妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件   作:パッタリ

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27話 妖怪でもわかる現代防犯講座

 休日の朝。

 私は、スマホに送られてきた資料を眺めながら、深くため息をついた。

 

 「盗み集団って言うから、もうちょっと大物かと思ったんだけどね」

 「相手は三名。いずれも若い妖怪。手口は、夜間に人間を軽く惑わせ、財布やスマートフォンを盗む。時には空き巣まがいの行為もあり……ですね」

 

 隣でコノハが、資料を読み上げる。

 先日の妖怪会合で話に出た、人間相手に盗みを繰り返している連中。

 古参の妖怪から情報を渡され、イバラからも「捕まえたあと呼べば回収する」と連絡が来た。

 そして私たちの休日は潰れた。

 

 「まあ、さっさと捕まえて、イバラに引き渡して終わりにしよう」

 「はい。午前中に片づけて、午後はゆっくりしましょう」

 「コノハ、その顔で買い物袋持ってると、完全に休日の主婦なんだけど」

 「シズク殿の食生活を守るのも、相方の務めですので」

 

 私は何も言わずに歩き出した。

 目的地は、都内の古い商店街から少し外れた住宅地。

 最近、奇妙な置き引きや空き巣が続いているらしい。

 人間の警察も動いてはいるが、犯人が妖怪なら普通には捕まらない。

 もっとも、妖怪同士なら話は別である。

 

 「この辺りだね」

 

 昼前の住宅街で人通りは少ない。

 監視カメラはあるが、設置位置が甘い。

 昔ながらの家と新しいアパートが入り混じり、路地も多い。

 盗みには向いている。

 だからこそ、下手な妖怪が調子に乗る。

 

 「シズク殿、あちらです」

 

 コノハが目線だけで示す。

 路地の奥で、若い男三人が立っていた。

 見た目は人間だが、妖気が薄く漏れている。

 一人はイタチ、もう一人はネズミ、最後はよくわからない毛玉系の何か。

 格は低いが、小賢しい。

 彼らは通行人の老婆に軽く妖術をかけ、意識を逸らした隙に鞄へ手を伸ばそうとしていた。

 

 「はい、現行犯」

 

 私は指先を鳴らした。

 

 「縛」

 

 三人の体が、ぴたりと固まる。

 老婆は何も気づかず、そのままゆっくり歩いていった。

 コノハがさりげなく鞄の位置を直し、にこりと見送る。

 

 「さて」

 

 私は三人の襟首を掴み、監視カメラの死角になっている路地裏へと引きずり込んだ。

 

 「ひっ……!」

 「な、なんだよ、あんた……!」

 「同業者だよ。かなり上の」

 

 尻尾を一本だけ出し、少しだけ妖気を濃くする。

 それだけで三人は青ざめた。

 コノハはにこにこと笑っている。

 

 「皆さん、盗みをするなら、まず基本的な防犯知識を身につけましょうね」

 「説教の方向性おかしくない?」

 「シズク殿、彼らはどうせイバラ社長に引き渡されます。今後、下働きとして更生するなら、最低限の知識は必要かと」

 

 なるほど。妙に納得してしまった。

 私は三人の前で腕を組む。

 

 「なら、まずは、監視カメラの死角でやるにしても動線が雑。入口と出口が一つしかない路地でやるな。逃げ道がない」

 「は、はい……」

 「あと、同じ地域で騒ぎになるほど盗むな。警戒が強まる。やるならもっと広い範囲で、少しずつ」

 「シズク殿」

 「何」

 「指導が悪い意味で実践的すぎます」

 「言ってから思った」

 

 コノハも続ける。

 

 「それと、財布やスマートフォンをまとめて盗むと足がつきやすいです。特にスマートフォンは位置情報があります。現代社会を舐めてはいけません。怖いですよ、スマホは」

 

 私は頷いた。

 スマホは怖い。個人情報、位置情報、通話履歴、決済アプリ。それらから足がつく可能性がある。

 

 「あと、防犯カメラがないと思っても、最近は車載カメラとかドアベルカメラとかあるからね」

 「ど、どあべる……?」

 「玄関の呼び鈴にカメラがついてるやつ」

 

 若い妖怪たちは、完全にしゅんとしていた。

 盗みの説教というより、現代防犯講座になっている。

 

 「まあ、今回はここまで。あとはイバラのところで働きなさい。用水路掃除とか、土地管理とか、たぶん仕事あるから」

 「鬼のところ……?」

 「嫌なら警察か祓い屋コースだけど」

 「鬼でお願いします!」

 

 判断が早い。

 私はイバラに連絡を入れた。しばらくすると、以前見た河童の女妖怪が軽トラックで現れた。

 

 「どーも。回収に来ましたー」

 「またあんたか」

 「現場仕事はだいたいうちです。ほら、乗れー。社長が草刈りと倉庫整理の仕事用意してるぞー」

 

 三人は怯えながら荷台に乗せられていく。

 途中で人間としての擬態を解き、小動物じみた姿になったため、荷台にいても警察に呼び止められることはなさそうだ。

 河童は私たちに軽く頭を下げた。

 

 「助かりました。最近、若いのが調子乗って困ってたんすよ。悪いことしても、こわーいお姉さんにすぐ捕まるということが広まると、いろいろ楽になります」

 「またやらかさないよう、きちんと教育しといて」

 「はい。まずはスマホの位置情報から教えます」

 「そこからかぁ」

 

 軽トラックが去っていく。

 私は伸びをした。

 

 「大したことなかったね」

 「はい。午前中で片づきました」

 「じゃあ帰って昼ごはんにしよ。今日は何?」

 「油揚げと鶏そぼろの混ぜご飯を予定しています」

 「いいね」

 

 そうして、私たちは家へ戻った。

 戻った……のだが。

 玄関の前に立った瞬間、私は違和感を覚えた。

 鍵が開いている。

 

 「……コノハ」

 「はい」

 

 コノハの声が低くなる。

 私は扉に手をかけ、ゆっくり開けた。

 部屋の中は、荒らされていた。

 引き出しが開けられ、棚の中身が床に散らばっている。

 机の上の書類も動かされている。

 配信機材は無事。財布やノートPCも残っている。

 ただ、明らかに何かを探された跡だった。

 

 「空き巣……ではあるけど、金目当てじゃないね」

 「シズク殿、こちらを」

 

 コノハが、私の古い小物入れを見つけていた。フタが開いている。

 中に入れていたはずの、古い名刺入れが消えていた。

 

 「……それだけ?」

 「はい。少なくとも、今見える範囲では」

 

 私は無言で部屋を見渡した。

 古い名刺入れ。

 大正から昭和の初め頃に使っていたものだ。

 今の身分とは関係ないし、金銭的価値もほぼない。

 だが、過去の縁を辿る手がかりにはなる。

 

 「私の過去が狙いか」

 「その可能性が高いですね」

 

 コノハの目が、静かに濁っていた。怒っている。私のものを盗まれたからだ。

 

 「イバラ社長に連絡しますか?」

 「いや」

 

 私は首を振った。

 

 「まずは私たちで動く」

 「承知しました」

 

 即答だった。

 私は部屋の中に残るわずかな妖気を嗅ぐ。

 さっき捕まえた若い妖怪たちとは違う。もっと薄く、古く、嫌な感じのする気配。

 人間か。妖怪か。それとも、その中間か。

 

 「コノハ、防犯カメラの確認」

 「はい。マンション共用部と近隣のカメラ位置を洗います。管理会社には、適当な理由で問い合わせます」

 「私は残った妖気を追う。あと、盗まれた名刺入れの中身を思い出す」

 「シズク殿」

 「何?」

 「無茶はしないでください」

 「それはこっちの台詞」

 

 私たちは顔を見合わせた。

 休日は終わった。昼ごはんも、たぶん遅れる。

 さっきまで若い妖怪に偉そうに防犯講座をしていたのに、自宅を荒らされるとは、なんとも間抜けな話である。

 私は床に落ちていた尻尾用ブラシを拾い上げ、ため息をついた。

 

 妖怪でもわかる現代防犯講座。

 その第一回目の結論は、こうだ。

 ──他人に説教する前に、自宅の防犯を見直しましょう。

 まったく、世知辛い話である。

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