妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件   作:パッタリ

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7話 3D化の波と化け狸のむっちりプロポーション

 「シズク殿。マネージャー様から、非常に喜ばしいお知らせが届いております」

 

 ノートPCの画面から顔を上げたコノハが、珍しく興奮した面持ちで口を開いた。

 私はソファで台本を読み込んでいた手を止め、狐耳をピクッと動かす。

 

 「喜ばしいお知らせ? 案件のギャラが振り込まれたとか?」

 「いえ。我々《きつたぬ》の、3Dモデル化企画にGOサインが出ました」

 「……マジで!?」

 

 私は思わず台本を放り出して立ち上がった。

 VTuberにとって3D化は、一種のステータスであり大きな到達点だ。

 Live2Dの平面から立体になり、全身を使って動けるようになれば、企画の幅もライブイベントへの出演チャンスも爆発的に広がる。

 中堅層である我々にとって、これは上を目指すための最大のチャンスだった。

 

 「やった……! 地道に配信を続けてきた甲斐があったよ……!」

 「ええ、本当に。シズク殿の美しい御姿が、三次元のポリゴンとなって電子の海を舞う……想像しただけで今夜はお赤飯を炊かなければなりません。……というわけで、シズク殿」

 

 シュルッ、と。

 コノハの手の中で、黄色いメジャーが小気味良い音を立てて伸びた。

 

 「正確な数値を測るためです。さぁ、衣服を」

 「は? なんで?」

 

 迫り来る狸に、私はジリッとあとずさった。

 

 「なぜって、3Dトラッキングの精度を上げるためです。モーションキャプチャの光学センサーは繊細ですから、演者の正確なスリーサイズ、股下、肩幅、肉の付き具合まで完全にシステムへ入力しなければ、完璧な同期は不可能です!」

 「嘘つけ。今のトラッキングソフトは優秀だから、カメラの前に立つだけで自動補正してくれるよ。それにアバターと中身の体型なんて、大半のVTuberは一致してないでしょ」

 「……ちっ」

 「今、舌打ちしたね?」

 

 完全に己の欲望を満たすためのこじつけだったらしい。

 とはいえ、彼女の重すぎる愛の突撃を真正面から拒絶するとあとが怖いため、私はため息をついて両腕を広げた。

 

 「まったく……服の上からなら、いいよ」

 「っ! ありがとうございます!!」

 

 コノハは目を輝かせ、私の周囲をウロウロと回りながらメジャーを当て始めた。

 

 「……やはり、シズク殿は素晴らしいプロポーションをしていますね。無駄な肉が一切ない」

 「まあ、狐だしね。野山を駆け回ってた頃の名残っていうか」

 

 姿見の鏡に映っている自分を見る。

 私の体型は、いわゆるモデル体型だ。手足は長く、全体的にスラリとしている。

 胸のサイズも普通といったところで、ことさら主張するようなものではない。アバターである銀髪のクール系狐っ娘と、現実の私のプロポーションは、実はかなり近い。違うのは髪の色くらい。

 

 「じゃあ、次はコノハの番ね」

 「えっ? わ、わたしは別に……きゃっ」

 

 私はコノハからメジャーを奪い取り、彼女の腰にぐるりと巻きつけた。

 その瞬間、はっきりと実感する。

 

 (……柔らかい)

 

 スラリとした私に比べ、コノハの体はなんというか、全体的に丸みを帯びていた。

 決して太っているわけではない。だが、腰回りや太もも、そして少し大きめの胸など、つくべきところにしっかりついている、健康的なフォルム。

 タヌキの妖怪は昔から、腹鼓(はらつづみ)を打つなどと丸っこいイメージで描かれることが多いが、それが現代風の美少女にコンバートされると、こういう造形になるのか。

 

 「……コノハって、案外お肉ついてるんだね」

 「っ〜〜〜! し、シズク殿! それは言わないお約束です! 冬場に向けて脂肪を蓄えるのは、我々化け狸の避けられない本能でして……っ」

 

 顔を真っ赤にして反論するコノハ。

 私は別に貶したつもりはなく、ただ単に狐と狸の種族差がこんなところにも出るのかと感心しただけだったが、さすがに少しデリケートな問題だったらしい。

 

 【配信中】

 

 『みんなー! 今日は重大発表があるよ! なんと我々《きつたぬ》は……ついに3D化が決定しましたーー!!』

 

 [コメント]

 ・うおおおおおおおお!!!

 ・キタコレ!!!!

 ・おめでとう!!!!!

 ・赤スパチャ(¥50,000):3D化の資金の足しにしてください!

 ・赤スパチャ(¥10,000):祝杯だあああ!

 

 コメント欄が滝のような勢いで流れ、お祝いの赤スパチャが乱れ飛ぶ。

 中堅層の我々にとって、リスナーのこの熱狂は本当にありがたいものだ。

 

 『ありがとう、みんな! 今、事務所で鋭意モデリング中なんだけど、すっごく可愛く仕上がりそうだよ!』

 『えへへ……。皆さんの応援のおかげです。本当に、ありがとうございます』

 

 いつも通り、ドジっ子で可愛い後輩ムーブを見せるコノハ。

 私は昼間の出来事を思い出し、少しだけ弄りたくなって口を開いた。

 

 『特にコノハの3Dモデルね。コノハってば、結構むっちりしてるから、3Dになったら揺れものとかヤバそうなんだよねー』

 

 [コメント]

 ・むっちり!?

 ・おい今むっちりって言ったぞ

 ・助かる

 ・公式むっちりタヌキ助かる

 

 『ひゃっ!? し、シズクちゃん!? な、何言ってるんですか……っ!』

 

 コノハの声が、演技ではなくガチで裏返った。

 

 『あ、あの、むっちりって……その、太ってるみたいに聞こえちゃうじゃないですかぁ……! わたし、最近ちょっとお菓子食べすぎちゃったかなって気にしてるのに……っ』

 『あはは、太ってるんじゃなくて、触り心地が良さそうって意味だよ。柔らかくて健康的で、すごく魅力的だと思うけどなー?』

 

 [コメント]

 ・触り心地(意味深)

 ・シズクちゃん、さてはもう触ったな?

 ・コノハちゃんガチ照れしてて草

 ・てぇてぇ……

 

 いつもなら「シズクちゃんにならどこを触られても……♡」とヤンデレ全開で乗ってくるはずのコノハが、今日は『うぅぅ……恥ずかしいです……』と、本気でもじもじしていた。

 完璧な化け狸にも、女の子らしい乙女心があるらしい。リスナーは大いに湧き、配信はかつてないほどの盛り上がりを見せた。

 

 【配信後】

 

 「おつたぬー。いやー、今日の配信は盛り上がったね! ……って、コノハ? どうしたの?」

 

 配信ソフトを切り、ヘッドセットを外した私の背後に、ぬるりと気配が近づいた。

 振り返ると、そこには昼間の恥じらいなど微塵も残っていない、瞳をドロリと濁らせた化け狸の姿があった。

 

 「……シズク殿。配信でのご発言、あれは『わたしのむっちりした体がお気に召した』という解釈でよろしいですね?」

 「えっ? いや、あれは配信を盛り上げるためのトークの一環で……」

 

 ギュッ、と。

 背後から抱きつかれ、狐耳のすぐ横にコノハの吐息がかかる。

 背中に押しつけられる、確かな質量と柔らかさ。

 

 「でしたら、わたしの体がどれほど『触り心地が良い』か……朝まで存分に確かめてくださいね……?」

 「ひっ……! あ、悪かったってば! 弄るの禁止! むっちり禁止ぃぃっ!!」

 

 3Dモデルの完成より先に、私の貞操観念と睡眠時間が崩壊しそうだった。

 まあ、本当にどうしようもなくなったら、金縛りで動きを封じるけれども。

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