妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件 作:パッタリ
『みんなー、こんばんきつたぬー!』
夜の八時。
今日の配信は、事務所内コラボだった。
参加者は四人。
妖狐の私、シズク。
化け狸のコノハ。
烏天狗の新人、アヤメ。
そして先日の3D合同企画で絡んだ、猫又系先輩VTuberのミヤビさん。
表向きは、ただのゲームコラボである。
画面には、四人で協力してダンジョンを進むタイプのゆるいアクションゲームが映っていた。
『今日は妖怪系VTuberコラボということで、みんなでまったりゲームしていきます』
『よろしくお願いします、皆さん』
『シズク先輩! 本日は同じ戦場に立てること、光栄です!』
『ゲームだからね』
『いやー、妖怪組が揃ったねえ。画面の圧がすごい』
ミヤビさんが、気だるげな声で笑う。
[コメント]
・妖怪組きた!
・狐、狸、猫、天狗
・画面がもふもふしてる
・アヤメちゃん気合い入りすぎw
・ミヤビ先輩いると空気ゆるいな
ゲームが始まる。
私は剣士キャラ。コノハは回復役。アヤメは弓使い。ミヤビさんは、なぜか素手の格闘キャラだった。
『猫又なのに殴りにいくんですね』
『猫ってさ、獲物を前足で叩くじゃん? あれの延長』
とはいえ、ミヤビさんはゲームが上手かった。だらだら喋りながらも、敵の攻撃をひょいひょい避け、的確に殴り倒していく。
『シズクちゃん、右から来てるよー』
『わかってます』
私は敵を切り伏せる。
もちろんゲーム内の話だ。ただ、反射的に動きが戦闘寄りになるのか、コメント欄には妙な反応が流れた。
[コメント]
・シズクちゃん動きガチ
・敵の処理早い
・ゲームなのに殺気ある
・コノハちゃんの回復早い
『シズクちゃんはさー、きつたぬの中だとツッコミ役で振り回されてるイメージあるけど、実際かなり前に出るタイプだよね』
ミヤビさんが、敵を殴りながら言った。
『そうですか?』
『うん。コノハちゃんが柔らかく場を整えて、シズクちゃんが決めるところ決める。配信だと夫婦漫才っぽく見えるけど、ユニットとしてはけっこう役割分担できてるよ』
『ふ、夫婦ではありません』
私が否定するより先に、コノハが反応した。
『ですが、相方として支えられているなら嬉しいです』
[コメント]
・夫婦否定が弱い
・ミヤビ先輩の分析助かる
・きつたぬ評いいな
・コノハちゃん嬉しそう
ミヤビさんは、ふんふんと気楽に続ける。
『外から見るとね、コノハちゃんの重さでシズクちゃんが困ってる、っていうのがまず面白いんだけど。でも最近は、シズクちゃん側もけっこう受け入れてる感じ出てるよね』
『出てません』
『出てる出てる。出汁みたいに染み出てる』
『例えが嫌すぎる』
コノハが何か言いたげにこちらを見る。
私は画面内の敵に八つ当たりするように斬りかかった。
『シズク先輩はお優しいのです! その化け狸が図々しく居座っているだけで!』
アヤメが横から弓を放ちながら叫ぶ。
コノハの声が、すっと甘くなる。
『アヤメちゃん、回復いりますか?』
『い、いりません!』
『そうですか。では自力で頑張ってくださいね』
『あっ、ちょっ、敵が多いです! 回復を!』
『今、いらないと』
『コノハ先輩!』
[コメント]
・後輩教育w
・回復役を怒らせるな
・アヤメちゃん草
・バチバチで助かる
ミヤビさんが笑う。
『アヤメちゃんはさ、早めにキャラ方針決めた方がいいよ』
『キャラ方針、ですか?』
『うん。真面目な尊敬系後輩でいくのか、生意気に先輩を煽っていく小悪魔後輩でいくのか。今のままだと、シズクちゃん相手には崇拝、コノハちゃん相手には喧嘩腰、リスナー相手には清楚、みたいになってるから、ちょっとブレてる』
アヤメがぐさりと刺されたように黙った。
『うっ……』
『もちろん、それを多面性として見せられるなら強いよ? でも新人のうちは、まず入口をわかりやすくした方がいい。切り抜きで一発で伝わるキャラがあると伸びやすいからね』
先輩風を吹かせるのはうざい。だが言っていることは的確。
私も頷く。
『ミヤビ先輩の言う通りだね。アヤメは素材はいいけど、今はちょっと全部乗せになってる』
『シズク先輩まで……』
『真面目にやるなら、敬語で礼儀正しいけど時々毒舌。生意気後輩でいくなら、煽るけど最後はちゃんと慌てる。どっちにしても、軸は決めた方がいいよ』
コノハも回復魔法を飛ばしながら言う。
『アヤメちゃんは、素直に悔しがるところが可愛いと思います。そこを活かすのは良いのでは?』
『コノハ先輩に褒められると、なんだか複雑です』
『あら、素直ですね』
『うぐぐ……! では私は、礼儀正しくも誇り高い烏天狗として、時に先輩方を見返す後輩という方向で……!』
『長い長い』
『切り抜きタイトルに入らないねえ』
ミヤビさんが容赦なく斬る。
[コメント]
・先輩たちのガチアドバイス
・アヤメちゃん育成回
・ミヤビ先輩口悪いけど的確
・きつたぬも真面目に仕事してるな
ゲーム内では、ボス戦に突入していた。
巨大な魔物が画面中央に現れる。
アヤメが慌てて弓を構え、私は前に出る。
コノハが支援を入れ、ミヤビさんが横から殴る。
『アヤメ、焦らない。距離取って弱点狙って』
『はい、シズク先輩!』
『コノハ、回復お願い』
『任せてください』
『ミヤビ先輩、そっち行きました』
『はいよー。猫パンチで止めるね』
だらだら喋っていたわりに、連携は悪くなかった。ボスの体力が削れていく。
『これさ、妖怪組で定期コラボにしてもいいかもね』
ミヤビさんが言う。
『ゲームしながら妖怪あるあるとか、事務所の裏話にならない程度のVTuber仕事話とか』
『いいですね。コラボ名どうします?』
『もふもふ妖怪会議』
『私、羽なんですが』
『じゃあ、もふもふと羽』
『雑です!』
[コメント]
・定期化して
・もふ羽会議w
・妖怪組好き
・アヤメちゃんツッコミもいけるな
ボスを倒すと、画面に勝利演出が出た。
『やった!』
『ふふん、私の弓が決まりましたね!』
『最後に削ったのはシズクちゃんですけどね』
『コノハ先輩、そういうところです!』
『はいはい、仲良く』
ミヤビさんがゆるくまとめる。
配信はその後も、軽い探索と雑談を続けた。
ミヤビさんは先輩として、やや上から目線で話す。でも、3D企画やコラボでの見せ方、後輩の伸ばし方については普通に参考になることを言う。
アヤメは悔しがりながらも、ちゃんと聞いている。コノハは笑顔で釘を刺しつつ、必要なところではフォローを入れる。
私はその間で、敵を倒したり、話を整理したりする。
なんだかんだ、悪くない空気だった。
【配信後】
通話を切ると、私は椅子にもたれた。
「思ったより成立したね、妖怪組」
「はい。ミヤビ先輩は少々振る舞いが強いですが、視点は的確でした」
「アヤメにも刺さってたしね」
スマホが震える、アヤメからだった。
『本日はありがとうございました。キャラ方針について、少し考えてみます。ですが、シズク先輩への敬愛は絶対に削れません』
続けて、もう一通。
『コノハ先輩の助言も、少しだけ参考になりました』
私はそれをコノハに見せた。
コノハは、にこりと笑った。
「少しだけ、ですか」
「成長してるよ。前も同じこと言ってたけど」
「次のコラボでは、もう少し素直に感謝できるよう教育しましょう」
「ほどほどにね」
さらに、ミヤビさんからもメッセージが来た。
『妖怪組、数字よかったね。またやろ。あとシズクちゃん、コノハちゃんの嫉妬制御うまくなってるじゃん』
私は画面を伏せた。
「……あの猫又、見てるなぁ」
「何か?」
「なんでもない」
妖狐、化け狸、猫又、烏天狗。
表向きは、ただの妖怪モチーフVTuberコラボ。
実際には、本物たちがゲームをしながら、仕事とキャラ立ちと相方ポジションについてだらだら話す会。
ゆるいようで、案外ちゃんと得るものはあった。
「コノハ、次の妖怪組コラボ、ありかもね」
「はい。ただし、シズク殿の隣はわたしです」
「そこはブレないね」
「相方ですので」
私は苦笑しながら、配信のアーカイブを確認した。
コメント欄には、もう切り抜き候補が並び始めている。
──アヤメ、キャラ方針を刺される。
──コノハ先輩、回復で圧をかける。
──ミヤビ先輩、うざいけど正論。
──シズク、妖怪組の保護者になる。
保護者ではない。
そう思いつつも、私は少しだけ笑った。
面倒くさい妖怪が増えるほど、配信のネタも増える。
現代社会で生き残るには、たぶんそれくらい図太い方がいい。