妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件   作:パッタリ

4 / 4
4話 酒カス鬼の遠大な計画と微妙なアドバイス

 「すー……はー……。すー……はー……。んふふ、シズク殿の匂い……♡」

 

 耳元で響く、規則的かつひどく情念の籠もった深呼吸の音。

 私の自慢である金色のふさふさな尻尾は、ベッドの中で背後に陣取る同居人──コノハの腕の中にガッチリとホールドされ、完全に抱き枕扱いされていた。

 一晩中、定期的にモフられ、顔を埋められ、匂いを嗅がれ続けるプレッシャー。

 そのまま朝になった結果として、今の私はひどい寝不足に陥っていた。

 

 (このままじゃまずい。私の美しい尻尾の毛がストレスと摩擦でハゲてしまう……!)

 

 私は、コノハが寝落ちした隙を突いてそっと尻尾を引き抜き、逃げるように家を飛び出した。

 気分転換と、あわよくば誰かに客観的なアドバイスをもらうためである。

 向かった先は、繁華街の裏手にある雑居ビルの小さな一室。

 ドアを開けると、強烈なアルコールの匂いが鼻を突いた。

 

 「あ? 誰かと思えばシズクか。ちょうどいい、酒のつまみでも買ってきてくれたか?」

 「手ぶらだよ。相変わらず酒カスやってるね、イバラ」

 

 パイプ椅子にふんぞり返り、一升瓶を抱えていたのは、頭に立派な一本角を生やした女、もとい鬼のイバラだった。

 彼女は一応、この小さなオフィスで事業を営む社長である。

 表向きはコンサルティング会社だが、それはただの隠れ蓑。

 

 「お前さ、もうVTuberなんてのは辞めて、妖怪帝国を作るためにあたしの配下になれよ。手当ては出すぞ?」

 「妖怪帝国、ねえ」

 

 なんでも、過疎化が進む地方の土地を水面下で買い叩き、百年か二百年後を目標に妖怪たちが人間を支配する独立国家を作る………らしい。

 壮大かつ気の長い計画だ。

 

 「うーん、お断りで。泥臭い仕事好きじゃないし」

 

 私が即答で断ると、イバラは鋭い犬歯を見せてニヤリと笑った。

 

 「へえ? 昔は結構な武闘派の狐だったろうに。……平和ボケして牙が鈍ってないか、試してやろうか?」

 

 ギリッ、とイバラの周囲の空気が歪み、鬼特有の凄まじい闘気が膨れ上がる。

 

 「待った待った! あんたが暴れたらこのビルが壊れるから! あと、私が武闘派だったのは百年以上も前の話!」

 

 慌ててストップをかけると、イバラは舌打ちをして闘気を収めた。

 

 「最近は妖怪の数も少し増えてきたが、自我の薄い雑魚ばかりでな。強い者は限られているんだ。お前のような奴が来てくれたら、こっちの計画も楽になるってのに」

 「……大体、そういうあんたは、私が生まれるよりずっと前に大暴れして、圧倒的に弱い人間に討伐されたくせに」

 「うぐっ……」

 「強いだけでどうにかなる世の中ならいいけど、そうじゃないし」

 

 私が痛いところを突くと、イバラは悔しそうに角をポリポリと掻いた。

 

 「……ひっじょーに腹立たしいが、一理ある」

 「でしょ」

 「仕方ない。じゃあ、単発の妖怪バイトを紹介してやる。人間に危害を与えるのと、被害を防ぐの、どっちがしたい? 工事の邪魔をして工期を伸ばすか、人間を操って盗みを働いてるようなはぐれ妖怪をボコるか、だ」

 

 紹介する仕事の内容が極端すぎる。

 

 「どっちもしたくないんだけど。というか、仕事探しに来たわけじゃないの。同居してる狸の愛が重すぎて尻尾がハゲそうなんだけど、なにかアドバイスないわけ?」

 

 イバラは一升瓶から酒をグビグビと飲み、面倒くさそうに口の端を拭った。

 

 「そんなもん、力関係の問題だろ。押して押して押しまくれ。主導権さえ握ればどうにかなる」

 「主導権……。あんま参考にはならないけど、まあ、試してみるか」

 

 そのあと昼間は適当にぶらぶらし、夕方になってからマンションに帰還すると、玄関には正座をして待ち構えるコノハの姿があった。

 その茶色い狸耳はぺたんと伏せられ、頬をこれでもかと膨らませている。

 

 「シズク殿。わたしというものがありながら、黙って外出するなんて……ひどいです。尻尾を一晩中モフモフしていただけなのに」

 「わかってんじゃん」

 「どこで誰と何をしていたんですか?」

 「あー、ごめんごめん。ちょっと昔馴染みの鬼と会っててね。そいつ、会社の社長やっててさ」

 

 私はイバラのアドバイスを思い出し、ここで引いてはいけないとばかりに、むすっとしているコノハの頭に手をポンと乗せた。

 そして、ふさふさの髪と耳を、よしよし、と大胆に撫で回す。

 

 「……っ!? し、シズク殿……?」

 「怒った顔も可愛いけど、私は笑ってるコノハの方が好きだよ。ほら、もうすぐ配信の時間でしょ。準備しよ」

 「ふぁい……っ♡」

 

 撫でられた瞬間、コノハの顔が茹でダコのように真っ赤になり、尻尾がちぎれんばかりにパタパタと揺れ始めた。

 ちょろい。愛が重い分、こちらからアクションを起こせばあっさり陥落するのだ。

 

 (いける! このまま配信でも私が主導権を握り続ければ、受け身で食い物にされるだけの状況から脱却できるはず!)

 

 【配信中】

 

 『みんなー、こんばんきつたぬ〜! 今日は私からコノハに、日頃の感謝を込めて色々してあげようと思うんだ』

 『えっ……!? シ、シズクちゃん、今日はやけに積極的、ですね……?』

 『当たり前でしょ。だって、コノハは私の大事な相方だもん。ほら、もっとこっちにおいでよ。ぎゅーってしてあげる』

 

 [コメント]

 ・ファッ!?

 ・今日のシズクちゃんイケメンすぎんか

 ・突然の供給にむせび泣くオタク

 ・コノハちゃんの声ガチで上ずってて草

 

 『あ、あわわ……っ。シズクちゃんの匂い、シズクちゃんの体温……っ! ああっ、ダメです、そんな耳元でささやかれたら、わたし、理性飛んじゃいそ……っ』

 『ふふっ、可愛いなぁ。そのまま私の胸の中で大人しくしててね?』

 

 [コメント]

 ・てぇてぇのオーバードーズで死ぬ

 ・赤スパチャ(¥10,000):墓代です!!!

 ・おい画面越しにイチャつくのやめろ(もっとやれ)

 

 配信は大盛況だった。

 私は確かに、終始コノハを翻弄し、主導権を握り続けた。

 ……握り続けたのだが。

 

 【配信後】

 

 「はぁ、はぁ、シズク殿……っ! 今日のシズク殿、積極的で素敵でした! 主導権を握られるのも、悪くありませんね! さぁ、配信の続きをしましょう! 今夜は朝まで、わたしを翻弄してください……!!」

 「ちょ、ストップ、やめ、ああっ! 私の尻尾がぁぁぁ!!」

 

 結果として。

 主導権を握って攻めの姿勢を見せたところで、それは自分から積極的にイチャイチャしにいっているという事実に他ならなかった。

 タガが外れて大興奮状態に陥った狸とベッドの上で揉み合いになりながら、私は酒カス鬼のアドバイスを真に受けた己の浅はかさを、ただただ呪うのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

生徒(黄昏接触済)に転生したけど何とか原作以上の結末を目指します。(作者:冴月冴月)(原作:ブルーアーカイブ)

▼ 目が覚めたら目の前にシュロが居た。▼ 絶叫から始まった二度目の人生はキヴォトス、それも目覚めた時点で自分は普通の生徒ではない状態だった。▼「なんで私黄昏に接触してるの? アヤメは??」▼ 脳内を疑問符で占領されつつも、折角転生出来たならと百花繚乱編に限らず、先生を助けるべく奔走することを決める。▼「私が皆の『吉兆』になれるように」▼ そんな思いを抱いて。…


総合評価:1722/評価:8.19/連載:9話/更新日時:2026年05月24日(日) 18:30 小説情報

メリーさんを殺したら怪異の女王になったんだが(作者:87776)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ある日、メリーさんから電話がかかってきた。▼バットで居合抜刀したら助かるんじゃねと思った。▼なんか目の前にメリーさん(死体)が出来ました。▼……これどうしたらいいんすか?▼(カクヨムでも連載中)


総合評価:1690/評価:8.71/連載:3話/更新日時:2026年02月09日(月) 19:43 小説情報

全方位脳焼き英雄、停戦条件に身柄を要求される。(作者:鐘楼)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一ノ瀬ヒナは英雄である。最強なので二つの世界を救い、誰も殺さずに大体丸く収めることができた。……そのはずが、異世界からの停戦条件はヒナの身柄であった。後輩たちに黙って犠牲になることを選んだヒナを待っていたのは、幾度も戦い、最後には共闘もした女王。女王は、ヒナに屈辱的な扱いを──▼「──結婚しよう、ヒナ」▼なんで????▼みたいな話。▼カクヨム別タイトル投稿(…


総合評価:1592/評価:8.66/完結:5話/更新日時:2026年02月17日(火) 12:05 小説情報

TS転生人外ロリ、厭世魔法少女の使い魔になる(作者:蓋然性生存戦略)(オリジナルSF/冒険・バトル)

とりあえず地球が爆散して転生することになった人間が一人。▼元凶を名乗る自称神様モドキに願いを聞き届けてもらい、TS転生人外ロリになった彼は、転生直後に浮かれた気分だったためにボコられ、とある魔法少女の使い魔にされてしまう。▼最初は死にたくないがための投降だったが、次第に魔法少女《エンドロール》の私生活の彩りの無さに対し、お世話魂に火がついた。▼これは、厭世家…


総合評価:4099/評価:8.69/完結:12話/更新日時:2026年05月15日(金) 14:40 小説情報

[一部完結]戦闘不能のD級覚醒者、ダンジョンで198円のバジルを育てる 〜能力は「土いじり」だけ。10センチの土壁で推し(苗)を守る配信が、疲れた世界をそっと癒やしていく〜(作者:AI teller)(オリジナル現代/冒険・バトル)

D級覚醒者・柏木ハルのスキルは《土壌操作》。できることは、土のpH値を整え、水分量をいじり、高さ十センチの土壁を作ることだけ。▼スライム一匹倒せず、適性テストでは「農業に向いてる」と目を逸らされた。攻撃スキルがもてはやされる配信界隈では完全に“ハズレ”扱いで、手元に残ったのは事務職の給料と月額三千円の手当てだけ。▼そんなハルが諦め半分で始めたのは、ダンジョン…


総合評価:43/評価:-.--/連載:11話/更新日時:2026年05月14日(木) 18:19 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>