫の時を生きる摩耗しかけた女魔王様と死にかけていたところを拾われたTS転生者が互いに互いの脳を焼いた話(作者:団結せよ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 死んでも復活し続けて摩耗している感じの永劫を生きるちょっと抜けてる魔王系お姉さんが、異世界転生して口減らしのために売られてアホみたいに過酷な労働環境から命からがら逃げだしたTS転生者を気まぐれに拾った結果、割と取り返しのつかないレベルで依存しあう関係になっただけの話。


総合評価:1274/評価:8.76/連載:4話/更新日時:2026年05月26日(火) 12:12 小説情報

貞操逆転世界で幼なじみ♀を慰めてたら襲われた(作者:おねがいします)(オリジナル現代/恋愛)

あべこべでの百合が見たい。


総合評価:3430/評価:8.98/短編:2話/更新日時:2026年06月01日(月) 00:03 小説情報

TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ(作者:イア! イア!!)(オリジナル現代/ホラー)

SAN値直葬系マスコットとそれを心から愛する転生者(正気)の日常。▼※序盤とタイトルを書き直しました。▼気分転換に書いた作品を投稿欲を満たすために投稿してみます。▼続き書いたら増えます。


総合評価:1042/評価:8.32/連載:11話/更新日時:2026年06月02日(火) 11:59 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2155/評価:8.94/連載:18話/更新日時:2026年05月30日(土) 12:05 小説情報

ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない(作者:なはた)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼フィジカルよわよわなTS銀髪魔法少女がクール系敵幹部を必死に装いながら魔法少女達と戦うお話。


総合評価:1855/評価:8.34/連載:6話/更新日時:2026年05月28日(木) 21:29 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>